第8章【ザナルカンド~バージ=エボン寺院】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺達の物語
=71=
扉の先には不思議な空間が広がっていた。
美しい人工的な広間とはまるで違う、大きな瓦礫のようなステージと、そこに描かれた巨大なエボンの魔方陣。
空一杯に広がる星の海は、ここが本当にスピラであるのか惑わせる。
比較的明るい室内で見た幻光虫とは違って、ここに舞い飛ぶ幻光虫はその光も強く見えるのか、大きな光の球がその揺らめきの名残の尾をさらに長く軌跡として残す。
私もここに立ったのは初めてだ。
あの時も扉の奥に消えたのはブラスカとジェクトだけだったから。
皆もこの不思議な光景に目を奪われているのだろう。
視線を彷徨わせて落ち着かない。
ステージの奥のほうに幻光虫が集まる。
そしてその姿を徐々に顕にしながら、ユウナレスカが先程と同じ様に優雅に歩み出てきた。
「祈り子となる者は決まりましたか? 誰を選ぶのです」
その問いに、ユウナは答えない。
「…その前に、教えて下さい。 究極召喚で倒しても、絶対にシンは蘇るのでしょうか?」
「“シン”は不滅です。“シン”を倒した召喚獣が新たな“シン”と成り代わり、必ずや復活を遂げます」
それは分かってる。今の時代のシンが復活したときに、シンにジェクトを感じた。
でもなぜそうなるのかがわからない。
「“シン”はスピラが背負った運命。永遠に変えられぬ宿命です」
それを受け入れよとでも言わんばかりに、ゆっくりと両腕を広げてユウナレスカは言う。
「でもよ、人間が罪を全部償えば“シン”の復活は止まるんだろ!? いつかはきっと何とかなんだろ?」
「ヒトの罪が消えることなど、ありますか?」
「なっ……!」
「答えになっていません! 罪が消えれば“シン”も消える。エボンはそう教えてきたのです! …その教えだけが、スピラの希望だった」
ワッカとルールーの問い掛けは、問答にすらなっていない。
ユウナレスカはまるで当然とでもいうかのように、己のエボンの隠していた事実を諭すように口にするだけ。
「…話にならないな」
私の言葉は小さな小さな呟き。
そしてユウナレスカは更に続ける。
「希望は……なぐさめ。悲しい定めも諦めて受け入れる為の力となる」
「ふざけんな!!『ふざけるな!!』」
堪えきれなくなったのか、少年が前に飛び出す。その叫びにもう一つ、若い声が重なった。
前に出た少年のさらに前に出た、紅い背中と長い黒髪。
「!! アーロン!?」
思わず名を呼ぶ。どうしてここにアーロンの幻影がいる!?
私の隣に変わらず立ち続けるこいつの顔を見上げた。我関せずと、アーロンは視線を逸らした。
『ただの気休めではないか! ブラスカは教えを信じて命を捨てた!ジェクトはブラスカを信じて犠牲になった!』
「信じていたから、自ら死んで逝けたのですよ」
アーロンの幻影に答えたユウナレスカの言葉は、当時のまま同じだっただろうか。
それは今の私たちにも向けられたもの。
教えの通りにエボンを信じて命を捨てるのが当たり前だ、と。
幻影のアーロンは怒りに肩を震わせる。
10年前の思念の残像だとわかっている筈なのに、彼から発せられる覇気は今いる私たちにもビリビリと感じるほど。
怒りの感情のままに大きく掛け声を放ちながら、アーロンはユウナレスカに太刀を振り下ろした。
「ダメだ!!!」
10年前の姿だろうと、それがもう過去のことだとわかろうと、初めてその場面を見た私にその言葉を止める術など見つからない。
ユウナレスカは眩い光の光線を放ちながら片手を振り下ろしただけでアーロンの凄まじい一撃を軽く往なした。
肉を裂く耳障りな音と共に、アーロンの体が宙を舞った。
少年の前にドサリと落ちたアーロンは、そのまま動かなくなり、やがて幻光虫となって消えていった。
瞬きも呼吸も、忘れてしまっていた。
そして理解した。知ってしまった。
彼が命を落とした原因を。
これまで何度聞いても決して教えてくれなかった、10年前のこの日。
ナギ平原で別れて、ザナルカンドに渡るまでの間に、アーロンはここを再来訪していたのか……
…そして、死んだ。
今すぐ責めたかった。
ユウナレスカではなく、隣に立つこの男を。
許されるなら、今すぐ胸倉を掴み上げて力任せにぶん殴ってやりたかった。
なぜこんなことをしたのかと、ブラスカとジェクトの犠牲を無駄にしたと、何のために自分は、自分たちは生き残されたのか、その気持ちを意思を、この男はこの瞬間、踏み躙ってしまったのだ。
ユウナレスカは続ける。犠牲という名の究極召喚こそが希望なのだと。
ほんの一時の平和の為だけの尊い犠牲を、希望だなんて、私には思えない。
それでもユウナレスカはユウナに問いかける。究極召喚を手に入れるための祈り子となる犠牲者を選べ、と。
「…死んでもいいと思ってました。私の命が役に立つなら…。でも… 究極召喚は何一つ変えられないマヤカシなのですね」
「いいえ、希望の光です。あなたの父も… 希望のために犠牲となりました。悲しみを忘れる為に…」
「違う!!ブラスカは忘れる為にここに来たわけではない!!」
「父さんの願いは……悲しみを消すことだった。忘れたり、誤魔化すことじゃない! 父さんの出来なかったこと私の手で叶えたい!
