第1章【ルカ~ミヘン街道】
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=9=
複雑に入り組んだきのこ岩街道をゆっくりと登っていく。
道中には討伐隊と見られる兵士達が数多く配置され、至る所にアルベド族と禁止された機械が並べられている。
どんどんワッカの顔が歪んでいくのがわかった。
ワッカだけじゃない、仲間達はみんな次第に口数も少なくなり、その顔には困惑が浮かんでいる。
街道はきのこのような形をした岩が何層にも重なって崖に迫り出し、独特の地形を形成している。
上の階層へは寺院が設置したスフィアを利用した昇降装置で上下することができるようになっている。
その装置の近くで、先程関で別れたはずの2人の姿を見つけた。
止めようと思えば、止められたのかもしれない。
現にユウナは、前線に行こうとする青年の前に両手を広げて立ち塞がった。
「ユウナ!」
「通してやれ」
「!!」
私とアーロンの言葉に、ユウナはこちらを振り返る。
私にも、わかる。召喚士としての“覚悟”が何なのか。
アーロンに諭されたユウナが、ゆっくりと両手を下ろす。
ユウナにも、わかったんだ。自分と同じ“覚悟”を持った人間の気持ちが。
再び昇降機に乗って、きのこ岩街道の最上部に到達する。
この度の作戦の指令基地が簡易テントで大げさに設えられ、討伐隊によってユウナはそこへと導かれる。
昇降機を降りた瞬間から、異界の匂いが一層強くなった。
これはでかい魔物が近くにいるという証拠。
この作戦では、シンのコケラを使ってシンをおびき寄せるのだという。
…コケラ…?
にしては、異様にでかくないか…?
本部のテントを潜ると、懐かしい顔がそこにあった。
何を思ったのか、突然アーロンと私に抱きついてくる恰幅のいい男。
「久しいなアーロン、ラフテル、ますます美しくなったようだ」
「…や、やあ、キノック」
「フン、貴様が老師とはな」
彼の存在に驚いたのはユウナたちも同じ様だ。
こんな教えに背いた作戦に、まさかベベルの老師が2人も参加しているとは思ってもみなかったのだろう。
「なあアーロン、この10年何をしていた?ラフテルも、行方不明になったときはベベルは大変だったんだぞ」
「………まぁ、いろいろ」
「作戦が始まる。そんな話はいいだろう」
アーロンの言葉に、私はそれ以降の会話を全て断たれてしまうような気になる。
全ての言葉を、全ての人間との接触そのものを、アーロンは拒んでいるかのようだった。
異界の匂いの、せい…?
「少しでも長く、夢を見させてやるさ」
思わず洩れたキノックの本音に、少年が食いつく。
最初から失敗することが分かっていて、それでも決行するこの作戦の意図が、わかってしまった。
かつての、10年前の私たちの、ブラスカとの旅と同じだ。
「…はぁ」
零れた溜息は波の音に掻き消された。
そして、作戦が始まる。
キノックの合図と共に、囮として捉えたシンのコケラの檻に電流が流される。
「!! やめろっ!!」
思わず叫んだ声に驚いたのはアーロンだけではなかった。
捕らえた複数のコケラは、電流を餌として吸収してしまったようだ。
1つの大きな魔物となって檻を破り、その場にいた討伐隊やアルベドの戦士達に襲い掛かった。
「…やっぱり…」
ギリ、と奥歯を噛み締めた。
「………」
アーロンが何か言いたそうに私のほうを見ていたのは、後から聞いたことだった。
一体どんなコケラをいくつ集めたのか、現われた魔物の姿はおぞましいものだった。
鈍そうなでかい本体を守るように堅い装甲に覆われた両腕が、本体への攻撃を弾いてしまう。
