第5章【ベベル~ナギ平原】
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歪んだ希望
=42=
その力を求めたのは、こんなことに使う為ではなかったはずだ。
立ち向かうほうも、待ち受けるほうも、お互いに解っている。
どちらも辛いのだ。
祈り子と対面できる資格を持つ者。
祈り子の能力を具現化し呼び出すことができる者。
選ばれた者のみが手にすることを許された、シンを倒す為の力。
互いにぶつけ合うものなどでは決してない。
それでもエボンに従うのか。
ユウナの前に立ち塞がったこの青年、イサールもまたエボンに振り回されているだけだと、気付かせてやるのは余計な世話というものだろうか?
はっきり言って、イサールの力はユウナの足元にも及ばない少々情けないものだった。
彼には2人のガードがついていたのだが、寺院に命令を受けてここに来たのはイサールただ1人。
ガードである2人の弟たちの手を汚させまいとしたのだと言う。
そこまで寺院の醜い部分を分かっていて、尚も従おうとするのか。
ユウナに敗れ地に伏したイサールに、アーロンが諌めるように声を掛ける。
「もう旅はやめるんだな」
旅を続けて究極召喚を手に入れたとしてもそれで犠牲になる身を案じてのことか、ユウナにすら勝てない実力しかない能力の差を解らせるためなのか、私にはそのどちらの意味にも聞こえた。
イサールに教えられた通路を辿りその先の扉を開けた途端、差し込んだ光の眩しさに一瞬目が眩んだ。
そこはベベルの寺院へ向かう為の長い橋、グレートブリッジの架けられた一画。
丁度同じタイミングで水から上がってきた3人と対面する。
「ユウナ!!」
こちらが濡れてしまうことなんてお構いなしにリュックがユウナに抱き付いた。
ワッカはルールーの元に駆け寄り、互いの無事を喜びあっていた。
私も片手を小さく上げて少年に軽く挨拶する。
「お疲れ」
犬のように体をブルブルと震わせて水気を弾き飛ばした少年は、命の危機感など全く意に介していないように笑顔を見せた。
それこそ、かつてのジェクトを思い出させるような太陽のような眩しい笑顔を。
ふいに背筋にゾワリと寒気が襲う。
はっとして振り返った先から近付いてくる数人の人影。
「!!」
「…あっ!」
仲間達も気が付いたようだ。
できればもう2度と会いたくはない人物。
姿を見ただけで、気配を感じるだけで嫌悪感に襲われる。
相変わらず人相の良さそうな薄ら笑いを浮かべ、目の前までやってきた。
足を止めたその場にドサリと投げ捨てるように置かれた動かない人物がいた。
「…キノック」
アーロンが忌々しげに呟いた。
一目見て、もう命は無いとわかる。
「…噂は本当だったようだな、シーモア」
「何のことです?ラフテル様」
「?」
私の言葉に疑問符を浮かべて反応したのはアーロンだ。
そして仲間達の緊張感が一気に高まる。
そのピリピリした空気が肌を突き刺すようにすら感じる。
「私は、彼を救ったのだ」
さも当然のように、そうすることが良いことのように、平然とシーモアは言い放つ。
「彼は永遠の安息を手に入れたのだ。ありとあらゆる苦しみを優しく拭い去り、癒す。…全ての命が滅びれば全ての苦痛も、また癒える。死の力を持ってスピラを救う、その為に。
…さあ、ユウナ殿、そしてラフテル様、共にザナルカンドへ…」
シーモアの顔に張り付いていた偽者の笑顔が、暗く、黒く染まってゆく。
静かな演説は甘い声で囁かれ、それを正当と勘違いしてしまいそうになる。
だがその内容は恐ろしいものだ。
スピラを救う。
それが彼の望みであり願い。
だがそれはユウナやスピラに住む多くの民の目指すものとは全く逆のもの。
“死の螺旋”を止めようとするユウナと、“死の救い”を求めるシーモア。
共に目指すものは、このスピラの救い。それなのに、まるで正反対のことを望む2人が見つめる未来はどう映るのだろうか。
「ユウナ殿、あなたの力を借りて、私は新たな“シン”となり、ラフテル様、あなたの体を使って私は永遠の時を生きる…」
「「!?」」
「な、なに言って……」
「私はこのスピラを滅ぼし、そして救う」
恍惚とした表情で瞼を落とし、静かに黒い笑みを浮かべた。
シーモアが成そうとしている事、なぜユウナを、私を欲したのか、これで仲間達にも分かってしまったのか。
