第5章【ベベル~ナギ平原】
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けじめ
=50=
「こっちの道は違うのか?」
「それ、谷底に降りる道よ」
「よく知ってんなぁ」
「討伐隊の訓練場になってる場所だ、ワッカ」
「…討伐隊……そう、か…」
討伐隊という言葉を聞いて、一気にワッカの顔が曇る。
チャップのことは私も知っていた。何をしたか、結果どうなったのか。
だからワッカの表情の変化もすぐに理解できた。
それよりも、ルールーのほうが様子がおかしい。
すでに足を進め始めた少年やユウナの後については行ったが、どこか嫌そうな雰囲気が見える。
細い隠されたようにそこにある急な坂道を降りていくと、谷の上からは見えなかった広い場所があった。
「へ~、こんな広い場所あったんすね」
感心したように辺りを見渡した少年が声を上げる。
「かつての大召喚士、ヨンクン様が討伐隊だった頃に修行したところだそうだ」
「ラフテル、詳しいな」
「私はベベルにいたからな」
「「「ええっっ!!」」」
数人から驚きの声が上がる。
「…あれ、知らなかったか?」
「ラフテルさん、自分のことほとんど話さないから」
クスクスと小さな笑いを零しながらそう言うユウナは知っているはずだな。
広場の一番奥のほうに、不気味な洞窟がその口をぽっかりと開けているのが見えた。
駆け足でリュックは真っ先に飛び込んでいく。
が、すぐに掛け戻って冷や汗を浮かべていた。
「ここ、ナニ~~~!?」
「私が初めてガードをつとめた召喚士……。…ここで死んだの」
「!!」
「行きましょう、ユウナ。祈り子様が待ってるわ」
…祈り子…?
こんなところに…?
アーロンは知っているんだろうか?
私は初めて聞いた事柄に、アーロンに答えを求めるようにそっと視線を向ける。
こいつも知らなかったことなのか、静かに頭をふってみせた。
だが、祈り子がいるというなら、ユウナを連れて行かなければならない。
魔物が出る、ということはここでもたくさんの者達が命を落としたのだろう。
そう、かつてルールーがガードを勤めたという召喚士も含めて。
真っ先に洞窟の中に入るアーロンに続き、仲間達も次々と進んでいく。
ワッカはルールーに何か言いたそうにしばらくじっとルールーを見つめていたが、すぐに踵を返して仲間達の後に続く。
ルールーは思いつめたような顔を上空に向けてから、ふう、と大きく息を吐き出した。
最後に洞窟に入った私は、リュックがすぐに戻ってきた理由を知った。
真っ暗で湿った世界。
ごつごつとした岩で囲まれた道。
怪しい色をした湯気のように瘴気の塊が噴出している。
時たまフワリと幻光虫が宙を舞う。
足元といわず、壁や天井にも所々に生えている光苔の為か、そう真っ暗というわけではない。
むしろ、その光がかえって不気味さを演出している。
「う~~~……。な~んでこんなところに祈り子があるんだろ」
表のナギ平原の魔物とは比べ物にならない強い魔物が出没する。
みんなはまだ疲労の色は見えないようだが、この不気味な雰囲気はリュックには少々キツイものがあるようだ。
私もこの異界の匂いの中にずっといると、今はまだいいがこのままだと気が変になりそうだ。
「ずいぶん前に、寺院から盗まれたそうよ」
リュックの問い掛けに答えるように、ルールーが静かに説明する。
盗まれた祈り子…
私が1人で旅をしている時に、そんな村を訪れたことがあった。
寺院の面影が残るだけの、廃れた廃屋。
僧官もおらず、祈りを捧げる者もいない。
祈り子がいなければ召喚士は訪れる意味もない。
そうして召喚士の旅からは外されてしまった、小さな村。
恐らくそこから盗まれたものなのだろう。
…こんなところに安置されていたなんて…
「祈り子がなければ召喚士は修行にならん。修行が足らねば究極召喚も手に入らん。究極召喚がなければ『シン』とは戦えん。…そういうことだ」
「そしたら、召喚士も死なない?」
「ま、そう考えた奴が盗んだんだろうな」
