第9章【シン~シンの体内】
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無知と知己
=87=
大気を震わせ、耳を劈く咆哮が響き渡る。
口が大きく開かれる。
そこから放たれる白い霧状のもの。
それはどんどんその勢いを増し、シンの咆哮と共にその体や辺り一体全てを包み込んだ。
上空にいる我々にはその姿は見えている。
この不気味な色を発する深い霧の奥底で、でかい口を限界まで大きく開ききり、そこでじっと待っている。
だが、ベベルの人々に見えてはいないだろう。
戦いを見守りたいと思っている人々はその姿を目にすることも出来ず、何が起こっているのか知る由も無い。
やがて霧はシンの姿を完全に覆い隠し、私たちにも確認することは出来ない。
しかし、その霧の向こうから眩い光が照らし出されている。
まるで私達をそこに導くかのように。
私達の気持ちは、同じだ。
この光の先にシンがいる。
シンは待っている。私達を、解放のときを。
ならば、行くしか、ない。
光の中へと船は進む。
真っ白な光の中に、大きく口を開けて待っているシン。
そうだ、いくらシン本体を倒したところで、それでは今までの召喚士と同じことをしただけ。
私達が目指すのは、やらなくてはならないことは、シンの中にいる、シンを鎧として纏う存在、エボン=ジュ。
そいつを打ち破ること。
かつては偉大な力を持った召喚士だという。
それが今はどんな姿をしているのか想像も付かない。
ユウナレスカのように、それまでの姿のまま留まっているのかもしれないし、もう元の姿など捨ててしまったかもしれない。
そして、そこにはエボン=ジュに取り付かれた、ジェクトが待っている。
さながら別世界への入口のようなシンの口の中を通り過ぎる。
瞬間、目も開けられないような眩い光に包まれ、思わず目を閉じた。
どこかで見た、幻想的な光景。
ここがシンの体内だなど、言われなくては分かるまい。
足元に雲のように渦巻いている瘴気の塊が大海原のように広がる。
不気味なほどに明るい、おかしな色をした空、いや、空ではないだろうが、どこまでも遠く広がっているようにすら見える。
そしてそこを自由に飛び回る、夥しい数の幻光虫。
昔行った、異界の風景によく似ていると思った。
ザナルカンドの時のような禍々しい風景ではないというのが、かえって現実から目を背けさせる。
それでもこれは現実なのだ。
証拠に、この咽返るような異界の匂い。
船の揺れから来る気分の悪さなんて、かわいいものだ。
それ以上に、気分が悪い。
頭がクラクラする。
「……? な、何…?」
「? ラフテル?」
「何か、いる…」
これだけの数の幻光虫だ。この中で魔物となって徘徊している魂の数も相当なものだろう。
だが、この感じは、通常の魔物のそれとは全然違う。
何度も感じた、恐ろしい気配。
私の命を欲しながら、私の中のジスカルを滅しようとした人物。
ユウナの力をもって、新たなシンになろうと画策しようとした人物。
―――――シーモア………
奴の顔が私達の前に現れる。
母親によく似た美しい顔を凶悪に歪ませ、瘴気の壁をぶつけるように私達の中を通り過ぎていった。
飛空挺が着陸できそうな平らな場所を見つけ、私達はそこで飛空挺から降りた。
この先は飛空挺では進めそうも無い。
この巨大なシンの内部がどんな造りになっているのかなんて誰にも分からない。
通常の生き物とは明らかに違うものであるということはなんとなく分かる。
だがやはり、変な感じだとは思う。
足元の地面と呼んでいいのかわからないが、特別肉のように柔らかい訳でもなければ、通常の地面のように硬い訳でもない。
その上に薄く膜のように張られた僅かな液体。
水なのか、スフィアのようなものなのか、それすら分からない。
そして一面に立ち込める白い靄のような霧のようなもの。
