第5章【ベベル~ナギ平原】
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その男異形につき
=43=
キマリの言葉に咄嗟に反応することが出来ない。
確かにこの状況はヤバイ。
逃げる為の方向にシーモアがいるのだから。
奴は簡単にはユウナ達を逃がしはしないだろう。
それでもこの段階で“逃げ”を選択したキマリに賛同したい。
ユウナを守るために、キマリは自分1人がシーモアを引き付けようとしているのだ。
これが、キマリの覚悟なら、私達はユウナを気絶させてでも“逃げ”を実行しなければならない。
「行け!!」
一番最後尾にいたアーロンはわかっていた。この状況を、キマリの覚悟を。
どうしたらいいのか、まだ少年は戸惑っているようだ。
時は一刻一秒を争う。
迷っている暇などないのだ。
それでも逡巡する少年を脅すように、アーロンは肩に担いだ厳つい太刀を少年の鼻先に向ける。
「行けと言っている!!」
埒が明かないとばかりに怒気を孕んだ低く太い声が広い場所に響いた。
私はユウナの手を取った。すぐにそのまま走り出した。
「あぁっ!」
驚きの声を上げた少年のほうを振り返ることも無く、槍を突きつけたキマリを追い越し、異界の匂いに包まれたグロテスクな姿のシーモアの横を、走り抜けた。
ユウナは声も上げることが出来ないのだろう。
苦しそうな呼吸音だけが聞こえてくる。
少し走ってユウナの手を離し、彼女の背中を突き飛ばすように押し出した。
そこで漸く後ろを振り返って確認する。
悔しそうな顔ですぐ後ろに迫ってきていた少年と、数歩遅れてルールーとワッカ、リュック、そして殿にアーロンが太刀を構えたまま走って来る。
キマリはずっとシーモアを睨みつけたままそこに繋ぎとめている。
…だが、ユウナ達がこのグレートブリッジを渡りきるまでに、シーモアから逃げることなど可能だろうか?
キマリには申し訳ないが、たった1人であの異変したシーモアを足止めすることなどできないと思う。
「くっそおおおおおおぉぉぉぉ!!」
一際悔しそうに少年が叫んだ。それでも足は止めない。
そうだ、それでいいんだ少年!走れ!逃げろ!!ユウナを守れ!!
皆が私を追い越して出口に向かって走っていくのを横目で見ながら、私は一瞬だけ合ったアーロンの瞳にドキリとする。
私を見つめるその動きがまるでスローモーションのようにゆっくりと流れていった。
一度瞑目して、キマリの元へ走る。
…あぁ、くそ!やっぱり武器が欲しい…!
鋭い眼差しでシーモアを睨みつけるキマリ。
すでにヒトの形をかろうじて留めているだけの、もはや魔物と呼べるようなシーモア。
2人は対峙したまま動かない。
そこに割って入った私に、キマリは恐らく驚いたのだろうが、ロンゾ族の獣のような顔では判別し難い。
だが、明らかにシーモアは笑った。
くつくつと喉の奥から搾り出すようにして笑い声を上げた。
「あなたのほうから私の元に戻ってきてくれるなんて、誠に嬉しく思いますよ」
よく見ると、奴の右肩の上の辺り、背中から覆いかぶさるようにしてバカでかい虫のような魔物がシーモアを守るように浮かんでいる。
これも幻光虫が作り出したものなのだろう。
重力に逆らい、フワリフワリと浮かびながら、実体があるのかないのか透けているようにも見える。
「私がここに戻ったのは、あんたに別れの餞別をくれてやるためだよ!『ファイラ!』」
シーモア目掛けて魔法を一発。武器がないのでとりあえず魔法でなんとかするしかない。
一瞬シーモアを炎が包み込んだように見えた。
しかしそれはシーモアを守るようにある異形の幻光虫、幻光異体とでも呼べばいいだろうか、それが空気を吸い込むようにして炎は取り込まれてしまった。
「!?」
「はあああああっっ!」
キマリが再び手にした長い槍でシーモアの体を切り裂く。
しかしそれも直前で幻光異体に防がれてしまった。
「…くっ」
キマリの悔しそうな声が私にも届く。
「キマリ!1人でかっこつけんな!」
「ラフテル!武器もないくせに無茶しちゃダメだよ!」
後ろから少年とリュックが側まで走りこんできた。
「あんたたち!」
少年は得意の素早い動きですぐさま攻撃に出た。
少年の動きに幻光異体はついていけないようで、シーモアの体に大きな傷を残した。
「ラフテル、これ!」
私の前にリュックが手にしていたものを突き出した。
「!!」
