第5章【ベベル~ナギ平原】
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悲しい記憶の中の優しい森
=45=
少年が森の奥へ入っていく後姿を静かに見守り、私はワッカやリュックと同じ様にその場に腰を下ろした。
「ラフテル」
それと同時に低い声が私の名を呼ぶ。
何?と返事を返す前にアーロンが続けた。
「奴が言ってた意味は何だ。話せ」
同意するようにルールーやリュック、ワッカも頷きながらこちらに視線を向ける。
「…どうしても、話さなきゃダメ、か…?」
小さく溜息を吐きながら言う。
「どうしても、ってか、できれば知りたいっつーか」
「無理に、とは言わないけど、やっぱり少し気になるわ」
「ラフテル~、あたしたち仲間でしょ~」
仲間達の言葉が身に沁みる。
「…奴は、また俺たちの前に現れる」
「えっ!! マジかよ!?」
「えー、ほんっとしつこいな~」
「当然ね、異界送りされない限りは…」
「………」
何も答えない私をいぶかしむ仲間の視線が痛い。
「…言いたくない。今は、まだ」
「…ラフテル」
「………」
「時期が来たら。…その時が来たら、言うよ」
私は立ち上がった。
「ラフテル?」
「……ごめん、私も少し、ひとりになりたい」
「あぁ、あまり遠くへは行くな」
「…うん、ごめん」
歩き出した私の後ろから、簡単に許したアーロンに問いかけるルールーとワッカの声が聞こえてきた。
「…10年前のことを思い出しているんだ。そっとしておいてやれ」
それに答えるアーロンの声も…。
口元だけで小さな笑みを浮かべると、私はみんなから隠れるように森の奥へ足を進めた。
ひとりになって、考えたい。
……何を?
この森に残る記憶は悲しくて辛いものばかり。
ここにいる限り、私はこの記憶に囚われたまま抜け出すことなんて出来ないだろう。
それなのに、またこうしてわざわざ1人になっている。
仲間が、そこにいるのに。
話してくれと、手を差し伸べてくれているのに、私はその好意を無碍にして切り捨てる。
ベベルの地下で、仲間の存在をあれだけ嬉しく思っていたというのに、いざその仲間が自分に、自分のために何かをしてくれることが煩わしい。
放っておいて欲しいと感じる。
本当は、力を貸して貰いたいのに。助けて欲しいのに……
「…素直じゃないな、私は……」
ベベルから逃げて逃げて無我夢中で走って、大きな古い木の根元まで来て、そして、泣いた。
あの日のことは、今でも忘れられない。
思い出なんて呼べるシロモノじゃない、悲しい辛い記憶。
それでもそれは決して消えない消せない真実の過去。
目を背ける訳にはいかない。
わかってる、わかってた…。
あれからもう10年もの時が過ぎて、心に負ったキズなんて見えなくなったはずなのに、どうしてこうもこの記憶は私を捉えて離さないんだろう。
たった一人でどれだけの涙を流したのだろう。
あの時のあの場所。
変わらずにそこにある小さな私の私だけの空間。
誰に邪魔されることもなく、自由になれた私だけの居場所。
ほんの少し空いた木の梢の隙間から優しい月の光が差し込んできて、10年前と同じように座り込む私を静かに照らした。
誰かに答えを求めるのはもうやめる。
そう決めたはず。
10年前の記憶も涙と一緒にここに置いていってしまえばいい。
ならば、せめて今だけは、泣いてもいいかな?
私の中の辛い記憶悲しい思い出を吐き出すために。
ふと異界の匂いに気付く。
魔物か?と一瞬警戒して顔を上げる。
目の前をにじ色の光を放ちながらフワフワと幻光虫がとんでいく。
何気なくそれを目で追った先にあった、赤。
「どう、して…?」
赤い服を着た人物の回りを幻光虫はまるで遊んでいるかのように飛び回る。
暗い森の中でその人物の姿を必死に照らそうとしているようにも見えた。
淡い光に照らされた顔に見える、私をじっと見つめる優しい眼差し。
またそんな目で私を捕らえる。
いつの間に歩み寄ったのか、呆けていた私が気付かなかっただけなのか、はっと我に返った時にはアーロンはすぐ近くで片膝をついていた。
「話せ」
「…何を?」
真剣な眼差しに変わった途端にかけてきた声にすぐに返す。
「とぼけても無駄だ」
「話すことなんて何もない」
「お前は酒が入ると饒舌になるがな」
「素面のときは口が固いってこと?」
沈黙は肯定の証なんて誰が言ったっけ?