悲しくても、 ……生きます!生きて戦って、いつか!今は変えられない運命でもいつか! ……必ず変える!!
マヤカシの希望なんか、……いらない!」
「…哀れな…。自ら希望を捨てるとは…。ならば、せめてもの救いを与えましょう。全ての悲しみを忘れる、死の安息を!!」
見る見る周りの幻光虫がユウナレスカに引き寄せられる。
それまでの聖なる柔らかな異界の匂いは、真っ黒な、シーモアの持つ闇の心のように深く暗く染まっていく。
敵意剥きだしのユウナレスカのまとう空気が怒涛のようにこちらに押し寄せてくるのを感じた。
そしてアーロンが皆に問いかけるように叫ぶ。
「さあ、どうする! 今こそ決断するときだ! 死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか! 自分の心で感じたままに物語を動かす時だ!」
それに対する皆の気持ちはすでに同じだ。皆それぞれに、それぞれの物語がある。
エボンの教えに従い、死の螺旋の上を歩き続けるか、エボンを捨て悲しみに囚われながらも生きるか、この選択で物語は大きく変わる。
仲間達が口々に想いを言葉にする。
いまここで、決断しなければならないのは自分自身なのだ。
「キマリが死んだら誰がユウナを守るのだ!」
「あたし、やっちゃうよ~!」
「ユウナレスカ様と戦うってか? 冗談キツイぜ…」
「じゃ、逃げる?」
「へっ! …ここで逃げちゃあ… 俺は俺を許せねえよ! たとえ死んだってな!!」
「…同じこと考えてた」
「考えることは何もない。死んでからも尚我を通そうとするマイカやシーモア、そしてユウナレスカの言葉を真に受けるのか!?私は…私達はまだ、生きている!!」
「ユウナ! 一緒に続けよう、俺達の物語をさ!!」
→
=71=
扉の先には不思議な空間が広がっていた。
美しい人工的な広間とはまるで違う、大きな瓦礫のようなステージと、そこに描かれた巨大なエボンの魔方陣。
空一杯に広がる星の海は、ここが本当にスピラであるのか惑わせる。
比較的明るい室内で見た幻光虫とは違って、ここに舞い飛ぶ幻光虫はその光も強く見えるのか、大きな光の球がその揺らめきの名残の尾をさらに長く軌跡として残す。
私もここに立ったのは初めてだ。
あの時も扉の奥に消えたのはブラスカとジェクトだけだったから。
皆もこの不思議な光景に目を奪われているのだろう。
視線を彷徨わせて落ち着かない。
ステージの奥のほうに幻光虫が集まる。
そしてその姿を徐々に顕にしながら、ユウナレスカが先程と同じ様に優雅に歩み出てきた。
「祈り子となる者は決まりましたか? 誰を選ぶのです」
その問いに、ユウナは答えない。
「…その前に、教えて下さい。 究極召喚で倒しても、絶対にシンは蘇るのでしょうか?」
「“シン”は不滅です。“シン”を倒した召喚獣が新たな“シン”と成り代わり、必ずや復活を遂げます」
それは分かってる。今の時代のシンが復活したときに、シンにジェクトを感じた。
でもなぜそうなるのかがわからない。
「“シン”はスピラが背負った運命。永遠に変えられぬ宿命です」
それを受け入れよとでも言わんばかりに、ゆっくりと両腕を広げてユウナレスカは言う。
「でもよ、人間が罪を全部償えば“シン”の復活は止まるんだろ!? いつかはきっと何とかなんだろ?」
「ヒトの罪が消えることなど、ありますか?」
「なっ……!」
「答えになっていません! 罪が消えれば“シン”も消える。エボンはそう教えてきたのです! …その教えだけが、スピラの希望だった」
ワッカとルールーの問い掛けは、問答にすらなっていない。
ユウナレスカはまるで当然とでもいうかのように、己のエボンの隠していた事実を諭すように口にするだけ。
「…話にならないな」
私の言葉は小さな小さな呟き。
そしてユウナレスカは更に続ける。
「希望は……なぐさめ。悲しい定めも諦めて受け入れる為の力となる」
「ふざけんな!!『ふざけるな!!』」
堪えきれなくなったのか、少年が前に飛び出す。その叫びにもう一つ、若い声が重なった。
前に出た少年のさらに前に出た、紅い背中と長い黒髪。
「!! アーロン!?」
思わず名を呼ぶ。どうしてここにアーロンの幻影がいる!?
