第7章【ガガゼト山~ザナルカンド】
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物語とは
=64=
何かを切り裂くような、切なくなるような悲しい鳴き声を上げる守護獣は、少年が斬り崩した両足に力を込めることもできず、その巨体を地に落とすように崩れ落ちた。
胸が痛くなるような、悲しい鳴き声。
どうしてそんな声で鳴くんだろうか…
守護獣を中心に同心円状に光が広がる。
青白い、聖なる光に包まれ、少しずつ、その体は幻光虫に還って行く。
ザナルカンドを護る為だけに存在する魔物。
こうして倒しても、再びここに別の召喚士が現われればその力を試す為にこうして姿を見せるのだろう。
意思のない、ただの幻光虫の集まりでしかないと分かっているのに、この切なげな声を耳にするのは、忍びない。
やがてその鳴き声すらも空中に溶けて消えてしまった。
たった今ここで激しい戦闘があったばかりだというのに、その名残は微塵も無く、辺りには静寂が広がり夕焼けの美しい空が照らしている。
そこには冷たい雪も氷も凍える風もない。
ただ、柔らかな夕日が皆を優しく包んでいる。
遥か遠くに見えるスピラの大地が雲の切れ間から微かに見える。
戦闘が終わって、思い思いに傷を癒したり準備をする中、リュックが皆に提案を持ちかける。
「ねえ、ちょっと休憩しない?」
だがそれを一蹴するように無下に否定するアーロン。
リュックの考えていることはよくわかる。
だが、アーロンの考えていることも理解できるし、できれば私もそうしたい。
山頂までは、あと少しだ。
アーロンの言葉に剥れながらも、リュックは渋々歩き始めた。
誰も皆、同じだ。考える時間が欲しいのだ。
キマリを先頭にして、ユウナは足を進める。
私の顔を見て何か言いたそうにしていたリュックも、ユウナに追いつこうと小走りで駆けて行った。
ここを訪れたかつての召喚士やガードも同じ様に悩み、苦悩したことだろう。
ここまでの長い旅の道のりがあるからこそ、その命を大切に思うからこそ、無駄にして欲しくないと願ってしまうのだ。
崖の側で、アーロンは夕日を眺める。
10年前のあの日、私も今のリュックと同じだった。
焦って、我侭を言って、余計にブラスカを困らせると知りながら、叶わぬ希望を言い続けていた。
「ティーダ、ワッカ、行こう」
「…俺も、考える時間、欲しいっスよ」
「とうとうここまで来ちまったもんな」
「……フッ」
こちらに背を向けていたアーロンが小さな笑みを零す。
「なにがおかしいんだよ」
「昔の俺と同じだ。あの時、…ザナルカンドに近付くほど、俺も揺れた。辿り着いたブラスカは究極召喚を得て…“シン”と戦い、死ぬ。
旅の始めから覚悟していたはずだったが……。いざその時が迫ると、怖くなってな」
「…アーロン」
こいつも、やっぱり同じだったんだ。
そうだよな、あの時、最後の最後になってからブラスカに旅をやめよう、帰ろうと口にしていたこいつ。
見栄を張って私の前では出さなかった気持ちと感情。
死なせたいわけじゃない。
でも、スピラの希望の為に旅をしている男の意地と覚悟を踏みにじりたいわけでもない。
激しく揺れていたのは、私だけじゃない。
アーロンもジェクトも、そしてブラスカでさえも、その気持ちは揺らいでいただろう。
「なんつーか、…意外です。伝説のガードでも迷ったりするなんて……」
ワッカの言葉に、アーロンがこちらを振り向く。
「ワッカ、そうじゃないよ。そんなんじゃ、ない」
「へ?」
「なにが伝説なものか。あの頃の俺は、ただの若僧だ。ちょうど、お前ぐらいの歳だったな…。何かを変えたいと願ってはいたが……結局」
「何も出来なかった……」
「ラフテル…」
本当に変えることができていたら、今私はここにいない。
何も知らなかったから、何をどうすればいいかなんて分からなくて、結局、他の召喚士が取った道と同じ道を進んだだけ。
「それが、……俺の物語だ」
「ティーダ、ワッカ、あんたたちの物語は、まだ終わっていない。これから起こること、新しく知ること、誰かと出会うこと、その全てが物語となってあんたたちの人生を意味づける。それは誰の力でもない、あんたたち自身で紡いでいくもの」
2人の言葉はない。ただじっと、私の言葉を聞いている。
「私の物語も、もうすぐ終わる。これは私自身が選択して、私自身が決めたこと。偶然とか運命とか、そんなもの、本当はないんだ。
気付かないうちに全部、自分で選んだ結果なんだよ。この先、あんたたちは揺れる。でももっと揺れる奴もいる。
その時に近くで支えてやれる存在でいて欲しい…」
アーロンが踵を返して歩き始める。
私もそれに続いて足を踏み出そうとした瞬間、少年が声を掛けてきた。
「…もうすぐ終わるって、どういう意味だよ」
「………」
私の足は止まってしまったが、それに答えてやることは出来ない。
少し前でアーロンが立ち止まる。
「ラフテル!!」
「…ラフテル」
少年とアーロンの声が重なった。
俯いた顔を上げると、振り返って手を差し出しているアーロンがそこにいた。
私は少年の言葉を振り切って、アーロンの手を取った。
その手を力強く引き寄せられる。
こちらを振り向いたままの姿勢のアーロンは、視線だけを少年とワッカに向け、私の肩を抱き寄せた。
「新しい物語が始まる、そういう意味だ」
少年に向けた言葉はどこか嬉しそうだ。
私の肩を抱いたまま、アーロンは足を進める。
後ろのほうで少年とワッカの驚いたような冷やかすような口笛が聞こえた。
→
