第5章【ベベル~ナギ平原】
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2人だけの“時間”という意味
=46=
「ユウナは?」
「あぁ、戻った。もう休んでる」
「そっか」
ユウナの精神はそうとう参っているだろう。まだ歳若い少女に今回のような出来事は負担やショックが大きいだろう。
あれだけ、生まれた瞬間から信じていた、それが当たり前だと思ってきた世界に裏切られた、裏の真実を知ってしまったのだから。
暫くの沈黙の後、アーロンが自分の腰に下げた徳利から酒を飲み始めた。
「あんたはなんでここに?」
「あのバカ(ティーダ)と一緒だ。お前を心配したやつらが様子を見てきて欲しそうだったのでな」
「…フフ」
「…?何がおかしい」
「みんなに言われなかったとしても、こっそり探しに来たんだろうな、と」
小さく笑いながら隣にいる奴の顔を見上げた。
そこにあったあの瞳。
吸い込まれそうになる感覚に力が入らなくなる。
瞳が近付いてくる。
後頭部に当てられた掌に力が込められる。
突然覆い被さるように唇に伝わる熱。
同時に口内に侵入してくる物体。
熱い液体が流れ込んで口の中を満たす。
塞がれたままの状態で口いっぱいに流れ込んできたそれを飲み込むしかできない。
「!?」
酒だ。
さっきから横で飲み続けてた酒。
奴を拒むように肩や胸を押し返そうとするが、奴は逆にこちらにのし掛かるように体重を預けてくる。
回された腕にがっちりと押さえ付けられて身動きが取れない。
口内を這回る何か別の生き物のような舌から香るフワリとした酒の匂い。
全てを覆いつくすように塞がれた口からは声も漏れない。
突然のことに驚いて、思わず閉じた目をゆっくりと開くと、大きなキズと熱の籠った1つだけの目があった。
喉の奥から出た声が鼻から吐息のように漏れる。
呼吸が上手くできずに苦しさを覚え、次第に体に力が入らなくなってくる。
漸く拘束していた腕の力が緩み、口が解放された。
頭がクラクラするような感覚と力の入らない私は、息を少々荒げたまま未だしがみつくように抱き付いているこいつを睨み付けた。
「酒が足りんならもっと飲ませてやる」
「…そうだな、猪口があんたの口じゃなかったら喜んで飲むところなんだがな」
「…フッ、話す気になったと取っていいんだな」
「…まぁ、素直にその中身だけくれるって言うなら」
私は傍らに置かれた奴の白磁の徳利を指差した。
「ガガゼトの麓で仕込まれる酒は天下一品なんだってね」
顔をしかめただけで返事を返さない男を払いのけてそこにあった徳利に手を伸ばす。
体勢を戻したところを見ると話を聞く準備といったところか。
私が酒を口にすることには問題なさそうだ。
私は遠慮無く徳利を傾け先程こいつがしたように豪快に中身を煽った。
「キノックは、…あんな奴だが、それでも昔はいい奴だった」
「……うん、知ってる」
ベベルの訓練所でアーロンよりも親しみを持てたのは、キノックだったから。
「なぜ奴までもが殺されねばならなかったんだ…。…お前は、何か知ってるようだったが?」
「……キノックと、とある老師の1人が水面下で権力争いをしてるって噂を耳にした。ケルクやマイカだとは、考えられないんだ」
私の言葉で、アーロンは沈黙してしまった。
そして小さく溜息を零す。
「…何もかも、俺のせい、かもしれん」
「なぜ、と聞いてもいいのか?」
「お前も全てを話したら、な」
「さっきも言ったろ? …時が来たら話す」
「時間がないと言ったのはお前だ」
「…まぁそうだけど」
「あいつが言った、シーモアの言葉の意味は、どういうことだ」
「…あいつがどうしてユウナをしつこく狙うのかは…」
「共に旅をして絆を深め、己が祈り子になりユウナに究極召喚を発動させる。そして、シンとなる」
「…うん」
「だが、どうしてそこにお前が出てくる?奴はお前に何をさせる気だ?」