私の隣に変わらず立ち続けるこいつの顔を見上げた。我関せずと、アーロンは視線を逸らした。
『ただの気休めではないか! ブラスカは教えを信じて命を捨てた!ジェクトはブラスカを信じて犠牲になった!』
「信じていたから、自ら死んで逝けたのですよ」
アーロンの幻影に答えたユウナレスカの言葉は、当時のまま同じだっただろうか。
それは今の私たちにも向けられたもの。
教えの通りにエボンを信じて命を捨てるのが当たり前だ、と。
幻影のアーロンは怒りに肩を震わせる。
10年前の思念の残像だとわかっている筈なのに、彼から発せられる覇気は今いる私たちにもビリビリと感じるほど。
怒りの感情のままに大きく掛け声を放ちながら、アーロンはユウナレスカに太刀を振り下ろした。
「ダメだ!!!」
10年前の姿だろうと、それがもう過去のことだとわかろうと、初めてその場面を見た私にその言葉を止める術など見つからない。
ユウナレスカは眩い光の光線を放ちながら片手を振り下ろしただけでアーロンの凄まじい一撃を軽く往なした。
肉を裂く耳障りな音と共に、アーロンの体が宙を舞った。
少年の前にドサリと落ちたアーロンは、そのまま動かなくなり、やがて幻光虫となって消えていった。
瞬きも呼吸も、忘れてしまっていた。
そして理解した。知ってしまった。
彼が命を落とした原因を。
これまで何度聞いても決して教えてくれなかった、10年前のこの日。
ナギ平原で別れて、ザナルカンドに渡るまでの間に、アーロンはここを再来訪していたのか……
…そして、死んだ。
今すぐ責めたかった。
ユウナレスカではなく、隣に立つこの男を。
許されるなら、今すぐ胸倉を掴み上げて力任せにぶん殴ってやりたかった。
なぜこんなことをしたのかと、ブラスカとジェクトの犠牲を無駄にしたと、何のために自分は、自分たちは生き残されたのか、その気持ちを意思を、この男はこの瞬間、踏み躙ってしまったのだ。
ユウナレスカは続ける。犠牲という名の究極召喚こそが希望なのだと。
ほんの一時の平和の為だけの尊い犠牲を、希望だなんて、私には思えない。
それでもユウナレスカはユウナに問いかける。究極召喚を手に入れるための祈り子となる犠牲者を選べ、と。
「…死んでもいいと思ってました。私の命が役に立つなら…。でも… 究極召喚は何一つ変えられないマヤカシなのですね」
「いいえ、希望の光です。あなたの父も… 希望のために犠牲となりました。悲しみを忘れる為に…」
「違う!!ブラスカは忘れる為にここに来たわけではない!!」
「父さんの願いは……悲しみを消すことだった。忘れたり、誤魔化すことじゃない! 父さんの出来なかったこと私の手で叶えたい!
悲しくても、 ……生きます!生きて戦って、いつか!今は変えられない運命でもいつか! ……必ず変える!!
マヤカシの希望なんか、……いらない!」
「…哀れな…。自ら希望を捨てるとは…。ならば、せめてもの救いを与えましょう。全ての悲しみを忘れる、死の安息を!!」
見る見る周りの幻光虫がユウナレスカに引き寄せられる。
それまでの聖なる柔らかな異界の匂いは、真っ黒な、シーモアの持つ闇の心のように深く暗く染まっていく。
敵意剥きだしのユウナレスカのまとう空気が怒涛のようにこちらに押し寄せてくるのを感じた。
そしてアーロンが皆に問いかけるように叫ぶ。
「さあ、どうする! 今こそ決断するときだ! 死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか! 自分の心で感じたままに物語を動かす時だ!」
それに対する皆の気持ちはすでに同じだ。皆それぞれに、それぞれの物語がある。
エボンの教えに従い、死の螺旋の上を歩き続けるか、エボンを捨て悲しみに囚われながらも生きるか、この選択で物語は大きく変わる。
仲間達が口々に想いを言葉にする。
いまここで、決断しなければならないのは自分自身なのだ。
「キマリが死んだら誰がユウナを守るのだ!」
「あたし、やっちゃうよ~!」
「ユウナレスカ様と戦うってか? 冗談キツイぜ…」
「じゃ、逃げる?」
「へっ! …ここで逃げちゃあ… 俺は俺を許せねえよ! たとえ死んだってな!!」
「…同じこと考えてた」
「考えることは何もない。死んでからも尚我を通そうとするマイカやシーモア、そしてユウナレスカの言葉を真に受けるのか!?私は…私達はまだ、生きている!!」
「ユウナ! 一緒に続けよう、俺達の物語をさ!!」
→