第6章【ナギ平原~ガガゼト山】
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敵は何時でもそこにいる
=57=
再び雪の中へ足を進める。
極力体力を温存させる為に戦闘に参加する人員は最小限に、できるだけ最短距離を。
少しでも異変があったときはすぐに仲間に報告する。
細かい粉雪が強い風に巻かれて、瞬間的に視界を真っ白に遮ってしまう。
一応の道はあるものの、この険しい山道では何もない平原を進むのとは訳が違う。
一歩でも踏み外せば、断崖絶壁の崖の下、とても這い上がることは出来ないだろう。
出発するとき、ユウナがジャケットを私に返そうとしてきたが、この雪山を越えるまでは着ておくように、とそのまま戻してやった。
「…でもそれじゃあラフテルさんが…」
「私は大丈夫だ。それよりも、ユウナはもっと自分を大事にしたほうがいい。この後のことを考えるなら、な」
「…はい」
この後のこと…
その言葉の意味に、ユウナは気付いたのだろう。
この後、この山を越えたら、次にやらなければならないこと、それは私ではなく、ユウナの身に起こることなのだから。
吹きつける風は容赦なくこんな小さな人間1人の体を持ち上げる。
高い岸壁に沿って発生する上昇気流はその地形によって様々な方向から吹き付け、バランスを崩す。
現われる強い魔物の匂いも、この風に流されてしまい、私の能力も役には立たない。
しばらく進むと、大きな岩をいくつか積み重ねた標が姿を現した。
「ここで命を落とした者たちの墓標ね」
キュっと唇を噛み締めるようにして、ユウナは深く祈りを捧げる。
「…ここで命をなくした者たちは、異界送りされないのよ」
「へっ?なんで…?」
ルールーの言葉に少年は疑問符を浮かべる。
「…誰が誰を送るんだ」
そんな少年に声を掛ける。後頭部を掻きながら、少年の目は自然と祈りを捧げるユウナに注がれる。
「誰って……あ、…そっか」
命を落とした者たちの無念の声が、この深い山脈の岩々に木霊しているようで、その声が生者を呪う不気味な異界の歌声のようで恐ろしい。
ガガゼトの山に掛かる雲の上に出ると、幻想的な景色が広がる。
頂上にはまだまだ程遠いが、この中腹の少し開けた高台の上から、崖の下を眺めればそこは真っ白な海が広がって見える。
ガガゼトが霊峰と呼ばれる2つの理由のうちの1つだ。
運のいい日には、この真っ白な海にザナルカンドから上った朝日が作り出すガガゼト山頂の影が映る。
それが祈り子と被るのだそうだ。
私はまだそれを実際この目で見たことはないが、さぞかし美しくて荘厳な景色なのだろう。
…いつか、見ることは出来るだろうか…?
一行は休むことなく先へ進んでいく。
崖からその下の景色を見つめていた私の側に、少年とリュックが歩み寄ってきた。
リュックの顔色は優れない。
この寒さ、山を登ってきたということからの疲労も重なって、酷く憔悴しているようだ。
「山、越えたら、ザナルカンド、だよ……」
何を言いたいのか、聞かなくてもわかる。
2人がここまでずっと考えていたことも。
なんとかしてユウナを死なせないようにしたい。
その為には何をすれば、どうすればいいのか、そんなこと、私にだってわからない。
召喚士に、誰でもなれるわけじゃない。
召喚することが出来る能力を持っているかどうか、その素質だけは努力しても手に入らない。
これも、無いもの強請りという奴なんだろうか。
他の人が持つ、自分にはない能力や力を羨ましいと思う。
「ザナルカンドへ行こう!今は何も分からないけど、行けば何かわかる。 …きっと、そこから始まるんだ」
「お、頼もしいな」
「うんうん! 今、頼れるエース!って感じしたよ!」
「だからエースだって、ずっと言ってんだろ」
得意そうに、少年は腕を組んで胸を張って見せた。
リュックはそんな少年に感服しましたとばかりに大袈裟に傅いてみせた。
そのリュックの隣を少年は悠々と通り抜け、先に進んでしまった仲間達のほうへ足を進めた。
さて自分も行こうかと、1歩足を踏み出した途端、嫌な匂いが鼻を掠める。
背中に走るゾワリとした感覚、不気味な妖気を隠そうともせず、悠然と奴は現われた。
「ティーダ!!」
「ああ―――――っっ!!!」
私が少年に声を掛けるのと同時に、頭を上げたリュックが叫んだ。
物凄い力と勢いで、私は後ろから拘束される。
そのまま崖のほうへ引き摺られるように体を持っていかれる。
「ぐっっ! ………、………。」
