第6章【ナギ平原~ガガゼト山】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一時の休憩
=56=
『やあユウナ、元気かい? このスフィアを見るとき、お前はいくつになっているかな? きっと母さんに似て綺麗になったろう。せめて、一目でも……。
ああ、そうそう、ジェクトやアーロン、ラフテルもみんな元気だ。父さんたちはとても愉快に旅しているよ。もちろん、楽な道じゃないが後悔はしていない。
なぜって、これこそが父さんの道だからね。だから、ユウナも大きくなって自分の道を見つけたら……。やるべきことを、やりたいように頑張ってみなさい。
そうすれば、どんなことでもきっと上手くいくさ。いいかい、ユウナ。ユウナの未来を作るのはユウナなんだ。思い通りに生きてごらん。
それがどんな道であろうと、父さんは応援するぞ。父さんは、いつも、お前と一緒にいるよ』
小さな洞窟で身を寄せ合うようにして、そこに起した小さな焚き火を囲む。
辺りの見回りに行っていたキマリが、どこからか持って帰ってきたスフィアには、ブラスカの最後とも取れるユウナへのメッセージが入っていた。
嬉しそうに何度も再生して見つめているユウナは幼い少女のような笑顔で、本当ならばまだ親を恋しがる年頃なのだ。
ユウナの隣に腰掛けていた私も、ブラスカの懐かしい姿にしんみりしてしまった。
「ていうかさ、この、ユウナの親父さんの後ろにいんの、アーロン、だよな。この隣にいる人って、もしかして……」
スフィアを覗き込んでいた少年が恐る恐るといった風に私の顔を見る。
「あぁ、私だ。ブラスカがメッセージを残したいと言うので、私たちは遠慮したんだ」
「いや、そうじゃなくて、なんか、今と全然違う……」
「どうせ10年分、歳食ってるが?」
「えーと、そうじゃなくて、なんていうか、雰囲気が、…なぁ、ユウナ」
「えっ! あ、えーっと、髪が、短い、から?」
確かに、今私の髪は長い。尻の下まである長い髪を後ろで無造作に1本に束ねているだけだ。
歩くたびにそれは尻尾のようにゆらゆらと揺れる。
10年前の旅のとき、いやそれ以前から髪なんて伸ばしたことは無かった。
今の少年やユウナよりももっと短い髪をした私の後姿は、見ようによっては男にも見えたかもしれない。
「いいなぁ、私も、髪、伸ばしてみたかったな…」
なんか想像できない、なんてリュックに言われてしまったが、想像も何も今スフィアに映っているこの後姿は紛れも無く私なのだ。
「別に長い髪なんて珍しくもないだろ。ルールーのほうがずっと長い」
ルールーの後頭部に纏められた髪の付け根からロープのように編まれた髪が何本かぶら下がっている。
私の尻尾のような髪と違って、撓る鞭のようだ。
「あら、気付かなかった?これ、着け毛よ」
「…あ、そうなのか」
ルールーやワッカの生まれ故郷であるビサイドは、暖かい気候を利用した植物の栽培も盛んに行われている。
その中に、糸を作り出す為の植物もあり、また植物から作り出す染料で色とりどりに染め上げた糸で織られたビサイド織物は、スピラでも人気が高い。
中には高級ブランドとなっているものまであるのだ。
そういった特殊な糸を纏めて、染色した擬似髪の毛まであるのだという。
まだその認知度は低いらしいが、もう数年もすればきっとスピラ中でビサイドの着け毛でおしゃれを楽しむ若者が出てくるだろう。
「私の髪の毛、実は凄いクセっ毛なのよ。…ほら、前髪を見ればわかるでしょ」
言われれば確かにそうだ。顔を半分覆う、ゆるくくせのついた髪の毛。
それで隠しているところに何があるのか、私は知っている。
女性として、一生消えない傷はどれだけ彼女の心をも傷付けたことだろうか…
「私より、もっと変なクセがついた頭してる奴もいるけどね」
真顔で視線を向ける先に、みんなも連られてそちらを向く。
「あん?なんだよ」
「………」
「………プッ!」
「ギャハハハハハハ!!なるほど、確かに!」
そこにいたのは、鮮やかな橙色の髪を持つ、ワッカ。
頭の半分も覆う大きなバンダナを巻いてはいるが、そこから飛び出ている前髪はなぜか綺麗に後方に放物線を描くように反っている。
少年は腹を抱えて笑い、ユウナとリュックもおかしそうに口を開けて笑っている。
「なんなんだ、お前ら、ユウナまで。ひとの顔見て笑うとか、失礼だろーが!」
「だってさ、改めて見ると、ワッカの髪、変すぎるだろ!!ギャハハハハハ!!あ~ハラいて~~!!」
少年の下品な笑い声が、ジェクトと重なる。
私とブラスカと話をしてて、ブラスカがそれをアーロンに振る。アーロンの言動に一々ツッコミを入れて大笑いをするジェクト。
その様子がありありと浮かんできてしまう。
「これは個性っていうんだ!」
「へぇ~、個性ねぇ…」
ワッカの言葉にバカにしたようにリュックが返す。
『これは個性だ。個人の自由だろうが』
突然そんな言葉が浮かぶ。
言ったのは、10年前のアーロン。
ずっと憧れてた長い髪のことを少しだけ聞いたら、そう言って怒られた、という記憶がある。
あれは、怒ってたんだろうか…?