それは、とても見覚えのあるもの。ずっと使い込んできた私の獲物。
ベルトに刃合わせになるように固定された2本の小太刀。
「私達が放り込まれた水路で見つけたんだ」
「…ありがとう!」
リュックに礼を述べ、すぐに装着して構える。手に馴染んだ柄がしっとり濡れているが、かえってそれが握力を増すようで嬉しかった。
「お前が虫けらのように殺したキノックは…あれでも昔の友でな。 …仇は取らせてもらう」
「私はあなたと行く気はありません。異界へ、送ります」
追いついてきたアーロンとユウナも加わった。
自分の後方から物凄い勢いで飛んできたものが、幻光異体に当たった。ワッカの武器だ。
幻光異体はその姿を保っていられなくなったのか、禍々しい色の幻光虫を撒き散らしていく。
その隙を突いて、シーモア本体が真っ白な光に包まれて爆発するように破裂した。ルールーの無属性魔法が効いたのだ。
幻光異体がシーモア本体から幻光を吸い取り、再びその姿を取り戻した。
「くっそー!」
シーモアは仲間達の頭上に属性魔法の連激を立て続けに落とし、それを上手く避けたアーロンとキマリが同時に切り込んだ。
2人の攻撃はやはり幻光異体に防がれてしまうが、その一撃で再び姿を保っていられなくなる。
素早い動きでシーモアの懐に飛び込んだ少年が、お返しとばかりにシーモアに斬撃の連続技。
幻光異体はまたシーモアから幻光虫を吸い取って元に戻ってしまう。
「…キリがないな」
「だけど、あいつがあの姿を保つ為の幻光虫にも、限度があるはずだ」
「何度でもやってやるっスよ!!」
シーモアがそれまでの魔法攻撃のものとは明らかに違う構えを見せる。
『ブレイク』
放たれた魔法は少年を石に変えていく。
「…う、うわ、わっ、………」
慄いた表情のまま、少年はあっという間に石像と化してしまった。
「やばい、ユウナ、すぐにエスナかけて!」
少年目掛けて幻光異体が突進してきた。
前方にあるあの鋭い爪で攻撃を食らったら、こんな石像など簡単に砕かれてしまうだろう。
「くっ!」
咄嗟に少年の前に立ち塞がり、2本の小太刀を交差させるようにして爪を防ぐ。
だがバカでかいその虫は片方の爪を防ぐだけで手一杯だ。
もう片方の爪が少年に向かって飛んでいく。
「ティーダ!!!」
→
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キマリの言葉に咄嗟に反応することが出来ない。
確かにこの状況はヤバイ。
逃げる為の方向にシーモアがいるのだから。
奴は簡単にはユウナ達を逃がしはしないだろう。
それでもこの段階で“逃げ”を選択したキマリに賛同したい。
ユウナを守るために、キマリは自分1人がシーモアを引き付けようとしているのだ。
これが、キマリの覚悟なら、私達はユウナを気絶させてでも“逃げ”を実行しなければならない。
「行け!!」
一番最後尾にいたアーロンはわかっていた。この状況を、キマリの覚悟を。
どうしたらいいのか、まだ少年は戸惑っているようだ。
時は一刻一秒を争う。
迷っている暇などないのだ。
それでも逡巡する少年を脅すように、アーロンは肩に担いだ厳つい太刀を少年の鼻先に向ける。
「行けと言っている!!」
埒が明かないとばかりに怒気を孕んだ低く太い声が広い場所に響いた。
私はユウナの手を取った。すぐにそのまま走り出した。
「あぁっ!」
驚きの声を上げた少年のほうを振り返ることも無く、槍を突きつけたキマリを追い越し、異界の匂いに包まれたグロテスクな姿のシーモアの横を、走り抜けた。
ユウナは声も上げることが出来ないのだろう。
苦しそうな呼吸音だけが聞こえてくる。
少し走ってユウナの手を離し、彼女の背中を突き飛ばすように押し出した。
そこで漸く後ろを振り返って確認する。
悔しそうな顔ですぐ後ろに迫ってきていた少年と、数歩遅れてルールーとワッカ、リュック、そして殿にアーロンが太刀を構えたまま走って来る。
キマリはずっとシーモアを睨みつけたままそこに繋ぎとめている。
…だが、ユウナ達がこのグレートブリッジを渡りきるまでに、シーモアから逃げることなど可能だろうか?
キマリには申し訳ないが、たった1人であの異変したシーモアを足止めすることなどできないと思う。
「くっそおおおおおおぉぉぉぉ!!」
一際悔しそうに少年が叫んだ。それでも足は止めない。
そうだ、それでいいんだ少年!走れ!逃げろ!!ユウナを守れ!!