ムカデのような頭部はゆらゆらと動き、滴り落ちる唾液は地面から煙を上げていた。
「ワッカ、ルールー!2人は頭を狙って! アーロンとキマリはあの硬い腕を! ユウナ、後方で支援と回復お願い!ティーダ!腕が開いた瞬間を狙え!!」
「わかった!」
「了解!」
「おう!」
魔物の特徴を見切って、皆に指示を出す。
腕は前部にしか動かないところをみれば、背後はガラ空きの筈。
一気に魔物の背後に回って背中に腰の小太刀を突き刺した。
パンパンに膨れた水風船を割ったときのように、体内から青緑色の液体が噴出した。
「うっ!!」
顔面に向かって飛んできた液体を、咄嗟に首だけを傾げる様に避けたつもりだったが、首から肩にかけて、粘液のようなものが張り付いた。
服を焼き焦がすような音と匂いが立ち込める。
すぐにそこから離れてジャケットを脱ぎ捨てた。
お気に入りだったジャケットは、見たことも無い色の煙を上げて見るも無残に襟元から袖まで焦げ溶かされていた。
首と肩に走る激痛に顔を歪ませる。
ワッカとルールーの連続攻撃で動かなくなった頭部に伸びる長い首。
そこに狙いを定め、アーロンとキマリが崩した腕の装甲の隙間を縫った少年が本体に斬り込むのと同時に、私は再び飛び上がった。
少年が斬り付けた部分から、淡い幻光虫が浮かぶのを確認し、長い首に幾太刀もの斬り跡をつけた。
ふいに魔物が動かなくなり、それが全て光の粒へと変わって空に舞い上がっていく。
首を押さえて地に膝を付いた私の元に、ユウナが走り寄ってきた。
すぐに回復の魔法をかける。
痛みは軽くなったが、皮が引っ張られるような感覚と、触れるとピリピリと走る小さな痛みは消えなかった。
異界の匂い、いや、これはまさしく“シン”の匂い。
それがどんどん近くなる。
「ありがと、ユウナ。大丈夫だ。それよりも…」
立ち上がって、海のほうに目を向ける。
沖のほうから黒い瘴気の波が、目に見えるほどの勢いで迫ってくる。
「…来たぞ」
→
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複雑に入り組んだきのこ岩街道をゆっくりと登っていく。
道中には討伐隊と見られる兵士達が数多く配置され、至る所にアルベド族と禁止された機械が並べられている。
どんどんワッカの顔が歪んでいくのがわかった。
ワッカだけじゃない、仲間達はみんな次第に口数も少なくなり、その顔には困惑が浮かんでいる。
街道はきのこのような形をした岩が何層にも重なって崖に迫り出し、独特の地形を形成している。
上の階層へは寺院が設置したスフィアを利用した昇降装置で上下することができるようになっている。
その装置の近くで、先程関で別れたはずの2人の姿を見つけた。
止めようと思えば、止められたのかもしれない。
現にユウナは、前線に行こうとする青年の前に両手を広げて立ち塞がった。
「ユウナ!」
「通してやれ」
「!!」
私とアーロンの言葉に、ユウナはこちらを振り返る。
私にも、わかる。召喚士としての“覚悟”が何なのか。
アーロンに諭されたユウナが、ゆっくりと両手を下ろす。
ユウナにも、わかったんだ。自分と同じ“覚悟”を持った人間の気持ちが。
再び昇降機に乗って、きのこ岩街道の最上部に到達する。
この度の作戦の指令基地が簡易テントで大げさに設えられ、討伐隊によってユウナはそこへと導かれる。
昇降機を降りた瞬間から、異界の匂いが一層強くなった。
これはでかい魔物が近くにいるという証拠。
この作戦では、シンのコケラを使ってシンをおびき寄せるのだという。
…コケラ…?
にしては、異様にでかくないか…?