まだ笑いの納まらない少年達の輪から抜け出て、1人壁にも垂れて座っているアーロンの隣に移動する。
「アーロン」
「なんだ?」
知らぬ人が聞いたら、怒っていると印象を受けるような低い声。
今は、どれが怒っている声なのかなんとなく分かるようになってきたからなのか、この返事は怒っていないと分かる。
いやそれどころか、もしかしたら10年前のあのセリフも、別に怒ってた訳じゃなかったのかも知れない。
わざわざ本人に確認を取るまでもなかったな…
「…いや、なんでもない、いいや」
「おい」
立ち去ろうとした私を呼び止める。
「人を呼んでおいて、何だ?何か言いたいことがあったんじゃないのか?」
ゆっくりアーロンのほうへまた足を進める。
腕を引かれてバランスを崩す。
「そんなに引っ張るな。どうして欲しいのかちゃんと言えばいいだろ」
「……」
隣に腰掛けると同時に、腰を持ち上げられる。自分はそれほど軽いほうではない筈なのに、どうしてこうも軽々と持ち上げられるんだ。
自分の足の間に私を下ろし、後ろから腕を回される。
「…で?何を聞きたかったんだ?」
「いや、だから、それはもういい。わかったから。 …それより」
「…なんだ」
「あんた、なんでいつも後ろから抱きつくんだ」
「…気にするな。好みの問題だ」
この数分後、目ざといリュックに見つかって今度は私がみんなの冷やかしの対象となった。
使命も誇りも覚悟も何もかも忘れて、こうして皆で笑いあえる。
こんな何気ない時間はもうこの先、取れないかもしれない。
ブラスカがスフィアに残した言葉が頭の中で反芻している。
確かに私達は楽しく旅をしていられたと思う。
何時でも笑顔のブラスカと真面目なアーロンと、何に対しても前向きで明るいジェクト。
みんながいたから、笑っていられた。
今、ユウナとの旅も、あの時と同じ様に笑って楽しく進んでいけたらいい。
そう思って、私もみんなと一緒に笑って見せた。
→
=56=
『やあユウナ、元気かい? このスフィアを見るとき、お前はいくつになっているかな? きっと母さんに似て綺麗になったろう。せめて、一目でも……。
ああ、そうそう、ジェクトやアーロン、ラフテルもみんな元気だ。父さんたちはとても愉快に旅しているよ。もちろん、楽な道じゃないが後悔はしていない。
なぜって、これこそが父さんの道だからね。だから、ユウナも大きくなって自分の道を見つけたら……。やるべきことを、やりたいように頑張ってみなさい。
そうすれば、どんなことでもきっと上手くいくさ。いいかい、ユウナ。ユウナの未来を作るのはユウナなんだ。思い通りに生きてごらん。
それがどんな道であろうと、父さんは応援するぞ。父さんは、いつも、お前と一緒にいるよ』
小さな洞窟で身を寄せ合うようにして、そこに起した小さな焚き火を囲む。
辺りの見回りに行っていたキマリが、どこからか持って帰ってきたスフィアには、ブラスカの最後とも取れるユウナへのメッセージが入っていた。
嬉しそうに何度も再生して見つめているユウナは幼い少女のような笑顔で、本当ならばまだ親を恋しがる年頃なのだ。
ユウナの隣に腰掛けていた私も、ブラスカの懐かしい姿にしんみりしてしまった。
「ていうかさ、この、ユウナの親父さんの後ろにいんの、アーロン、だよな。この隣にいる人って、もしかして……」
スフィアを覗き込んでいた少年が恐る恐るといった風に私の顔を見る。
「あぁ、私だ。ブラスカがメッセージを残したいと言うので、私たちは遠慮したんだ」
「いや、そうじゃなくて、なんか、今と全然違う……」
「どうせ10年分、歳食ってるが?」
「えーと、そうじゃなくて、なんていうか、雰囲気が、…なぁ、ユウナ」
「えっ! あ、えーっと、髪が、短い、から?」
確かに、今私の髪は長い。尻の下まである長い髪を後ろで無造作に1本に束ねているだけだ。
歩くたびにそれは尻尾のようにゆらゆらと揺れる。
10年前の旅のとき、いやそれ以前から髪なんて伸ばしたことは無かった。
今の少年やユウナよりももっと短い髪をした私の後姿は、見ようによっては男にも見えたかもしれない。
「いいなぁ、私も、髪、伸ばしてみたかったな…」
なんか想像できない、なんてリュックに言われてしまったが、想像も何も今スフィアに映っているこの後姿は紛れも無く私なのだ。
「別に長い髪なんて珍しくもないだろ。ルールーのほうがずっと長い」
