第5章【ベベル~ナギ平原】
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咎人の進む路
=41=
どうやら今回受ける罰は『浄罪の路』と『浄罪の水路』に全員を放り込むことのようだ。
直接手を下さずとも、そこに蔓延する幾多の魔物に襲わせよう、そういうことか。
いかにも悪質で陰険なエボンらしい罰の下し方。
これまでも何人も罪人がこの路に落とされ、そして二度と地上の光を見ることは無かった。
命を落とした者の魂は幻光虫となり、出口のないこの広い牢獄の中でやがて魔物となり、新たにここに放り込まれた生ある者を恨む。
隠された出口があるらしいが、それを見つけるのは至難の業だろう。
皆個別に連行され、時間差で1人ずつどちらかの路に落とされることになるのだろう。
私も例外ではなかった。
落とされた先は暗く湿った細い通路。
異界の匂いの立ち込めるここは『浄罪の路』。
こういう場所があることは、昔ここに住んでいた幼い頃に聞かされたことがあった。
まさかこうして実際に自分が放り込まれることになるとは思ってみなかったが。
何年、何十年、いやもしかしたら何百年も前からあるものかもしれない。
あちらこちらに見える鉄格子、崩れた岩壁、漂う幻光虫。
ずっとずっと昔から牢獄として使われ続けてきた死刑執行場所。
どうにかこの嫌な匂いに顔を顰めつつ、足を進めた。
ずっとここで呆けていても仕方がない。
昔から厳格なエボンの総本山としてあるベベルの寺院を象徴するかのように、床や壁には装飾が施されているが、長い年月ですっかり色の抜け落ちたところや破損してしまっている部分が、余計に不気味な雰囲気を醸し出している。
崩れた岩の向こう側には、底の見えない大穴。
あの地下の吊り籠から見えた穴の底と同じだ。
それがどこまで続いているのかなんてわからない。
ただずっと奥底のほうにも幻光虫がフワリと淡い光を放って漂っているのが微かに見えた。
ここは異界の匂いが強すぎる。
魔物が近くにいても気配はそこら中に溢れているのだ。
はっとして後ろを振り返った。
そこに見えたのは、太い腕を振り上げて今にも襲い掛かろうとしていた大型の魔物。
咄嗟に腰の後ろに手を伸ばす。
手は空しく宙を握った。
「…ちっ」
武器がない…
そうだ、今だ自分の武器を取り戻していなかったことに焦燥する。
『ファイラ!』
体を捻って魔物の一撃をかろうじてかわす。
振り下ろされた太い腕が地面を抉った瞬間に魔物の顔目掛けて魔法を放った。
魔物は軽く頭を振るって炎を掻き消した。
魔法が利き難い魔物だ。
…こんなときに!
「手を貸そうか?」
背後から聞こえた低い声は、肩に太刀を担いだ赤い背中。
「!」
「はああぁっっ!!」
力任せの一撃で魔物は断末魔の叫びを上げて幻光虫へと変わる。
思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
「あんたもここに落とされたのか」
「そのようだな」
「!!」
声の調子を変えることなく、いきなり抱き締めてきた。
「…ちょ、なに…」
「いいから黙れ、じっとしてろ」
低い声が耳元に届く。
自分よりも小柄なユウナに抱きつかれるのとは、やっぱり違うな、なんて的外れなことを考える。
「…無事でよかった」
この男からこんな台詞が飛び出すとは…
だが、マカラーニャの湖の底でバラバラにされて以来なのだ。
…心配、してくれたんだろうか?
そう思うと少しだけこいつに申し訳ないという気がしてくる。
「ラフテル」
耳元で低い声が響く。
こんな声で名を呼ばれたら、変な気分になってしまう。
「一つ、頼みがある」
「…何?」
「お前の、お前の残った時間を、俺にくれんか」
「…!?」
抱き締める腕に力が込められる。
「…どう、いう、意味…?」
意味なんて、聞かなくても分かってる。
分かったんだ。
でも、それでも何か言葉を返したくて出た言葉。
すぐに肯定の言葉を吐いてしまうのは、なぜか躊躇われて。
「アーロン、誰かに、見られ…」
「見せてやればいい」
「………」
何と言えばいい?
どう、返せばいい?
