第5章【ベベル~ナギ平原】
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広い大地と強い意志
=47=
辺りがすっかり明るくなって、深い森の最深部にも日の光が届くようになって来た頃、ようやく今日一番の寝ぼすけが起きてきた。
みんなが揃ったところで簡単な朝食を取る。
まだ半分寝ぼけたようなリュックが唐突に聞いてきた。
「…ラフテルとおっちゃんってさ…、 …けっこんしてんの?」
「ぶふっ!!!」
「………」
丁度タイミングよく飲み物を口にしていた私は盛大に中身を噴出し、アーロンは眉間の皴を一層深くさせた。
「リュック!」
「えー、だってさ~」
諌めるようにルールーは名を呼ぶが、他のみんなも興味津々だ。
少々咽ながら噴出してしまった飲み物を拭い取る。
アーロンは我関せずといった顔をして、何も言わずにさっさと出立の支度を始めた。
「10年前も一緒に旅してたんでしょ~。いっつも一緒にいるしさ、戦闘んときだって、息ぴったり~って感じだし、それに…」
「?」
「昨夜はおっそくまで戻らなかったしさ~。」
すっかり覚醒したのか、にやにやと笑いを浮かべている。
ユウナや少年は何か思い当たる節があるのか、急に2人とも顔を真っ赤にして誤魔化すように独り言を言いながらその場を離れた。
「先の様子を見てくる」
キマリまでさっさと歩き出した。
ルールーとワッカは顔を見合わせ、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「…ケホッ、あ、あのな、リュック、あいつと会うのは10年振りなんだよ。同じ様に旅をしてれば色々と懐かしい話題が出るだけだ」
咽ながら、若いリュックの幼い素直で純粋な問い掛けに参ってしまう。
「え、じゃあ…」
「リュック、…今はそういう話、あまりしないほうがいいと思うわ」
「うんうん」
ルールーがユウナのほうをチラリと見てから、小声でリュックにそう伝える。
ワッカがそれに同意するように激しく頷いてみせる。
リュックは自分が軽々しく口にしてしまった言葉の意味に気付いたのか、しゅんと項垂れてしまった。
「…ごめん」
「いいよ、それに、謝らなくてもいい。変な気遣いはユウナに余計なことを考えさせる」
「…うん」
「じゃ、行こっか、ユウナが待ってる」
一夜を明かした森を抜け、ベベル方面との分かれ道に出る前に、少し辺りの様子を伺う。
先に進んでいたキマリが戻ってきて、予定の進路方面の道は大丈夫だと伝えた。
マカラーニャの森を抜けると、頬をすり抜ける風の匂いが変わったのが明らさまにわかる。
薄暗い森は姿を消し、代わりに青々とした緑の絨毯が現われる。
目に映る景色は一変し、遥か遠くまで見渡せる広い、とても広い平原。
その奥に聳える雪を湛えた真っ白な険しい山脈。
それまでの景色を『幻想的』と表現するならば、この地の表現は『雄大』、だろうか。
ナギ平原。
ここにも正式な名称があったが、ずっとその愛称で呼ばれることのほうが多くなってしまい、いつしかそれが正式な名称のようになった。
これまで多くの召喚士がシンと闘い、命を落とした場所、ナギ節を生み出した場所。
異界送りもされないまま、ここに想いを残した者数知れず。
そして魔物となって彷徨うものも多い。
ここでどれだけの人間が命を落としたのだろう、喜びに浸ったのだろう、悲しみに暮れたのだろう…
私には、ここはベベルでの思い出以上の悲しみの記憶しかない。
10年前に初めて訪れたときの記憶なんて、ほとんど残っていない。
目的地が近い、なんとかしなければ、ずっとそんなことを考えていた。
そして、あの日…
今のスピラの一番新しいナギ節が始まったあの日…
私はそれまで生きてきた中で一番辛い瞬間を向かえ、一番悲しい思いを味わった日。
「私は、迷わないよ…」
ユウナが空に向かって呟いた言葉は、自分の中で遥か遠いどこか別のところから聞こえてくるような気がした。
ユウナにとっての本来の目的への旅が再開された。
ユウナは悩んだことだろう。
このまま旅を続けて意味があるのだろうか、と。
ブラスカと共に旅をした時は勿論、エボンの真実なんて誰も何も知らなくて、ただ希望だけを夢見て前に進むことが出来た。
だが真実を知った召喚士は、旅の終わりに待つ覚悟が無意味だということがわかったとして、その後も旅を続けられるだろうか?
