第9章【シン~シンの体内】
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生まれながらの悪なんて存在しない
=88=
「ふふふふ……」
薄気味の悪い笑みを浮かべて、奴はそこにいた。
もう、作り笑顔で心の内を隠すことなど必要ない。
そういう意味なのだろうか。
何度倒しても私達の前に現われる。
もうすでにユウナレスカはいない。
究極召喚はもうないのだ。
究極召喚を使ってそれをユウナに発動させ、自らがシンになることを望んでいたこいつが、なぜ、シンの中にいる?
「しつこい野郎だな!!」
少年がさも嫌そうに言ってやる。
もっと言ってやれ!
「シンは私を受け入れたのだ。私はシンの一部となり、不滅のシンと共に行く。 ……永遠にな」
「…永、遠、…」
「吸収されただけじゃねえか!」
私の呟きは少年の声に隠された。
だが隣にいたアーロンがこちらにチラリと視線を一度向けたところを見ると、彼には聞こえていたらしい。
「いずれ内部から支配してやろう。時間は、……そう、無限にある」
その言葉に思わず反応する。
もう、私に残された時間は僅かだ。
ジェクトに会えるかどうかも分からないと言うのに、こいつにとって今ここにいる瞬間は永遠。
このままこいつとシンを放置すれば、そうなるだろう。
だが、そんなことはさせられない。
「お前たちがユウナレスカを滅ぼしたおかげで、究極召喚は永久に失われ、シンを倒す術は消えた…」
言葉を発しながら、シーモアの体が変化していく。
その体そのものが幻光体であるかのように、輪郭はぼやけていき、表面は幻光虫のように淡く光を放ち、それはひとつの塊のようになっていく。
「もはや誰にもシンを止められん」
体の周りを飛び回っていた幻光虫が彼に吸い寄せられるように集まっていく。
体を覆う幻光体と1つとなって次第にその輪郭は大きさを増していく。
「いや、止める」
「ああ!止めてやる!」
「ならば、シンを守らねばならんな」
シーモアの体はもはや原型を留めていない。
幻光虫の色を発しながら、それは1つのスフィアの塊のように揺らめいて、たゆとうている。
さながら美しい羽根を広げた脆く儚く美しく舞う昆虫のように、その背に見える鮮やかな羽。
「感謝するがいい。私はお前の父親を守ってやるのだ。そして私を受け入れず、時間という制限に囚われた哀れな女、己を悔やむがいい」
もはや実体を保つことさえ出来ないのか、その体は水のように透き通り、揺らめいていた。
背後からの眩しい光はその体をすり抜け、私達に水の波紋の模様を反射している。
そして尽きることを知らぬ、強力な魔法攻撃の連打。
防ぐ暇さえ与えないとでも言わんばかりに途切れることなく浴びせかける。
もう、この男に同情の余地は無い。
いや、同情以前にもう、こいつはヒトですらない。
ただ生前持っていた記憶と感情と欲望だけの塊。
こうなってしまっては、もうまともな会話すらできないだろう。
ヒトとして話をして、理解しあって、共に生きていく道を選ぶことだって、もしかしたら出来たかもしれない。
「…私を異界へ送るのは、やはりあなたか…」
奴の怒涛の魔法攻撃も、今のこの仲間達の前では意味を成さない。
力を失ったシーモアが、再びヒトであったときの姿を取り戻す。
そして、ガクリと膝を付いた。
「今の内に異界に送っちまえ!」
叫ぶワッカに、ユウナは素早くシーモアの前に立ち、杖を構えた。
「1つ、言いたいことがある……」
「待って」
「!?」
踊りだそうとしたユウナを止めたのは、私。
シーモアの言葉に、何かを感じた。
「…ラフテル、さん…?」
こちらを振り返ったユウナが不思議そうに私を見つめる。
私は、シーモアの前に歩み出た。
そこに膝を落とし、がっくりと項垂れるシーモアの前に同じ様に膝を付き、目線を合わせた。
「…シンの中に入り、そして私は理解した」
シーモアがゆっくりと語り始める。
「エボンが望んだのは、不変であること。変わらぬ世界を守ること。だがその世界とは、スピラではなかった…」
「…ザナルカンド…だな?」
