第9章【シン~シンの体内】
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さあ、始まる
=82=
ブリッジの中央に設置された、なんとか装置(名前は聞いたが忘れた)が青白い光を放ってゆっくりと動いている。
使っている本人たちも仕組みがわからないと言っているのだから、私が知る筈もない。
映し出されたスピラの地図の上に幾つも表示された何かの記号やら文字やら線が、その地図を覆い隠してしまっているようだ。
だがその中に、私にでも分かるものがある。
ゆっくりと移動しているその小さな物体は、ナギ平原のほうへ向かっているようだ。
一気に緊迫感が室内を埋め尽くす。
「いよいよって訳だな」
シドだけじゃない、その動く点が何で、今からどうするつもりなのか、わかって言っている。
私達は今、ナギ平原にいるのだ。
「んで、アレ、頼むよ親父」
「おう!アレだな!」
目配せを交し合う親子はニヤリと小さく笑みを浮かべると、シドが機械のスイッチを入れる。
そして船内に、いや、船そのものから祈りの歌が流れた。
これもアルベドの技術なのか。
各地の寺院でしか聞くことのできない、それぞれの祈り子が歌う、聖なる歌、ジェクトの愛した、歌。
もう、船に揺られて気分が悪いなんて、言っていられない。
私は私の足で床を踏みしめる。
そして、それは現われた。
「シン!!」
アニキの言葉に、皆は一斉に同じ方向に目を向けた。
まるで歌に引き寄せられるように、真っ直ぐにこちらに向かってくるシンの姿が、肉眼でもはっきりとわかる。
船の中の機械の地図の上では小さな点でしかないものも、実際目の前に来ればそれは相当な大きさで。
まだ直接対峙したわけでもないのに、鳥肌が立つ。
ジャケットの下の素肌の腕がブルリと震えたのがわかった。
ジェクト、いよいよだ。…今、行く。
仲間達の気合も十分のようだ。
特に少年の気の張り方は少し異常なほどに感じられる。
今はそれでいいかもしれないが、この張り詰めた糸が切れてしまわないか、少しだけ危惧してしまう。
「よーしっ!いっちょやったるかぁ!!」
「行きましょう!」
少年が最後にブリッジを飛び出し、途中で私とアーロンを追い抜いていく。
そのまま船内を走り、キャビンからデッキへ。
そして、正面にシンの姿を確認した。
耳元を走り過ぎて行く風の音に混じって、聞こえている。
耳を澄ませる必要などもない。
これほどまでにスピラが1つになったことがかつてあっただろうか?
だがこれが、ここに生きる全ての民の共通の願いだということもこれでよくわかる。
皆の気持ちは、望みは、同じなのだから。
これはこの船が発しているものとは明らかに違う、大勢の声。
決して1つに纏まっているわけではない。全てが届いているわけではない。
それでもこの広い草原に、大空に響く、祈りの歌。
ふいに少年がデッキの端まで移動する。
「ユウナ」
呼び掛けて、徐にポケットから1つのスフィアを取り出した。
「これ、もういらないだろ?」
「あっ!?」
ユウナには心当たりがあるのか、それを目にした途端急にうろたえ始める。
このユウナの慌てた態度や、少年の取った行動を見ればもしかしてという推測でしかないが、それが何のスフィアなのかは予想が付く。
「いらないよな」
自分の服を弄りながらうろたえて、曖昧な返事しか返せないユウナの言葉も考えも全て切り捨てて受付けないとばかりに、少年は言い切った。
「ふんっっ!!」
「あっ……」
きれいな放物線を描き、日の光をキラリと反射させて、スフィアは少年の手から遥か大空へ姿を消してしまった。
ユウナは、ただそれを見送ることしか出来なかった。
推測でしかないが、人知れずユウナが残そうとしたものだったのかもしれない。
ユウナには申し訳ないが、もし見つけたのが私だったら、知らん振りをして処分してしまったかもしれない。
「おいおい、なんかヤバイぞ!!」
ずっとシンの動向を見つめていたワッカが慌て始めた。
ユウナと少年の遣り取りを見つめていた私はその声にはっとする。
すっかり失念してしまっていたが、そうだ、私達は今まさに、シンに立ち向かうところなのだ。
まだ距離としては近いわけではない。
だがその大きさゆえに、もうシンの姿ははっきりと見えている。
その体は未だ海上に位置しているが、シンの大きさなら私たちの存在など塵に等しいだろう。
近付いてきていたシンが、その動きを止めた。
「?」