私は、理解した。漸くここで初めてこいつの腹の内を知った。
そういうこと、だったとは…
シーモアが“シン”になる為に、なぜユウナの力が必要なのか、わかっているのは恐らく私とアーロンだけだろう。
永遠の時を生きる、その意味を理解できるのも、恐らく同じ…
ユウナ本人にも分かってはいないだろう。
シンが生まれる過程を知る由もないのだから。
シンを生み出す為に召喚士に必要なものは、絆で結ばれた存在。
その絆を作るためにだけに、シーモアはユウナと結婚を望んだのだ。
……『おぞましい』。こいつに浮かぶ言葉は、それだけ。
皆、ただ呆けていた。
シーモアの告白があまりに衝撃的だったためか、内容が理解できないせいか。
言葉を発するのを待っているのか、皆どうしたらいいのか考えられなかった。
「はああああぁあぁっっ!!」
突然、掛け声と共にキマリが突進した。
ビクリと反応して顔を上げる。
肉を突き破る嫌な音を立てて、キマリの武器である長い槍の矛先がシーモアの心臓を突き刺していた。
「「「!!!」」」
咄嗟に誰も動けない。
キマリの行動に誰も付いていくことができずにいた。
槍を胸に受けたシーモアはビクともせずに黙って己の胸を確認するように視線を向ける。
微かに小さな笑みを漏らして、杖を振りかざす。
「…よかろう、お前にも安息をくれてやる」
シーモアに付き従ってきた数人の兵士、それにシーモアの足元に捨てられたキノックの遺体が幻光虫に変わっていく。
いくつもの幻光虫がシーモアの体を取り巻いていく。
まるで光そのものに包まれているように、シーモアの体は怪しく光りだす。
重力に逆らい、フワリと浮き上がったその体は一体どんな仕組みになっているのか、硬質な鎧のようなもので覆われ、その背後にはまるで石版でこしらえた魔方陣のようなものが本体を守るようについている。
もう、ヒトの姿はしていない。
それは祈り子のようにも見え、そして凶悪な魔物のようにも見えた。
「走れ!! ユウナを守れ!!」
シーモアに槍を向けたまま、キマリが叫んだ。
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その力を求めたのは、こんなことに使う為ではなかったはずだ。
立ち向かうほうも、待ち受けるほうも、お互いに解っている。
どちらも辛いのだ。
祈り子と対面できる資格を持つ者。
祈り子の能力を具現化し呼び出すことができる者。
選ばれた者のみが手にすることを許された、シンを倒す為の力。
互いにぶつけ合うものなどでは決してない。
それでもエボンに従うのか。
ユウナの前に立ち塞がったこの青年、イサールもまたエボンに振り回されているだけだと、気付かせてやるのは余計な世話というものだろうか?
はっきり言って、イサールの力はユウナの足元にも及ばない少々情けないものだった。
彼には2人のガードがついていたのだが、寺院に命令を受けてここに来たのはイサールただ1人。
ガードである2人の弟たちの手を汚させまいとしたのだと言う。
そこまで寺院の醜い部分を分かっていて、尚も従おうとするのか。
ユウナに敗れ地に伏したイサールに、アーロンが諌めるように声を掛ける。
「もう旅はやめるんだな」
旅を続けて究極召喚を手に入れたとしてもそれで犠牲になる身を案じてのことか、ユウナにすら勝てない実力しかない能力の差を解らせるためなのか、私にはそのどちらの意味にも聞こえた。
イサールに教えられた通路を辿りその先の扉を開けた途端、差し込んだ光の眩しさに一瞬目が眩んだ。
そこはベベルの寺院へ向かう為の長い橋、グレートブリッジの架けられた一画。
丁度同じタイミングで水から上がってきた3人と対面する。
「ユウナ!!」
こちらが濡れてしまうことなんてお構いなしにリュックがユウナに抱き付いた。
ワッカはルールーの元に駆け寄り、互いの無事を喜びあっていた。
私も片手を小さく上げて少年に軽く挨拶する。
「お疲れ」
犬のように体をブルブルと震わせて水気を弾き飛ばした少年は、命の危機感など全く意に介していないように笑顔を見せた。
それこそ、かつてのジェクトを思い出させるような太陽のような眩しい笑顔を。
ふいに背筋にゾワリと寒気が襲う。