「……あいつは、わたしに言った。『もっと生きたくはないか?』と…」
そこで言葉が途切れる。アーロンも言葉を発しない。
私が出した言葉を整理して理解しようとしているのか、眉間に皴が寄る。
しばし沈黙が続いた。
互いの言葉で気付かなかったが、静かになったことで森が生きている音が耳に届く。
ここに1人で来て1人思い出にふけっている時も、それどころではなかった。だから、気付かなかった。
風の音、水の音、動物たち、虫たちの声、硬質な森の木々が奏でるクリスタルの響き、遠くのほうの魔物の唸り声。
森が生きているんだと感じる。
間もなく私も私の時間は止まる。隣にいる温かい存在でさえ、本来ならばここにいるはずのないもの。
この生命に溢れた豊かな恵みの中で、自分たちだけが場違いな存在のように思えて仕方がない。
ここにいていいのだろうかと自責する。
「……お前は、 ……また、 ……」
途切れ途切れに小さく呟いたアーロンの声が、知りたかった答えだと。
だがそれを言葉にすることができない、したくはない…。
そんな感情が含まれた、小さな返答。
力強い腕が回され、私はまた隣の男の胸に包まれる。
貰った酒はかなり強いものだったようで、それに抗うことが出来なくなってしまっていた。
胸がきゅうと高鳴る。喉の奥から何かが飛び出そうな感覚に陥る。
苦しいような、それでも心地良いような、強い力で抱き締められているというのに、もっともっと強く抱いて欲しいと思ってしまう。
耳元に寄せられた口から、低い優しい囁きが洩れる。
「いつかの答えを、聞かせてもらおうかと思ったが…」
「?」
「答えなどいらん。 …拒否はゆるさん。お前の時間は、俺が貰う」
「!!」
「あいつになんぞ、くれてやるわけには、いかんな」
胸が張り裂けそう、ってこんな感じなんだろうか?
緩められた腕はそれでも私を放さず、また覆いかぶさるように唇を奪う。
激しく、荒々しく、そして、優しく……
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「ユウナは?」
「あぁ、戻った。もう休んでる」
「そっか」
ユウナの精神はそうとう参っているだろう。まだ歳若い少女に今回のような出来事は負担やショックが大きいだろう。
あれだけ、生まれた瞬間から信じていた、それが当たり前だと思ってきた世界に裏切られた、裏の真実を知ってしまったのだから。
暫くの沈黙の後、アーロンが自分の腰に下げた徳利から酒を飲み始めた。
「あんたはなんでここに?」
「あのバカ(ティーダ)と一緒だ。お前を心配したやつらが様子を見てきて欲しそうだったのでな」
「…フフ」
「…?何がおかしい」
「みんなに言われなかったとしても、こっそり探しに来たんだろうな、と」
小さく笑いながら隣にいる奴の顔を見上げた。
そこにあったあの瞳。
吸い込まれそうになる感覚に力が入らなくなる。
瞳が近付いてくる。
後頭部に当てられた掌に力が込められる。
突然覆い被さるように唇に伝わる熱。
同時に口内に侵入してくる物体。
熱い液体が流れ込んで口の中を満たす。
塞がれたままの状態で口いっぱいに流れ込んできたそれを飲み込むしかできない。
「!?」
酒だ。
さっきから横で飲み続けてた酒。
奴を拒むように肩や胸を押し返そうとするが、奴は逆にこちらにのし掛かるように体重を預けてくる。
回された腕にがっちりと押さえ付けられて身動きが取れない。
口内を這回る何か別の生き物のような舌から香るフワリとした酒の匂い。
全てを覆いつくすように塞がれた口からは声も漏れない。
突然のことに驚いて、思わず閉じた目をゆっくりと開くと、大きなキズと熱の籠った1つだけの目があった。
喉の奥から出た声が鼻から吐息のように漏れる。
呼吸が上手くできずに苦しさを覚え、次第に体に力が入らなくなってくる。
漸く拘束していた腕の力が緩み、口が解放された。
