第1章【ルカ~ミヘン街道】
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ギザールの野菜下さい
=7=
魔物も朝食の時間ってきっとあるんだ。
朝の時間は貴重だ。
完全に覚醒するまでのまどろみの時間なんて無駄なものでしかない。
日が昇った瞬間から1日は始まる。
海辺は、朝霧が立ち込めやすい。
この公司の周辺も例外ではないらしく、うっすらと世界は白んで見えた。
軽く体をほぐすところから、少しずつ動きを大きくしていく。
この公司のすぐ隣はチョコボの乗り場になっている為、人も通らず程よく広い。
自分の武器を両手に握って、イメージトレーニングをするのは私の日課…というほどでもない。
が、しっかりやっておかないといざというときに体が動かなかった、なんて年齢のせいだけにはしたくない。
昨夜の食事のときに、少年に年齢を聞かれたので正直に話したら口に入れていた食い物を盛大に噴出した。
…失敬な!
そうこうしている内に、メンバーも起き出して来て手の空いている者から食事を摂る。
少年を起こしに行ったワッカが公司の外に出てきた瞬間、異界の匂いが鼻を突いた。
「…くる!」
私の呟きに反応したのはユウナだった。
「えっ…?」
突然、悲鳴が上がった。
公司の裏手からだ。つい先程まで私がいたところ。
すぐに全員そこに向かう。
少年はまだ来ない。
「…何をやっているんだ!」
痺れを切らしたアーロンが公司に飛び込んだ。
私はそれを確認すると、皆のところへ駆けた。
* * * * * * * * * *
「ラフテルさん」
声を掛けてきたのはこの旅行公司のオーナー、アルベド族民であるリンという男だ。
この10年、旅を続ける間、あちこちの旅行公司で出会い、世話になってきた。
「ありがとうございます」
淡々と無感情に話すように見えるが、これは彼の性質。
アルベドらしい義理人情に厚い人物だということはよく知っている。
なんとか退けた魔物のお礼に、今回は1度だけチョコボに無料で乗れるようにしてくれるそうだ。
これでミヘン街道の後半は楽になれそうだ。…仲間達にとっては。
私としてはあまり喜べることではないのだが…
少年の朝食が終わるのを待ってから、無料で借りた4匹のチョコボにそれぞれ相乗りする。
「………」
「何だその嫌そうな顔は…」
昨夜のこともあって、中々顔を合わせられない。
1度あの視線に捕まったら逃れられなくなりそうだから。
フッ、なんて余裕の笑みを零しながら、私が後ろに乗り込むのを待っている。
実はチョコボはちょっと苦手だったりするのだ。
あの特有の揺れには何度乗っても慣れない。
嫌だ嫌だと思ってはいても、この揺れで振り落とされるのはもっと嫌だとか、子供のように拗ねてしまう。
仕方なく、言われたとおりに服を後ろから握り締める。
「今更だな。10年前は…」
「あー!わかった! …こうすればいいんだろ」
握り締めていた服から手を離し、後ろから腰に腕を回して背中に密着する。
「じゃあ、出発するッス!」
ユウナを後ろに乗せた少年は、初めてのチョコボに実に嬉しそうだ。
チョコボも少年の気持ちが分かるのか、楽しそうに甲高い鳴き声を上げる。
突然始まった揺れに、落ち着けていた尻が上下するのが気持ち悪い。
チョコボは不快じゃないんだろうか…?
思わず目の前の男の腰に回した腕に力を込める。
思いっきりしがみついている状態だ。
背中に押し付けた顔に、やつの背中の温もりが伝わってくる。
こんなに、温かいなんて…
こんなに、異界の匂いをプンプン漂わせているやつなのに…
走り続けていたチョコボが突然一声鳴き声を上げたかと思うと、崖から飛び降りた。
コチラはやっと何とか目を開けられる程度にまで慣れてきたところだったというのに、突然体に感じた浮遊感に息もできなくなる。
『怖い!』
素直に感じた。
死に対する恐怖など、魔物を相手に戦闘しているときには常に身近に感じている、つもりだった。
10年前の最後の戦いのときも、悲しいという感情しか沸いてこなかったのを覚えている。
それなのに、今!
正に今、命の危機をひしひしと感じている。
名を呼ばれ、体を揺さぶられている感覚で我に返った。
気が付くとチョコボは既に動きを止め、大人しく次の指示を待っているようだった。
アーロンの腰にしがみついたままだった腕は力の入れすぎで硬直しており、かなりきつく締めていたようでアーロンが苦言を呈していた。
「…やれやれ、せめてこっち向きにしがみついてくれれば…」
そう言って己の胸を指差してみせる。
やつの言いたい事が理解できて、眉間に皴を寄せながらゆっくり腕を解いた。
「夜ならいつでも歓迎するがな…」
顔だけをコチラに向けて、また口角を持ち上げて見せた。
自分の無様な格好に気が付いて、目の前にいるやつが急に憎らしく思えてきた。
私は余程必死になっていたのだろう。チョコボが申し訳無さそうに弱弱しく一声鳴き、のんびりと散歩をするように歩き出した。
このくらいの速度なら、乗っていて楽しいと思える。
ここはミヘン街道の旧道のようだ。
何故突然こんなところに降りたのだろうか?
