第5章【ベベル~ナギ平原】
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約束の日約束の場所約束の存在
=48=
「ユウナ、ちょっと、いいかな?」
公司で休んでいたユウナに声を掛けた。
少し戸惑い気味だったようだが、ユウナはすぐに返事を返して立ち上がった。
「なんかあったっスか?」
不安気な様子の少年がすぐに声をかけてくるが、私は曖昧に笑いながら誤魔化した。
「公司の外は魔物が山程いるぞ。どこ行こうってんだ」
歩き出した私に向かって、今度はワッカが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だ、アーロンも一緒だから」
すでに公司の外で待っていたアーロンと3人で平原の北部、深い谷がその口をぱっくりと開けているところにやってきた。
過去の召喚士達のシンとの激しい闘いの爪痕の残るその場所では異界の匂いが強い。
それでも、吹き抜ける自然豊かな匂いを乗せた風のおかげで、私は平静を保っていられる。
こんな所に連れてこられたユウナは、その意図がわからないとばかりに首を傾ける。
アーロンは勿論、私がここを訪れた意味を理解している。
あの日の私たちのようにここで悲しみの涙を流した人間はそれからどうしたのだろうか?
その後も強く生きていけただろうか?
それとも悲しみに満ちた毎日を送ったのだろうか?
…いや、愚問だったな。私が受けたことを思えば、彼らのその後なんて分かりきっている。
思い出と呼ぶには余りにも鮮明に残る記憶を消すことなんて、絶対に無いし出来ない。
私は、仲間達と共にまたあの時の悲しみをユウナに抱いてしまうのだろうか……
ブラスカ、ここにいるのなら、私にあなたの魂を感じさせて欲しい。
手に入れたこの力で、私はまだブラスカを感じることが出来ずにいる。
あれから10年もの時間が流れて、それでもスピラは相変わらずあの時のままだ。
違う召喚士のガードとして、数度旅に出る人間は多くいるだろう。
ルールーやワッカもそうだ。
だが、アーロンと私は最後の最後まで共に到達し、召喚士が迎える覚悟の瞬間にも立ち会った。
また、そんな瞬間を召喚士に迎えさせることが、許されるだろうか。
命を落とすために旅をしている召喚士を守るガードという立場でありながら、結局はその最後の瞬間を迎える為にその場所へと導いている。
召喚士の命を守りたいのなら、旅になど出さなければいいというのに……
私とアーロンがここにユウナを連れてきた意図を、ユウナは分かってくれるだろうか?
「…連れてきたぞ」
「約束通り、な」
「?」
アーロンと私の言葉の意味がわからないのか、ユウナは不安を隠すことも忘れて私達の名を呼ぶ。
「ユウナ、ユウナには何度も話をした。知って欲しいと思ったから。知るべきだと思ったから」
「あの時の俺達は無力だった。あの巨大な姿を前にして、1人や2人の小さな人間が立ち向かったところで何かできるわけでもないからな」
「召喚士が求める究極召喚の力を目の当たりにして、私はただ見てることしかできなかった。助けることもできなかった。
…結局、使わせてしまった…」
そこまで話してユウナは理解したのだろう。
深く、ゆっくりと丁寧に、綺麗に、祈りを捧げた。
下げた頭がいつまでも上がらない。
そして、俯いたままの顔からポタリと一滴、地面に染みを落とした。
「シンの体が少しずつ崩れて、幻光虫となり空へ還っていく中、ブラスカもまた異界へ旅立った。異界送りはされなかったけど、異界で会ってきたんだろ?」
「…はい」
ユウナの涙に濡れた顔を見ても、不思議と涙は出なかった。
その場にユウナを一人にしてやろうとしたのだが、ユウナはそれを望まなかった。
「父さんの魂はもうここには無いから。それに、みんな心配してるだろうし…」
「そうか」
「…うん」
「でも帰り道は心配ない」
「え?」
「そろそろ来る頃だ」
アーロンの言葉に後ろを振り返る。
遠くのほうから黄色の何かが走ってくる。
「キマリに迎えを頼んでおいた。」
「わあぁ!!」
「……勘弁してくれ…」
あからさまに喜ぶユウナとは反対に私の気分はここの谷底より深く落ち込んだ。
キマリの長い足に守られるように座ったユウナは、チョコボに揺られてご機嫌のようだ。
一方私はなんとか乗らなくて済むようにしたかったのだが…。
