第9章【シン~シンの体内】
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親近関係
=85=
グラリと大きく傾いた。
下方に飛来してきた飛空挺のデッキに再び飛び移る。
そこより上空にいたはずのシンが、落ちていく。
もぎ取った両腕の付け根から迸る青白い幻光虫の光を引いて、シンはその高度を見る見る落としていく。
薄く張られた雲を突き破り、その勢いは衰えることなく、真っ直ぐに。
飛び移ったデッキの上からその様子を眺めた。
肩で息を弾ませながら、傾いた夕日に照らされた、紅く染まる巨体が落ちゆくさまを見つめていた。
シンに引き寄せられている力は残っているのか、飛空挺までもが引っ張られて高度を落としていく。
大きく傾いたのはこちらも一緒だ。
必死にデッキにしがみ付いた。
船の中からシドとアニキの泣き叫ぶような声だけが現実を忘れさせること無く私達を繋ぎとめている。
そんな風に思わせる、幻想的な光景。
アニキの神業的な操縦技術を褒め称えるべきか、飛空挺はシンの落下の影響から免れて、なんとかその場を離脱した。
安定を取り戻した飛空挺は、静かにその場に浮遊する。
落ちていくシンの勢いは止まらない。
青白い尾を長く引きながら、星の重力に身を任せるシン。
そして地表が近付く。
そこにあったのは、ベベルの街。
あっと声を上げたのは誰だっただろうか?
だが、もう今更どうすることもできない。
ただ、シンが残した軌道の幻光虫の残像を見守ることしか出来ない。
ベベルの街では多くの民がこの戦いを見つめていた。
興奮して拳を振り上げる者、涙を流す者、祈りを捧げる者…
皆、1つになって共に祈りの歌を歌ってくれた者たちだ。
彼らの声が、それまでとは違うものになる。
悲鳴か嬌声か、歓喜とも怒号とも取れる雄叫びのような声が上がった。
町外れの一角からはもうもうとした土煙が立ち上り、数秒送れてとてつもなく重い地響きのような音が響いてきた。
シンが、落ちた瞬間だった。
「一度戻ろう」
落ちたシンをじっと見つめたまま動かない少年に声を掛けた。
返事はない。
「行くぞ」
アーロンの声に、仲間達は船の中に戻っていく。
「………」
少年に掛ける言葉を見つけることができないまま、私も踵を返した。
なんとか私は平静を保っている、姿を見せているだけ。
その内は物凄い嵐が渦巻いていた。
シンを撃ったという興奮と、ジェクトに与える痛みへの嘆きと、船の揺れによる気分の悪さと、そして妙に身近に感じる焦燥感と…。
そうだ、私は焦っている。確実に。
何になんて確認を取るまでもない。
もう、それほどまでに切羽詰まっているというのか。
お願いだジスカル、もう少し、もう少しだけ…。
通路の壁を支えにしながら、もやもやと晴れない胸の辺りの服を力一杯握りしめ、そして深く深呼吸する。
大丈夫、まだ大丈夫と自分自身に言い聞かせた。
「ラフテル…?」
声を掛けてきたのは、最後に船の中に戻ってきた少年だ。
私の今の状況では、何でもない、なんて言い訳は通用しなさそうだ。
やっと体を起こした私は、壁に背を預けたままの姿勢で荒い息を繰り返す。
浮かぶ汗を拭うこともせず、じっと私を見つめる少年と目を合わせた。
「話して、くれないのか?アーロンには言えて、でも俺はダメなのか?」
「…フフ、そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。これは、誰かに話しても、もうどうすることもできないんだ」
「どういう意味ッスか?」
「そうだな。ティーダ、あの時のこと、全部話してくれたら、教えるよ」
「あの時の…?」
「ガガゼト山の上で、たくさんの祈り子、見ただろ?…で、お前はウチに帰ったんだろ?そん時のこと」
「ああ!あん時か!あん時は…」
