第8章【ザナルカンド~バージ=エボン寺院】
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気の迷いも勘違い
=76=
一頻り艦内を見て回り、アーロンのいるところに戻った。
2~3言葉を交わしただけで、私はアーロンの隣に腰を下ろした。
ブリッジの中からは結構賑やかな声が聞こえてくる。
「ここにいると丸聞こえだな」
「…フッ、確かにな」
通路の向こう側から少年が慌てた様子で走ってきた。
こちらに一度視線だけを向け、そのままブリッジへと入っていった。
どうやら何か作戦を思いついたらしい。
アーロンと顔を見合わせる。
「どうやら決まったようだな」
「…みたいだな」
ブリッジの扉を開けた瞬間、シドの大きな掛け声がかかった。
それを合図に、船が始動する。
鈍い動力の音は足元の床を小刻みに揺らし、アニキ達操縦士がたくさんのボタンのついたパネルを操作して準備を進めていく。
私は非常に、猛烈に嫌な予感を覚え、静かに足を後退させた。
ブリッジを出て、そこにいたアーロンの隣に立ち、壁にへばりつくように背中を押し当てた。
聞こえてくる動力の音はドンドン大きくなっていき、それと同時に心臓の高まりも強くなった。
「よお~し!発進だあぁっ!!」
一際大きな掛け声がかかった。
船全体が大きく揺れ、足元がフワリと浮き上がった。
突然失われた安定感に心臓を握りつぶされたような感覚が走る。
声にならない悲鳴が喉の奥で、おかしな声の息を漏らす。
そして突然の加速に体が惰性に乗っ取って傾く。
すぐに体勢は直せるものの、この何とも言えない怖さはいつになっても治まらない。
眉間に皴を寄せたまま、自分自身を落ち着かせようと大きく息を吸い込んで深呼吸を繰り返す。
いつまでも安定しない自分の心と体が揺れ動いて気分が悪くなる。
ユウナ達がブリッジに戻ってきた。
途中、屈みこんでいる私の元へやってきて声を掛けてくれた。
「ラフテルさん?具合、悪いんですか?」
「気にするな。乗り物に酔っているだけだ」
「………」
「…そう、なんですか。大丈夫ですか?」
「………なんとか…」
「乗り物で酔ったときは外の景色を眺めるといいんだって、父さんが言ってましたよ」
「…そっか、ありがと、ユウナ」
「はい。きっとすぐに慣れますよ」
外の景色、か…
ユウナに言われて、俯いていた顔を持ち上げる。残念ながら私達が今いるここはブリッジと通路を繋ぐ渡り廊下のようなもので、窓はない。
外の景色どころか、鋼鉄に囲まれたこの狭い空間では他に見るべきものなど何もない。
あんなに嫌いだった異界の匂いを発するこの男の匂いだけが、なんとか私の理性を持ち堪えているようだった。
「目的地はベベルだ。間もなく着くだろう」
「…それも嫌だ」
フッと鼻で笑う小さな声が聞こえて、無性に悔しさを覚える。
このまま空飛ぶ船に揺られているのも嫌だが、行き先がベベルだというのも気に食わない。
できれば、ベベルにはもう近付きたくない。
…というか、今、私達がベベルに行って大丈夫なんだろうか?
反逆者となった今、行った瞬間に捕らえられるような気もするのだが。
何せ、シーモアを2度も殺して逃げてきたのだから…
それに、なぜかキノックを殺害したことにまでされているようだし、本来なら出頭した扱いになるんじゃないだろうか。
あれだけのことをしでかしたのだ。許される訳はない。
いや、それどころかすぐに刑を執行されたとしても文句は言えない。
そんな敵陣の巣の中に飛び込むような真似したくはない。
そして私はまた篭の鳥として拘束されるのだろうか?