ミヘン街道であれだけ怖い思いを経験したのだ。
できればもう乗りたくはない。
キマリが連れてきたもう一羽のチョコボに、さっさと跨がったアーロンが私の隣で乗るように催促する。
私は頑として乗ることを拒み、歩き出した。
「乗らんのか?」
「何だよその顔…、苦手だとわかってんならほっといてくれ。」
「お前の為を思って言ってるんだがな」
「?」
そう言ってアーロンはどこかを指差した。
その方向に目を向けると、そう遠くない所で犬のような魔物が、うねうねと蠢くたくさんの触手を待つ不気味な植物の魔物の巨大な口に食われる瞬間が目に飛び込んできた。
「!!」
「もたもたしてると、次の餌食はお前だな」
他人事のようにどこかにやにやしながら言う言葉に背筋がぞっとする。
あれは確かモルボルとかいう植物の化け物。
とんでもないステータス異常を引き起こす毒息を吐く魔物だ。しかもああ見えてかなり移動速度は速い。
…そうだった、このナギ平原にはあいつがいるんだった…
仕方がないとばかりに溜息を吐きつつ、憮然とした顔のままアーロンの背中にしがみついた。
「できるだけゆっくり行くようにして欲しいんだが…」
「さっさと行ってしまったほうが早く降りられると思うが?」
あぁ、どうしてこいつはこうも意地が悪いんだろうか。
走ることが出来ないチョコボはどこか不満そうに鳴き声を漏らした。
公司に着いたら少年にバトンタッチすればストレス発散程度には乗り回して貰えるだろう。
10年たっても、ナギ平原はあの時と何も変わらない。
スピラは変わらない。
変わったのは、私の心だけだ。
つい数年前まではここを通る度に涙が流れたのに、ユウナの流す涙を見ても、悲しいとは感じても涙までは出なくなってしまった。
…それでも、忘れないよ、ブラスカ、ジェクト、ここで最後に闘った日のことを。
ここで別れた辛く悲しい日のことを・・・・・
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「ユウナ、ちょっと、いいかな?」
公司で休んでいたユウナに声を掛けた。
少し戸惑い気味だったようだが、ユウナはすぐに返事を返して立ち上がった。
「なんかあったっスか?」
不安気な様子の少年がすぐに声をかけてくるが、私は曖昧に笑いながら誤魔化した。
「公司の外は魔物が山程いるぞ。どこ行こうってんだ」
歩き出した私に向かって、今度はワッカが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だ、アーロンも一緒だから」
すでに公司の外で待っていたアーロンと3人で平原の北部、深い谷がその口をぱっくりと開けているところにやってきた。
過去の召喚士達のシンとの激しい闘いの爪痕の残るその場所では異界の匂いが強い。
それでも、吹き抜ける自然豊かな匂いを乗せた風のおかげで、私は平静を保っていられる。
こんな所に連れてこられたユウナは、その意図がわからないとばかりに首を傾ける。
アーロンは勿論、私がここを訪れた意味を理解している。
あの日の私たちのようにここで悲しみの涙を流した人間はそれからどうしたのだろうか?
その後も強く生きていけただろうか?
それとも悲しみに満ちた毎日を送ったのだろうか?
…いや、愚問だったな。私が受けたことを思えば、彼らのその後なんて分かりきっている。
思い出と呼ぶには余りにも鮮明に残る記憶を消すことなんて、絶対に無いし出来ない。
私は、仲間達と共にまたあの時の悲しみをユウナに抱いてしまうのだろうか……
ブラスカ、ここにいるのなら、私にあなたの魂を感じさせて欲しい。
手に入れたこの力で、私はまだブラスカを感じることが出来ずにいる。
あれから10年もの時間が流れて、それでもスピラは相変わらずあの時のままだ。
違う召喚士のガードとして、数度旅に出る人間は多くいるだろう。
ルールーやワッカもそうだ。
だが、アーロンと私は最後の最後まで共に到達し、召喚士が迎える覚悟の瞬間にも立ち会った。
また、そんな瞬間を召喚士に迎えさせることが、許されるだろうか。
命を落とすために旅をしている召喚士を守るガードという立場でありながら、結局はその最後の瞬間を迎える為にその場所へと導いている。
召喚士の命を守りたいのなら、旅になど出さなければいいというのに……
私とアーロンがここにユウナを連れてきた意図を、ユウナは分かってくれるだろうか?