遠くのほうまでそれは続いているのか、数十歩ほど先は全く見えない。
足元の地面?床?やら壁?やら空間にも、エボンを現す梵字が羅列されていて道を示している。
お陰で迷うことは無いが、なにせこの巨体。それがどこまで続いているか分からない。
しかも現われる魔物一つ一つがバカでかい上に異様なほどに強い。
集められた幻光虫はその数も半端ではないが、ここから外に出ることすら敵わない彼らは互いに寄せ集まって形を作る。
幻光虫に限りは無い為、どんどん強力な力を手にすることが出来るのだろう。
スピラにいては絶対に遭遇することなど有り得ないような魔物がうじゃうじゃ登場して、私達の行く手を遮る。
ふいに、魔物の気配が途切れた空間に出た。
そこにあったのは、どこかで見たことのあるような長い階段。
豪華な蜀台が設えられ、細かな装飾の施された立派な階段。いかにも高級そうな絨毯が敷き詰められている。
シンの体内にあって、これほど場違いで滑稽なものは無い。
この上に、いる……
何度倒しても倒しても、その体を形造っている幻光虫となった魂を異界に送らねば、また同じ姿を持ってそれは現われる。
それが死人という存在。
既に命はなく、ヒトですらない、魔物と同じもの。
ただその気配だけは、生ある者と同じように持ち、異界の、幻光虫の匂いだけは消し去ることはできない。
その匂いを嗅ぎ分けることが出来るのは、同じ死人同士、そして異界を管理し守る番人でもあるグアド族のみ。
だから私の持つこの能力は、ヒトとしては特異なものだ。
すでに私はヒトではないが…
私にこの能力を授けてくれた、私の中の小さな欠片だけになってしまった魂が、それでも生前の記憶を有するのか。
この階段の上にあるその気配を感知して、震えている。
恐怖に慄いている様が私を通じて感じている。
この体中に走る旋律に、私も全身が粟立つ。
もう二度と会いたくは無い、恐ろしい存在が、私達を待ち受けていた。
→
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大気を震わせ、耳を劈く咆哮が響き渡る。
口が大きく開かれる。
そこから放たれる白い霧状のもの。
それはどんどんその勢いを増し、シンの咆哮と共にその体や辺り一体全てを包み込んだ。
上空にいる我々にはその姿は見えている。
この不気味な色を発する深い霧の奥底で、でかい口を限界まで大きく開ききり、そこでじっと待っている。
だが、ベベルの人々に見えてはいないだろう。
戦いを見守りたいと思っている人々はその姿を目にすることも出来ず、何が起こっているのか知る由も無い。
やがて霧はシンの姿を完全に覆い隠し、私たちにも確認することは出来ない。
しかし、その霧の向こうから眩い光が照らし出されている。
まるで私達をそこに導くかのように。
私達の気持ちは、同じだ。
この光の先にシンがいる。
シンは待っている。私達を、解放のときを。
ならば、行くしか、ない。
光の中へと船は進む。
真っ白な光の中に、大きく口を開けて待っているシン。
そうだ、いくらシン本体を倒したところで、それでは今までの召喚士と同じことをしただけ。
私達が目指すのは、やらなくてはならないことは、シンの中にいる、シンを鎧として纏う存在、エボン=ジュ。
そいつを打ち破ること。
かつては偉大な力を持った召喚士だという。
それが今はどんな姿をしているのか想像も付かない。
ユウナレスカのように、それまでの姿のまま留まっているのかもしれないし、もう元の姿など捨ててしまったかもしれない。
そして、そこにはエボン=ジュに取り付かれた、ジェクトが待っている。
さながら別世界への入口のようなシンの口の中を通り過ぎる。
瞬間、目も開けられないような眩い光に包まれ、思わず目を閉じた。
どこかで見た、幻想的な光景。
ここがシンの体内だなど、言われなくては分かるまい。
足元に雲のように渦巻いている瘴気の塊が大海原のように広がる。
