第7章【ガガゼト山~ザナルカンド】
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選択を迫られるとき
=69=
「これ、祈り子様じゃない、ただの石像なの」
ユウナの言葉に誰もが驚愕の言葉を漏らす。
そんなこと、私もアーロンもとっくに知っていた。
でも、言わなかった。
改めて見る、ゼイオンの祈り子。
ただの石像と化したその姿に、当然だが何の力も感じることはない。
ゾクリとする。
間もなく自分もこれと同じ様に、こんな風に石になってしまうのかと思うと、おかしな気持ちが込み上げる。
心臓を突然鷲掴みにされたように収縮し、急に鼓動が早くなる。
息は詰まって嫌な汗が額を伝う。口から洩れる息は乾いているのに、握り締めた掌の中にはじっとりと汗が滲む。
見ていられなくなって、目を思い切り背けた。
祈り子の間の更に奥へと続く入口には、どんな仕掛けなのかなんてわからない光のカーテンがかけられていた。
その奥から突然現れた老人はユウナに伝える。
足元に置かれた石像、史上初めての究極召喚獣となったゼイオンは今や力を失ってしまったのだと。
「じゃ、究極召喚もなくなっちゃったの~!?」
リュックの驚きの声にはどこか嬉しさが混じる。
老人はその姿を辛うじて保っているだけで幻光虫を舞い上がらせていた。
「ご安心なされい。ユウナレスカ様が新たな究極召喚を授けて下さる。さあ、奥へ進むがよい」
そして老人は幻光虫となり、宙へ消えていった。
ユウナは腰を上げ、光のカーテンの下ろされた方へ向き直る。
足を踏み出し、私もその後に続く。
ユウナを挟んだ反対側にいたアーロンもすぐに踵を返した。
私は別に気にしなかったから。すでに知っていたことだったから。
その言葉を聞くまでは…。
「ちょっと待てよ、アーロン、ラフテル!」
掛けられた声に足を止める。
私もアーロンもユウナも、声を掛けた少年の方を振り返った。
「あんたら、最初から全部知ってたんだよな!?」
「…ああ」
即答するアーロンと、頷いた私。
「なんで黙ってたの~っ!?」
「リュック、ティーダ、…前にも言ったはずだ」
「お前たち自身に、真実の姿を見せる為だ」
もし、先のことが分かるとしたら、それによって未来が大きく変えられるとしたら…
未来が、先に起こることが分かっていれば、楽、だろうか?
人は何を選択してどうするべきなのだろうか?
私達は未来を読める訳ではない。
ただ、経験があるというだけだ。
先のことを考えて、予測して、自分の目で見て、体験して、後に悔やんだり喜んで、初めて経験となる。
それが人として成長することに繋がる。
他人から与えられた知識では、自分の経験とはならないのだ。
私たちにはそれがある。教えることは簡単だ。
だが、だからと言って全てを最初に語ってしまっては、それは旅を続ける者の為には決してならない。
「…怖いんだ」
「?」
「何がっスか?」
「一度経験したことを話すのは簡単だけど、それを聞いた者がそれを鵜呑みにしてしまうのが」
「…先のこと、わかったほうがいいじゃん」
「たった1度の経験が、記憶が、真実とは限らん」
「………」
「ましてや他人の知識。人から聞いた話ほど当てにならんものはない。全てを知りたければ己で確かめるしかない」
私とアーロンの言葉は正論だ。
だがやはり割り切ることは出来ないのだろう。
リュックも少年も言い返すことはしないが、憮然とした表情を浮かべている。
「…もう、戻れないよ」
後姿のままのユウナがポツリと呟く。
「わかっている。キマリが先に行く。ユウナの前は、キマリが守る」
私達が伝えたかったこと、分かって貰いたいと思ったこと、キマリはいち早く理解してくれたようだ。
キマリが先頭に立って光のカーテンの中に消える。
ユウナもそれに続き、奥の部屋へと進み、すぐにアーロンも後に続いた。
私も他の仲間達に合図するように一瞥を返して、光の中へと足を進めた。
一歩足を踏み入れたそこは別空間だ。
それまでの瓦礫だらけでボロボロの、いかにも遺跡なんだと実感できる世界ではなく、広いホールに美しい装飾が施された豪華な部屋。
嫌でも思い出す、ベベルのあの無駄に豪華に飾られた部屋に酷似したそこは、紛れも無くエボンの世界そのもの。
そこに漂う、他のモノとは異質な異界の匂い。
重厚な長き時間の間に洗練された気高き魂の匂い。
「なんか出てくるよ!?」
広いホールの高い天井付近では、たくさんの幻光虫がさながらその人物の登場を喜ぶかのように舞い、浮かぶ。
部屋の奥の階段の先の扉が開くことはなく、だが確かにそこを通って1人の女性がゆっくりと現われた。