頭がクラクラするような感覚と力の入らない私は、息を少々荒げたまま未だしがみつくように抱き付いているこいつを睨み付けた。
「酒が足りんならもっと飲ませてやる」
「…そうだな、猪口があんたの口じゃなかったら喜んで飲むところなんだがな」
「…フッ、話す気になったと取っていいんだな」
「…まぁ、素直にその中身だけくれるって言うなら」
私は傍らに置かれた奴の白磁の徳利を指差した。
「ガガゼトの麓で仕込まれる酒は天下一品なんだってね」
顔をしかめただけで返事を返さない男を払いのけてそこにあった徳利に手を伸ばす。
体勢を戻したところを見ると話を聞く準備といったところか。
私が酒を口にすることには問題なさそうだ。
私は遠慮無く徳利を傾け先程こいつがしたように豪快に中身を煽った。
「キノックは、…あんな奴だが、それでも昔はいい奴だった」
「……うん、知ってる」
ベベルの訓練所でアーロンよりも親しみを持てたのは、キノックだったから。
「なぜ奴までもが殺されねばならなかったんだ…。…お前は、何か知ってるようだったが?」
「……キノックと、とある老師の1人が水面下で権力争いをしてるって噂を耳にした。ケルクやマイカだとは、考えられないんだ」
私の言葉で、アーロンは沈黙してしまった。
そして小さく溜息を零す。
「…何もかも、俺のせい、かもしれん」
「なぜ、と聞いてもいいのか?」
「お前も全てを話したら、な」
「さっきも言ったろ? …時が来たら話す」
「時間がないと言ったのはお前だ」
「…まぁそうだけど」
「あいつが言った、シーモアの言葉の意味は、どういうことだ」
「…あいつがどうしてユウナをしつこく狙うのかは…」
「共に旅をして絆を深め、己が祈り子になりユウナに究極召喚を発動させる。そして、シンとなる」
「…うん」
「だが、どうしてそこにお前が出てくる?奴はお前に何をさせる気だ?」
「……あいつは、わたしに言った。『もっと生きたくはないか?』と…」
そこで言葉が途切れる。アーロンも言葉を発しない。
私が出した言葉を整理して理解しようとしているのか、眉間に皴が寄る。
しばし沈黙が続いた。
互いの言葉で気付かなかったが、静かになったことで森が生きている音が耳に届く。
ここに1人で来て1人思い出にふけっている時も、それどころではなかった。だから、気付かなかった。
風の音、水の音、動物たち、虫たちの声、硬質な森の木々が奏でるクリスタルの響き、遠くのほうの魔物の唸り声。
森が生きているんだと感じる。
間もなく私も私の時間は止まる。隣にいる温かい存在でさえ、本来ならばここにいるはずのないもの。
この生命に溢れた豊かな恵みの中で、自分たちだけが場違いな存在のように思えて仕方がない。
ここにいていいのだろうかと自責する。
「……お前は、 ……また、 ……」
途切れ途切れに小さく呟いたアーロンの声が、知りたかった答えだと。
だがそれを言葉にすることができない、したくはない…。
そんな感情が含まれた、小さな返答。
力強い腕が回され、私はまた隣の男の胸に包まれる。
貰った酒はかなり強いものだったようで、それに抗うことが出来なくなってしまっていた。
胸がきゅうと高鳴る。喉の奥から何かが飛び出そうな感覚に陥る。
苦しいような、それでも心地良いような、強い力で抱き締められているというのに、もっともっと強く抱いて欲しいと思ってしまう。
耳元に寄せられた口から、低い優しい囁きが洩れる。
「いつかの答えを、聞かせてもらおうかと思ったが…」
「?」
「答えなどいらん。 …拒否はゆるさん。お前の時間は、俺が貰う」
「!!」
「あいつになんぞ、くれてやるわけには、いかんな」
胸が張り裂けそう、ってこんな感じなんだろうか?
緩められた腕はそれでも私を放さず、また覆いかぶさるように唇を奪う。
激しく、荒々しく、そして、優しく……
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