シンの口……らしきものがゆっくりと開いていく。
そして、そこに何らかの力が収束していく。
周りの空気が歪んで見え、それは次第にはっきりとした形を作っていく。
周りの大気も幻光虫もそこに引き寄せられるかのように集まっていく。
中に眩い光の帯が何本も走り、巨大な球体となったそのエネルギーの塊はどんどんその大きさを増していく。
シンの巨体に比べればそれは小さなものかもしれない。
だが、私たちからしてみればそれはこの船よりも遥かに大きなもので、大きさを益々増していくそれを目の当たりにしていると、焦燥感が大きくなってくる。
「ヤバイどころじゃないかも……」
宙に放たれたそれは、更に大気を吸い込んでいく。
目に見える勢いで成長していくエネルギーの塊は、浮かんでいるその位置が水面であるかのように波紋を広げる。
水が揺らめくのとは違う、衝撃波という波紋を。
波紋は私達が立つこの飛空挺をも通りぬけ、かなりの広範囲にまで広がったようだ。
突然の衝撃波に飛空挺は安定を保つのがやっとだ。
地震のように大きく揺れるデッキで、私は立つことさえできずに膝を付いてしまう。
「うわっ!」
「キャッ!」
各々が上げた短い悲鳴が私の耳にも届く。
大きな波紋が通り過ぎた後も、大気の震えは収まらない。
カタカタと小刻みに揺れ続ける床と自分の体。
エネルギーの塊はその大きさを増し続ける。
溢れるような光の帯が踊るように輪を描いてその周りを飛び回っている。
吸い込むのは大気に留まらず、海水が、空に浮かぶ雲までもが、その塊と一体になろうと集まっていく。
一体どれだけの力を集めるのだろうか…?
ついには、シンの体そのものまでを光の帯が取り囲み始めた。その大きさはシンと変わらぬほどにまで成長してしまった。
淡く赤紫の色を持っていたそれは急に黒く変色していく。
膨らみすぎたエネルギーはいつ破裂してもおかしくはない。
それが近いことが大気の震えや音で感じられる。
そしてそれがとうとう限界のときを迎えた――――!!!!
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ブリッジの中央に設置された、なんとか装置(名前は聞いたが忘れた)が青白い光を放ってゆっくりと動いている。
使っている本人たちも仕組みがわからないと言っているのだから、私が知る筈もない。
映し出されたスピラの地図の上に幾つも表示された何かの記号やら文字やら線が、その地図を覆い隠してしまっているようだ。
だがその中に、私にでも分かるものがある。
ゆっくりと移動しているその小さな物体は、ナギ平原のほうへ向かっているようだ。
一気に緊迫感が室内を埋め尽くす。
「いよいよって訳だな」
シドだけじゃない、その動く点が何で、今からどうするつもりなのか、わかって言っている。
私達は今、ナギ平原にいるのだ。
「んで、アレ、頼むよ親父」
「おう!アレだな!」
目配せを交し合う親子はニヤリと小さく笑みを浮かべると、シドが機械のスイッチを入れる。
そして船内に、いや、船そのものから祈りの歌が流れた。
これもアルベドの技術なのか。
各地の寺院でしか聞くことのできない、それぞれの祈り子が歌う、聖なる歌、ジェクトの愛した、歌。
もう、船に揺られて気分が悪いなんて、言っていられない。
私は私の足で床を踏みしめる。
そして、それは現われた。
「シン!!」
アニキの言葉に、皆は一斉に同じ方向に目を向けた。
まるで歌に引き寄せられるように、真っ直ぐにこちらに向かってくるシンの姿が、肉眼でもはっきりとわかる。
船の中の機械の地図の上では小さな点でしかないものも、実際目の前に来ればそれは相当な大きさで。
まだ直接対峙したわけでもないのに、鳥肌が立つ。
ジャケットの下の素肌の腕がブルリと震えたのがわかった。
ジェクト、いよいよだ。…今、行く。
仲間達の気合も十分のようだ。
特に少年の気の張り方は少し異常なほどに感じられる。
今はそれでいいかもしれないが、この張り詰めた糸が切れてしまわないか、少しだけ危惧してしまう。
「よーしっ!いっちょやったるかぁ!!」
「行きましょう!」
少年が最後にブリッジを飛び出し、途中で私とアーロンを追い抜いていく。
そのまま船内を走り、キャビンからデッキへ。
そして、正面にシンの姿を確認した。
耳元を走り過ぎて行く風の音に混じって、聞こえている。
耳を澄ませる必要などもない。
これほどまでにスピラが1つになったことがかつてあっただろうか?
