第6章【ナギ平原~ガガゼト山】
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人の温かさ
=52=
洞窟、というよりは、わざわざ岩をくり貫いて作ったような道。
等間隔に作られた小さな棚には使い古されて何年も時が過ぎているようなボロボロの蝋燭の跡。
もう何年もこの道を通るものはいないのであろう。地下水で地面は滑りやすくなっている。
その地下水が集まって小さな小川となって足もとを流れ始める頃、穴倉の道の先に小さな光が見えた。
そこが外の世界との境界である事を示すように灯された小さな松明。
小川を跨いで開けた雪の上を進んでいくと、いくつかの民家らしき建物とそこに灯された明かりが見えた。
村の入口を示すアーチはもうずいぶんと手入れがされていないのだろう。
恐らく色とりどりの旗か布だったであろうものは結ばれた所だけが僅かに残っているだけで、それより先は風に飛ばされたのかなくなっていた。
明るいときにここを潜ると、真っ直ぐ先に大きな建物が見える。
もう誰も、そこを守る兵も仕える僧官も、奉られるはずの祈り子もいない、見捨てられた寺院の成れの果て。
迷うことなく、寺院に一番近い民家の戸を叩く。
不審そうに中から返ってきた声に申し訳ないという思いと、どこか安堵する自分がいる。
「誰じゃこんな時間に…」
不満を隠そうともせずに、開かれた戸の向こうから現われた人物に懐かしさを覚える。
「!! ラフテル様!!」
「こんばんは、村長。こんな時間に申し訳ない」
外は冷えるだろうと、村長はすぐに中に招き入れようとしてくれたのだが、私はそれを軽く手で制して事情を説明した。
召喚士と旅をしていること、その召喚士がそこまで向かってきていること…
村長は驚いた顔をしたが、すぐにその壮年の顔を崩して頷いた。
「あい分かりました。すぐに若衆に迎えに向かわせましょう」
「ありがとう、助かるよ。…でも、ちょっと大所帯でね」
「寺院でよければ、中は何時でも使えるようにしておりますよ」
「そうか、それじゃ、そっちを借りるか。…じゃ、私もみんなを迎えに行くよ。ありがとう村長」
それからしばらくして漸く村に到着した一行だったが、ユウナがキマリに抱えられている。
「何かあったのか?」
「大丈夫だ。寒さに耐えられなかったようだ」
道の奥の寺院の中にユウナを運び入れ、寝台に寝かせてもらう。
村人がすでに用意してくれていたようで、明かりも暖房も灯されていた。
そう大きくない部屋には寝台が3つ。3人用の部屋だ。
この寺院の中に入ったのは初めての事なので、私も中の造りがどうなっているのか分からない。
部屋の中にあったありったけの毛布をユウナに掛けてやる。
顔は青いが、特に苦しんでいる様子はなかったので、疲れも出たのだろうとルールーは言った。
しばらくして様子を見に来た村長に軽く挨拶して、互いの紹介を済ませる。
本来ならばユウナもきちんと挨拶を返さねばならないのだが、この状態では仕方がない。
元々はきちんとした寺院だったのだろう、ユウナレスカやゼイオンを始め、何人かの護聖像が並ぶ本堂や装飾を見てもどれも本当に美しい。
たくさんあるという小部屋も、旅をする者たちのために宿も兼備しているからなのだろうが、今はもう誰も訪れることもないこの建物も、今は村の集会ぐらいでしか使用する事もないのだという。
もう遅い時間だというのに、村の女性たちが態々用意してくれた食事をありがたく頂き、もう遅いからと気を遣ってくれた村人の行為に甘え、それぞれ部屋で休むことにした。
「じゃあ、あたしはどこで寝ればいいわけ~~~!! ラフテルはおっちゃんとでも寝てればいいじゃん!!」
ユウナにはルールーと私が付き添うと言ったのだが、リュックに猛反発を食らってしまい、部屋を追い出されてしまった。
まぁ、私は別にどこでも大丈夫なので、同じ部屋の床の上でも平気なのだが…
仕方がないとばかりに、隣の部屋を開けて明かりを灯す。
まだ暖房の入っていない部屋はヒヤリと足元を冷やし、歪んでしまった窓からの隙間風に身を震わせる。
暖炉に薪を放り込んで魔法を1発。
『ファイア』
荷物を下ろし、腰の獲物を外して寝台にバタンと倒れこんだ。
横になって初めて、自分も疲れていたんだという感覚が湧いてくる。
別に、起きていようと思えば起きていられたのだろうが、閉じた瞼は次第に持ち上げるのが億劫になってきて、そして…
再び意識が戻ったとき、体が異様に重くて動かせないほどだったことに異変を感じる。
腹の辺りに自分の手を持っていって確認する。
そこにあった太い腕、自分の頭が枕にしていた力強い腕。
背中に感じる温もりと、首筋に感じる柔らかい風、異界の匂い。
…アーロン…?