はっとして振り返った先から近付いてくる数人の人影。
「!!」
「…あっ!」
仲間達も気が付いたようだ。
できればもう2度と会いたくはない人物。
姿を見ただけで、気配を感じるだけで嫌悪感に襲われる。
相変わらず人相の良さそうな薄ら笑いを浮かべ、目の前までやってきた。
足を止めたその場にドサリと投げ捨てるように置かれた動かない人物がいた。
「…キノック」
アーロンが忌々しげに呟いた。
一目見て、もう命は無いとわかる。
「…噂は本当だったようだな、シーモア」
「何のことです?ラフテル様」
「?」
私の言葉に疑問符を浮かべて反応したのはアーロンだ。
そして仲間達の緊張感が一気に高まる。
そのピリピリした空気が肌を突き刺すようにすら感じる。
「私は、彼を救ったのだ」
さも当然のように、そうすることが良いことのように、平然とシーモアは言い放つ。
「彼は永遠の安息を手に入れたのだ。ありとあらゆる苦しみを優しく拭い去り、癒す。…全ての命が滅びれば全ての苦痛も、また癒える。死の力を持ってスピラを救う、その為に。
…さあ、ユウナ殿、そしてラフテル様、共にザナルカンドへ…」
シーモアの顔に張り付いていた偽者の笑顔が、暗く、黒く染まってゆく。
静かな演説は甘い声で囁かれ、それを正当と勘違いしてしまいそうになる。
だがその内容は恐ろしいものだ。
スピラを救う。
それが彼の望みであり願い。
だがそれはユウナやスピラに住む多くの民の目指すものとは全く逆のもの。
“死の螺旋”を止めようとするユウナと、“死の救い”を求めるシーモア。
共に目指すものは、このスピラの救い。それなのに、まるで正反対のことを望む2人が見つめる未来はどう映るのだろうか。
「ユウナ殿、あなたの力を借りて、私は新たな“シン”となり、ラフテル様、あなたの体を使って私は永遠の時を生きる…」
「「!?」」
「な、なに言って……」
「私はこのスピラを滅ぼし、そして救う」
恍惚とした表情で瞼を落とし、静かに黒い笑みを浮かべた。
シーモアが成そうとしている事、なぜユウナを、私を欲したのか、これで仲間達にも分かってしまったのか。
私は、理解した。漸くここで初めてこいつの腹の内を知った。
そういうこと、だったとは…
シーモアが“シン”になる為に、なぜユウナの力が必要なのか、わかっているのは恐らく私とアーロンだけだろう。
永遠の時を生きる、その意味を理解できるのも、恐らく同じ…
ユウナ本人にも分かってはいないだろう。
シンが生まれる過程を知る由もないのだから。
シンを生み出す為に召喚士に必要なものは、絆で結ばれた存在。
その絆を作るためにだけに、シーモアはユウナと結婚を望んだのだ。
……『おぞましい』。こいつに浮かぶ言葉は、それだけ。
皆、ただ呆けていた。
シーモアの告白があまりに衝撃的だったためか、内容が理解できないせいか。
言葉を発するのを待っているのか、皆どうしたらいいのか考えられなかった。
「はああああぁあぁっっ!!」
突然、掛け声と共にキマリが突進した。
ビクリと反応して顔を上げる。
肉を突き破る嫌な音を立てて、キマリの武器である長い槍の矛先がシーモアの心臓を突き刺していた。
「「「!!!」」」
咄嗟に誰も動けない。
キマリの行動に誰も付いていくことができずにいた。
槍を胸に受けたシーモアはビクともせずに黙って己の胸を確認するように視線を向ける。
微かに小さな笑みを漏らして、杖を振りかざす。
「…よかろう、お前にも安息をくれてやる」
シーモアに付き従ってきた数人の兵士、それにシーモアの足元に捨てられたキノックの遺体が幻光虫に変わっていく。
いくつもの幻光虫がシーモアの体を取り巻いていく。
まるで光そのものに包まれているように、シーモアの体は怪しく光りだす。
重力に逆らい、フワリと浮き上がったその体は一体どんな仕組みになっているのか、硬質な鎧のようなもので覆われ、その背後にはまるで石版でこしらえた魔方陣のようなものが本体を守るようについている。
もう、ヒトの姿はしていない。
それは祈り子のようにも見え、そして凶悪な魔物のようにも見えた。
「走れ!! ユウナを守れ!!」
シーモアに槍を向けたまま、キマリが叫んだ。
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