長い指の掌で下顎全体を覆うように背後から口を塞がれ、自分の胸に引き寄せるように私の体を密着させる。
反対の手で私の片腕をガッチリ捕らえ、動けなくする。
ヒヤリと冷たい奴の手が、もう命はない存在だと主張している。
「やっと来て下さいましたね、ラフテル様…」
耳元に寄せられた顔から発せられる囁きに、気分が悪くなる。
ゾワリどころではない。体全体で感じるこいつの邪悪な意思。
必死に抵抗してなんとか振りほどこうとするが、私の体を捕らえた手はその力を緩めるどころか更に力強く私を押さえつける。
「…ほう、……ジェクトの、息子か」
「ラフテル!!」
「リュック、先に行ってアーロン達に伝えろ」
少々戸惑うようにその場で足踏みをしたリュックは逡巡することも無くすぐに踵を返した。
「ラフテルを離せ!!」
少年の声に、シーモアは何を思ったのか可笑しそうに体を揺らして小さく笑って見せる。
「よかろう、死の安息に沈め」
シーモアは私の拘束を解くことも無くゆっくりと少年に歩み寄る。
「スカしてんじゃねー!!」
すぐに少年も戦闘体勢に入る。ダメだ!1人きりで立ち向かって勝てる相手じゃない。
それに、なんだ、この異界の匂いの強さは。
これまでのシーモアとは明らかに違う。
流石はグアド族、とでも言えるだろうか。
幻光を操る能力をしてその体にとんでもない量の幻光虫を取り込んだのか。
声を出せない。塞がれた掌の力は恐ろしく強い。
固定されたままの片腕はその握力で痺れてきているし、自由な筈のもう片方の手でなんとかこいつの手を剥がそうとするが全く動かない。
その時、少年の後方から仲間達が走ってきたのが見えた。
「かっこうをつけるな!!」
キマリの怒号が山に響く。
アーロンの鋭い眼差しが体中に刺さってくるようだ。
…あぁ、こいつは、いつも、敵にこんな眼を向けていたのか…
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再び雪の中へ足を進める。
極力体力を温存させる為に戦闘に参加する人員は最小限に、できるだけ最短距離を。
少しでも異変があったときはすぐに仲間に報告する。
細かい粉雪が強い風に巻かれて、瞬間的に視界を真っ白に遮ってしまう。
一応の道はあるものの、この険しい山道では何もない平原を進むのとは訳が違う。
一歩でも踏み外せば、断崖絶壁の崖の下、とても這い上がることは出来ないだろう。
出発するとき、ユウナがジャケットを私に返そうとしてきたが、この雪山を越えるまでは着ておくように、とそのまま戻してやった。
「…でもそれじゃあラフテルさんが…」
「私は大丈夫だ。それよりも、ユウナはもっと自分を大事にしたほうがいい。この後のことを考えるなら、な」
「…はい」
この後のこと…
その言葉の意味に、ユウナは気付いたのだろう。
この後、この山を越えたら、次にやらなければならないこと、それは私ではなく、ユウナの身に起こることなのだから。
吹きつける風は容赦なくこんな小さな人間1人の体を持ち上げる。
高い岸壁に沿って発生する上昇気流はその地形によって様々な方向から吹き付け、バランスを崩す。
現われる強い魔物の匂いも、この風に流されてしまい、私の能力も役には立たない。
しばらく進むと、大きな岩をいくつか積み重ねた標が姿を現した。
「ここで命を落とした者たちの墓標ね」
キュっと唇を噛み締めるようにして、ユウナは深く祈りを捧げる。
「…ここで命をなくした者たちは、異界送りされないのよ」
「へっ?なんで…?」
ルールーの言葉に少年は疑問符を浮かべる。
「…誰が誰を送るんだ」
そんな少年に声を掛ける。後頭部を掻きながら、少年の目は自然と祈りを捧げるユウナに注がれる。
「誰って……あ、…そっか」
命を落とした者たちの無念の声が、この深い山脈の岩々に木霊しているようで、その声が生者を呪う不気味な異界の歌声のようで恐ろしい。
ガガゼトの山に掛かる雲の上に出ると、幻想的な景色が広がる。
頂上にはまだまだ程遠いが、この中腹の少し開けた高台の上から、崖の下を眺めればそこは真っ白な海が広がって見える。
ガガゼトが霊峰と呼ばれる2つの理由のうちの1つだ。
運のいい日には、この真っ白な海にザナルカンドから上った朝日が作り出すガガゼト山頂の影が映る。
それが祈り子と被るのだそうだ。
私はまだそれを実際この目で見たことはないが、さぞかし美しくて荘厳な景色なのだろう。
…いつか、見ることは出来るだろうか…?