1000年前、ベベルとザナルカンドの大きな戦争があった。
機械だらけの兵器を持つベベルにザナルカンドは焼き尽くされ多くの犠牲者を出した。
生き残った召喚士とザナルカンドの民達は皆、祈り子となった。
そしてとてつもない力を持った召喚士エボンによって、あるものが召喚された。
それは祈り子達の夢。
永遠に終わることのない、眠らない街、ザナルカンド。
そこで生まれ育ったジェクトも少年も、みんな夢。
誰もが永遠を願った。
でも、1000年という時間は長すぎた。
祈り子たちは、もう眠りにつきたいと願っている。
でも、召喚を続けるエボンがそれを許さない。
祈り子が夢を見ることをやめれば、夢の存在である少年も消えてしまう。
だが、それではシンは倒せない。
少年の口から語られた、エボンという召喚士。
ベベルの僧官なら誰でも知っている、エボンの教えを造り広めた人物。
なんて、悲しくてバカバカしい世界なんだ。
呆れを通り越して笑えてさえ来る。
1000年もの間、スピラに住む人々はエボンの教えを信じ、それに従っていればシンという罪の形は消えるのだと。
だがそのシンが、エボンそのものだったなんて…
「…いいのか? 祈り子が夢を見ることをやめたら、お前は……」
「……俺は、…消えたく、ないッスよ…」
「ティーダ…」
「じゃ、ラフテルも話してくれよな」
自分が消えてしまう存在なのだと、もうすでにどこかで割り切ってしまっている。
もう、覚悟を決めている。
そんな風に見えた。
だから私も、彼に同情するのは申し訳ないと思った。
そして、話した。ジスカルのこと、ユウナレスカにされたこと、シーモアにされたこと、そして、時間が残り少ないこと…
「…どうして、そんなことしたッスか?」
「うん、どうしてだろうね…。ブラスカもジェクトも、もうその命はなくて、アーロンもどこに行ったか知らなかったし、ベベルで人形にされるのも御免だったし、
…寂しかった、のかもしれない。 だから、誰か知ってる奴の魂を感じていたい、そう思ったんだ。だから…」
「わっ……!」
突然、少年が私を抱き締めた。
「な、何?」
「…ラフテル、俺、ラフテルのこと、忘れないから。俺、消えちゃうけど、絶対に、忘れないから!」
胸が、締め付けられる。この込み上げてくるものはなんて感情なんだろう?
アーロンに抱き締められるのとはまた違った、ちょっと照れくさいような、くすぐったいような、そんな感じ。
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グラリと大きく傾いた。
下方に飛来してきた飛空挺のデッキに再び飛び移る。
そこより上空にいたはずのシンが、落ちていく。
もぎ取った両腕の付け根から迸る青白い幻光虫の光を引いて、シンはその高度を見る見る落としていく。
薄く張られた雲を突き破り、その勢いは衰えることなく、真っ直ぐに。
飛び移ったデッキの上からその様子を眺めた。
肩で息を弾ませながら、傾いた夕日に照らされた、紅く染まる巨体が落ちゆくさまを見つめていた。
シンに引き寄せられている力は残っているのか、飛空挺までもが引っ張られて高度を落としていく。
大きく傾いたのはこちらも一緒だ。
必死にデッキにしがみ付いた。
船の中からシドとアニキの泣き叫ぶような声だけが現実を忘れさせること無く私達を繋ぎとめている。
そんな風に思わせる、幻想的な光景。
アニキの神業的な操縦技術を褒め称えるべきか、飛空挺はシンの落下の影響から免れて、なんとかその場を離脱した。
安定を取り戻した飛空挺は、静かにその場に浮遊する。
落ちていくシンの勢いは止まらない。
青白い尾を長く引きながら、星の重力に身を任せるシン。
そして地表が近付く。
そこにあったのは、ベベルの街。
あっと声を上げたのは誰だっただろうか?
