第4章【マカラーニャ~ベベル】
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囚われ
=37=
『ケアルガ!』
淡い緑の光が鋼鉄の檻に跳ね返されて自分自身に降り注ぐ。
「もうひとつ『エスナ!』」
これも同様に術者である私に跳ね返る。
体の痛みと痺れはなんとか回復し、漸く立ち上がれるまでになった。
白魔法は余り得意ではないが、それでもこれだけ回復できればマシなほうか。
足元に目を向ければそこには無機質な檻の底。
その外側はどこまで続くのか分からない真っ暗な闇の底。
ベベルの地下天井から吊り下げられたこの小さな檻は、ほんの小さな動きでゆらゆらと揺れて、中にいる罪人の恐怖心を煽る。
私もそんな恐ろしい思いは勘弁だ。只でさえ乗り物に弱い。
こんな空中ブランコのような体験は絶対にしたくない。
ここはベベルだ。
ここにユウナもいる。
ということは、必ず仲間達は助けに来る。
その騒動に紛れることが出来れば、上手くすれば自分もここから脱出できるかもしれない。
仲間達がここに来てくれるだろうか?
私を助けに…?
いや、それはない。私はただのガードでしかない。
ならば、どうにかして私は自分の力でここを抜け出すしかないのだ。
この暗い地下の牢獄では、時間が分からない。
通路に設置されたいくつかの小さな明かりだけが、そこに道があるということを示している。
無駄に動いて体力を消耗するのもバカらしいし、何よりこの檻の中にいては魔法が使えない。
…せめて武器があれば。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
人間とは図太いもので、こんな状況に置かれているというのに、しっかり睡眠を要求してくる。
はっと気が付いて、自分がいつの間にか眠りに落ちていたことを教えた。
辺りは相変わらず静かで仄暗い。
この吊り下げられただけの檻が動かないように、私自身もじっとしているしかできない。
膝を抱えて座り込んだ私は、己の膝の上に頬を落として、辺りの気配を探る。
水辺に築かれた海上都市だけあって、潮の香りがする。
頭上遥か遠くのほうから、微かに何かの物音が耳に届いた。
気のせいかとも思ったが、それは次第にはっきりと聞こえてきた。
たくさんの人の足音、話し声、いや歌声?
機械特有の重い足音やそれらを運ぶ為のものだろうか、何かの移動用機械の車輪の音。
結婚式が始まるのだろうとも思ったが、それにしては随分と物々しい準備の音が聞こえてくる。
やがてそれも収まり、厳かな鐘の音が聞こえた。
とうとう結婚式が始まったようだ。
ユウナがもし正気のままだったとしたら、何を考えてる?
奴は死人だ。
・・・・・異界送りか!
ダメだ!
無駄だ!