世界の平和のためへの己の犠牲という意味ならば、その覚悟は報われるかもしれない。
しかし、このエボンの目指すものは、“一時のまやかし”でしかないのだ。
1000年という長い長い年月、ずっとシンという脅威とともに生きてきたスピラが求めたのは真の平和であるはずなのに、
スピラにエボンの教えを広め、平和を促すはずの寺院が行ってきたことは、何も変わらぬこと。
何も変わらぬから、スピラの民はシンという脅威があることが当たり前として生きている。
そんなこと、本当は誰も望んではいないのに…
大き目の簡易テントをいくつか並べただけの小さな旅行公司は、それでもきちんとその役目を果たしている。
私も何度か世話になってきたが、10年前に初めて訪れたときはもっと小さかった。
年々少しづつ大きくなってきているようにも感じられるこの小さな旅行公司が、他の地域に点在する支店のように立派な店構えとなる日も近そうだ。
その公司で小休憩。
すると、ベベル方面から1人の僧が歩いてくるのが遠目にも見えた。
たった1人でこの広い平原を歩くなんて少々無謀だ。
思っているうちに、僧は魔物に見つかってしまい、襲撃を受けている。
反射的にヤバイと思って武器に手を掛け、飛び出そうとした。
私の動きに気が付いた仲間達が視線を向ける。
どうやら私の心配はいらぬ世話だったようだ。
その僧は見事に魔法で魔物たちを撃退してしまい、何事も無かったかのように公司に近付いた。
「!! 先生!」
「…ズーク…」
「「…知ってるの!?」」
思わずルールーと顔を見合わせてしまう。
ズークはベベルの寺院の僧官だ。
ブラスカのナギ節の後、次期大召喚士候補として訓練を受けていた。
ユウナの顔を見に来たらしい。
ベベルの今の現状を簡単に伝え、ルールーに励ましの声を掛けると、私に向き合った。
「やあ、ラフテル、元気かい?」
この人は、私がブラスカと旅をしたことを知っている。でも、その後の私がベベルでどういう扱いを受けていたのかは、知らない。
私もガードになるべく同じ様に訓練を受けていたから、彼の存在は知っていたが、そんな程度でしかない。
それなのに、どうして随分と親しそうに話しかけるんだろう?
「君もガードについてくれてるとは、ユウナさんは本当に心強いだろう。…できれば、私のときもぜひガードとして同行して貰いたかったよ」
「…私は、彼女以外にもうガードを勤める気はありません。ブラスカとの約束だからというのもありますが、ユウナに希望を託したんです」
「…希望?勿論、シンを倒す為に…」
「いえ、シンが復活するのを止める、希望です」
「「「!!」」」
「………なんと!」
「どんな方法があるかなんて、実はまだ分かりません。…でも、彼女ならきっと…!」
「…そうか。 …そうなったら、召喚士とガードは旅をしなくても済む、か」
「はい」
「…わかった。私も期待しよう!ユウナさん、宜しく、お願いします」
「…はい!」
ユウナは笑顔で、強い意志の篭った瞳で返事を返した。
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辺りがすっかり明るくなって、深い森の最深部にも日の光が届くようになって来た頃、ようやく今日一番の寝ぼすけが起きてきた。
みんなが揃ったところで簡単な朝食を取る。
まだ半分寝ぼけたようなリュックが唐突に聞いてきた。
「…ラフテルとおっちゃんってさ…、 …けっこんしてんの?」
「ぶふっ!!!」
「………」
丁度タイミングよく飲み物を口にしていた私は盛大に中身を噴出し、アーロンは眉間の皴を一層深くさせた。
「リュック!」
「えー、だってさ~」
諌めるようにルールーは名を呼ぶが、他のみんなも興味津々だ。
少々咽ながら噴出してしまった飲み物を拭い取る。
アーロンは我関せずといった顔をして、何も言わずにさっさと出立の支度を始めた。
「10年前も一緒に旅してたんでしょ~。いっつも一緒にいるしさ、戦闘んときだって、息ぴったり~って感じだし、それに…」
「?」
「昨夜はおっそくまで戻らなかったしさ~。」
すっかり覚醒したのか、にやにやと笑いを浮かべている。
ユウナや少年は何か思い当たる節があるのか、急に2人とも顔を真っ赤にして誤魔化すように独り言を言いながらその場を離れた。
「先の様子を見てくる」
キマリまでさっさと歩き出した。
ルールーとワッカは顔を見合わせ、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「…ケホッ、あ、あのな、リュック、あいつと会うのは10年振りなんだよ。同じ様に旅をしてれば色々と懐かしい話題が出るだけだ」
咽ながら、若いリュックの幼い素直で純粋な問い掛けに参ってしまう。
「え、じゃあ…」
「リュック、…今はそういう話、あまりしないほうがいいと思うわ」
「うんうん」
ルールーがユウナのほうをチラリと見てから、小声でリュックにそう伝える。
ワッカがそれに同意するように激しく頷いてみせる。
リュックは自分が軽々しく口にしてしまった言葉の意味に気付いたのか、しゅんと項垂れてしまった。
「…ごめん」
「いいよ、それに、謝らなくてもいい。変な気遣いはユウナに余計なことを考えさせる」