一行は休むことなく先へ進んでいく。
崖からその下の景色を見つめていた私の側に、少年とリュックが歩み寄ってきた。
リュックの顔色は優れない。
この寒さ、山を登ってきたということからの疲労も重なって、酷く憔悴しているようだ。
「山、越えたら、ザナルカンド、だよ……」
何を言いたいのか、聞かなくてもわかる。
2人がここまでずっと考えていたことも。
なんとかしてユウナを死なせないようにしたい。
その為には何をすれば、どうすればいいのか、そんなこと、私にだってわからない。
召喚士に、誰でもなれるわけじゃない。
召喚することが出来る能力を持っているかどうか、その素質だけは努力しても手に入らない。
これも、無いもの強請りという奴なんだろうか。
他の人が持つ、自分にはない能力や力を羨ましいと思う。
「ザナルカンドへ行こう!今は何も分からないけど、行けば何かわかる。 …きっと、そこから始まるんだ」
「お、頼もしいな」
「うんうん! 今、頼れるエース!って感じしたよ!」
「だからエースだって、ずっと言ってんだろ」
得意そうに、少年は腕を組んで胸を張って見せた。
リュックはそんな少年に感服しましたとばかりに大袈裟に傅いてみせた。
そのリュックの隣を少年は悠々と通り抜け、先に進んでしまった仲間達のほうへ足を進めた。
さて自分も行こうかと、1歩足を踏み出した途端、嫌な匂いが鼻を掠める。
背中に走るゾワリとした感覚、不気味な妖気を隠そうともせず、悠然と奴は現われた。
「ティーダ!!」
「ああ―――――っっ!!!」
私が少年に声を掛けるのと同時に、頭を上げたリュックが叫んだ。
物凄い力と勢いで、私は後ろから拘束される。
そのまま崖のほうへ引き摺られるように体を持っていかれる。
「ぐっっ! ………、………。」
長い指の掌で下顎全体を覆うように背後から口を塞がれ、自分の胸に引き寄せるように私の体を密着させる。
反対の手で私の片腕をガッチリ捕らえ、動けなくする。
ヒヤリと冷たい奴の手が、もう命はない存在だと主張している。
「やっと来て下さいましたね、ラフテル様…」
耳元に寄せられた顔から発せられる囁きに、気分が悪くなる。
ゾワリどころではない。体全体で感じるこいつの邪悪な意思。
必死に抵抗してなんとか振りほどこうとするが、私の体を捕らえた手はその力を緩めるどころか更に力強く私を押さえつける。
「…ほう、……ジェクトの、息子か」
「ラフテル!!」
「リュック、先に行ってアーロン達に伝えろ」
少々戸惑うようにその場で足踏みをしたリュックは逡巡することも無くすぐに踵を返した。
「ラフテルを離せ!!」
少年の声に、シーモアは何を思ったのか可笑しそうに体を揺らして小さく笑って見せる。
「よかろう、死の安息に沈め」
シーモアは私の拘束を解くことも無くゆっくりと少年に歩み寄る。
「スカしてんじゃねー!!」
すぐに少年も戦闘体勢に入る。ダメだ!1人きりで立ち向かって勝てる相手じゃない。
それに、なんだ、この異界の匂いの強さは。
これまでのシーモアとは明らかに違う。
流石はグアド族、とでも言えるだろうか。
幻光を操る能力をしてその体にとんでもない量の幻光虫を取り込んだのか。
声を出せない。塞がれた掌の力は恐ろしく強い。
固定されたままの片腕はその握力で痺れてきているし、自由な筈のもう片方の手でなんとかこいつの手を剥がそうとするが全く動かない。
その時、少年の後方から仲間達が走ってきたのが見えた。
「かっこうをつけるな!!」
キマリの怒号が山に響く。
アーロンの鋭い眼差しが体中に刺さってくるようだ。
…あぁ、こいつは、いつも、敵にこんな眼を向けていたのか…
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