本部のテントを潜ると、懐かしい顔がそこにあった。
何を思ったのか、突然アーロンと私に抱きついてくる恰幅のいい男。
「久しいなアーロン、ラフテル、ますます美しくなったようだ」
「…や、やあ、キノック」
「フン、貴様が老師とはな」
彼の存在に驚いたのはユウナたちも同じ様だ。
こんな教えに背いた作戦に、まさかベベルの老師が2人も参加しているとは思ってもみなかったのだろう。
「なあアーロン、この10年何をしていた?ラフテルも、行方不明になったときはベベルは大変だったんだぞ」
「………まぁ、いろいろ」
「作戦が始まる。そんな話はいいだろう」
アーロンの言葉に、私はそれ以降の会話を全て断たれてしまうような気になる。
全ての言葉を、全ての人間との接触そのものを、アーロンは拒んでいるかのようだった。
異界の匂いの、せい…?
「少しでも長く、夢を見させてやるさ」
思わず洩れたキノックの本音に、少年が食いつく。
最初から失敗することが分かっていて、それでも決行するこの作戦の意図が、わかってしまった。
かつての、10年前の私たちの、ブラスカとの旅と同じだ。
「…はぁ」
零れた溜息は波の音に掻き消された。
そして、作戦が始まる。
キノックの合図と共に、囮として捉えたシンのコケラの檻に電流が流される。
「!! やめろっ!!」
思わず叫んだ声に驚いたのはアーロンだけではなかった。
捕らえた複数のコケラは、電流を餌として吸収してしまったようだ。
1つの大きな魔物となって檻を破り、その場にいた討伐隊やアルベドの戦士達に襲い掛かった。
「…やっぱり…」
ギリ、と奥歯を噛み締めた。
「………」
アーロンが何か言いたそうに私のほうを見ていたのは、後から聞いたことだった。
一体どんなコケラをいくつ集めたのか、現われた魔物の姿はおぞましいものだった。
鈍そうなでかい本体を守るように堅い装甲に覆われた両腕が、本体への攻撃を弾いてしまう。
ムカデのような頭部はゆらゆらと動き、滴り落ちる唾液は地面から煙を上げていた。
「ワッカ、ルールー!2人は頭を狙って! アーロンとキマリはあの硬い腕を! ユウナ、後方で支援と回復お願い!ティーダ!腕が開いた瞬間を狙え!!」
「わかった!」
「了解!」
「おう!」
魔物の特徴を見切って、皆に指示を出す。
腕は前部にしか動かないところをみれば、背後はガラ空きの筈。
一気に魔物の背後に回って背中に腰の小太刀を突き刺した。
パンパンに膨れた水風船を割ったときのように、体内から青緑色の液体が噴出した。
「うっ!!」
顔面に向かって飛んできた液体を、咄嗟に首だけを傾げる様に避けたつもりだったが、首から肩にかけて、粘液のようなものが張り付いた。
服を焼き焦がすような音と匂いが立ち込める。
すぐにそこから離れてジャケットを脱ぎ捨てた。
お気に入りだったジャケットは、見たことも無い色の煙を上げて見るも無残に襟元から袖まで焦げ溶かされていた。
首と肩に走る激痛に顔を歪ませる。
ワッカとルールーの連続攻撃で動かなくなった頭部に伸びる長い首。
そこに狙いを定め、アーロンとキマリが崩した腕の装甲の隙間を縫った少年が本体に斬り込むのと同時に、私は再び飛び上がった。
少年が斬り付けた部分から、淡い幻光虫が浮かぶのを確認し、長い首に幾太刀もの斬り跡をつけた。
ふいに魔物が動かなくなり、それが全て光の粒へと変わって空に舞い上がっていく。
首を押さえて地に膝を付いた私の元に、ユウナが走り寄ってきた。
すぐに回復の魔法をかける。
痛みは軽くなったが、皮が引っ張られるような感覚と、触れるとピリピリと走る小さな痛みは消えなかった。
異界の匂い、いや、これはまさしく“シン”の匂い。
それがどんどん近くなる。
「ありがと、ユウナ。大丈夫だ。それよりも…」
立ち上がって、海のほうに目を向ける。
沖のほうから黒い瘴気の波が、目に見えるほどの勢いで迫ってくる。
「…来たぞ」
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