だが、もう今更どうすることもできない。
ただ、シンが残した軌道の幻光虫の残像を見守ることしか出来ない。
ベベルの街では多くの民がこの戦いを見つめていた。
興奮して拳を振り上げる者、涙を流す者、祈りを捧げる者…
皆、1つになって共に祈りの歌を歌ってくれた者たちだ。
彼らの声が、それまでとは違うものになる。
悲鳴か嬌声か、歓喜とも怒号とも取れる雄叫びのような声が上がった。
町外れの一角からはもうもうとした土煙が立ち上り、数秒送れてとてつもなく重い地響きのような音が響いてきた。
シンが、落ちた瞬間だった。
「一度戻ろう」
落ちたシンをじっと見つめたまま動かない少年に声を掛けた。
返事はない。
「行くぞ」
アーロンの声に、仲間達は船の中に戻っていく。
「………」
少年に掛ける言葉を見つけることができないまま、私も踵を返した。
なんとか私は平静を保っている、姿を見せているだけ。
その内は物凄い嵐が渦巻いていた。
シンを撃ったという興奮と、ジェクトに与える痛みへの嘆きと、船の揺れによる気分の悪さと、そして妙に身近に感じる焦燥感と…。
そうだ、私は焦っている。確実に。
何になんて確認を取るまでもない。
もう、それほどまでに切羽詰まっているというのか。
お願いだジスカル、もう少し、もう少しだけ…。
通路の壁を支えにしながら、もやもやと晴れない胸の辺りの服を力一杯握りしめ、そして深く深呼吸する。
大丈夫、まだ大丈夫と自分自身に言い聞かせた。
「ラフテル…?」
声を掛けてきたのは、最後に船の中に戻ってきた少年だ。
私の今の状況では、何でもない、なんて言い訳は通用しなさそうだ。
やっと体を起こした私は、壁に背を預けたままの姿勢で荒い息を繰り返す。
浮かぶ汗を拭うこともせず、じっと私を見つめる少年と目を合わせた。
「話して、くれないのか?アーロンには言えて、でも俺はダメなのか?」
「…フフ、そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。これは、誰かに話しても、もうどうすることもできないんだ」
「どういう意味ッスか?」
「そうだな。ティーダ、あの時のこと、全部話してくれたら、教えるよ」
「あの時の…?」
「ガガゼト山の上で、たくさんの祈り子、見ただろ?…で、お前はウチに帰ったんだろ?そん時のこと」
「ああ!あん時か!あん時は…」
1000年前、ベベルとザナルカンドの大きな戦争があった。
機械だらけの兵器を持つベベルにザナルカンドは焼き尽くされ多くの犠牲者を出した。
生き残った召喚士とザナルカンドの民達は皆、祈り子となった。
そしてとてつもない力を持った召喚士エボンによって、あるものが召喚された。
それは祈り子達の夢。
永遠に終わることのない、眠らない街、ザナルカンド。
そこで生まれ育ったジェクトも少年も、みんな夢。
誰もが永遠を願った。
でも、1000年という時間は長すぎた。
祈り子たちは、もう眠りにつきたいと願っている。
でも、召喚を続けるエボンがそれを許さない。
祈り子が夢を見ることをやめれば、夢の存在である少年も消えてしまう。
だが、それではシンは倒せない。
少年の口から語られた、エボンという召喚士。
ベベルの僧官なら誰でも知っている、エボンの教えを造り広めた人物。
なんて、悲しくてバカバカしい世界なんだ。
呆れを通り越して笑えてさえ来る。
1000年もの間、スピラに住む人々はエボンの教えを信じ、それに従っていればシンという罪の形は消えるのだと。
だがそのシンが、エボンそのものだったなんて…
「…いいのか? 祈り子が夢を見ることをやめたら、お前は……」
「……俺は、…消えたく、ないッスよ…」
「ティーダ…」
「じゃ、ラフテルも話してくれよな」
自分が消えてしまう存在なのだと、もうすでにどこかで割り切ってしまっている。
もう、覚悟を決めている。
そんな風に見えた。
だから私も、彼に同情するのは申し訳ないと思った。
そして、話した。ジスカルのこと、ユウナレスカにされたこと、シーモアにされたこと、そして、時間が残り少ないこと…
「…どうして、そんなことしたッスか?」
「うん、どうしてだろうね…。ブラスカもジェクトも、もうその命はなくて、アーロンもどこに行ったか知らなかったし、ベベルで人形にされるのも御免だったし、
…寂しかった、のかもしれない。 だから、誰か知ってる奴の魂を感じていたい、そう思ったんだ。だから…」
「わっ……!」
突然、少年が私を抱き締めた。
「な、何?」
「…ラフテル、俺、ラフテルのこと、忘れないから。俺、消えちゃうけど、絶対に、忘れないから!」
胸が、締め付けられる。この込み上げてくるものはなんて感情なんだろう?
アーロンに抱き締められるのとはまた違った、ちょっと照れくさいような、くすぐったいような、そんな感じ。
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