「ユウナレスカ様……」
スピラ各地にある寺院の中には、その奥へと続く入口を両脇から守るように巨大な護聖像が立てられている。
それこそがこの世界で初めてシンを撃ち滅ぼし、初めてのナギ節を作り出した、伝説の召喚士ユウナレスカとその夫ゼイオンである。
よく見知ったその姿のままの女性が、もう硬化してしまったような長い髪を揺らし、見事な肉体美を惜しげもなく晒していた。
「ようこそザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。
大いなる祝福を、今こそ授けましょう。我が究極の秘儀……“究極召喚”を。
…さあ、選ぶのです」
女性特有の優しい声が広いホール全体に響く。
だがその言葉は、その場にいる者達を困惑させるのに十分だ。
「…??」
ユウナの後姿しか見えない私がいる位置からでも、ユウナがどう答えていいか迷っている様子が手に取るように分かる。
私のすぐ左隣に立つアーロンの気配に、私はなんとか縋っているような状態だ。
今ここで彼女の姿を目にするのは、正直キツイ。
この身に圧し掛かってくるような重い重圧に耐えるのでやっとだ。
目に見えない硬い重い空気の塊に押し潰されそうだ。
「あなたが選んだ勇士を1人、私の力で変えましょう。…そう、あなたの究極召喚の祈り子に」
「「「!!!」」」
「想いの力、絆の力、その結晶こそ究極召喚。召喚士と強く結ばれた者が祈り子となって得られる力。2人を結ぶ想いの絆が、“シン”を倒す光となります。
…1000年前、私は我が夫、ゼイオンを選びました。ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです。恐れることはありません。
あなたの悲しみは全て解き放たれるでしょう。究極召喚を発動すれば、あなたの命も散るのです。命が消えるその時に、悲しみは消え去ります。
…あなたの父、ブラスカもまた同じ道を選びました」
「あ………!」
ユウナは理解する。ここで、自分の父ブラスカも同じ言葉を聞き、そして究極召喚を得たのだ、と…
ユウナレスカが私の存在に気付いたようで、私に視線を向ける。
何か訝し気に顔を少しだけ硬くさせると、ユウナに背を向ける。
選んだ者を連れて扉の奥へ来い、と、それだけを告げて、また扉の奥へ姿を消した。
→
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「これ、祈り子様じゃない、ただの石像なの」
ユウナの言葉に誰もが驚愕の言葉を漏らす。
そんなこと、私もアーロンもとっくに知っていた。
でも、言わなかった。
改めて見る、ゼイオンの祈り子。
ただの石像と化したその姿に、当然だが何の力も感じることはない。
ゾクリとする。
間もなく自分もこれと同じ様に、こんな風に石になってしまうのかと思うと、おかしな気持ちが込み上げる。
心臓を突然鷲掴みにされたように収縮し、急に鼓動が早くなる。
息は詰まって嫌な汗が額を伝う。口から洩れる息は乾いているのに、握り締めた掌の中にはじっとりと汗が滲む。
見ていられなくなって、目を思い切り背けた。
祈り子の間の更に奥へと続く入口には、どんな仕掛けなのかなんてわからない光のカーテンがかけられていた。
その奥から突然現れた老人はユウナに伝える。
足元に置かれた石像、史上初めての究極召喚獣となったゼイオンは今や力を失ってしまったのだと。
「じゃ、究極召喚もなくなっちゃったの~!?」
リュックの驚きの声にはどこか嬉しさが混じる。
老人はその姿を辛うじて保っているだけで幻光虫を舞い上がらせていた。
「ご安心なされい。ユウナレスカ様が新たな究極召喚を授けて下さる。さあ、奥へ進むがよい」
そして老人は幻光虫となり、宙へ消えていった。
ユウナは腰を上げ、光のカーテンの下ろされた方へ向き直る。
足を踏み出し、私もその後に続く。
ユウナを挟んだ反対側にいたアーロンもすぐに踵を返した。
私は別に気にしなかったから。すでに知っていたことだったから。
その言葉を聞くまでは…。
「ちょっと待てよ、アーロン、ラフテル!」
掛けられた声に足を止める。
私もアーロンもユウナも、声を掛けた少年の方を振り返った。
「あんたら、最初から全部知ってたんだよな!?」
「…ああ」
即答するアーロンと、頷いた私。
「なんで黙ってたの~っ!?」
「リュック、ティーダ、…前にも言ったはずだ」
「お前たち自身に、真実の姿を見せる為だ」
もし、先のことが分かるとしたら、それによって未来が大きく変えられるとしたら…
未来が、先に起こることが分かっていれば、楽、だろうか?
