第7章【ガガゼト山~ザナルカンド】
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生者と魂と想い
=66=
「なあ、なんか他にない?」
語られる少年の話に私が加わるのはルカの街から。
私の知らないところで彼らが体験した物語を聞いてその場面を思い浮かべる。
こいつらはこんなことをしてきたのか、と。
少年の話は止まらない。止まれない。
やっとここまで来た、でも、本当は先へは進みたくない。
そんな矛盾した気持ちが彼の中で葛藤して、揺らぐ気持ちをなんとか誤魔化そうと言葉を繋ぐ。
それは時間稼ぎの悪あがきにしか見えなくて、でも、自分もきっと同じ気持ち。
「…ティーダ」
「あ、何?」
「もう、その辺にしておけ」
「……へ?」
「あのね、思い出話は、もう、…お終い」
「あ……、うん、そうだな」
必死に言葉を繋ぎ、何かを自分の中で決定付けようとしている。
だが、もう、ここまで来たんだ。もう、ザナルカンドにいるのだ。
ここは旅の最終目的地。
すっかり日は落ちて、いつの間にか空には満天の星が浮かんでいた。
風も無く、ただ冷たい空気だけが異様にピリピリと張り詰めていた。
異界の匂いの充満するここは、私にとっては耐え難い世界。
崩れ落ちた建物や、整備された道であっただろう崩れて原型をとどめないたくさんのブロック状に割れたもの。
風もない水面に鏡のように映し出されたもう一つの世界が美しくもあり不気味でもある。
そんな廃墟の世界に飛び交う、夥しい数の幻光虫。
それは空に浮かぶ星どころではなく、寄席集まって流れる河の如く宙を漂っている。
…ヤバイな、当てられそう…
人の想いを特に強く残すこの場所は、匂いも強い。
「…平気、ではなさそうだな」
「気、失ったら、助けて」
「気を失うのは構わんが、その辺に捨てておくぞ」
「………できるだけ我慢する」
こいつなら本当にやりかねん、というか確実にそうするだろう。
ある意味ではその方が助かるのだろうけど…
崩れた道、だったもの?の上に立って、じっと世界を見回している少年の側にワッカが立つ。
「異界、みたいだな……」
「似たようなものだ」
そう言ったアーロンの足元で蹲る私にリュックが声を掛けてくる。
「ラフテル、どうしたの?」
「気にするな、酔っているだけだ」
「? そいえばさ、おっちゃんとラフテル、グアドサラムでも異界行かなかったよね~。ラフテル、異界嫌いなの?」
「…ま、あんまり気にしないで。人間誰でも得手不得手があるってことで」
「ふ~ん」
ザナルカンドは広大だ。
その昔に栄えた巨大な大都市であったことが、この遺跡となった今でもよくわかる。
どこまでも続く人工的な建造物と、打ち捨てられた無惨な機械の残骸。
かつての機械戦争の名残が長い年月を経て今もその形を残す。
命あるものが全く存在しないこの遺跡では、その影響を受けることなく今尚姿を留めている。
夥しい数の幻光虫は、そこに生きている存在があろうがなかろうが自由に舞い続ける。
だから時たま自分の体をすり抜けるものもある。
そうした幻光虫はその者が持つ想いや記憶をその場に残してしまう。
想いが強ければ強いほど長い時間記憶は留まり続ける。
進む先でふいにその残像思念が当時の生者の記憶を写し出す。
『スピラを救うためならば、わたしの命など喜んで捧げましょう…』
「「!!」」
「なんだ今の!?」
「今の、大召喚士様のガード!?」
「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いをとどめて残す。いつまでもな……」
ここには、どれだけの人の記憶が残されているのだろうか?
どれだけの想いが溢れているのだろうか?
飛び交う幻光虫の数だけ人の想いは残されているのだろうか。
ここで、この場所で私たちも揺れていた。
ブラスカの揺るがない覚悟だけが私たちを突き動かしていた。
長い道のりだった。
道の途中でいくつものそうした残留思念を見た。
それらはみな等しく命をかける覚悟を決めた者。命の大きさと儚さを嘆く者。
見事な大男であったり、美しい女性であったり、まだ歳若い幼い子供であったり…
どこかに面影を残す少年とその母親らしき親子の幻影に、皆目を奪われる。
驚いた声を上げるのは、当然初めて目にした者達。
私はあの時…
ジスカルと共にここでこれを見た。
ジスカルは、…涙を流した。
宙を舞う幻光虫が残す残像が目にも残ってしまったようで、目を閉じても真っ暗な世界の端ににじ色の光が走る。
頭がくらくら、というよりは上手く働かなくて、少し視点のぼやけた世界がゆっくり動いているようで、地に足をつけている筈なのに体が持ち上がっているような、浮かんでいるような、そんな感覚に溺れる。
それでも仲間達はどんどん先へ進んでいく。
離れていく後ろ姿を見ることができている。
ということは私はまだ意識を保っているということ。
先へ、進まなくては。早く仲間達のところへ…。
一歩踏み出した足は浮遊感に囚われたままでまともな一歩を出せるはずもなく、私はそこでみっともなくバランスを崩して倒れ込んだ。
なんとか辛うじて咄嗟に突いた両腕の掌で体を支えるが、全体重で落ちた両膝がビリビリと痛む。
四つん這いになって頭を落とし肩で息をする。
朦朧とした意識を落とすまいと、こまかな石や欠片が食い込む掌をなおもぐりぐりと地面に擦り付けた。
暗い世界にあり、淡いたくさんの仄かな幻光虫が発する光が蒼白く浮かび上がらせる私の掌で、それだけが私がまだ生きていると主張する赤い血が、ボタリと地面に模様を落とした。
→
