第9章【シン~シンの体内】
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人の心中は複雑
=89=
幻光虫は、人の想いや記憶を映し出して姿を現す。
シンの内部であるここは、幻光虫の塊、幻光虫そのもの。
ならば、目の前に広がるこの世界は、一体誰が作り出したものなのか…
いくつもの建物のようなものと細い道、入り組んだ路地にいくつもの曲がり角。
進んだと思えば塞がれて、壁だと思えば虚構が現われる。
不思議でおかしな不気味な、街。
これはジェクトの心の中を表しているのだろうか?
だとすれば、ジェクトの心の中にある物は何だろうか?
複雑に絡み合った街をイメージしてできた世界。
彼の生きてきた道、人生、今の心境、これからのこと。
そんな彼の記憶や気持ちを、街に例えて具現化されたもの。
ある時は広く大きな平らな道だったり、細く狭い道だったり、突然目の前に大きな壁が立ち塞がったり、ぽっかり大きな穴が開いてしまったり……
ジェクトという1人の人間が歩んできた道のり。
決して楽な道ではない。
だからと言って困難ばかりでもない。
時には喜びもあり、幸せもあり、悲しくなるときも辛い時だってあっただろう。
それが、この世界を作り出し、表している。
少年に、この道の意味がわかっているだろうか?
この世界が持つ意味は分からないとしても、少年は、少年には別のものが見えているのかもしれない。
現に、私たちにはわからないが、少年は何かを感じている。
それが父親であるジェクトの気配なのか声なのか、記憶なのか…
迷うことなく私達を案内する少年に、私達は付いていくことしかできない。
人間というものはおかしなもので、あんなに嫌いで苦しんでいたはずの異界の匂いが気にならなくなってしまっている。
この匂いそのものの中にいて、慣れてしまったのだろうか?
魔物だらけのこの空間で、気配なんて何の役にも立たない。
こんな、人の記憶の中にまで侵入して存在し続ける魔物達が、哀れで、滑稽で、ジェクトの記憶の一部となれば、この街を生み出す一片になり得ただろうに、それでも人の生を羨む魔物にしかなれなかったのだろうか。
少年の胸の内に張られた糸は、まだピンとそこにある。
強い覚悟と意志が感じられる。
言葉を発することもなく、ただ黙々と前に進んでいく。
にぎやか担当のリュックでさえ、何も言えないまま歩いている。
この広い広い街は、一体どこまで続いているというのだろうか?
少年が、ジェクトが生きた街の大きさに比べたらこんな街の一角などは微々たる物かもしれない。
でも、シンの腕をもぎ取った戦いの始まりから、みんなまともに休むこともなく此処まで来ている。
必死に少年についていこうとするユウナの足取りが遅くなってきていることに、後ろを振り返ることもしない少年は気付いていない。
「あっ……」
でこぼこした床の段差に足を取られたユウナが躓いてしまう。
小さく洩れた声に、少年が振り返る。
ルールーに手を貸してもらって身を起すユウナは、少年に謝罪の言葉を発する。
「…ティーダ、気持ちはわかるけど、少し休もう」
「あ、私は大丈夫です。ちょっと躓いただけ。まだ……」
「いざという時に戦えんのでは意味が無い」
「……はい」
「ティーダ?」
「…あぁ、うん……」
どこか上の空な少年が曖昧に返事を返す。
先程まで不気味な色をしていた空が、いつの間にか夜の風景を映し出している。
星のように見える小さな光は幻光虫なのだろう。
よく見ると、ふわふわと動いている。
ふいにユウナが声を掛けてきた。
「ラフテルさん、ラフテルさんも、何か隠してますよね…」
「何を? もう、私のことはみんなで根掘り葉掘り聞いたじゃな…「さっき!…」」
「さっき、シーモア老師が言ってた言葉…」
「………」
「時間という束縛、って何ですか?」
「ユウナ、私達は生きてる。生きてる以上、誰でもいつかは死ぬ。時間の束縛なんて、誰にでもあるじゃないか」
「…違う。 ……シーモア老師のお母さんに会った時も、それに、ケルク=ロンゾ老師と会った時も、ラフテルさん、いつも……」
「…いつも?」
「私たちにはわからない会話をしてた。」
「…いいのか?」
「何が…?」
私は、何も答えなかった。
ユウナの問いに、私自身のことなんて話して何の意味がある?
人には、誰にも知られたくない秘密の一つや二つ、必ずあるだろ、そう言って逃げた私は、卑怯者だろうか?
もう、どうすることもできない。
私を入れ物にしたユウナレスカも、私の中の祈り子の中の魂の持ち主も、もういない。
祈り子は眠りにつき、夢見ることを止める。
それは私の中の祈り子も同じ。
魂のなくなった入れ物の私は、存在する意味を失う。
入れ物は、壊れるだけ…
暫くの休憩の後、再び歩みを再開した私達は、廃墟のような複雑な街を通り抜け、また別の空間に出た。
以前私が入り込んだ、真っ白な何も無い世界のような、無機質な世界。
しかし、深い森の中のように木に囲まれたその世界は明らかに私が体験したものとは違う。
そこに浮かび上がる、卵のような丸い物体。
それは触れるたびに、映像を映し出す。
幸せそうな家庭、繰り返されるブリッツの練習、選手としての栄光、愛するものと結ばれる喜び、愛しい息子の成長。
それは、紛れもなく、ジェクトの記憶。
そこに残る少年はまだ幼く、愛する妻も美しい姿で映し出される。
同じ様に若いアーロンと私と、そして、ブラスカ。
あの時のまま、10年前の姿のまま、ジェクトの記憶はそこで途切れている。
10年前のあの時から時が止まっているジェクトの中では、少年もアーロンも、私もあの時のまま…
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幻光虫は、人の想いや記憶を映し出して姿を現す。
シンの内部であるここは、幻光虫の塊、幻光虫そのもの。
ならば、目の前に広がるこの世界は、一体誰が作り出したものなのか…
いくつもの建物のようなものと細い道、入り組んだ路地にいくつもの曲がり角。
進んだと思えば塞がれて、壁だと思えば虚構が現われる。
不思議でおかしな不気味な、街。
これはジェクトの心の中を表しているのだろうか?