人は何を選択してどうするべきなのだろうか?
私達は未来を読める訳ではない。
ただ、経験があるというだけだ。
先のことを考えて、予測して、自分の目で見て、体験して、後に悔やんだり喜んで、初めて経験となる。
それが人として成長することに繋がる。
他人から与えられた知識では、自分の経験とはならないのだ。
私たちにはそれがある。教えることは簡単だ。
だが、だからと言って全てを最初に語ってしまっては、それは旅を続ける者の為には決してならない。
「…怖いんだ」
「?」
「何がっスか?」
「一度経験したことを話すのは簡単だけど、それを聞いた者がそれを鵜呑みにしてしまうのが」
「…先のこと、わかったほうがいいじゃん」
「たった1度の経験が、記憶が、真実とは限らん」
「………」
「ましてや他人の知識。人から聞いた話ほど当てにならんものはない。全てを知りたければ己で確かめるしかない」
私とアーロンの言葉は正論だ。
だがやはり割り切ることは出来ないのだろう。
リュックも少年も言い返すことはしないが、憮然とした表情を浮かべている。
「…もう、戻れないよ」
後姿のままのユウナがポツリと呟く。
「わかっている。キマリが先に行く。ユウナの前は、キマリが守る」
私達が伝えたかったこと、分かって貰いたいと思ったこと、キマリはいち早く理解してくれたようだ。
キマリが先頭に立って光のカーテンの中に消える。
ユウナもそれに続き、奥の部屋へと進み、すぐにアーロンも後に続いた。
私も他の仲間達に合図するように一瞥を返して、光の中へと足を進めた。
一歩足を踏み入れたそこは別空間だ。
それまでの瓦礫だらけでボロボロの、いかにも遺跡なんだと実感できる世界ではなく、広いホールに美しい装飾が施された豪華な部屋。
嫌でも思い出す、ベベルのあの無駄に豪華に飾られた部屋に酷似したそこは、紛れも無くエボンの世界そのもの。
そこに漂う、他のモノとは異質な異界の匂い。
重厚な長き時間の間に洗練された気高き魂の匂い。
「なんか出てくるよ!?」
広いホールの高い天井付近では、たくさんの幻光虫がさながらその人物の登場を喜ぶかのように舞い、浮かぶ。
部屋の奥の階段の先の扉が開くことはなく、だが確かにそこを通って1人の女性がゆっくりと現われた。
「ユウナレスカ様……」
スピラ各地にある寺院の中には、その奥へと続く入口を両脇から守るように巨大な護聖像が立てられている。
それこそがこの世界で初めてシンを撃ち滅ぼし、初めてのナギ節を作り出した、伝説の召喚士ユウナレスカとその夫ゼイオンである。
よく見知ったその姿のままの女性が、もう硬化してしまったような長い髪を揺らし、見事な肉体美を惜しげもなく晒していた。
「ようこそザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。
大いなる祝福を、今こそ授けましょう。我が究極の秘儀……“究極召喚”を。
…さあ、選ぶのです」
女性特有の優しい声が広いホール全体に響く。
だがその言葉は、その場にいる者達を困惑させるのに十分だ。
「…??」
ユウナの後姿しか見えない私がいる位置からでも、ユウナがどう答えていいか迷っている様子が手に取るように分かる。
私のすぐ左隣に立つアーロンの気配に、私はなんとか縋っているような状態だ。
今ここで彼女の姿を目にするのは、正直キツイ。
この身に圧し掛かってくるような重い重圧に耐えるのでやっとだ。
目に見えない硬い重い空気の塊に押し潰されそうだ。
「あなたが選んだ勇士を1人、私の力で変えましょう。…そう、あなたの究極召喚の祈り子に」
「「「!!!」」」
「想いの力、絆の力、その結晶こそ究極召喚。召喚士と強く結ばれた者が祈り子となって得られる力。2人を結ぶ想いの絆が、“シン”を倒す光となります。
…1000年前、私は我が夫、ゼイオンを選びました。ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです。恐れることはありません。
あなたの悲しみは全て解き放たれるでしょう。究極召喚を発動すれば、あなたの命も散るのです。命が消えるその時に、悲しみは消え去ります。
…あなたの父、ブラスカもまた同じ道を選びました」
「あ………!」
ユウナは理解する。ここで、自分の父ブラスカも同じ言葉を聞き、そして究極召喚を得たのだ、と…
ユウナレスカが私の存在に気付いたようで、私に視線を向ける。
何か訝し気に顔を少しだけ硬くさせると、ユウナに背を向ける。
選んだ者を連れて扉の奥へ来い、と、それだけを告げて、また扉の奥へ姿を消した。
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