どうしてここに…、というか、何だ、この体勢は!!
「…アーロン…」
「いいから、寝てろ」
掠れた低い声が耳に届く。
もぞもぞと抜け出そうと動いてみるが、後ろからがっちりと押さえつけられていて動けない。
そして、離れたくないと、思う自分もいる。
どれくらい眠ってしまっていたんだろうか。
こいつが部屋に入ってきたことも、あまつさえこんな体勢にされていることすら気付かないまま眠っていたなんて!!
これが魔物だったら自分は確実に死んでいる。
自分自身が情けなくなってくる。
…これは、アーロン、だから?
「言ったはずだ、お前は、お前の時間は、もう俺の物だ」
「…私の意志は?」
「できるだけ尊重しよう」
「…ふざけんな…」
腹に乗せたアーロンの腕に更に力が込められる。
背中から足の先まで体全部をアーロンに絡め取られてしまったようで、悔しいような、嬉しいような気持ちが湧いてくる。
自分の頭を乗せた腕が僅かに持ち上がる。
顔だけを後ろに回してその存在を確かめようとするが、顔が見えたと思った瞬間、唇に押し当てられる甘い熱。
相変わらず前触れも何も無く突然噛み付くように口全体を覆う熱い口付け。
抗うことも出来ずに、私はどんどん流されていく。
外気で冷えた体は熱を持ち、いつしか寒いという感覚は消えていた。
→
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洞窟、というよりは、わざわざ岩をくり貫いて作ったような道。
等間隔に作られた小さな棚には使い古されて何年も時が過ぎているようなボロボロの蝋燭の跡。
もう何年もこの道を通るものはいないのであろう。地下水で地面は滑りやすくなっている。
その地下水が集まって小さな小川となって足もとを流れ始める頃、穴倉の道の先に小さな光が見えた。
そこが外の世界との境界である事を示すように灯された小さな松明。
小川を跨いで開けた雪の上を進んでいくと、いくつかの民家らしき建物とそこに灯された明かりが見えた。
村の入口を示すアーチはもうずいぶんと手入れがされていないのだろう。
恐らく色とりどりの旗か布だったであろうものは結ばれた所だけが僅かに残っているだけで、それより先は風に飛ばされたのかなくなっていた。
明るいときにここを潜ると、真っ直ぐ先に大きな建物が見える。
もう誰も、そこを守る兵も仕える僧官も、奉られるはずの祈り子もいない、見捨てられた寺院の成れの果て。
迷うことなく、寺院に一番近い民家の戸を叩く。
不審そうに中から返ってきた声に申し訳ないという思いと、どこか安堵する自分がいる。
「誰じゃこんな時間に…」
不満を隠そうともせずに、開かれた戸の向こうから現われた人物に懐かしさを覚える。
「!! ラフテル様!!」
「こんばんは、村長。こんな時間に申し訳ない」
外は冷えるだろうと、村長はすぐに中に招き入れようとしてくれたのだが、私はそれを軽く手で制して事情を説明した。
召喚士と旅をしていること、その召喚士がそこまで向かってきていること…
村長は驚いた顔をしたが、すぐにその壮年の顔を崩して頷いた。
「あい分かりました。すぐに若衆に迎えに向かわせましょう」
「ありがとう、助かるよ。…でも、ちょっと大所帯でね」
「寺院でよければ、中は何時でも使えるようにしておりますよ」
「そうか、それじゃ、そっちを借りるか。…じゃ、私もみんなを迎えに行くよ。ありがとう村長」
それからしばらくして漸く村に到着した一行だったが、ユウナがキマリに抱えられている。
「何かあったのか?」
「大丈夫だ。寒さに耐えられなかったようだ」
道の奥の寺院の中にユウナを運び入れ、寝台に寝かせてもらう。
村人がすでに用意してくれていたようで、明かりも暖房も灯されていた。