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「なあ、なんか他にない?」
語られる少年の話に私が加わるのはルカの街から。
私の知らないところで彼らが体験した物語を聞いてその場面を思い浮かべる。
こいつらはこんなことをしてきたのか、と。
少年の話は止まらない。止まれない。
やっとここまで来た、でも、本当は先へは進みたくない。
そんな矛盾した気持ちが彼の中で葛藤して、揺らぐ気持ちをなんとか誤魔化そうと言葉を繋ぐ。
それは時間稼ぎの悪あがきにしか見えなくて、でも、自分もきっと同じ気持ち。
「…ティーダ」
「あ、何?」
「もう、その辺にしておけ」
「……へ?」
「あのね、思い出話は、もう、…お終い」
「あ……、うん、そうだな」
必死に言葉を繋ぎ、何かを自分の中で決定付けようとしている。
だが、もう、ここまで来たんだ。もう、ザナルカンドにいるのだ。
ここは旅の最終目的地。
すっかり日は落ちて、いつの間にか空には満天の星が浮かんでいた。
風も無く、ただ冷たい空気だけが異様にピリピリと張り詰めていた。
異界の匂いの充満するここは、私にとっては耐え難い世界。
崩れ落ちた建物や、整備された道であっただろう崩れて原型をとどめないたくさんのブロック状に割れたもの。
風もない水面に鏡のように映し出されたもう一つの世界が美しくもあり不気味でもある。
そんな廃墟の世界に飛び交う、夥しい数の幻光虫。
それは空に浮かぶ星どころではなく、寄席集まって流れる河の如く宙を漂っている。
…ヤバイな、当てられそう…
人の想いを特に強く残すこの場所は、匂いも強い。
「…平気、ではなさそうだな」
「気、失ったら、助けて」
「気を失うのは構わんが、その辺に捨てておくぞ」
「………できるだけ我慢する」
こいつなら本当にやりかねん、というか確実にそうするだろう。
ある意味ではその方が助かるのだろうけど…
崩れた道、だったもの?の上に立って、じっと世界を見回している少年の側にワッカが立つ。
「異界、みたいだな……」
「似たようなものだ」
そう言ったアーロンの足元で蹲る私にリュックが声を掛けてくる。
「ラフテル、どうしたの?」
「気にするな、酔っているだけだ」
「? そいえばさ、おっちゃんとラフテル、グアドサラムでも異界行かなかったよね~。ラフテル、異界嫌いなの?」
「…ま、あんまり気にしないで。人間誰でも得手不得手があるってことで」
「ふ~ん」
ザナルカンドは広大だ。
その昔に栄えた巨大な大都市であったことが、この遺跡となった今でもよくわかる。
どこまでも続く人工的な建造物と、打ち捨てられた無惨な機械の残骸。
かつての機械戦争の名残が長い年月を経て今もその形を残す。
命あるものが全く存在しないこの遺跡では、その影響を受けることなく今尚姿を留めている。
夥しい数の幻光虫は、そこに生きている存在があろうがなかろうが自由に舞い続ける。
だから時たま自分の体をすり抜けるものもある。
そうした幻光虫はその者が持つ想いや記憶をその場に残してしまう。
想いが強ければ強いほど長い時間記憶は留まり続ける。
進む先でふいにその残像思念が当時の生者の記憶を写し出す。
『スピラを救うためならば、わたしの命など喜んで捧げましょう…』
「「!!」」
「なんだ今の!?」
「今の、大召喚士様のガード!?」
「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いをとどめて残す。いつまでもな……」
ここには、どれだけの人の記憶が残されているのだろうか?
どれだけの想いが溢れているのだろうか?
飛び交う幻光虫の数だけ人の想いは残されているのだろうか。
ここで、この場所で私たちも揺れていた。
ブラスカの揺るがない覚悟だけが私たちを突き動かしていた。
長い道のりだった。
道の途中でいくつものそうした残留思念を見た。
それらはみな等しく命をかける覚悟を決めた者。命の大きさと儚さを嘆く者。
見事な大男であったり、美しい女性であったり、まだ歳若い幼い子供であったり…
どこかに面影を残す少年とその母親らしき親子の幻影に、皆目を奪われる。
驚いた声を上げるのは、当然初めて目にした者達。
私はあの時…
ジスカルと共にここでこれを見た。
ジスカルは、…涙を流した。
宙を舞う幻光虫が残す残像が目にも残ってしまったようで、目を閉じても真っ暗な世界の端ににじ色の光が走る。
頭がくらくら、というよりは上手く働かなくて、少し視点のぼやけた世界がゆっくり動いているようで、地に足をつけている筈なのに体が持ち上がっているような、浮かんでいるような、そんな感覚に溺れる。
それでも仲間達はどんどん先へ進んでいく。
離れていく後ろ姿を見ることができている。
ということは私はまだ意識を保っているということ。
先へ、進まなくては。早く仲間達のところへ…。
一歩踏み出した足は浮遊感に囚われたままでまともな一歩を出せるはずもなく、私はそこでみっともなくバランスを崩して倒れ込んだ。
なんとか辛うじて咄嗟に突いた両腕の掌で体を支えるが、全体重で落ちた両膝がビリビリと痛む。
四つん這いになって頭を落とし肩で息をする。
朦朧とした意識を落とすまいと、こまかな石や欠片が食い込む掌をなおもぐりぐりと地面に擦り付けた。
暗い世界にあり、淡いたくさんの仄かな幻光虫が発する光が蒼白く浮かび上がらせる私の掌で、それだけが私がまだ生きていると主張する赤い血が、ボタリと地面に模様を落とした。
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