何も言わないアーロンから視線を外して、立てた膝の上に落とした頭を自らの両腕で抱え込んだ。
「邪魔をしたか?」
顔を俯けたまま頭を否定の意味で左右に振る。
そうだ、一人になりたいと言って離れたんだった。
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少年が森の奥へ入っていく後姿を静かに見守り、私はワッカやリュックと同じ様にその場に腰を下ろした。
「ラフテル」
それと同時に低い声が私の名を呼ぶ。
何?と返事を返す前にアーロンが続けた。
「奴が言ってた意味は何だ。話せ」
同意するようにルールーやリュック、ワッカも頷きながらこちらに視線を向ける。
「…どうしても、話さなきゃダメ、か…?」
小さく溜息を吐きながら言う。
「どうしても、ってか、できれば知りたいっつーか」
「無理に、とは言わないけど、やっぱり少し気になるわ」
「ラフテル~、あたしたち仲間でしょ~」
仲間達の言葉が身に沁みる。
「…奴は、また俺たちの前に現れる」
「えっ!! マジかよ!?」
「えー、ほんっとしつこいな~」
「当然ね、異界送りされない限りは…」
「………」
何も答えない私をいぶかしむ仲間の視線が痛い。
「…言いたくない。今は、まだ」
「…ラフテル」
「………」
「時期が来たら。…その時が来たら、言うよ」
私は立ち上がった。
「ラフテル?」
「……ごめん、私も少し、ひとりになりたい」
「あぁ、あまり遠くへは行くな」
「…うん、ごめん」
歩き出した私の後ろから、簡単に許したアーロンに問いかけるルールーとワッカの声が聞こえてきた。
「…10年前のことを思い出しているんだ。そっとしておいてやれ」
それに答えるアーロンの声も…。
口元だけで小さな笑みを浮かべると、私はみんなから隠れるように森の奥へ足を進めた。
ひとりになって、考えたい。
……何を?
この森に残る記憶は悲しくて辛いものばかり。
ここにいる限り、私はこの記憶に囚われたまま抜け出すことなんて出来ないだろう。
それなのに、またこうしてわざわざ1人になっている。
仲間が、そこにいるのに。
話してくれと、手を差し伸べてくれているのに、私はその好意を無碍にして切り捨てる。
ベベルの地下で、仲間の存在をあれだけ嬉しく思っていたというのに、いざその仲間が自分に、自分のために何かをしてくれることが煩わしい。
放っておいて欲しいと感じる。
本当は、力を貸して貰いたいのに。助けて欲しいのに……
「…素直じゃないな、私は……」
ベベルから逃げて逃げて無我夢中で走って、大きな古い木の根元まで来て、そして、泣いた。
あの日のことは、今でも忘れられない。
思い出なんて呼べるシロモノじゃない、悲しい辛い記憶。
それでもそれは決して消えない消せない真実の過去。
目を背ける訳にはいかない。
わかってる、わかってた…。
あれからもう10年もの時が過ぎて、心に負ったキズなんて見えなくなったはずなのに、どうしてこうもこの記憶は私を捉えて離さないんだろう。
たった一人でどれだけの涙を流したのだろう。
あの時のあの場所。
変わらずにそこにある小さな私の私だけの空間。
誰に邪魔されることもなく、自由になれた私だけの居場所。
ほんの少し空いた木の梢の隙間から優しい月の光が差し込んできて、10年前と同じように座り込む私を静かに照らした。
誰かに答えを求めるのはもうやめる。
そう決めたはず。
10年前の記憶も涙と一緒にここに置いていってしまえばいい。
ならば、せめて今だけは、泣いてもいいかな?
私の中の辛い記憶悲しい思い出を吐き出すために。
ふと異界の匂いに気付く。
魔物か?と一瞬警戒して顔を上げる。
目の前をにじ色の光を放ちながらフワフワと幻光虫がとんでいく。
何気なくそれを目で追った先にあった、赤。
「どう、して…?」
赤い服を着た人物の回りを幻光虫はまるで遊んでいるかのように飛び回る。
暗い森の中でその人物の姿を必死に照らそうとしているようにも見えた。
淡い光に照らされた顔に見える、私をじっと見つめる優しい眼差し。
またそんな目で私を捕らえる。
いつの間に歩み寄ったのか、呆けていた私が気付かなかっただけなのか、はっと我に返った時にはアーロンはすぐ近くで片膝をついていた。
「話せ」
「…何を?」
真剣な眼差しに変わった途端にかけてきた声にすぐに返す。
「とぼけても無駄だ」
「話すことなんて何もない」
「お前は酒が入ると饒舌になるがな」
「素面のときは口が固いってこと?」
沈黙は肯定の証なんて誰が言ったっけ?
何も言わないアーロンから視線を外して、立てた膝の上に落とした頭を自らの両腕で抱え込んだ。
「邪魔をしたか?」
顔を俯けたまま頭を否定の意味で左右に振る。
そうだ、一人になりたいと言って離れたんだった。
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