「…フッ …もはやエボンはもう、エボンではない。ヒトでもなく、魔物でもない。ただ召喚を続けるだけの悲しい塊。栄えた文化を持ち、平和であったかつてのザナルカンドを守ること。それがエボンの望みであり、夢なのだ。私1人を消しても、スピラの悲しみは消えはしない」
こんな姿になってもまだそんな憎まれ口を叩くのか、この男は…
どうしてもっと素直になれなかったんだろう。
どうしてもっと甘えることが出来なかったんだろう。
どうしてもっと理解するとこが出来なかったんだろう…
彼が悪いわけじゃない。
エボンの老師だからじゃない。
グアドの族長の息子だからじゃない。
ヒトとの混血だからじゃない。
ただ、生まれてきた時代が悪かっただけ。
シンが生まれて1000年、祈り子達が夢を見ることに疲れ、ユウナレスカと究極召喚は永遠に失われ、そして夢の世界から来た男たちが、シンとシンを取り巻く全てのものを倒す。
たまたまその物語に巻き込まれただけの哀れな存在。
「シーモア、あなたが欲した永遠の命の入れ物は、あなたが消そうとした魂によって生きている」
「………」
「この魂を守ってくれたのは、あんたの、母さんだ…」
「!! ……そうか」
「あんたが消そうとした魂の声、本当の気持ち、今ならわかるんじゃないか?」
私はユウナに目で合図を送った。
ユウナは了承したとばかりに、何も言わずにゆっくりと異界送りの舞を舞う。
私はシーモアの手を取り、ケルクにしたときのように己の胸に当てる、
そこに性的なものなどは存在しない。
幻光虫を操り、魂の存在を感じることが出来るグアドの、ましてやこれほどの能力を持ったこいつには、きっと感じたはずだ。
私の中の、ジスカルの存在と、彼の本当の気持ちに。
あんなに憎んで嫌悪感を抱いていたシーモアなのに、この優しい気持ちは何だろう?
…そうだ、これはきっと私の中のジスカルがシーモアに反応しているんだ。それだけのことだ。
自分自身に言い聞かせ、そして幻光虫となって消えていくシーモアを、ずっと見送った。
→
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「ふふふふ……」
薄気味の悪い笑みを浮かべて、奴はそこにいた。
もう、作り笑顔で心の内を隠すことなど必要ない。
そういう意味なのだろうか。
何度倒しても私達の前に現われる。
もうすでにユウナレスカはいない。
究極召喚はもうないのだ。
究極召喚を使ってそれをユウナに発動させ、自らがシンになることを望んでいたこいつが、なぜ、シンの中にいる?
「しつこい野郎だな!!」
少年がさも嫌そうに言ってやる。
もっと言ってやれ!
「シンは私を受け入れたのだ。私はシンの一部となり、不滅のシンと共に行く。 ……永遠にな」
「…永、遠、…」
「吸収されただけじゃねえか!」
私の呟きは少年の声に隠された。
だが隣にいたアーロンがこちらにチラリと視線を一度向けたところを見ると、彼には聞こえていたらしい。
「いずれ内部から支配してやろう。時間は、……そう、無限にある」
その言葉に思わず反応する。
もう、私に残された時間は僅かだ。
ジェクトに会えるかどうかも分からないと言うのに、こいつにとって今ここにいる瞬間は永遠。
このままこいつとシンを放置すれば、そうなるだろう。
だが、そんなことはさせられない。
「お前たちがユウナレスカを滅ぼしたおかげで、究極召喚は永久に失われ、シンを倒す術は消えた…」
言葉を発しながら、シーモアの体が変化していく。
その体そのものが幻光体であるかのように、輪郭はぼやけていき、表面は幻光虫のように淡く光を放ち、それはひとつの塊のようになっていく。
「もはや誰にもシンを止められん」
体の周りを飛び回っていた幻光虫が彼に吸い寄せられるように集まっていく。
体を覆う幻光体と1つとなって次第にその輪郭は大きさを増していく。
「いや、止める」
「ああ!止めてやる!」
「ならば、シンを守らねばならんな」
シーモアの体はもはや原型を留めていない。
幻光虫の色を発しながら、それは1つのスフィアの塊のように揺らめいて、たゆとうている。