10年前の旅の後、ブラスカの約束を果たす為に、私は言われた通りにベベルに戻り、寺院に全てを話した。
私の話を聞くまでもなく、あいつらは分かっていた。
ブラスカがガードの誰かを選んで究極召喚獣を手に入れ、そして死をもってスピラにほんの一時の平和をもたらすのだと。
恐らく究極召喚の入手方法も全て知ってたんだろう。
エボンの本質は不変であること。
何も変わらないことこそが真実。
この世界が不変であるためには、死の螺旋を生み出す存在が必要不可欠。
それがシン。
エボンは、シンを倒す旅を続ける召喚士を表では称賛し奉るが、その事実裏では次のシンを生み出す為の犠牲を歓迎しているだけなのだ。
民を苦しめるシンという存在を倒して、人々に僅かな希望を与える為だけの生贄として、ブラスカという召喚士が利用されただけだ。
そう簡単にシンを殺される訳にはいかないエボンは、長く苦しい旅をして力をつけた召喚士の究極召喚でしか倒せないと教えた。
本当は究極召喚など使わずともシンを倒すことは可能かもしれないというのに…。
結果的にエボンはシンを倒せと口に出しながらその裏ではシンを守っているのだ。
…そうか、だからユウナ達は危険を犯してまでベベルに向かっているのか。
やっとわかった。あいつに会って全てを聞き出すつもりなんだ。
あの食えない狸爺が素直に話すとはとても思えんがな。
ずっと俯いて考えていたせいか、突然急激な吐き気を催した。
まぁ、まだなんとか我慢はできるが、これ以上揺らされたら自信はない。
ブリッジへの扉が開いて、中からワッカとルールーが顔を出した。
「アーロンさん、あぁ、ラフテルもここにいたの、丁度良かったわ」
「もうすぐ着くって……」
その時、船が大きく傾いた。
目的地に近付いた為の旋回なのだろうが今の私にはどうでもいいことで、それよりもなんとか堪えていた吐き気の波がもう喉のすぐ下まで迫ってきていた。
「んで、みんなブリッジに……「うっっ!!」……!?」
「!!」
耐えきれずに口を片手でふさいで蹲ってしまう。
なんとか押さえようとした声も、もしかして漏れてしまったかも知れない。
言葉を失ったワッカとルールーはしばらく放心し、ルールーがすぐに背中を摩ってくれた。
「なんだ?」
訝しいアーロンの声がして、ワッカは戸惑った様子で慌ててブリッジに戻っていった。
やがて船の揺れも収まり、やっと安定を取り戻した床に安堵する。
「ラフテル、大丈夫?」
「悪い、(船が)動いていなければ平気だ」
「じゃ、横になったほうがいいんじゃ…。体に障るわ」
「(…体…?)いや、着いたんだろ?私も行く」
「ダメよ動いちゃ、大人しくしてなきゃ!」
「……?? ルールー、なんかさっきから会話噛み合わない気がするんだが…?」
→
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一頻り艦内を見て回り、アーロンのいるところに戻った。
2~3言葉を交わしただけで、私はアーロンの隣に腰を下ろした。
ブリッジの中からは結構賑やかな声が聞こえてくる。
「ここにいると丸聞こえだな」
「…フッ、確かにな」
通路の向こう側から少年が慌てた様子で走ってきた。
こちらに一度視線だけを向け、そのままブリッジへと入っていった。
どうやら何か作戦を思いついたらしい。
アーロンと顔を見合わせる。
「どうやら決まったようだな」
「…みたいだな」
ブリッジの扉を開けた瞬間、シドの大きな掛け声がかかった。
それを合図に、船が始動する。
鈍い動力の音は足元の床を小刻みに揺らし、アニキ達操縦士がたくさんのボタンのついたパネルを操作して準備を進めていく。
私は非常に、猛烈に嫌な予感を覚え、静かに足を後退させた。
ブリッジを出て、そこにいたアーロンの隣に立ち、壁にへばりつくように背中を押し当てた。
聞こえてくる動力の音はドンドン大きくなっていき、それと同時に心臓の高まりも強くなった。
「よお~し!発進だあぁっ!!」
一際大きな掛け声がかかった。
船全体が大きく揺れ、足元がフワリと浮き上がった。
突然失われた安定感に心臓を握りつぶされたような感覚が走る。
声にならない悲鳴が喉の奥で、おかしな声の息を漏らす。
そして突然の加速に体が惰性に乗っ取って傾く。
すぐに体勢は直せるものの、この何とも言えない怖さはいつになっても治まらない。
眉間に皴を寄せたまま、自分自身を落ち着かせようと大きく息を吸い込んで深呼吸を繰り返す。
いつまでも安定しない自分の心と体が揺れ動いて気分が悪くなる。
ユウナ達がブリッジに戻ってきた。
途中、屈みこんでいる私の元へやってきて声を掛けてくれた。
「ラフテルさん?具合、悪いんですか?」
「気にするな。乗り物に酔っているだけだ」
「………」
「…そう、なんですか。大丈夫ですか?」
「………なんとか…」
「乗り物で酔ったときは外の景色を眺めるといいんだって、父さんが言ってましたよ」
「…そっか、ありがと、ユウナ」
「はい。きっとすぐに慣れますよ」
外の景色、か…
ユウナに言われて、俯いていた顔を持ち上げる。残念ながら私達が今いるここはブリッジと通路を繋ぐ渡り廊下のようなもので、窓はない。
外の景色どころか、鋼鉄に囲まれたこの狭い空間では他に見るべきものなど何もない。
あんなに嫌いだった異界の匂いを発するこの男の匂いだけが、なんとか私の理性を持ち堪えているようだった。
「目的地はベベルだ。間もなく着くだろう」
「…それも嫌だ」
フッと鼻で笑う小さな声が聞こえて、無性に悔しさを覚える。
このまま空飛ぶ船に揺られているのも嫌だが、行き先がベベルだというのも気に食わない。
できれば、ベベルにはもう近付きたくない。
…というか、今、私達がベベルに行って大丈夫なんだろうか?