ルールーの後頭部に纏められた髪の付け根からロープのように編まれた髪が何本かぶら下がっている。
私の尻尾のような髪と違って、撓る鞭のようだ。
「あら、気付かなかった?これ、着け毛よ」
「…あ、そうなのか」
ルールーやワッカの生まれ故郷であるビサイドは、暖かい気候を利用した植物の栽培も盛んに行われている。
その中に、糸を作り出す為の植物もあり、また植物から作り出す染料で色とりどりに染め上げた糸で織られたビサイド織物は、スピラでも人気が高い。
中には高級ブランドとなっているものまであるのだ。
そういった特殊な糸を纏めて、染色した擬似髪の毛まであるのだという。
まだその認知度は低いらしいが、もう数年もすればきっとスピラ中でビサイドの着け毛でおしゃれを楽しむ若者が出てくるだろう。
「私の髪の毛、実は凄いクセっ毛なのよ。…ほら、前髪を見ればわかるでしょ」
言われれば確かにそうだ。顔を半分覆う、ゆるくくせのついた髪の毛。
それで隠しているところに何があるのか、私は知っている。
女性として、一生消えない傷はどれだけ彼女の心をも傷付けたことだろうか…
「私より、もっと変なクセがついた頭してる奴もいるけどね」
真顔で視線を向ける先に、みんなも連られてそちらを向く。
「あん?なんだよ」
「………」
「………プッ!」
「ギャハハハハハハ!!なるほど、確かに!」
そこにいたのは、鮮やかな橙色の髪を持つ、ワッカ。
頭の半分も覆う大きなバンダナを巻いてはいるが、そこから飛び出ている前髪はなぜか綺麗に後方に放物線を描くように反っている。
少年は腹を抱えて笑い、ユウナとリュックもおかしそうに口を開けて笑っている。
「なんなんだ、お前ら、ユウナまで。ひとの顔見て笑うとか、失礼だろーが!」
「だってさ、改めて見ると、ワッカの髪、変すぎるだろ!!ギャハハハハハ!!あ~ハラいて~~!!」
少年の下品な笑い声が、ジェクトと重なる。
私とブラスカと話をしてて、ブラスカがそれをアーロンに振る。アーロンの言動に一々ツッコミを入れて大笑いをするジェクト。
その様子がありありと浮かんできてしまう。
「これは個性っていうんだ!」
「へぇ~、個性ねぇ…」
ワッカの言葉にバカにしたようにリュックが返す。
『これは個性だ。個人の自由だろうが』
突然そんな言葉が浮かぶ。
言ったのは、10年前のアーロン。
ずっと憧れてた長い髪のことを少しだけ聞いたら、そう言って怒られた、という記憶がある。
あれは、怒ってたんだろうか…?
まだ笑いの納まらない少年達の輪から抜け出て、1人壁にも垂れて座っているアーロンの隣に移動する。
「アーロン」
「なんだ?」
知らぬ人が聞いたら、怒っていると印象を受けるような低い声。
今は、どれが怒っている声なのかなんとなく分かるようになってきたからなのか、この返事は怒っていないと分かる。
いやそれどころか、もしかしたら10年前のあのセリフも、別に怒ってた訳じゃなかったのかも知れない。
わざわざ本人に確認を取るまでもなかったな…
「…いや、なんでもない、いいや」
「おい」
立ち去ろうとした私を呼び止める。
「人を呼んでおいて、何だ?何か言いたいことがあったんじゃないのか?」
ゆっくりアーロンのほうへまた足を進める。
腕を引かれてバランスを崩す。
「そんなに引っ張るな。どうして欲しいのかちゃんと言えばいいだろ」
「……」
隣に腰掛けると同時に、腰を持ち上げられる。自分はそれほど軽いほうではない筈なのに、どうしてこうも軽々と持ち上げられるんだ。
自分の足の間に私を下ろし、後ろから腕を回される。
「…で?何を聞きたかったんだ?」
「いや、だから、それはもういい。わかったから。 …それより」
「…なんだ」
「あんた、なんでいつも後ろから抱きつくんだ」
「…気にするな。好みの問題だ」
この数分後、目ざといリュックに見つかって今度は私がみんなの冷やかしの対象となった。
使命も誇りも覚悟も何もかも忘れて、こうして皆で笑いあえる。
こんな何気ない時間はもうこの先、取れないかもしれない。
ブラスカがスフィアに残した言葉が頭の中で反芻している。
確かに私達は楽しく旅をしていられたと思う。
何時でも笑顔のブラスカと真面目なアーロンと、何に対しても前向きで明るいジェクト。
みんながいたから、笑っていられた。
今、ユウナとの旅も、あの時と同じ様に笑って楽しく進んでいけたらいい。
そう思って、私もみんなと一緒に笑って見せた。
→