さながら美しい羽根を広げた脆く儚く美しく舞う昆虫のように、その背に見える鮮やかな羽。
「感謝するがいい。私はお前の父親を守ってやるのだ。そして私を受け入れず、時間という制限に囚われた哀れな女、己を悔やむがいい」
もはや実体を保つことさえ出来ないのか、その体は水のように透き通り、揺らめいていた。
背後からの眩しい光はその体をすり抜け、私達に水の波紋の模様を反射している。
そして尽きることを知らぬ、強力な魔法攻撃の連打。
防ぐ暇さえ与えないとでも言わんばかりに途切れることなく浴びせかける。
もう、この男に同情の余地は無い。
いや、同情以前にもう、こいつはヒトですらない。
ただ生前持っていた記憶と感情と欲望だけの塊。
こうなってしまっては、もうまともな会話すらできないだろう。
ヒトとして話をして、理解しあって、共に生きていく道を選ぶことだって、もしかしたら出来たかもしれない。
「…私を異界へ送るのは、やはりあなたか…」
奴の怒涛の魔法攻撃も、今のこの仲間達の前では意味を成さない。
力を失ったシーモアが、再びヒトであったときの姿を取り戻す。
そして、ガクリと膝を付いた。
「今の内に異界に送っちまえ!」
叫ぶワッカに、ユウナは素早くシーモアの前に立ち、杖を構えた。
「1つ、言いたいことがある……」
「待って」
「!?」
踊りだそうとしたユウナを止めたのは、私。
シーモアの言葉に、何かを感じた。
「…ラフテル、さん…?」
こちらを振り返ったユウナが不思議そうに私を見つめる。
私は、シーモアの前に歩み出た。
そこに膝を落とし、がっくりと項垂れるシーモアの前に同じ様に膝を付き、目線を合わせた。
「…シンの中に入り、そして私は理解した」
シーモアがゆっくりと語り始める。
「エボンが望んだのは、不変であること。変わらぬ世界を守ること。だがその世界とは、スピラではなかった…」
「…ザナルカンド…だな?」
「…フッ …もはやエボンはもう、エボンではない。ヒトでもなく、魔物でもない。ただ召喚を続けるだけの悲しい塊。栄えた文化を持ち、平和であったかつてのザナルカンドを守ること。それがエボンの望みであり、夢なのだ。私1人を消しても、スピラの悲しみは消えはしない」
こんな姿になってもまだそんな憎まれ口を叩くのか、この男は…
どうしてもっと素直になれなかったんだろう。
どうしてもっと甘えることが出来なかったんだろう。
どうしてもっと理解するとこが出来なかったんだろう…
彼が悪いわけじゃない。
エボンの老師だからじゃない。
グアドの族長の息子だからじゃない。
ヒトとの混血だからじゃない。
ただ、生まれてきた時代が悪かっただけ。
シンが生まれて1000年、祈り子達が夢を見ることに疲れ、ユウナレスカと究極召喚は永遠に失われ、そして夢の世界から来た男たちが、シンとシンを取り巻く全てのものを倒す。
たまたまその物語に巻き込まれただけの哀れな存在。
「シーモア、あなたが欲した永遠の命の入れ物は、あなたが消そうとした魂によって生きている」
「………」
「この魂を守ってくれたのは、あんたの、母さんだ…」
「!! ……そうか」
「あんたが消そうとした魂の声、本当の気持ち、今ならわかるんじゃないか?」
私はユウナに目で合図を送った。
ユウナは了承したとばかりに、何も言わずにゆっくりと異界送りの舞を舞う。
私はシーモアの手を取り、ケルクにしたときのように己の胸に当てる、
そこに性的なものなどは存在しない。
幻光虫を操り、魂の存在を感じることが出来るグアドの、ましてやこれほどの能力を持ったこいつには、きっと感じたはずだ。
私の中の、ジスカルの存在と、彼の本当の気持ちに。
あんなに憎んで嫌悪感を抱いていたシーモアなのに、この優しい気持ちは何だろう?
…そうだ、これはきっと私の中のジスカルがシーモアに反応しているんだ。それだけのことだ。
自分自身に言い聞かせ、そして幻光虫となって消えていくシーモアを、ずっと見送った。
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