「あら、お邪魔だったみたいね」
「…ですね」
「………」
奥から聞こえた声になんとかそちらに視線を向ける。
通路を通ってここに辿り着いたのだろう、ルールーとユウナ、その後ろにキマリが立っていた。
それがわかっているはずのアーロンはまだ腕を放してくれない。
「…アーロン、ユウナ達、来たぞ。こんなことしてる場合じゃないだろ」
「…フッ、さっきの答えは保留にしてやるか。…残り少ないんだ。有意義な方法を考えるんだな」
小さな笑みを浮かべたアーロンは、真っ赤な私の顔に触れてからユウナ達の方へ歩き出した。
→
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どうやら今回受ける罰は『浄罪の路』と『浄罪の水路』に全員を放り込むことのようだ。
直接手を下さずとも、そこに蔓延する幾多の魔物に襲わせよう、そういうことか。
いかにも悪質で陰険なエボンらしい罰の下し方。
これまでも何人も罪人がこの路に落とされ、そして二度と地上の光を見ることは無かった。
命を落とした者の魂は幻光虫となり、出口のないこの広い牢獄の中でやがて魔物となり、新たにここに放り込まれた生ある者を恨む。
隠された出口があるらしいが、それを見つけるのは至難の業だろう。
皆個別に連行され、時間差で1人ずつどちらかの路に落とされることになるのだろう。
私も例外ではなかった。
落とされた先は暗く湿った細い通路。
異界の匂いの立ち込めるここは『浄罪の路』。
こういう場所があることは、昔ここに住んでいた幼い頃に聞かされたことがあった。
まさかこうして実際に自分が放り込まれることになるとは思ってみなかったが。
何年、何十年、いやもしかしたら何百年も前からあるものかもしれない。
あちらこちらに見える鉄格子、崩れた岩壁、漂う幻光虫。
ずっとずっと昔から牢獄として使われ続けてきた死刑執行場所。
どうにかこの嫌な匂いに顔を顰めつつ、足を進めた。
ずっとここで呆けていても仕方がない。
昔から厳格なエボンの総本山としてあるベベルの寺院を象徴するかのように、床や壁には装飾が施されているが、長い年月ですっかり色の抜け落ちたところや破損してしまっている部分が、余計に不気味な雰囲気を醸し出している。
崩れた岩の向こう側には、底の見えない大穴。
あの地下の吊り籠から見えた穴の底と同じだ。
それがどこまで続いているのかなんてわからない。
ただずっと奥底のほうにも幻光虫がフワリと淡い光を放って漂っているのが微かに見えた。
ここは異界の匂いが強すぎる。
魔物が近くにいても気配はそこら中に溢れているのだ。
はっとして後ろを振り返った。
そこに見えたのは、太い腕を振り上げて今にも襲い掛かろうとしていた大型の魔物。
咄嗟に腰の後ろに手を伸ばす。
手は空しく宙を握った。
「…ちっ」
武器がない…
そうだ、今だ自分の武器を取り戻していなかったことに焦燥する。
『ファイラ!』
体を捻って魔物の一撃をかろうじてかわす。
振り下ろされた太い腕が地面を抉った瞬間に魔物の顔目掛けて魔法を放った。
魔物は軽く頭を振るって炎を掻き消した。
魔法が利き難い魔物だ。
…こんなときに!
「手を貸そうか?」
背後から聞こえた低い声は、肩に太刀を担いだ赤い背中。
「!」
「はああぁっっ!!」
力任せの一撃で魔物は断末魔の叫びを上げて幻光虫へと変わる。
思わず安堵の溜息を吐いてしまった。
「あんたもここに落とされたのか」
「そのようだな」
「!!」
声の調子を変えることなく、いきなり抱き締めてきた。
「…ちょ、なに…」
「いいから黙れ、じっとしてろ」
低い声が耳元に届く。
自分よりも小柄なユウナに抱きつかれるのとは、やっぱり違うな、なんて的外れなことを考える。
「…無事でよかった」
この男からこんな台詞が飛び出すとは…
だが、マカラーニャの湖の底でバラバラにされて以来なのだ。
…心配、してくれたんだろうか?
そう思うと少しだけこいつに申し訳ないという気がしてくる。
「ラフテル」
耳元で低い声が響く。
こんな声で名を呼ばれたら、変な気分になってしまう。
「一つ、頼みがある」
「…何?」
「お前の、お前の残った時間を、俺にくれんか」
「…!?」
抱き締める腕に力が込められる。
「…どう、いう、意味…?」
意味なんて、聞かなくても分かってる。
分かったんだ。
でも、それでも何か言葉を返したくて出た言葉。
すぐに肯定の言葉を吐いてしまうのは、なぜか躊躇われて。
「アーロン、誰かに、見られ…」
「見せてやればいい」
「………」
何と言えばいい?
どう、返せばいい?
「あら、お邪魔だったみたいね」
「…ですね」
「………」
奥から聞こえた声になんとかそちらに視線を向ける。
通路を通ってここに辿り着いたのだろう、ルールーとユウナ、その後ろにキマリが立っていた。
それがわかっているはずのアーロンはまだ腕を放してくれない。
「…アーロン、ユウナ達、来たぞ。こんなことしてる場合じゃないだろ」
「…フッ、さっきの答えは保留にしてやるか。…残り少ないんだ。有意義な方法を考えるんだな」
小さな笑みを浮かべたアーロンは、真っ赤な私の顔に触れてからユウナ達の方へ歩き出した。
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