「…うん」
「じゃ、行こっか、ユウナが待ってる」
一夜を明かした森を抜け、ベベル方面との分かれ道に出る前に、少し辺りの様子を伺う。
先に進んでいたキマリが戻ってきて、予定の進路方面の道は大丈夫だと伝えた。
マカラーニャの森を抜けると、頬をすり抜ける風の匂いが変わったのが明らさまにわかる。
薄暗い森は姿を消し、代わりに青々とした緑の絨毯が現われる。
目に映る景色は一変し、遥か遠くまで見渡せる広い、とても広い平原。
その奥に聳える雪を湛えた真っ白な険しい山脈。
それまでの景色を『幻想的』と表現するならば、この地の表現は『雄大』、だろうか。
ナギ平原。
ここにも正式な名称があったが、ずっとその愛称で呼ばれることのほうが多くなってしまい、いつしかそれが正式な名称のようになった。
これまで多くの召喚士がシンと闘い、命を落とした場所、ナギ節を生み出した場所。
異界送りもされないまま、ここに想いを残した者数知れず。
そして魔物となって彷徨うものも多い。
ここでどれだけの人間が命を落としたのだろう、喜びに浸ったのだろう、悲しみに暮れたのだろう…
私には、ここはベベルでの思い出以上の悲しみの記憶しかない。
10年前に初めて訪れたときの記憶なんて、ほとんど残っていない。
目的地が近い、なんとかしなければ、ずっとそんなことを考えていた。
そして、あの日…
今のスピラの一番新しいナギ節が始まったあの日…
私はそれまで生きてきた中で一番辛い瞬間を向かえ、一番悲しい思いを味わった日。
「私は、迷わないよ…」
ユウナが空に向かって呟いた言葉は、自分の中で遥か遠いどこか別のところから聞こえてくるような気がした。
ユウナにとっての本来の目的への旅が再開された。
ユウナは悩んだことだろう。
このまま旅を続けて意味があるのだろうか、と。
ブラスカと共に旅をした時は勿論、エボンの真実なんて誰も何も知らなくて、ただ希望だけを夢見て前に進むことが出来た。
だが真実を知った召喚士は、旅の終わりに待つ覚悟が無意味だということがわかったとして、その後も旅を続けられるだろうか?
世界の平和のためへの己の犠牲という意味ならば、その覚悟は報われるかもしれない。
しかし、このエボンの目指すものは、“一時のまやかし”でしかないのだ。
1000年という長い長い年月、ずっとシンという脅威とともに生きてきたスピラが求めたのは真の平和であるはずなのに、
スピラにエボンの教えを広め、平和を促すはずの寺院が行ってきたことは、何も変わらぬこと。
何も変わらぬから、スピラの民はシンという脅威があることが当たり前として生きている。
そんなこと、本当は誰も望んではいないのに…
大き目の簡易テントをいくつか並べただけの小さな旅行公司は、それでもきちんとその役目を果たしている。
私も何度か世話になってきたが、10年前に初めて訪れたときはもっと小さかった。
年々少しづつ大きくなってきているようにも感じられるこの小さな旅行公司が、他の地域に点在する支店のように立派な店構えとなる日も近そうだ。
その公司で小休憩。
すると、ベベル方面から1人の僧が歩いてくるのが遠目にも見えた。
たった1人でこの広い平原を歩くなんて少々無謀だ。
思っているうちに、僧は魔物に見つかってしまい、襲撃を受けている。
反射的にヤバイと思って武器に手を掛け、飛び出そうとした。
私の動きに気が付いた仲間達が視線を向ける。
どうやら私の心配はいらぬ世話だったようだ。
その僧は見事に魔法で魔物たちを撃退してしまい、何事も無かったかのように公司に近付いた。
「!! 先生!」
「…ズーク…」
「「…知ってるの!?」」
思わずルールーと顔を見合わせてしまう。
ズークはベベルの寺院の僧官だ。
ブラスカのナギ節の後、次期大召喚士候補として訓練を受けていた。
ユウナの顔を見に来たらしい。
ベベルの今の現状を簡単に伝え、ルールーに励ましの声を掛けると、私に向き合った。
「やあ、ラフテル、元気かい?」
この人は、私がブラスカと旅をしたことを知っている。でも、その後の私がベベルでどういう扱いを受けていたのかは、知らない。
私もガードになるべく同じ様に訓練を受けていたから、彼の存在は知っていたが、そんな程度でしかない。
それなのに、どうして随分と親しそうに話しかけるんだろう?
「君もガードについてくれてるとは、ユウナさんは本当に心強いだろう。…できれば、私のときもぜひガードとして同行して貰いたかったよ」
「…私は、彼女以外にもうガードを勤める気はありません。ブラスカとの約束だからというのもありますが、ユウナに希望を託したんです」
「…希望?勿論、シンを倒す為に…」
「いえ、シンが復活するのを止める、希望です」
「「「!!」」」
「………なんと!」
「どんな方法があるかなんて、実はまだ分かりません。…でも、彼女ならきっと…!」
「…そうか。 …そうなったら、召喚士とガードは旅をしなくても済む、か」
「はい」
「…わかった。私も期待しよう!ユウナさん、宜しく、お願いします」
「…はい!」
ユウナは笑顔で、強い意志の篭った瞳で返事を返した。
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