第8章【ザナルカンド~バージ=エボン寺院】
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消え逝くもの、残るもの
=72=
「私が消えれば、……究極召喚は失われる」
1000年もの長き時間を過ごしてきたユウナレスカの姿は、おぞましいものだった。
ヒトの想いと魂が残す幻光虫がやがて魔物となるように、この世に残るユウナレスカも太古から語り継がれる神話にでも登場するかのような、醜い化け物。
ヒトの心の醜い部分だけを寄せ集めて形作ったような、禍々しい姿。
だがもう、そんな化け物にならずに済む。
1000年という長い時間の拘束から解き放たれる。
力なく膝を付き、項垂れるユウナレスカの姿は、元の美しい女性のものへと戻っていた。
「あなたがたは、スピラの希望を消し去ったのです」
ユウナレスカの体から迸る幻光虫の光が泉のように噴出して、ユウナレスカ自身を眩く照らしている。
「だから他の方法を探すんだよ!」
1000年も前に亡くなった夫ゼイオンを想いながら、ユウナレスカはゆっくりと宙に溶けていく。
空を見上げたユウナレスカの顔は、幻光虫に照らされてさらに美しく儚く見える。
もう、エボンに縛られることも無く、ただ1人の女として愛する者の元へ行ける喜びを垣間見せていた。
最後に、聞きなれない言葉を1つ、残して…。
ユウナが静かに舞う。
ユウナレスカを異界に送る為に。
1000年もの長き時に囚われてきた彼女の魂を慰める為に…
私はそれをずっと見守った。
幻光虫の1つ1つが空気の中に溶けて消えてしまうまで、全部を見送った。
皆から少し離れたところにいたアーロンは1人、背を向けて立っている。
…私も、皆に本当のことを話すその時が近いかな、と自嘲した。
先程のホールへ戻ってきた瞬間、天井付近に漂っていたたくさんの幻光虫が一瞬強い光を放って消えてしまった。
ユウナレスカを想っていたのか、それとも呪っていたのか…
階段を降りたところに、先に戻ったアーロンが背を向けて立っていた。
私はそこに近付く。
私の強い視線を受けて、アーロンはこちらに1度視線を向けただけで、わざとそれをふいと外した。
仲間達がユウナを真ん中にして階段を降りてきた。
ユウナも足を止めて私に視線を向けたのが分かったが、気を利かせてくれたのか何も言わずにそのままホールを出て行った。
最後に少年が階段を降りてくる。
私とアーロンの横を通り過ぎようとしたとき、アーロンが少年に声を掛ける。
「話がある」
少年は足を止め、こちらを振り返った。
「なんだよ?」
「そろそろ、はっきりさせておこう…」
少年は、アーロンの言いたかったことに気が付いた。小さく溜息を漏らし、俯いた。
「…そっか、やっぱ、あんたも……」
「あぁ……。もっと驚くかと思ったが?」
「なんか、そんな気してたんだ…。ユウナレスカにやられたんだろ」
「アーロン」
2人の会話の間にわざと割り込むように声を掛けた。
「…お前も聞け」
「…ずっと教えてくれなかったくせに、ティーダには簡単に言うんだな…」
小さく口元を緩ませたのは、どんな意味があるのだろうか?