「…アーロン」
「なんだ?」
「…昨夜の…ことなんだけど」
「………」
「…アーロン?」
「何のことだ? 少々深酒をしてしまったようで覚えとらん」
絶対に嘘だと確信できてしまう、わざとらしい言い方にカチンとくる。
「……バカ」
→
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魔物も朝食の時間ってきっとあるんだ。
朝の時間は貴重だ。
完全に覚醒するまでのまどろみの時間なんて無駄なものでしかない。
日が昇った瞬間から1日は始まる。
海辺は、朝霧が立ち込めやすい。
この公司の周辺も例外ではないらしく、うっすらと世界は白んで見えた。
軽く体をほぐすところから、少しずつ動きを大きくしていく。
この公司のすぐ隣はチョコボの乗り場になっている為、人も通らず程よく広い。
自分の武器を両手に握って、イメージトレーニングをするのは私の日課…というほどでもない。
が、しっかりやっておかないといざというときに体が動かなかった、なんて年齢のせいだけにはしたくない。
昨夜の食事のときに、少年に年齢を聞かれたので正直に話したら口に入れていた食い物を盛大に噴出した。
…失敬な!
そうこうしている内に、メンバーも起き出して来て手の空いている者から食事を摂る。
少年を起こしに行ったワッカが公司の外に出てきた瞬間、異界の匂いが鼻を突いた。
「…くる!」
私の呟きに反応したのはユウナだった。
「えっ…?」
突然、悲鳴が上がった。
公司の裏手からだ。つい先程まで私がいたところ。
すぐに全員そこに向かう。
少年はまだ来ない。
「…何をやっているんだ!」
痺れを切らしたアーロンが公司に飛び込んだ。
私はそれを確認すると、皆のところへ駆けた。
* * * * * * * * * *
「ラフテルさん」
声を掛けてきたのはこの旅行公司のオーナー、アルベド族民であるリンという男だ。
この10年、旅を続ける間、あちこちの旅行公司で出会い、世話になってきた。
「ありがとうございます」
淡々と無感情に話すように見えるが、これは彼の性質。
アルベドらしい義理人情に厚い人物だということはよく知っている。
なんとか退けた魔物のお礼に、今回は1度だけチョコボに無料で乗れるようにしてくれるそうだ。
これでミヘン街道の後半は楽になれそうだ。…仲間達にとっては。
私としてはあまり喜べることではないのだが…
少年の朝食が終わるのを待ってから、無料で借りた4匹のチョコボにそれぞれ相乗りする。
「………」
「何だその嫌そうな顔は…」
昨夜のこともあって、中々顔を合わせられない。
1度あの視線に捕まったら逃れられなくなりそうだから。
フッ、なんて余裕の笑みを零しながら、私が後ろに乗り込むのを待っている。
実はチョコボはちょっと苦手だったりするのだ。
あの特有の揺れには何度乗っても慣れない。
嫌だ嫌だと思ってはいても、この揺れで振り落とされるのはもっと嫌だとか、子供のように拗ねてしまう。
仕方なく、言われたとおりに服を後ろから握り締める。
「今更だな。10年前は…」
「あー!わかった! …こうすればいいんだろ」
握り締めていた服から手を離し、後ろから腰に腕を回して背中に密着する。
「じゃあ、出発するッス!」
ユウナを後ろに乗せた少年は、初めてのチョコボに実に嬉しそうだ。
チョコボも少年の気持ちが分かるのか、楽しそうに甲高い鳴き声を上げる。
突然始まった揺れに、落ち着けていた尻が上下するのが気持ち悪い。
チョコボは不快じゃないんだろうか…?
思わず目の前の男の腰に回した腕に力を込める。
思いっきりしがみついている状態だ。
背中に押し付けた顔に、やつの背中の温もりが伝わってくる。
こんなに、温かいなんて…
こんなに、異界の匂いをプンプン漂わせているやつなのに…
走り続けていたチョコボが突然一声鳴き声を上げたかと思うと、崖から飛び降りた。
コチラはやっと何とか目を開けられる程度にまで慣れてきたところだったというのに、突然体に感じた浮遊感に息もできなくなる。
『怖い!』
素直に感じた。
死に対する恐怖など、魔物を相手に戦闘しているときには常に身近に感じている、つもりだった。
10年前の最後の戦いのときも、悲しいという感情しか沸いてこなかったのを覚えている。
それなのに、今!
正に今、命の危機をひしひしと感じている。
名を呼ばれ、体を揺さぶられている感覚で我に返った。
気が付くとチョコボは既に動きを止め、大人しく次の指示を待っているようだった。
アーロンの腰にしがみついたままだった腕は力の入れすぎで硬直しており、かなりきつく締めていたようでアーロンが苦言を呈していた。
「…やれやれ、せめてこっち向きにしがみついてくれれば…」
そう言って己の胸を指差してみせる。
やつの言いたい事が理解できて、眉間に皴を寄せながらゆっくり腕を解いた。
「夜ならいつでも歓迎するがな…」
顔だけをコチラに向けて、また口角を持ち上げて見せた。
自分の無様な格好に気が付いて、目の前にいるやつが急に憎らしく思えてきた。
私は余程必死になっていたのだろう。チョコボが申し訳無さそうに弱弱しく一声鳴き、のんびりと散歩をするように歩き出した。
このくらいの速度なら、乗っていて楽しいと思える。
ここはミヘン街道の旧道のようだ。
何故突然こんなところに降りたのだろうか?
「…アーロン」
「なんだ?」
「…昨夜の…ことなんだけど」
「………」
「…アーロン?」
「何のことだ? 少々深酒をしてしまったようで覚えとらん」
絶対に嘘だと確信できてしまう、わざとらしい言い方にカチンとくる。
「……バカ」
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