第6章【ナギ平原~ガガゼト山】
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=58=
「(…だ、ダメだ…! ユウナ!!)」
シーモアの前に歩み出て、異界送りをしようとユウナが杖を構える。
「…異界送りか…フッ」
小莫迦にしたように小さく鼻を鳴らし、シーモアはキマリのほうへと視線を移す。
「ロンゾの“生き残り”、お前に伝えたいことがある」
キマリがピクリと反応する。
「…生き残り…?」
「どういう意味…?」
「実に勇敢な一族だ。私の行く手を阻もうと捨て身で挑みかかり、ひとり、またひとり…」
私の片腕を拘束している手を振り上げるようにして力を込める。
「ぐぅっっ………!!」
骨が軋む音がした。
物凄い力であらぬ方向に曲げられようとしている私の腕が悲鳴を上げる。
「ラフテル!」
「…ばかな…」
こいつがここに到達するまでに、ロンゾ族の集落を通ったはず。
ユウナの敵を打ち払ってくれると約束してくれたロンゾの戦士達。
キマリとの因縁にケリをつけ、キマリを認めてくれた、大きな戦士達。
あの集落で、こいつは一体何をしてきたというのか。
「そのロンゾの悲しみ、癒してやりたくはないか?」
「何を言いたいのです!」
「彼を死なせてやればいい。悲しみは露と消える」
さもそれが当然のように、正当のように静かに言葉を重ねる。
「悲しみと苦しみに満ちた、死の世界、スピラ…」
先程握り締めた私の腕をゆっくりと下ろし、顎を押さえつけた手の力を抜いていく。
私の背後から覆いかぶさるように顔を近付け、ゆっくりと私の顔をなぞる。
「すべて滅ぼして癒す為に、私は“シン”になる」
そのままの姿勢で顔をユウナに向ける。
シーモアの甘い香りで私の体は動かない。
「…そう、あなたの力によって」
「!?」
ユウナはその意味が理解できないのだろう。
何も答えることが出来ないユウナの前に、少年が進み出る。
「私が新たな“シン”となれば、お前の父親も救われるのだ」
シーモアの言葉に、少年は僅かに俯いて奥歯を噛み締める。
「…さあ、ラフテル様、ユウナ殿、私とともに…」
「お前に何がわかるんだっ!!」
「その手を離せっ!!」
シーモアの言葉を遮るように、少年とアーロンが飛び掛かってきた。
2人の動きを優雅な動作でかわしたシーモアは幻光の匂いを一層強くさせる。
それと同時に崖の下からせり上がって来るにじ色に輝く物体。
甘い香りで動けない私を、まるでゴミ屑でも捨てるように軽々とその物体の上に放り投げる。
複雑に絡み合った葉脈のような、太古の動物が残した骨組みのような、その上に落とされた私の体を、あっという間に無数の触手が絡み取った。
仰向けとなったまま再び拘束された私は、ただ白い空しか見ることが出来ない。
口の上にまで覆われた触手のせいで、声も出せないのだ。
「(…アーロン…みんな…、…ユウナ…!)」
必死になんとか抵抗をしようと体を動かしてみるが、動けば動くほど触手は絡み付き、動きを封じる。
闘いが、始まったのだろう。
この物体に与えられる衝撃が私にも伝わってくる。
口を封じられているので、声も出せない私は魔法の呪文の詠唱もできない。
仲間達はどんな闘いをしているのだろうか?
こいつは、シーモアは一体どんな姿でどんな攻撃を仕掛けているのだろうか。
せめてそれが分かれば何とかサポートしたいところだが、このままでは私が足手纏いとなっている。
もう、形振りかまってはいられない。
ジスカルの能力を受け継いだのなら、私もシーモアと同じとまではいかずともそれに属する力があるはず。
…ジスカル、力を貸してくれ…!
自分の胸の中に意識を集中させる。
入れ物である私の中にある祈り子の像の中の、小さな小さなジスカルの魂の欠片。
瞬間、ほんの一瞬だけ、ジスカルが笑ったような気がした。
眩しい光に包まれて、それはすぐに現実の白い空に変わる。
今のが一体何だったのかなんてわからない。
でも、今の私なら何かできるような気がした。
触手に拘束された私の掌は、この物体に触れている。
これが何なのかなんて理解できないししたくもない。だが、これがシーモアが作り出した幻光虫の塊なのだとしたら…!