「ブラスカがシンと戦い、命を落とした後でな」
「私にはベベルへ戻れと言っておきながら、1人で行くなんて…。しかもそのせいで…!」
「納得できなかったんだよ…。あいつらの仇を討つ、そういう思いもあった。もう一度俺は一人でここに来て、このざまだ……」
「………」
「なんとか一命を取り留めてガガゼトを這い降りたが、ベベルの手前で力尽きた。その時会ったのが、キマリだ」
「…そういうことか」
アーロンの目の前に立った。
徐にアーロンの顔からサングラスを剥ぎ取って、振り返りもせずに後ろに立つ少年にそれを手渡した。
「!?」
少年がちゃんと受け取ったのを確認して、アーロンの顔を覆い隠す襟をぐいと引き寄せて顔を覗きこんだ。
そこには喉元にまで走る大きな傷。二度と開くことのない右目。
そして呆気に取られた顔があった。
反対側の手を大きく振りかぶって握り拳を作った。
それを力任せに奴の頬にぶつけてやった。
魔物をも一撃で倒せるほどの力を込めてやった。
鈍い音がして、よろめいた奴の口元から紅い液体が一筋流れた。
「!!!」
少年の驚く声が聞こえるがそれを無視して、数歩後退した奴の前に立ちはだかる。
「なんで1人で行ったんだ!!ブラスカとジェクトの想いを踏み躙って、命まで落として!!ブラスカとの約束も他人に押し付けて!!
自分のしたことをよく見ろ!…そんな顔になってまで、そんな体になってまで、どうして…、………どうして……」
「ラフテル…」
こんなことで、涙腺が緩んでくる。
零すまいと必死に目に力を込める。
体勢を直したアーロンがゆっくりと近付いてくる。
「…悪かった」
「うるさい!謝っても無駄だ!触るな!このバカ野郎!」
私に触れようとするその手を払いのけて、もう一発お見舞いしてやる。
反対側の拳をも振り上げて、もう一発、さらに一発…と思った腕を止められる。
その方向を見れば、少年の顔。
少し悲しそうな目をしたまま、私の手首を握っている。
「もう、いいだろ…」
「…ティーダ…、離して。…もう、いいから…」
アーロンもわかっているんだろう。自分の犯したこと、私の気持ち…。だから、敢えて私に殴らせた。
よろめいて膝を付いてしまっているアーロンは私の顔をみようともしない。
だが、私ももう、これ以上言っても仕方ないとおもった。だから…
私はゆっくりと腕を下ろし、1人先にホールを出た。
「アーロン…」
「そんな顔をするな…。こういう体で得したこともある…」
私の後ろから、2人の会話が聞こえてきたが、私は知らないふりを決めて、扉を閉めた。
→
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「私が消えれば、……究極召喚は失われる」
1000年もの長き時間を過ごしてきたユウナレスカの姿は、おぞましいものだった。
ヒトの想いと魂が残す幻光虫がやがて魔物となるように、この世に残るユウナレスカも太古から語り継がれる神話にでも登場するかのような、醜い化け物。
ヒトの心の醜い部分だけを寄せ集めて形作ったような、禍々しい姿。
だがもう、そんな化け物にならずに済む。
1000年という長い時間の拘束から解き放たれる。
力なく膝を付き、項垂れるユウナレスカの姿は、元の美しい女性のものへと戻っていた。
「あなたがたは、スピラの希望を消し去ったのです」
ユウナレスカの体から迸る幻光虫の光が泉のように噴出して、ユウナレスカ自身を眩く照らしている。
「だから他の方法を探すんだよ!」
1000年も前に亡くなった夫ゼイオンを想いながら、ユウナレスカはゆっくりと宙に溶けていく。
空を見上げたユウナレスカの顔は、幻光虫に照らされてさらに美しく儚く見える。
もう、エボンに縛られることも無く、ただ1人の女として愛する者の元へ行ける喜びを垣間見せていた。
最後に、聞きなれない言葉を1つ、残して…。
ユウナが静かに舞う。
ユウナレスカを異界に送る為に。
1000年もの長き時に囚われてきた彼女の魂を慰める為に…
私はそれをずっと見守った。
幻光虫の1つ1つが空気の中に溶けて消えてしまうまで、全部を見送った。
