第8章【ザナルカンド~バージ=エボン寺院】
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呪いと希望
=80=
「…ここって…」
「お前の行きたい場所とは、ここのことだったとはな…」
「2人とも、知ってるんスか?」
「まぁ、私は話に聞いたことがあるだけで実際に来たのは初めて」
「俺もだ。ベベルから一番遠い寺院として名前だけは聞いていた。…バージ=エボン寺院だ」
暗い暗雲立ち込める空は、雷平原を思い浮かべる。
しかし、ここの空の禍々しさは雷平原の比ではない。
空から今にも落ちて来そうなのは雷ではなく、魔物のようだ。
もとは大きな村があったに違いない。
立派な寺院だったに違いない。
もはや遺跡と呼ぶにふさわしい、瓦礫の積み重ねられたそこは、シンに襲撃を受けた際に地形が変わってしまったのだろう。
全てが水の中に水没してしまっていた。
所々、水に埋もれなくて済んだ建物の天井や骨組みが、まるで小さな橋のように架かっていて、水面に映る自分の影が酷く儚い物に見える。
奥のほうに寺院と思われる建物の屋根の部分が見えて、寺院はまだ完全に水に浸かってしまったわけではないようだ。
水の上を渡る狭い橋は寺院まで続いていて、歩いてでもそこまで行ける様になっていた。
誰かが意図的にそうしたようにも思えるが、…一体誰が?
少年がふと途中で足を止めた。
水の中を覗き込むようにして何かを探しているようだ。
「どした? なんかあるのか?」
ワッカが声を掛ける。
「前、ここででかい魔物に食われかけてさあ…。仕返しだ!」
少年はさぞかし悔しかったのだろう。
仕返しという言葉に、心の底からの力を込めて口にする。
と同時に暗い空に禍々しい色の閃光が迸る。
まるで今の少年の心情を表しているかのようだった。
「しゃあねえなあ……。うっし、付き合ったるか!」
互いにハイタッチを交すこの2人も、いい友達なんだろうと思ってしまう。
「あたしも行くよ~!」
少年とワッカとリュックは水中に消えていった。
私達はそのまま橋を渡って寺院まで行き、そこで3人を待つことにした。
「ここ、寺院なの…?」
建物の近くまで来てから、ようやくユウナとルールーは理解したようだ。
少年が行きたいと言うから、もしかしてブリッツでもやりたくなったのかと思ったが、なんとも、都合のいいことだ。
「…もしかして、ここにも祈り子様が…?」
「勿論だ。…ユウナ、もうお前は目にしているはずだが?」
それが何を意味しているかなんて、言わずとも分かっている。
そして、私は、本当のところを言うと、怖い。
この気持ちの悪さは何なんだ?
胸がざわざわして嫌な寒気が走る。
私の中の何かが訴えかけてくる。
あの時と、どこか似ているような…
ロビーの奥から3人が中に入ってきた。
水の中からでも入ってこられる入口、いや、恐らくそこが本当の入口だったのだろう。
水没してしまったであろう試練の間を通ることなく、私達は祈り子の部屋へと足を踏み入れた。
部屋に配置された石像は、慌てて像だけここに運び込んだと言わんばかりに無造作に置かれていた。
これが試練の間に配置されていたものだったのだろう。
軽く触れようとすると、未だ力は健在なのか淡い光を放つ。
その奥の祈り子の間には、ユウナだけでなく、全員で入った。
もう今更掟など私たちには意味はない。
淡く照らされたスフィアの中に眠る美しい女性は、その体を鎖で絡められたままの痛々しい寝姿だった。
さも、自分が贄であることを象徴するかのように…
ユウナが、祈り子像の足元に跪き、祈りを捧げる。
私達はそれを後ろから見つめていた。
私の胸の高鳴りは収まらず、つい自分の胸の辺りを握り締めてしまう。
だが、これは恐怖というよりは、緊張に近いかもしれない。
…なぜ?
「シーモア老師の母君ですね」
そこに現われたのは美しい1人の女性。やはりシーモアは、グアドの人間でありながら、母親の血を濃く受け継いだようだ。
「知ってて私の力を求めるのですか? 息子を、シーモアを憎んでいたのでしょう?」
「………」
「よいのです…。憎しみの始まりはあの子。あの子のせいなのですから。そして、あの子を歪めてしまったのは、私の過ち…。
グアドとヒトとの間に生まれたあの子は幼い頃からずっと一人でした。だから私は一人でも生きていける力を与えたくて、自ら祈り子となったのです。
けれど…あの子は力を得たあまり、逆に取り付かれてしまいました。 私の力では満足できず、より大きな力を求めて」
自分の愛する息子の為を思ってした事。しかし、それは本当にするべきことだったのだろうか?