だとすれば、ジェクトの心の中にある物は何だろうか?
複雑に絡み合った街をイメージしてできた世界。
彼の生きてきた道、人生、今の心境、これからのこと。
そんな彼の記憶や気持ちを、街に例えて具現化されたもの。
ある時は広く大きな平らな道だったり、細く狭い道だったり、突然目の前に大きな壁が立ち塞がったり、ぽっかり大きな穴が開いてしまったり……
ジェクトという1人の人間が歩んできた道のり。
決して楽な道ではない。
だからと言って困難ばかりでもない。
時には喜びもあり、幸せもあり、悲しくなるときも辛い時だってあっただろう。
それが、この世界を作り出し、表している。
少年に、この道の意味がわかっているだろうか?
この世界が持つ意味は分からないとしても、少年は、少年には別のものが見えているのかもしれない。
現に、私たちにはわからないが、少年は何かを感じている。
それが父親であるジェクトの気配なのか声なのか、記憶なのか…
迷うことなく私達を案内する少年に、私達は付いていくことしかできない。
人間というものはおかしなもので、あんなに嫌いで苦しんでいたはずの異界の匂いが気にならなくなってしまっている。
この匂いそのものの中にいて、慣れてしまったのだろうか?
魔物だらけのこの空間で、気配なんて何の役にも立たない。
こんな、人の記憶の中にまで侵入して存在し続ける魔物達が、哀れで、滑稽で、ジェクトの記憶の一部となれば、この街を生み出す一片になり得ただろうに、それでも人の生を羨む魔物にしかなれなかったのだろうか。
少年の胸の内に張られた糸は、まだピンとそこにある。
強い覚悟と意志が感じられる。
言葉を発することもなく、ただ黙々と前に進んでいく。
にぎやか担当のリュックでさえ、何も言えないまま歩いている。
この広い広い街は、一体どこまで続いているというのだろうか?
少年が、ジェクトが生きた街の大きさに比べたらこんな街の一角などは微々たる物かもしれない。
でも、シンの腕をもぎ取った戦いの始まりから、みんなまともに休むこともなく此処まで来ている。
必死に少年についていこうとするユウナの足取りが遅くなってきていることに、後ろを振り返ることもしない少年は気付いていない。
「あっ……」
でこぼこした床の段差に足を取られたユウナが躓いてしまう。
小さく洩れた声に、少年が振り返る。
ルールーに手を貸してもらって身を起すユウナは、少年に謝罪の言葉を発する。
「…ティーダ、気持ちはわかるけど、少し休もう」
「あ、私は大丈夫です。ちょっと躓いただけ。まだ……」
「いざという時に戦えんのでは意味が無い」
「……はい」
「ティーダ?」
「…あぁ、うん……」
どこか上の空な少年が曖昧に返事を返す。
先程まで不気味な色をしていた空が、いつの間にか夜の風景を映し出している。
星のように見える小さな光は幻光虫なのだろう。
よく見ると、ふわふわと動いている。
ふいにユウナが声を掛けてきた。
「ラフテルさん、ラフテルさんも、何か隠してますよね…」
「何を? もう、私のことはみんなで根掘り葉掘り聞いたじゃな…「さっき!…」」
「さっき、シーモア老師が言ってた言葉…」
「………」
「時間という束縛、って何ですか?」
「ユウナ、私達は生きてる。生きてる以上、誰でもいつかは死ぬ。時間の束縛なんて、誰にでもあるじゃないか」
「…違う。 ……シーモア老師のお母さんに会った時も、それに、ケルク=ロンゾ老師と会った時も、ラフテルさん、いつも……」
「…いつも?」
「私たちにはわからない会話をしてた。」
「…いいのか?」
「何が…?」
私は、何も答えなかった。
ユウナの問いに、私自身のことなんて話して何の意味がある?
人には、誰にも知られたくない秘密の一つや二つ、必ずあるだろ、そう言って逃げた私は、卑怯者だろうか?
もう、どうすることもできない。
私を入れ物にしたユウナレスカも、私の中の祈り子の中の魂の持ち主も、もういない。
祈り子は眠りにつき、夢見ることを止める。
それは私の中の祈り子も同じ。
魂のなくなった入れ物の私は、存在する意味を失う。
入れ物は、壊れるだけ…
暫くの休憩の後、再び歩みを再開した私達は、廃墟のような複雑な街を通り抜け、また別の空間に出た。
以前私が入り込んだ、真っ白な何も無い世界のような、無機質な世界。
しかし、深い森の中のように木に囲まれたその世界は明らかに私が体験したものとは違う。
そこに浮かび上がる、卵のような丸い物体。
それは触れるたびに、映像を映し出す。
幸せそうな家庭、繰り返されるブリッツの練習、選手としての栄光、愛するものと結ばれる喜び、愛しい息子の成長。
それは、紛れもなく、ジェクトの記憶。
そこに残る少年はまだ幼く、愛する妻も美しい姿で映し出される。
同じ様に若いアーロンと私と、そして、ブラスカ。
あの時のまま、10年前の姿のまま、ジェクトの記憶はそこで途切れている。
10年前のあの時から時が止まっているジェクトの中では、少年もアーロンも、私もあの時のまま…
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