「犯人の気持ち、わかるな」
「うん…」
ずっとユウナを死なせたくない、そう言い続けているリュックの気持ちは、私にもよく分かった。
恐らく、ここにいる全員が同じだろう。
思ったよりもこの洞窟は奥まで長く続いているようだ。
少し異界の匂いが薄まっている辺りで小休止を取り、祈り子が安置されているという最深部まで足を進めた。
ふいに異界の匂いに変化が生じる。
幻光虫が集まって、形を形成し始める。
「ちっ!グアドの魔物か!?」
ワッカが前に出て戦闘体勢をとった。
しかし、それは魔物ではなかった。
幻光虫は次第にヒトの姿を形作っていく。
「ちがう、死者だ」
一度は構えを取ったキマリが、その姿に体勢を戻す。
集まった幻光虫が作り出した幻影が次第に実体となっていく。
小柄な女性、姿形からして召喚士のようにも見える。
姿を現したその人物に、ルールーは目を見張る。
「やはり……、あなたなのですね、ギンネム様! …私が……未熟だったばかりに…」
ルールーが初めてガードとして旅をして守った召喚士、ギンネム。
この女性もまた、ユウナや他の召喚士と同じ様に夢と希望と覚悟を有して戦ったのだろう。
ルールーの悔しい想いが溢れているのが取れて見える。
スピラの為に、人々の平和の為に、召喚士は旅に出る。
その命を守る使命を帯びたガードとして、全うすることができないということは、ガードしてこれほど悔しく情けないものはない。
志半ばなのはルールーだけではない。
こうしてこの世に未練を残して姿を現したこの女性を、誰も恨むことなどできはしない。
魔物となる前に、せめてその魂を鎮めてやれることが今できる精一杯の見送りなのだろうか。
ユウナに異界送りをするように促すアーロン。
それを受けて異界送りをしようと、ユウナが杖を手にして1歩前に歩み出る。
今から何をするつもりなのかを悟ったのか、ギンネムは腕を大きく振り下ろした。
異界の匂いと怒気を孕んだ禍々しい風が強く吹き付けた。
まるでユウナの動きを遮るように。
「…もう、人の心はなくしてしまったのですね」
ギンネムの姿はしているが、それはもう、ギンネムではない。
人としての魂などではなく、それは生を羨む魔物のもの。
「…わかりました。ガードとしての最後のつとめ、果たさせて頂きます」
→第6章
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「こっちの道は違うのか?」
「それ、谷底に降りる道よ」
「よく知ってんなぁ」
「討伐隊の訓練場になってる場所だ、ワッカ」
「…討伐隊……そう、か…」
討伐隊という言葉を聞いて、一気にワッカの顔が曇る。
チャップのことは私も知っていた。何をしたか、結果どうなったのか。
だからワッカの表情の変化もすぐに理解できた。
それよりも、ルールーのほうが様子がおかしい。
すでに足を進め始めた少年やユウナの後については行ったが、どこか嫌そうな雰囲気が見える。
細い隠されたようにそこにある急な坂道を降りていくと、谷の上からは見えなかった広い場所があった。
「へ~、こんな広い場所あったんすね」
感心したように辺りを見渡した少年が声を上げる。
「かつての大召喚士、ヨンクン様が討伐隊だった頃に修行したところだそうだ」
「ラフテル、詳しいな」
「私はベベルにいたからな」
「「「ええっっ!!」」」
数人から驚きの声が上がる。
「…あれ、知らなかったか?」
「ラフテルさん、自分のことほとんど話さないから」
クスクスと小さな笑いを零しながらそう言うユウナは知っているはずだな。
広場の一番奥のほうに、不気味な洞窟がその口をぽっかりと開けているのが見えた。
駆け足でリュックは真っ先に飛び込んでいく。
が、すぐに掛け戻って冷や汗を浮かべていた。
「ここ、ナニ~~~!?」
「私が初めてガードをつとめた召喚士……。…ここで死んだの」
「!!」
「行きましょう、ユウナ。祈り子様が待ってるわ」
…祈り子…?
こんなところに…?
アーロンは知っているんだろうか?