だがこれが、ここに生きる全ての民の共通の願いだということもこれでよくわかる。
皆の気持ちは、望みは、同じなのだから。
これはこの船が発しているものとは明らかに違う、大勢の声。
決して1つに纏まっているわけではない。全てが届いているわけではない。
それでもこの広い草原に、大空に響く、祈りの歌。
ふいに少年がデッキの端まで移動する。
「ユウナ」
呼び掛けて、徐にポケットから1つのスフィアを取り出した。
「これ、もういらないだろ?」
「あっ!?」
ユウナには心当たりがあるのか、それを目にした途端急にうろたえ始める。
このユウナの慌てた態度や、少年の取った行動を見ればもしかしてという推測でしかないが、それが何のスフィアなのかは予想が付く。
「いらないよな」
自分の服を弄りながらうろたえて、曖昧な返事しか返せないユウナの言葉も考えも全て切り捨てて受付けないとばかりに、少年は言い切った。
「ふんっっ!!」
「あっ……」
きれいな放物線を描き、日の光をキラリと反射させて、スフィアは少年の手から遥か大空へ姿を消してしまった。
ユウナは、ただそれを見送ることしか出来なかった。
推測でしかないが、人知れずユウナが残そうとしたものだったのかもしれない。
ユウナには申し訳ないが、もし見つけたのが私だったら、知らん振りをして処分してしまったかもしれない。
「おいおい、なんかヤバイぞ!!」
ずっとシンの動向を見つめていたワッカが慌て始めた。
ユウナと少年の遣り取りを見つめていた私はその声にはっとする。
すっかり失念してしまっていたが、そうだ、私達は今まさに、シンに立ち向かうところなのだ。
まだ距離としては近いわけではない。
だがその大きさゆえに、もうシンの姿ははっきりと見えている。
その体は未だ海上に位置しているが、シンの大きさなら私たちの存在など塵に等しいだろう。
近付いてきていたシンが、その動きを止めた。
「?」
シンの口……らしきものがゆっくりと開いていく。
そして、そこに何らかの力が収束していく。
周りの空気が歪んで見え、それは次第にはっきりとした形を作っていく。
周りの大気も幻光虫もそこに引き寄せられるかのように集まっていく。
中に眩い光の帯が何本も走り、巨大な球体となったそのエネルギーの塊はどんどんその大きさを増していく。
シンの巨体に比べればそれは小さなものかもしれない。
だが、私たちからしてみればそれはこの船よりも遥かに大きなもので、大きさを益々増していくそれを目の当たりにしていると、焦燥感が大きくなってくる。
「ヤバイどころじゃないかも……」
宙に放たれたそれは、更に大気を吸い込んでいく。
目に見える勢いで成長していくエネルギーの塊は、浮かんでいるその位置が水面であるかのように波紋を広げる。
水が揺らめくのとは違う、衝撃波という波紋を。
波紋は私達が立つこの飛空挺をも通りぬけ、かなりの広範囲にまで広がったようだ。
突然の衝撃波に飛空挺は安定を保つのがやっとだ。
地震のように大きく揺れるデッキで、私は立つことさえできずに膝を付いてしまう。
「うわっ!」
「キャッ!」
各々が上げた短い悲鳴が私の耳にも届く。
大きな波紋が通り過ぎた後も、大気の震えは収まらない。
カタカタと小刻みに揺れ続ける床と自分の体。
エネルギーの塊はその大きさを増し続ける。
溢れるような光の帯が踊るように輪を描いてその周りを飛び回っている。
吸い込むのは大気に留まらず、海水が、空に浮かぶ雲までもが、その塊と一体になろうと集まっていく。
一体どれだけの力を集めるのだろうか…?
ついには、シンの体そのものまでを光の帯が取り囲み始めた。その大きさはシンと変わらぬほどにまで成長してしまった。
淡く赤紫の色を持っていたそれは急に黒く変色していく。
膨らみすぎたエネルギーはいつ破裂してもおかしくはない。
それが近いことが大気の震えや音で感じられる。
そしてそれがとうとう限界のときを迎えた――――!!!!
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