皆から少し離れたところにいたアーロンは1人、背を向けて立っている。
…私も、皆に本当のことを話すその時が近いかな、と自嘲した。
先程のホールへ戻ってきた瞬間、天井付近に漂っていたたくさんの幻光虫が一瞬強い光を放って消えてしまった。
ユウナレスカを想っていたのか、それとも呪っていたのか…
階段を降りたところに、先に戻ったアーロンが背を向けて立っていた。
私はそこに近付く。
私の強い視線を受けて、アーロンはこちらに1度視線を向けただけで、わざとそれをふいと外した。
仲間達がユウナを真ん中にして階段を降りてきた。
ユウナも足を止めて私に視線を向けたのが分かったが、気を利かせてくれたのか何も言わずにそのままホールを出て行った。
最後に少年が階段を降りてくる。
私とアーロンの横を通り過ぎようとしたとき、アーロンが少年に声を掛ける。
「話がある」
少年は足を止め、こちらを振り返った。
「なんだよ?」
「そろそろ、はっきりさせておこう…」
少年は、アーロンの言いたかったことに気が付いた。小さく溜息を漏らし、俯いた。
「…そっか、やっぱ、あんたも……」
「あぁ……。もっと驚くかと思ったが?」
「なんか、そんな気してたんだ…。ユウナレスカにやられたんだろ」
「アーロン」
2人の会話の間にわざと割り込むように声を掛けた。
「…お前も聞け」
「…ずっと教えてくれなかったくせに、ティーダには簡単に言うんだな…」
小さく口元を緩ませたのは、どんな意味があるのだろうか?
「ブラスカがシンと戦い、命を落とした後でな」
「私にはベベルへ戻れと言っておきながら、1人で行くなんて…。しかもそのせいで…!」
「納得できなかったんだよ…。あいつらの仇を討つ、そういう思いもあった。もう一度俺は一人でここに来て、このざまだ……」
「………」
「なんとか一命を取り留めてガガゼトを這い降りたが、ベベルの手前で力尽きた。その時会ったのが、キマリだ」
「…そういうことか」
アーロンの目の前に立った。
徐にアーロンの顔からサングラスを剥ぎ取って、振り返りもせずに後ろに立つ少年にそれを手渡した。
「!?」
少年がちゃんと受け取ったのを確認して、アーロンの顔を覆い隠す襟をぐいと引き寄せて顔を覗きこんだ。
そこには喉元にまで走る大きな傷。二度と開くことのない右目。
そして呆気に取られた顔があった。
反対側の手を大きく振りかぶって握り拳を作った。
それを力任せに奴の頬にぶつけてやった。
魔物をも一撃で倒せるほどの力を込めてやった。
鈍い音がして、よろめいた奴の口元から紅い液体が一筋流れた。
「!!!」
少年の驚く声が聞こえるがそれを無視して、数歩後退した奴の前に立ちはだかる。
「なんで1人で行ったんだ!!ブラスカとジェクトの想いを踏み躙って、命まで落として!!ブラスカとの約束も他人に押し付けて!!
自分のしたことをよく見ろ!…そんな顔になってまで、そんな体になってまで、どうして…、………どうして……」
「ラフテル…」
こんなことで、涙腺が緩んでくる。
零すまいと必死に目に力を込める。
体勢を直したアーロンがゆっくりと近付いてくる。
「…悪かった」
「うるさい!謝っても無駄だ!触るな!このバカ野郎!」
私に触れようとするその手を払いのけて、もう一発お見舞いしてやる。
反対側の拳をも振り上げて、もう一発、さらに一発…と思った腕を止められる。
その方向を見れば、少年の顔。
少し悲しそうな目をしたまま、私の手首を握っている。
「もう、いいだろ…」
「…ティーダ…、離して。…もう、いいから…」
アーロンもわかっているんだろう。自分の犯したこと、私の気持ち…。だから、敢えて私に殴らせた。
よろめいて膝を付いてしまっているアーロンは私の顔をみようともしない。
だが、私ももう、これ以上言っても仕方ないとおもった。だから…
私はゆっくりと腕を下ろし、1人先にホールを出た。
「アーロン…」
「そんな顔をするな…。こういう体で得したこともある…」
私の後ろから、2人の会話が聞こえてきたが、私は知らないふりを決めて、扉を閉めた。
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