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何かを切り裂くような、切なくなるような悲しい鳴き声を上げる守護獣は、少年が斬り崩した両足に力を込めることもできず、その巨体を地に落とすように崩れ落ちた。
胸が痛くなるような、悲しい鳴き声。
どうしてそんな声で鳴くんだろうか…
守護獣を中心に同心円状に光が広がる。
青白い、聖なる光に包まれ、少しずつ、その体は幻光虫に還って行く。
ザナルカンドを護る為だけに存在する魔物。
こうして倒しても、再びここに別の召喚士が現われればその力を試す為にこうして姿を見せるのだろう。
意思のない、ただの幻光虫の集まりでしかないと分かっているのに、この切なげな声を耳にするのは、忍びない。
やがてその鳴き声すらも空中に溶けて消えてしまった。
たった今ここで激しい戦闘があったばかりだというのに、その名残は微塵も無く、辺りには静寂が広がり夕焼けの美しい空が照らしている。
そこには冷たい雪も氷も凍える風もない。
ただ、柔らかな夕日が皆を優しく包んでいる。
遥か遠くに見えるスピラの大地が雲の切れ間から微かに見える。
戦闘が終わって、思い思いに傷を癒したり準備をする中、リュックが皆に提案を持ちかける。
「ねえ、ちょっと休憩しない?」
だがそれを一蹴するように無下に否定するアーロン。
リュックの考えていることはよくわかる。
だが、アーロンの考えていることも理解できるし、できれば私もそうしたい。
山頂までは、あと少しだ。
アーロンの言葉に剥れながらも、リュックは渋々歩き始めた。
誰も皆、同じだ。考える時間が欲しいのだ。
キマリを先頭にして、ユウナは足を進める。
私の顔を見て何か言いたそうにしていたリュックも、ユウナに追いつこうと小走りで駆けて行った。
ここを訪れたかつての召喚士やガードも同じ様に悩み、苦悩したことだろう。
ここまでの長い旅の道のりがあるからこそ、その命を大切に思うからこそ、無駄にして欲しくないと願ってしまうのだ。
崖の側で、アーロンは夕日を眺める。
10年前のあの日、私も今のリュックと同じだった。
焦って、我侭を言って、余計にブラスカを困らせると知りながら、叶わぬ希望を言い続けていた。
「ティーダ、ワッカ、行こう」
「…俺も、考える時間、欲しいっスよ」
「とうとうここまで来ちまったもんな」
「……フッ」
こちらに背を向けていたアーロンが小さな笑みを零す。
「なにがおかしいんだよ」
「昔の俺と同じだ。あの時、…ザナルカンドに近付くほど、俺も揺れた。辿り着いたブラスカは究極召喚を得て…“シン”と戦い、死ぬ。
旅の始めから覚悟していたはずだったが……。いざその時が迫ると、怖くなってな」
「…アーロン」
こいつも、やっぱり同じだったんだ。
そうだよな、あの時、最後の最後になってからブラスカに旅をやめよう、帰ろうと口にしていたこいつ。
見栄を張って私の前では出さなかった気持ちと感情。
死なせたいわけじゃない。
でも、スピラの希望の為に旅をしている男の意地と覚悟を踏みにじりたいわけでもない。
激しく揺れていたのは、私だけじゃない。
アーロンもジェクトも、そしてブラスカでさえも、その気持ちは揺らいでいただろう。
「なんつーか、…意外です。伝説のガードでも迷ったりするなんて……」
ワッカの言葉に、アーロンがこちらを振り向く。
「ワッカ、そうじゃないよ。そんなんじゃ、ない」
「へ?」
「なにが伝説なものか。あの頃の俺は、ただの若僧だ。ちょうど、お前ぐらいの歳だったな…。何かを変えたいと願ってはいたが……結局」
「何も出来なかった……」
「ラフテル…」
本当に変えることができていたら、今私はここにいない。
何も知らなかったから、何をどうすればいいかなんて分からなくて、結局、他の召喚士が取った道と同じ道を進んだだけ。
「それが、……俺の物語だ」
「ティーダ、ワッカ、あんたたちの物語は、まだ終わっていない。これから起こること、新しく知ること、誰かと出会うこと、その全てが物語となってあんたたちの人生を意味づける。それは誰の力でもない、あんたたち自身で紡いでいくもの」
2人の言葉はない。ただじっと、私の言葉を聞いている。
「私の物語も、もうすぐ終わる。これは私自身が選択して、私自身が決めたこと。偶然とか運命とか、そんなもの、本当はないんだ。
気付かないうちに全部、自分で選んだ結果なんだよ。この先、あんたたちは揺れる。でももっと揺れる奴もいる。
その時に近くで支えてやれる存在でいて欲しい…」
アーロンが踵を返して歩き始める。
私もそれに続いて足を踏み出そうとした瞬間、少年が声を掛けてきた。
「…もうすぐ終わるって、どういう意味だよ」
「………」
私の足は止まってしまったが、それに答えてやることは出来ない。
少し前でアーロンが立ち止まる。
「ラフテル!!」
「…ラフテル」
少年とアーロンの声が重なった。
俯いた顔を上げると、振り返って手を差し出しているアーロンがそこにいた。
私は少年の言葉を振り切って、アーロンの手を取った。
その手を力強く引き寄せられる。
こちらを振り向いたままの姿勢のアーロンは、視線だけを少年とワッカに向け、私の肩を抱き寄せた。
「新しい物語が始まる、そういう意味だ」
少年に向けた言葉はどこか嬉しそうだ。
私の肩を抱いたまま、アーロンは足を進める。
後ろのほうで少年とワッカの驚いたような冷やかすような口笛が聞こえた。
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