「…連れてきたぞ」
「約束通り、な」
「?」
アーロンと私の言葉の意味がわからないのか、ユウナは不安を隠すことも忘れて私達の名を呼ぶ。
「ユウナ、ユウナには何度も話をした。知って欲しいと思ったから。知るべきだと思ったから」
「あの時の俺達は無力だった。あの巨大な姿を前にして、1人や2人の小さな人間が立ち向かったところで何かできるわけでもないからな」
「召喚士が求める究極召喚の力を目の当たりにして、私はただ見てることしかできなかった。助けることもできなかった。
…結局、使わせてしまった…」
そこまで話してユウナは理解したのだろう。
深く、ゆっくりと丁寧に、綺麗に、祈りを捧げた。
下げた頭がいつまでも上がらない。
そして、俯いたままの顔からポタリと一滴、地面に染みを落とした。
「シンの体が少しずつ崩れて、幻光虫となり空へ還っていく中、ブラスカもまた異界へ旅立った。異界送りはされなかったけど、異界で会ってきたんだろ?」
「…はい」
ユウナの涙に濡れた顔を見ても、不思議と涙は出なかった。
その場にユウナを一人にしてやろうとしたのだが、ユウナはそれを望まなかった。
「父さんの魂はもうここには無いから。それに、みんな心配してるだろうし…」
「そうか」
「…うん」
「でも帰り道は心配ない」
「え?」
「そろそろ来る頃だ」
アーロンの言葉に後ろを振り返る。
遠くのほうから黄色の何かが走ってくる。
「キマリに迎えを頼んでおいた。」
「わあぁ!!」
「……勘弁してくれ…」
あからさまに喜ぶユウナとは反対に私の気分はここの谷底より深く落ち込んだ。
キマリの長い足に守られるように座ったユウナは、チョコボに揺られてご機嫌のようだ。
一方私はなんとか乗らなくて済むようにしたかったのだが…。
ミヘン街道であれだけ怖い思いを経験したのだ。
できればもう乗りたくはない。
キマリが連れてきたもう一羽のチョコボに、さっさと跨がったアーロンが私の隣で乗るように催促する。
私は頑として乗ることを拒み、歩き出した。
「乗らんのか?」
「何だよその顔…、苦手だとわかってんならほっといてくれ。」
「お前の為を思って言ってるんだがな」
「?」
そう言ってアーロンはどこかを指差した。
その方向に目を向けると、そう遠くない所で犬のような魔物が、うねうねと蠢くたくさんの触手を待つ不気味な植物の魔物の巨大な口に食われる瞬間が目に飛び込んできた。
「!!」
「もたもたしてると、次の餌食はお前だな」
他人事のようにどこかにやにやしながら言う言葉に背筋がぞっとする。
あれは確かモルボルとかいう植物の化け物。
とんでもないステータス異常を引き起こす毒息を吐く魔物だ。しかもああ見えてかなり移動速度は速い。
…そうだった、このナギ平原にはあいつがいるんだった…
仕方がないとばかりに溜息を吐きつつ、憮然とした顔のままアーロンの背中にしがみついた。
「できるだけゆっくり行くようにして欲しいんだが…」
「さっさと行ってしまったほうが早く降りられると思うが?」
あぁ、どうしてこいつはこうも意地が悪いんだろうか。
走ることが出来ないチョコボはどこか不満そうに鳴き声を漏らした。
公司に着いたら少年にバトンタッチすればストレス発散程度には乗り回して貰えるだろう。
10年たっても、ナギ平原はあの時と何も変わらない。
スピラは変わらない。
変わったのは、私の心だけだ。
つい数年前まではここを通る度に涙が流れたのに、ユウナの流す涙を見ても、悲しいとは感じても涙までは出なくなってしまった。
…それでも、忘れないよ、ブラスカ、ジェクト、ここで最後に闘った日のことを。
ここで別れた辛く悲しい日のことを・・・・・
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