幻光虫の1つ1つに、生者であった頃の記憶なんて当然ない。
それは生者を恨むだけの悲しい存在。
それでも、その1つ1つに語りかける。
『空へ還れ』と。
いくつかの幻光虫がそこからフワリと舞い上がった。
解放されたことを喜ぶように、幻光虫は真っ直ぐに空へ上っていく。
右手の拘束が無くなり、私は私を押さえつけている触手に触れて、同じ様にいくつかの幻光虫を飛ばした。
顔の拘束が解かれ、漸く大きく息を吸い込むことができた。
『リフレク』
自分自身に魔法をかけ、空に向かって大きく声を張り上げた。
「ルールー!ユウナ!私に構うな!お見舞いしてやれ!!」
崖の上から、2人の声が私のところにも届いた。
「…でも!!」
きっと、そうだろうと思った。私がやれと言ってもこの2人は戸惑う。
「アーロン!!」
だから、私からではなく、冷静に判断できる人物に委ねることにする。
「あいつもガードだ。ユウナ、やれ」
真っ白に見えていた上空に黒い塊が出現する。
それは物凄い力で圧縮された大気の陰。
全てを飲み込む引力は同時にそれを解放することで敵にダメージを与える最大の魔法。
『アルテマ』
ルールーの凛とした声が聞こえた瞬間、私の上に黒い塊が落ちてきた。
→
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「(…だ、ダメだ…! ユウナ!!)」
シーモアの前に歩み出て、異界送りをしようとユウナが杖を構える。
「…異界送りか…フッ」
小莫迦にしたように小さく鼻を鳴らし、シーモアはキマリのほうへと視線を移す。
「ロンゾの“生き残り”、お前に伝えたいことがある」
キマリがピクリと反応する。
「…生き残り…?」
「どういう意味…?」
「実に勇敢な一族だ。私の行く手を阻もうと捨て身で挑みかかり、ひとり、またひとり…」
私の片腕を拘束している手を振り上げるようにして力を込める。
「ぐぅっっ………!!」
骨が軋む音がした。
物凄い力であらぬ方向に曲げられようとしている私の腕が悲鳴を上げる。
「ラフテル!」
「…ばかな…」
こいつがここに到達するまでに、ロンゾ族の集落を通ったはず。
ユウナの敵を打ち払ってくれると約束してくれたロンゾの戦士達。
キマリとの因縁にケリをつけ、キマリを認めてくれた、大きな戦士達。
あの集落で、こいつは一体何をしてきたというのか。
「そのロンゾの悲しみ、癒してやりたくはないか?」
「何を言いたいのです!」
「彼を死なせてやればいい。悲しみは露と消える」
さもそれが当然のように、正当のように静かに言葉を重ねる。
「悲しみと苦しみに満ちた、死の世界、スピラ…」
先程握り締めた私の腕をゆっくりと下ろし、顎を押さえつけた手の力を抜いていく。
私の背後から覆いかぶさるように顔を近付け、ゆっくりと私の顔をなぞる。
「すべて滅ぼして癒す為に、私は“シン”になる」
そのままの姿勢で顔をユウナに向ける。
シーモアの甘い香りで私の体は動かない。
「…そう、あなたの力によって」
「!?」
ユウナはその意味が理解できないのだろう。
何も答えることが出来ないユウナの前に、少年が進み出る。
「私が新たな“シン”となれば、お前の父親も救われるのだ」
シーモアの言葉に、少年は僅かに俯いて奥歯を噛み締める。
「…さあ、ラフテル様、ユウナ殿、私とともに…」
「お前に何がわかるんだっ!!」
「その手を離せっ!!」
シーモアの言葉を遮るように、少年とアーロンが飛び掛かってきた。
2人の動きを優雅な動作でかわしたシーモアは幻光の匂いを一層強くさせる。
それと同時に崖の下からせり上がって来るにじ色に輝く物体。
甘い香りで動けない私を、まるでゴミ屑でも捨てるように軽々とその物体の上に放り投げる。
複雑に絡み合った葉脈のような、太古の動物が残した骨組みのような、その上に落とされた私の体を、あっという間に無数の触手が絡み取った。
仰向けとなったまま再び拘束された私は、ただ白い空しか見ることが出来ない。
口の上にまで覆われた触手のせいで、声も出せないのだ。
「(…アーロン…みんな…、…ユウナ…!)」
必死になんとか抵抗をしようと体を動かしてみるが、動けば動くほど触手は絡み付き、動きを封じる。
闘いが、始まったのだろう。
この物体に与えられる衝撃が私にも伝わってくる。
口を封じられているので、声も出せない私は魔法の呪文の詠唱もできない。
仲間達はどんな闘いをしているのだろうか?
こいつは、シーモアは一体どんな姿でどんな攻撃を仕掛けているのだろうか。
せめてそれが分かれば何とかサポートしたいところだが、このままでは私が足手纏いとなっている。
もう、形振りかまってはいられない。
ジスカルの能力を受け継いだのなら、私もシーモアと同じとまではいかずともそれに属する力があるはず。
…ジスカル、力を貸してくれ…!
自分の胸の中に意識を集中させる。
入れ物である私の中にある祈り子の像の中の、小さな小さなジスカルの魂の欠片。
瞬間、ほんの一瞬だけ、ジスカルが笑ったような気がした。
眩しい光に包まれて、それはすぐに現実の白い空に変わる。
今のが一体何だったのかなんてわからない。
でも、今の私なら何かできるような気がした。
触手に拘束された私の掌は、この物体に触れている。
これが何なのかなんて理解できないししたくもない。だが、これがシーモアが作り出した幻光虫の塊なのだとしたら…!
幻光虫の1つ1つに、生者であった頃の記憶なんて当然ない。
それは生者を恨むだけの悲しい存在。
それでも、その1つ1つに語りかける。
『空へ還れ』と。
いくつかの幻光虫がそこからフワリと舞い上がった。
解放されたことを喜ぶように、幻光虫は真っ直ぐに空へ上っていく。
右手の拘束が無くなり、私は私を押さえつけている触手に触れて、同じ様にいくつかの幻光虫を飛ばした。
顔の拘束が解かれ、漸く大きく息を吸い込むことができた。
『リフレク』
自分自身に魔法をかけ、空に向かって大きく声を張り上げた。
「ルールー!ユウナ!私に構うな!お見舞いしてやれ!!」
崖の上から、2人の声が私のところにも届いた。
「…でも!!」
きっと、そうだろうと思った。私がやれと言ってもこの2人は戸惑う。
「アーロン!!」
だから、私からではなく、冷静に判断できる人物に委ねることにする。
「あいつもガードだ。ユウナ、やれ」
真っ白に見えていた上空に黒い塊が出現する。
それは物凄い力で圧縮された大気の陰。
全てを飲み込む引力は同時にそれを解放することで敵にダメージを与える最大の魔法。
『アルテマ』
ルールーの凛とした声が聞こえた瞬間、私の上に黒い塊が落ちてきた。
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