皆が私を追い越して出口に向かって走っていくのを横目で見ながら、私は一瞬だけ合ったアーロンの瞳にドキリとする。
私を見つめるその動きがまるでスローモーションのようにゆっくりと流れていった。
一度瞑目して、キマリの元へ走る。
…あぁ、くそ!やっぱり武器が欲しい…!
鋭い眼差しでシーモアを睨みつけるキマリ。
すでにヒトの形をかろうじて留めているだけの、もはや魔物と呼べるようなシーモア。
2人は対峙したまま動かない。
そこに割って入った私に、キマリは恐らく驚いたのだろうが、ロンゾ族の獣のような顔では判別し難い。
だが、明らかにシーモアは笑った。
くつくつと喉の奥から搾り出すようにして笑い声を上げた。
「あなたのほうから私の元に戻ってきてくれるなんて、誠に嬉しく思いますよ」
よく見ると、奴の右肩の上の辺り、背中から覆いかぶさるようにしてバカでかい虫のような魔物がシーモアを守るように浮かんでいる。
これも幻光虫が作り出したものなのだろう。
重力に逆らい、フワリフワリと浮かびながら、実体があるのかないのか透けているようにも見える。
「私がここに戻ったのは、あんたに別れの餞別をくれてやるためだよ!『ファイラ!』」
シーモア目掛けて魔法を一発。武器がないのでとりあえず魔法でなんとかするしかない。
一瞬シーモアを炎が包み込んだように見えた。
しかしそれはシーモアを守るようにある異形の幻光虫、幻光異体とでも呼べばいいだろうか、それが空気を吸い込むようにして炎は取り込まれてしまった。
「!?」
「はあああああっっ!」
キマリが再び手にした長い槍でシーモアの体を切り裂く。
しかしそれも直前で幻光異体に防がれてしまった。
「…くっ」
キマリの悔しそうな声が私にも届く。
「キマリ!1人でかっこつけんな!」
「ラフテル!武器もないくせに無茶しちゃダメだよ!」
後ろから少年とリュックが側まで走りこんできた。
「あんたたち!」
少年は得意の素早い動きですぐさま攻撃に出た。
少年の動きに幻光異体はついていけないようで、シーモアの体に大きな傷を残した。
「ラフテル、これ!」
私の前にリュックが手にしていたものを突き出した。
「!!」
それは、とても見覚えのあるもの。ずっと使い込んできた私の獲物。
ベルトに刃合わせになるように固定された2本の小太刀。
「私達が放り込まれた水路で見つけたんだ」
「…ありがとう!」
リュックに礼を述べ、すぐに装着して構える。手に馴染んだ柄がしっとり濡れているが、かえってそれが握力を増すようで嬉しかった。
「お前が虫けらのように殺したキノックは…あれでも昔の友でな。 …仇は取らせてもらう」
「私はあなたと行く気はありません。異界へ、送ります」
追いついてきたアーロンとユウナも加わった。
自分の後方から物凄い勢いで飛んできたものが、幻光異体に当たった。ワッカの武器だ。
幻光異体はその姿を保っていられなくなったのか、禍々しい色の幻光虫を撒き散らしていく。
その隙を突いて、シーモア本体が真っ白な光に包まれて爆発するように破裂した。ルールーの無属性魔法が効いたのだ。
幻光異体がシーモア本体から幻光を吸い取り、再びその姿を取り戻した。
「くっそー!」
シーモアは仲間達の頭上に属性魔法の連激を立て続けに落とし、それを上手く避けたアーロンとキマリが同時に切り込んだ。
2人の攻撃はやはり幻光異体に防がれてしまうが、その一撃で再び姿を保っていられなくなる。
素早い動きでシーモアの懐に飛び込んだ少年が、お返しとばかりにシーモアに斬撃の連続技。
幻光異体はまたシーモアから幻光虫を吸い取って元に戻ってしまう。
「…キリがないな」
「だけど、あいつがあの姿を保つ為の幻光虫にも、限度があるはずだ」
「何度でもやってやるっスよ!!」
シーモアがそれまでの魔法攻撃のものとは明らかに違う構えを見せる。
『ブレイク』
放たれた魔法は少年を石に変えていく。
「…う、うわ、わっ、………」
慄いた表情のまま、少年はあっという間に石像と化してしまった。
「やばい、ユウナ、すぐにエスナかけて!」
少年目掛けて幻光異体が突進してきた。
前方にあるあの鋭い爪で攻撃を食らったら、こんな石像など簡単に砕かれてしまうだろう。
「くっ!」
咄嗟に少年の前に立ち塞がり、2本の小太刀を交差させるようにして爪を防ぐ。
だがバカでかいその虫は片方の爪を防ぐだけで手一杯だ。
もう片方の爪が少年に向かって飛んでいく。
「ティーダ!!!」
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