第6章【ナギ平原~ガガゼト山】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山に響くのは声か魂か
=55=
この山の向こうに目的地がある。
旅の目的地。
到着するのは喜ぶべきことなのに、心は晴れない。
そこには本当の答えが待っているのだろうか?
そこに何があるのか、どうなってしまうのか、1度ならず2度までもそこを訪れた私にはわかっていた。
でも、同じことをユウナや他のみんなにもさせたくはない。
「もう少し、だね」
少年に声を掛けられたユウナが、ガガゼトの高く聳える山の頂を見つめて言う。
その表情は微笑んではいたが、決して嬉しさからではないのがわかる。
ユウナの心も揺れているのだ。
当時の私たちのように…
山道を登り始めた私たちの前に、突然2人のロンゾの青年が立ち塞がった。
先程もキマリと一触即発の状態だったビランとエンケ、だったか。
聞けば、キマリの角を折ったのはこいつだとか。
ロンゾ族にとって、角を折られることほど恥なことはないのであろう、あのキマリがこの里を飛び出してしまう程なのだから。
そこまでしてキマリを憎んでいたのだろうか。
…いや、ロンゾ族にはロンゾ族の掟があるのだろう。
それは、私達ヒトが介入して良いものではない。
“ロンゾの問題はロンゾが解決する”
キマリが口癖のように言っていた言葉。
これは、キマリの誇りの問題なのだろう。
どんな結果になろうとも、キマリが1人でケリをつけなければならいのだ。
ガガゼトの山々に木霊するロンゾの戦士達の歌声。
それは気高く力強く、そして誇り高い。
その力を認められた新たな戦士の名をガガゼトに知らしめるように、そして旅を無事を願うように、ロンゾの民は歌う。
祈りの歌を。
山々に木霊する神秘的な歌声に、しばし心を奪われる。
まるで本物の祈り子が歌うかのように荘厳で、ここが広い劇場のホールのようにさえ感じてしまう。
ベベルのあの一室に捕らわれて人形にされていたときによく聞いたあの歌と、同じものとはとても思えなかった。
ガガゼト山を越えるのは難しい。
高い標高に深い雪、激しい風と寒さ、険しい道のりに強い魔物。
途中に物資を補給するところも無ければまともに体を休ませる場所もない。
挙げればキリがないが、ガガゼトとはつまりそういうところだ。
行く者を拒み、行く道を阻む。
それでも旅人は山に登る。
ここを超えることができれば、その先がいよいよ旅の終着点ザナルカンドなのだ。
酷い寒さが身を強張らせる。
冷たい冷気は指先を悴ませ、獲物を握る握力が弱くなる。
震える体は瞬発力を鈍らせる。
吸い込むと肺が痛むほどの冷気は、戦闘能力そのものを低下させてしまう。
始めのうちはそれほどでもない、大丈夫と思っていたが、徐々にそれが顕著になってきた。
寒さにそれほど対応できないメンバーの動きが明らかに鈍ってきている。
キマリ、アーロン、ルールーに私、このメンバーはさほど影響はない。
しかし、他のメンバーはそろそろ限界のようだ。
ワッカの狙いは当たらなくなり、少年の剣裁きにいつもの速さがない。
さんざん文句を言っていたリュックも言葉は無くなり、ユウナは足取りも覚束ない状態だ。
休ませたいところだが、ここはまだ山の半分以下にも到達していないし、何よりこんな何もない雪の上ではどうしようもない。
「…ユウナ、大丈夫か?」
「…は、はい…」
かろうじて返事は返ってくるが見るからに大丈夫ではない。
「…アーロン、どのくらいかな?」
「あそこの峰を回った辺りだな」
「わかった」
ワッカと少年になんとか頑張ってアーロンと共に先立って貰う。
ユウナが倒れる前になんとか辿り着きたかったが、これでは先に進むのは難しい。
「ユウナはキマリが連れて行く」
先を歩いていたキマリが戻ってきて、ユウナを簡単に背負ってしまう。ユウナは口を開くことも辛そうだ。