反逆者となった今、行った瞬間に捕らえられるような気もするのだが。
何せ、シーモアを2度も殺して逃げてきたのだから…
それに、なぜかキノックを殺害したことにまでされているようだし、本来なら出頭した扱いになるんじゃないだろうか。
あれだけのことをしでかしたのだ。許される訳はない。
いや、それどころかすぐに刑を執行されたとしても文句は言えない。
そんな敵陣の巣の中に飛び込むような真似したくはない。
そして私はまた篭の鳥として拘束されるのだろうか?
10年前の旅の後、ブラスカの約束を果たす為に、私は言われた通りにベベルに戻り、寺院に全てを話した。
私の話を聞くまでもなく、あいつらは分かっていた。
ブラスカがガードの誰かを選んで究極召喚獣を手に入れ、そして死をもってスピラにほんの一時の平和をもたらすのだと。
恐らく究極召喚の入手方法も全て知ってたんだろう。
エボンの本質は不変であること。
何も変わらないことこそが真実。
この世界が不変であるためには、死の螺旋を生み出す存在が必要不可欠。
それがシン。
エボンは、シンを倒す旅を続ける召喚士を表では称賛し奉るが、その事実裏では次のシンを生み出す為の犠牲を歓迎しているだけなのだ。
民を苦しめるシンという存在を倒して、人々に僅かな希望を与える為だけの生贄として、ブラスカという召喚士が利用されただけだ。
そう簡単にシンを殺される訳にはいかないエボンは、長く苦しい旅をして力をつけた召喚士の究極召喚でしか倒せないと教えた。
本当は究極召喚など使わずともシンを倒すことは可能かもしれないというのに…。
結果的にエボンはシンを倒せと口に出しながらその裏ではシンを守っているのだ。
…そうか、だからユウナ達は危険を犯してまでベベルに向かっているのか。
やっとわかった。あいつに会って全てを聞き出すつもりなんだ。
あの食えない狸爺が素直に話すとはとても思えんがな。
ずっと俯いて考えていたせいか、突然急激な吐き気を催した。
まぁ、まだなんとか我慢はできるが、これ以上揺らされたら自信はない。
ブリッジへの扉が開いて、中からワッカとルールーが顔を出した。
「アーロンさん、あぁ、ラフテルもここにいたの、丁度良かったわ」
「もうすぐ着くって……」
その時、船が大きく傾いた。
目的地に近付いた為の旋回なのだろうが今の私にはどうでもいいことで、それよりもなんとか堪えていた吐き気の波がもう喉のすぐ下まで迫ってきていた。
「んで、みんなブリッジに……「うっっ!!」……!?」
「!!」
耐えきれずに口を片手でふさいで蹲ってしまう。
なんとか押さえようとした声も、もしかして漏れてしまったかも知れない。
言葉を失ったワッカとルールーはしばらく放心し、ルールーがすぐに背中を摩ってくれた。
「なんだ?」
訝しいアーロンの声がして、ワッカは戸惑った様子で慌ててブリッジに戻っていった。
やがて船の揺れも収まり、やっと安定を取り戻した床に安堵する。
「ラフテル、大丈夫?」
「悪い、(船が)動いていなければ平気だ」
「じゃ、横になったほうがいいんじゃ…。体に障るわ」
「(…体…?)いや、着いたんだろ?私も行く」
「ダメよ動いちゃ、大人しくしてなきゃ!」
「……?? ルールー、なんかさっきから会話噛み合わない気がするんだが…?」
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