不気味なほどに明るい、おかしな色をした空、いや、空ではないだろうが、どこまでも遠く広がっているようにすら見える。
そしてそこを自由に飛び回る、夥しい数の幻光虫。
昔行った、異界の風景によく似ていると思った。
ザナルカンドの時のような禍々しい風景ではないというのが、かえって現実から目を背けさせる。
それでもこれは現実なのだ。
証拠に、この咽返るような異界の匂い。
船の揺れから来る気分の悪さなんて、かわいいものだ。
それ以上に、気分が悪い。
頭がクラクラする。
「……? な、何…?」
「? ラフテル?」
「何か、いる…」
これだけの数の幻光虫だ。この中で魔物となって徘徊している魂の数も相当なものだろう。
だが、この感じは、通常の魔物のそれとは全然違う。
何度も感じた、恐ろしい気配。
私の命を欲しながら、私の中のジスカルを滅しようとした人物。
ユウナの力をもって、新たなシンになろうと画策しようとした人物。
―――――シーモア………
奴の顔が私達の前に現れる。
母親によく似た美しい顔を凶悪に歪ませ、瘴気の壁をぶつけるように私達の中を通り過ぎていった。
飛空挺が着陸できそうな平らな場所を見つけ、私達はそこで飛空挺から降りた。
この先は飛空挺では進めそうも無い。
この巨大なシンの内部がどんな造りになっているのかなんて誰にも分からない。
通常の生き物とは明らかに違うものであるということはなんとなく分かる。
だがやはり、変な感じだとは思う。
足元の地面と呼んでいいのかわからないが、特別肉のように柔らかい訳でもなければ、通常の地面のように硬い訳でもない。
その上に薄く膜のように張られた僅かな液体。
水なのか、スフィアのようなものなのか、それすら分からない。
そして一面に立ち込める白い靄のような霧のようなもの。
遠くのほうまでそれは続いているのか、数十歩ほど先は全く見えない。
足元の地面?床?やら壁?やら空間にも、エボンを現す梵字が羅列されていて道を示している。
お陰で迷うことは無いが、なにせこの巨体。それがどこまで続いているか分からない。
しかも現われる魔物一つ一つがバカでかい上に異様なほどに強い。
集められた幻光虫はその数も半端ではないが、ここから外に出ることすら敵わない彼らは互いに寄せ集まって形を作る。
幻光虫に限りは無い為、どんどん強力な力を手にすることが出来るのだろう。
スピラにいては絶対に遭遇することなど有り得ないような魔物がうじゃうじゃ登場して、私達の行く手を遮る。
ふいに、魔物の気配が途切れた空間に出た。
そこにあったのは、どこかで見たことのあるような長い階段。
豪華な蜀台が設えられ、細かな装飾の施された立派な階段。いかにも高級そうな絨毯が敷き詰められている。
シンの体内にあって、これほど場違いで滑稽なものは無い。
この上に、いる……
何度倒しても倒しても、その体を形造っている幻光虫となった魂を異界に送らねば、また同じ姿を持ってそれは現われる。
それが死人という存在。
既に命はなく、ヒトですらない、魔物と同じもの。
ただその気配だけは、生ある者と同じように持ち、異界の、幻光虫の匂いだけは消し去ることはできない。
その匂いを嗅ぎ分けることが出来るのは、同じ死人同士、そして異界を管理し守る番人でもあるグアド族のみ。
だから私の持つこの能力は、ヒトとしては特異なものだ。
すでに私はヒトではないが…
私にこの能力を授けてくれた、私の中の小さな欠片だけになってしまった魂が、それでも生前の記憶を有するのか。
この階段の上にあるその気配を感知して、震えている。
恐怖に慄いている様が私を通じて感じている。
この体中に走る旋律に、私も全身が粟立つ。
もう二度と会いたくは無い、恐ろしい存在が、私達を待ち受けていた。
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