私は上に羽織っていたジャケットをユウナの肩に羽織らせる。
「ラフテル~、寒くないの~?」
「あぁ、平気だ。魔力で自分の周りの空気の密度や振動値を変えているから」
「うわ~~!いいな~!人間電磁波発生装置みたい!」
「黒魔法使える人間なら大抵はできるはずだ。リュックも黒魔法覚えたらいいんじゃないか?」
「え、じゃあ、ルールーもそれやってるの?すっご~い!…そうか~じゃ、あたしも黒魔法覚えようかな~。…サンダー以外」
「フフフ」
「リュック、少し元気出たみたいだな。もう少し行くと、小さいけど洞窟がある。そこで一休みしよう」
「うん!」
先頭を行く3人の前に、魔物が立ちはだかる。
いつもなら少年の素早い動きで一気にカタがつきそうな魔物なのに、ワッカの一点集中の狙いで一撃できる魔物なのに、倒せない。
アーロンの重い太刀の一撃は確かに力強いが、相性の悪い敵というものが苦戦を強いられる要因。
ユウナを背負ったキマリやまともに動けないリュックは、申し訳ないが戦力外。
私とルールーは顔を見合わせて1つ頷くと、ワッカと少年を下がらせて前線に出た。
フワフワと宙を舞う魔物をルールーの魔法で焼き尽くし、ちょろちょろと素早い動きの魔物は私が小太刀で背後からの2連斬り。
地響きを立てて唸り声を上げるでかい魔物はアーロンの力押し。
この魔物たちも、もしかしたら元は私達と同じ様に旅をしてこの山に登り、ザナルカンドを目指していた者だったかもしれない。
ここを越えれば目的地だというのに、あともう少しだというのに、ここで命尽きるのはさぞかし悔しかったことだろう。
命を落としてその魂を鎮められた者は、幸せなほうだ。
召喚士がいなければ異界送りはできないのだから。
先程アーロンが言っていた辺りで、多くの剣や銃などの武器が雪の上に無造作につき立てられた一角がある。
まるでここで命を落とした者たちを弔うかのように。
この悲しい墓標の下で、一体何人の魂が救われたのだろうか。
祈りを捧げるユウナの辛い顔は、寒さからではないように見えた。
→
=55=
この山の向こうに目的地がある。
旅の目的地。
到着するのは喜ぶべきことなのに、心は晴れない。
そこには本当の答えが待っているのだろうか?
そこに何があるのか、どうなってしまうのか、1度ならず2度までもそこを訪れた私にはわかっていた。
でも、同じことをユウナや他のみんなにもさせたくはない。
「もう少し、だね」
少年に声を掛けられたユウナが、ガガゼトの高く聳える山の頂を見つめて言う。
その表情は微笑んではいたが、決して嬉しさからではないのがわかる。
ユウナの心も揺れているのだ。
当時の私たちのように…
山道を登り始めた私たちの前に、突然2人のロンゾの青年が立ち塞がった。
先程もキマリと一触即発の状態だったビランとエンケ、だったか。
聞けば、キマリの角を折ったのはこいつだとか。
ロンゾ族にとって、角を折られることほど恥なことはないのであろう、あのキマリがこの里を飛び出してしまう程なのだから。
そこまでしてキマリを憎んでいたのだろうか。
…いや、ロンゾ族にはロンゾ族の掟があるのだろう。
それは、私達ヒトが介入して良いものではない。
“ロンゾの問題はロンゾが解決する”
キマリが口癖のように言っていた言葉。
これは、キマリの誇りの問題なのだろう。
どんな結果になろうとも、キマリが1人でケリをつけなければならいのだ。
ガガゼトの山々に木霊するロンゾの戦士達の歌声。
それは気高く力強く、そして誇り高い。
その力を認められた新たな戦士の名をガガゼトに知らしめるように、そして旅を無事を願うように、ロンゾの民は歌う。
祈りの歌を。
山々に木霊する神秘的な歌声に、しばし心を奪われる。
まるで本物の祈り子が歌うかのように荘厳で、ここが広い劇場のホールのようにさえ感じてしまう。
ベベルのあの一室に捕らわれて人形にされていたときによく聞いたあの歌と、同じものとはとても思えなかった。