生きていく為の力は、彼の自尊心ばかりを成長させてしまい、そしてシーモアは究極の力を欲した。
「それで、シンかよ…」
少年の呟きに、シーモアの母親は頷いた。
「それから、ラフテルさん」
「!…はい」
突然名前を呼ばれて驚く。…というか、なぜ私を知っている?どうして名前を…?
「こちらへ」
「……」
「あなたにはとても辛い思いをさせてしまいましたね。ごめんなさい、そして、ありがとう」
彼女は語った。ずっと体裁ばかりを取り繕って、グアド族の族長であるという彼自身の誇りのせいで、自分と息子は虐げられてきた。
ずっと、信じられなかった。
だから、シーモアの召喚に応じ、その力のままにジスカルを…。そして私の中にいる魂を…
しかし、私の中の魂を手にしたときに、ジスカルのヒトとしての人を想う気持ちが込められていたことに気付いたのだ、と。
「分かったときには、もう手遅れでした。このままではあなたの命まで奪ってしまう。それだけは、いけない、と…」
「いえ、私のほうこそ、礼を言わねばなりません。私に力をくれたジスカルと、時間を残してくれたあなたに。本当なら私の時間はあの時に終わったはず。
でも、あなたは残してくれた。…お陰で、まだ私の物語は続いている」
「ラフテルさん、あなたに触れても構いませんか?」
「勿論です」
私はそっと近くまで歩み寄った。
当然のことながら、彼女は実体を持つことのない祈り子という存在。触れることなどできない。だが、それでも私の胸に手を当てて微笑んだ。
「…あぁ、あの人の、ジスカルの匂いを感じます」
「シンを倒したら、ジスカルはきっと貴方を迎えに行く。だから、もう少しだけ…」
「ええ。私も微力ながら共に参りましょう。…さあ、おいでなさい召喚士、我が力を授けましょう」
→ 第9章
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「…ここって…」
「お前の行きたい場所とは、ここのことだったとはな…」
「2人とも、知ってるんスか?」
「まぁ、私は話に聞いたことがあるだけで実際に来たのは初めて」
「俺もだ。ベベルから一番遠い寺院として名前だけは聞いていた。…バージ=エボン寺院だ」
暗い暗雲立ち込める空は、雷平原を思い浮かべる。
しかし、ここの空の禍々しさは雷平原の比ではない。
空から今にも落ちて来そうなのは雷ではなく、魔物のようだ。
もとは大きな村があったに違いない。
立派な寺院だったに違いない。
もはや遺跡と呼ぶにふさわしい、瓦礫の積み重ねられたそこは、シンに襲撃を受けた際に地形が変わってしまったのだろう。
全てが水の中に水没してしまっていた。
所々、水に埋もれなくて済んだ建物の天井や骨組みが、まるで小さな橋のように架かっていて、水面に映る自分の影が酷く儚い物に見える。
奥のほうに寺院と思われる建物の屋根の部分が見えて、寺院はまだ完全に水に浸かってしまったわけではないようだ。
水の上を渡る狭い橋は寺院まで続いていて、歩いてでもそこまで行ける様になっていた。
誰かが意図的にそうしたようにも思えるが、…一体誰が?
少年がふと途中で足を止めた。
水の中を覗き込むようにして何かを探しているようだ。
「どした? なんかあるのか?」
ワッカが声を掛ける。
「前、ここででかい魔物に食われかけてさあ…。仕返しだ!」
少年はさぞかし悔しかったのだろう。
仕返しという言葉に、心の底からの力を込めて口にする。
と同時に暗い空に禍々しい色の閃光が迸る。
まるで今の少年の心情を表しているかのようだった。
「しゃあねえなあ……。うっし、付き合ったるか!」
互いにハイタッチを交すこの2人も、いい友達なんだろうと思ってしまう。
「あたしも行くよ~!」
少年とワッカとリュックは水中に消えていった。
私達はそのまま橋を渡って寺院まで行き、そこで3人を待つことにした。
「ここ、寺院なの…?」
建物の近くまで来てから、ようやくユウナとルールーは理解したようだ。
少年が行きたいと言うから、もしかしてブリッツでもやりたくなったのかと思ったが、なんとも、都合のいいことだ。
「…もしかして、ここにも祈り子様が…?」
「勿論だ。…ユウナ、もうお前は目にしているはずだが?」
それが何を意味しているかなんて、言わずとも分かっている。
そして、私は、本当のところを言うと、怖い。
この気持ちの悪さは何なんだ?