私は初めて聞いた事柄に、アーロンに答えを求めるようにそっと視線を向ける。
こいつも知らなかったことなのか、静かに頭をふってみせた。
だが、祈り子がいるというなら、ユウナを連れて行かなければならない。
魔物が出る、ということはここでもたくさんの者達が命を落としたのだろう。
そう、かつてルールーがガードを勤めたという召喚士も含めて。
真っ先に洞窟の中に入るアーロンに続き、仲間達も次々と進んでいく。
ワッカはルールーに何か言いたそうにしばらくじっとルールーを見つめていたが、すぐに踵を返して仲間達の後に続く。
ルールーは思いつめたような顔を上空に向けてから、ふう、と大きく息を吐き出した。
最後に洞窟に入った私は、リュックがすぐに戻ってきた理由を知った。
真っ暗で湿った世界。
ごつごつとした岩で囲まれた道。
怪しい色をした湯気のように瘴気の塊が噴出している。
時たまフワリと幻光虫が宙を舞う。
足元といわず、壁や天井にも所々に生えている光苔の為か、そう真っ暗というわけではない。
むしろ、その光がかえって不気味さを演出している。
「う~~~……。な~んでこんなところに祈り子があるんだろ」
表のナギ平原の魔物とは比べ物にならない強い魔物が出没する。
みんなはまだ疲労の色は見えないようだが、この不気味な雰囲気はリュックには少々キツイものがあるようだ。
私もこの異界の匂いの中にずっといると、今はまだいいがこのままだと気が変になりそうだ。
「ずいぶん前に、寺院から盗まれたそうよ」
リュックの問い掛けに答えるように、ルールーが静かに説明する。
盗まれた祈り子…
私が1人で旅をしている時に、そんな村を訪れたことがあった。
寺院の面影が残るだけの、廃れた廃屋。
僧官もおらず、祈りを捧げる者もいない。
祈り子がいなければ召喚士は訪れる意味もない。
そうして召喚士の旅からは外されてしまった、小さな村。
恐らくそこから盗まれたものなのだろう。
…こんなところに安置されていたなんて…
「祈り子がなければ召喚士は修行にならん。修行が足らねば究極召喚も手に入らん。究極召喚がなければ『シン』とは戦えん。…そういうことだ」
「そしたら、召喚士も死なない?」
「ま、そう考えた奴が盗んだんだろうな」
「犯人の気持ち、わかるな」
「うん…」
ずっとユウナを死なせたくない、そう言い続けているリュックの気持ちは、私にもよく分かった。
恐らく、ここにいる全員が同じだろう。
思ったよりもこの洞窟は奥まで長く続いているようだ。
少し異界の匂いが薄まっている辺りで小休止を取り、祈り子が安置されているという最深部まで足を進めた。
ふいに異界の匂いに変化が生じる。
幻光虫が集まって、形を形成し始める。
「ちっ!グアドの魔物か!?」
ワッカが前に出て戦闘体勢をとった。
しかし、それは魔物ではなかった。
幻光虫は次第にヒトの姿を形作っていく。
「ちがう、死者だ」
一度は構えを取ったキマリが、その姿に体勢を戻す。
集まった幻光虫が作り出した幻影が次第に実体となっていく。
小柄な女性、姿形からして召喚士のようにも見える。
姿を現したその人物に、ルールーは目を見張る。
「やはり……、あなたなのですね、ギンネム様! …私が……未熟だったばかりに…」
ルールーが初めてガードとして旅をして守った召喚士、ギンネム。
この女性もまた、ユウナや他の召喚士と同じ様に夢と希望と覚悟を有して戦ったのだろう。
ルールーの悔しい想いが溢れているのが取れて見える。
スピラの為に、人々の平和の為に、召喚士は旅に出る。
その命を守る使命を帯びたガードとして、全うすることができないということは、ガードしてこれほど悔しく情けないものはない。
志半ばなのはルールーだけではない。
こうしてこの世に未練を残して姿を現したこの女性を、誰も恨むことなどできはしない。
魔物となる前に、せめてその魂を鎮めてやれることが今できる精一杯の見送りなのだろうか。
ユウナに異界送りをするように促すアーロン。
それを受けて異界送りをしようと、ユウナが杖を手にして1歩前に歩み出る。
今から何をするつもりなのかを悟ったのか、ギンネムは腕を大きく振り下ろした。
異界の匂いと怒気を孕んだ禍々しい風が強く吹き付けた。
まるでユウナの動きを遮るように。
「…もう、人の心はなくしてしまったのですね」
ギンネムの姿はしているが、それはもう、ギンネムではない。
人としての魂などではなく、それは生を羨む魔物のもの。
「…わかりました。ガードとしての最後のつとめ、果たさせて頂きます」
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