ガガゼト山を越えるのは難しい。
高い標高に深い雪、激しい風と寒さ、険しい道のりに強い魔物。
途中に物資を補給するところも無ければまともに体を休ませる場所もない。
挙げればキリがないが、ガガゼトとはつまりそういうところだ。
行く者を拒み、行く道を阻む。
それでも旅人は山に登る。
ここを超えることができれば、その先がいよいよ旅の終着点ザナルカンドなのだ。
酷い寒さが身を強張らせる。
冷たい冷気は指先を悴ませ、獲物を握る握力が弱くなる。
震える体は瞬発力を鈍らせる。
吸い込むと肺が痛むほどの冷気は、戦闘能力そのものを低下させてしまう。
始めのうちはそれほどでもない、大丈夫と思っていたが、徐々にそれが顕著になってきた。
寒さにそれほど対応できないメンバーの動きが明らかに鈍ってきている。
キマリ、アーロン、ルールーに私、このメンバーはさほど影響はない。
しかし、他のメンバーはそろそろ限界のようだ。
ワッカの狙いは当たらなくなり、少年の剣裁きにいつもの速さがない。
さんざん文句を言っていたリュックも言葉は無くなり、ユウナは足取りも覚束ない状態だ。
休ませたいところだが、ここはまだ山の半分以下にも到達していないし、何よりこんな何もない雪の上ではどうしようもない。
「…ユウナ、大丈夫か?」
「…は、はい…」
かろうじて返事は返ってくるが見るからに大丈夫ではない。
「…アーロン、どのくらいかな?」
「あそこの峰を回った辺りだな」
「わかった」
ワッカと少年になんとか頑張ってアーロンと共に先立って貰う。
ユウナが倒れる前になんとか辿り着きたかったが、これでは先に進むのは難しい。
「ユウナはキマリが連れて行く」
先を歩いていたキマリが戻ってきて、ユウナを簡単に背負ってしまう。ユウナは口を開くことも辛そうだ。
私は上に羽織っていたジャケットをユウナの肩に羽織らせる。
「ラフテル~、寒くないの~?」
「あぁ、平気だ。魔力で自分の周りの空気の密度や振動値を変えているから」
「うわ~~!いいな~!人間電磁波発生装置みたい!」
「黒魔法使える人間なら大抵はできるはずだ。リュックも黒魔法覚えたらいいんじゃないか?」
「え、じゃあ、ルールーもそれやってるの?すっご~い!…そうか~じゃ、あたしも黒魔法覚えようかな~。…サンダー以外」
「フフフ」
「リュック、少し元気出たみたいだな。もう少し行くと、小さいけど洞窟がある。そこで一休みしよう」
「うん!」
先頭を行く3人の前に、魔物が立ちはだかる。
いつもなら少年の素早い動きで一気にカタがつきそうな魔物なのに、ワッカの一点集中の狙いで一撃できる魔物なのに、倒せない。
アーロンの重い太刀の一撃は確かに力強いが、相性の悪い敵というものが苦戦を強いられる要因。
ユウナを背負ったキマリやまともに動けないリュックは、申し訳ないが戦力外。
私とルールーは顔を見合わせて1つ頷くと、ワッカと少年を下がらせて前線に出た。
フワフワと宙を舞う魔物をルールーの魔法で焼き尽くし、ちょろちょろと素早い動きの魔物は私が小太刀で背後からの2連斬り。
地響きを立てて唸り声を上げるでかい魔物はアーロンの力押し。
この魔物たちも、もしかしたら元は私達と同じ様に旅をしてこの山に登り、ザナルカンドを目指していた者だったかもしれない。
ここを越えれば目的地だというのに、あともう少しだというのに、ここで命尽きるのはさぞかし悔しかったことだろう。
命を落としてその魂を鎮められた者は、幸せなほうだ。
召喚士がいなければ異界送りはできないのだから。
先程アーロンが言っていた辺りで、多くの剣や銃などの武器が雪の上に無造作につき立てられた一角がある。
まるでここで命を落とした者たちを弔うかのように。
この悲しい墓標の下で、一体何人の魂が救われたのだろうか。
祈りを捧げるユウナの辛い顔は、寒さからではないように見えた。
→