胸がざわざわして嫌な寒気が走る。
私の中の何かが訴えかけてくる。
あの時と、どこか似ているような…
ロビーの奥から3人が中に入ってきた。
水の中からでも入ってこられる入口、いや、恐らくそこが本当の入口だったのだろう。
水没してしまったであろう試練の間を通ることなく、私達は祈り子の部屋へと足を踏み入れた。
部屋に配置された石像は、慌てて像だけここに運び込んだと言わんばかりに無造作に置かれていた。
これが試練の間に配置されていたものだったのだろう。
軽く触れようとすると、未だ力は健在なのか淡い光を放つ。
その奥の祈り子の間には、ユウナだけでなく、全員で入った。
もう今更掟など私たちには意味はない。
淡く照らされたスフィアの中に眠る美しい女性は、その体を鎖で絡められたままの痛々しい寝姿だった。
さも、自分が贄であることを象徴するかのように…
ユウナが、祈り子像の足元に跪き、祈りを捧げる。
私達はそれを後ろから見つめていた。
私の胸の高鳴りは収まらず、つい自分の胸の辺りを握り締めてしまう。
だが、これは恐怖というよりは、緊張に近いかもしれない。
…なぜ?
「シーモア老師の母君ですね」
そこに現われたのは美しい1人の女性。やはりシーモアは、グアドの人間でありながら、母親の血を濃く受け継いだようだ。
「知ってて私の力を求めるのですか? 息子を、シーモアを憎んでいたのでしょう?」
「………」
「よいのです…。憎しみの始まりはあの子。あの子のせいなのですから。そして、あの子を歪めてしまったのは、私の過ち…。
グアドとヒトとの間に生まれたあの子は幼い頃からずっと一人でした。だから私は一人でも生きていける力を与えたくて、自ら祈り子となったのです。
けれど…あの子は力を得たあまり、逆に取り付かれてしまいました。 私の力では満足できず、より大きな力を求めて」
自分の愛する息子の為を思ってした事。しかし、それは本当にするべきことだったのだろうか?
生きていく為の力は、彼の自尊心ばかりを成長させてしまい、そしてシーモアは究極の力を欲した。
「それで、シンかよ…」
少年の呟きに、シーモアの母親は頷いた。
「それから、ラフテルさん」
「!…はい」
突然名前を呼ばれて驚く。…というか、なぜ私を知っている?どうして名前を…?
「こちらへ」
「……」
「あなたにはとても辛い思いをさせてしまいましたね。ごめんなさい、そして、ありがとう」
彼女は語った。ずっと体裁ばかりを取り繕って、グアド族の族長であるという彼自身の誇りのせいで、自分と息子は虐げられてきた。
ずっと、信じられなかった。
だから、シーモアの召喚に応じ、その力のままにジスカルを…。そして私の中にいる魂を…
しかし、私の中の魂を手にしたときに、ジスカルのヒトとしての人を想う気持ちが込められていたことに気付いたのだ、と。
「分かったときには、もう手遅れでした。このままではあなたの命まで奪ってしまう。それだけは、いけない、と…」
「いえ、私のほうこそ、礼を言わねばなりません。私に力をくれたジスカルと、時間を残してくれたあなたに。本当なら私の時間はあの時に終わったはず。
でも、あなたは残してくれた。…お陰で、まだ私の物語は続いている」
「ラフテルさん、あなたに触れても構いませんか?」
「勿論です」
私はそっと近くまで歩み寄った。
当然のことながら、彼女は実体を持つことのない祈り子という存在。触れることなどできない。だが、それでも私の胸に手を当てて微笑んだ。
「…あぁ、あの人の、ジスカルの匂いを感じます」
「シンを倒したら、ジスカルはきっと貴方を迎えに行く。だから、もう少しだけ…」
「ええ。私も微力ながら共に参りましょう。…さあ、おいでなさい召喚士、我が力を授けましょう」
→ 第9章