そう大きくない部屋には寝台が3つ。3人用の部屋だ。
この寺院の中に入ったのは初めての事なので、私も中の造りがどうなっているのか分からない。
部屋の中にあったありったけの毛布をユウナに掛けてやる。
顔は青いが、特に苦しんでいる様子はなかったので、疲れも出たのだろうとルールーは言った。
しばらくして様子を見に来た村長に軽く挨拶して、互いの紹介を済ませる。
本来ならばユウナもきちんと挨拶を返さねばならないのだが、この状態では仕方がない。
元々はきちんとした寺院だったのだろう、ユウナレスカやゼイオンを始め、何人かの護聖像が並ぶ本堂や装飾を見てもどれも本当に美しい。
たくさんあるという小部屋も、旅をする者たちのために宿も兼備しているからなのだろうが、今はもう誰も訪れることもないこの建物も、今は村の集会ぐらいでしか使用する事もないのだという。
もう遅い時間だというのに、村の女性たちが態々用意してくれた食事をありがたく頂き、もう遅いからと気を遣ってくれた村人の行為に甘え、それぞれ部屋で休むことにした。
「じゃあ、あたしはどこで寝ればいいわけ~~~!! ラフテルはおっちゃんとでも寝てればいいじゃん!!」
ユウナにはルールーと私が付き添うと言ったのだが、リュックに猛反発を食らってしまい、部屋を追い出されてしまった。
まぁ、私は別にどこでも大丈夫なので、同じ部屋の床の上でも平気なのだが…
仕方がないとばかりに、隣の部屋を開けて明かりを灯す。
まだ暖房の入っていない部屋はヒヤリと足元を冷やし、歪んでしまった窓からの隙間風に身を震わせる。
暖炉に薪を放り込んで魔法を1発。
『ファイア』
荷物を下ろし、腰の獲物を外して寝台にバタンと倒れこんだ。
横になって初めて、自分も疲れていたんだという感覚が湧いてくる。
別に、起きていようと思えば起きていられたのだろうが、閉じた瞼は次第に持ち上げるのが億劫になってきて、そして…
再び意識が戻ったとき、体が異様に重くて動かせないほどだったことに異変を感じる。
腹の辺りに自分の手を持っていって確認する。
そこにあった太い腕、自分の頭が枕にしていた力強い腕。
背中に感じる温もりと、首筋に感じる柔らかい風、異界の匂い。
…アーロン…?
どうしてここに…、というか、何だ、この体勢は!!
「…アーロン…」
「いいから、寝てろ」
掠れた低い声が耳に届く。
もぞもぞと抜け出そうと動いてみるが、後ろからがっちりと押さえつけられていて動けない。
そして、離れたくないと、思う自分もいる。
どれくらい眠ってしまっていたんだろうか。
こいつが部屋に入ってきたことも、あまつさえこんな体勢にされていることすら気付かないまま眠っていたなんて!!
これが魔物だったら自分は確実に死んでいる。
自分自身が情けなくなってくる。
…これは、アーロン、だから?
「言ったはずだ、お前は、お前の時間は、もう俺の物だ」
「…私の意志は?」
「できるだけ尊重しよう」
「…ふざけんな…」
腹に乗せたアーロンの腕に更に力が込められる。
背中から足の先まで体全部をアーロンに絡め取られてしまったようで、悔しいような、嬉しいような気持ちが湧いてくる。
自分の頭を乗せた腕が僅かに持ち上がる。
顔だけを後ろに回してその存在を確かめようとするが、顔が見えたと思った瞬間、唇に押し当てられる甘い熱。
相変わらず前触れも何も無く突然噛み付くように口全体を覆う熱い口付け。
抗うことも出来ずに、私はどんどん流されていく。
外気で冷えた体は熱を持ち、いつしか寒いという感覚は消えていた。
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