そんなことをマイカが好きにさせる筈がない。
…マイカ自身も、死人なのだから。
マイカやシーモアだけではない。
エボンの高官の何人かは、実はもう命を持たぬ死人なのだ。
マイカが総老師の座についてから50年。
エボンが変わることを拒んできた奴は、自らも、そして僧として実力のある者たちをこの地位に縛り付けておく為に、この世に残った。
もしそこでユウナが異界送りをすれば、エボンは大きく傾いてしまう。
それは私たちにとっては最も都合の良いことで、最大のチャンスでもある。
だが、できるはずがない。
まだまだ甘い彼女には、無理だ。
奴の甘い香りを嗅いで、言いなりになるユウナが目に浮かぶ。
「…くっ!!」
悔しさと歯痒さに奥歯をギリっと噛み締める。
突然大きな機械の音と何かの破壊音、と同時に大きく揺れた地面。
この場合は天井ということになるのだろうが、そのせいで吊り下げられているだけのこの檻が大きく振り子のようにぶらぶらと前後左右に揺れる。
「!!!!」
その衝撃は1度だけに留まらず、立て続けに何度も何度も与えられ、天井から細かな石の欠片が檻に当たって硬質な音を立てている。
いつだったか、恐怖で手近にあったものを力一杯に握り締めたこともあったが、今もまた、頼れる何かを探すように手を伸ばす。
檻の鋼鉄の格子に必死に捕まってこの気持ちの悪い感覚から逃れようと必死になった。
頭上から響いてくる音は鳴り止むどころか激しさを増していき、揺れもどんどん大きくなり、この檻のすぐ側にある通路の端に何度も何度もぶつかっては跳ね返る。
その音と衝撃は私の平常心をも打ち砕いていく。
檻が通路にぶつかる音が、それまでのものと明らかに違う音がした。
何とか自分を奮い立たせ、ぶつかった衝撃で壊れたらしい歪んだ扉の鍵の辺りを確認する。
中から力任せに蹴りつけると、それは思ったよりもあっさりと開いてしまい、私はタイミングを見計らって通路に飛び移った。
まだ頭上の音や衝撃は止むことなく続いているようだが、吊り下げられた不安定な場所にいるよりは遥かにマシだ。
安堵の溜息を1つついて、やっと自由になった自分の体に嬉しささえ覚えながら地下からの出口へ向かった。
結婚式の真っ最中だというのに、何だこの激しい攻撃!?
戦闘でもしているのか?
そこまで考えてはっとする。
「(あいつらだっ!!)」
そうだ、仲間達がユウナを助けに来たんだ。
確信があったわけじゃない。
だが間違いない、と私の中の何かが告げている。
あいつらがあのまま大人しくユウナを渡す筈はない。
思わず浮かぶ自嘲の笑みを浮かべたまま、私は通路を駆けた。
→
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『ケアルガ!』
淡い緑の光が鋼鉄の檻に跳ね返されて自分自身に降り注ぐ。
「もうひとつ『エスナ!』」
これも同様に術者である私に跳ね返る。
体の痛みと痺れはなんとか回復し、漸く立ち上がれるまでになった。
白魔法は余り得意ではないが、それでもこれだけ回復できればマシなほうか。
足元に目を向ければそこには無機質な檻の底。
その外側はどこまで続くのか分からない真っ暗な闇の底。
ベベルの地下天井から吊り下げられたこの小さな檻は、ほんの小さな動きでゆらゆらと揺れて、中にいる罪人の恐怖心を煽る。
私もそんな恐ろしい思いは勘弁だ。只でさえ乗り物に弱い。
こんな空中ブランコのような体験は絶対にしたくない。
ここはベベルだ。
ここにユウナもいる。
ということは、必ず仲間達は助けに来る。
その騒動に紛れることが出来れば、上手くすれば自分もここから脱出できるかもしれない。
仲間達がここに来てくれるだろうか?
私を助けに…?
いや、それはない。私はただのガードでしかない。
ならば、どうにかして私は自分の力でここを抜け出すしかないのだ。
この暗い地下の牢獄では、時間が分からない。
通路に設置されたいくつかの小さな明かりだけが、そこに道があるということを示している。
無駄に動いて体力を消耗するのもバカらしいし、何よりこの檻の中にいては魔法が使えない。
…せめて武器があれば。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
人間とは図太いもので、こんな状況に置かれているというのに、しっかり睡眠を要求してくる。
はっと気が付いて、自分がいつの間にか眠りに落ちていたことを教えた。
辺りは相変わらず静かで仄暗い。
この吊り下げられただけの檻が動かないように、私自身もじっとしているしかできない。
膝を抱えて座り込んだ私は、己の膝の上に頬を落として、辺りの気配を探る。
水辺に築かれた海上都市だけあって、潮の香りがする。
頭上遥か遠くのほうから、微かに何かの物音が耳に届いた。
気のせいかとも思ったが、それは次第にはっきりと聞こえてきた。
たくさんの人の足音、話し声、いや歌声?
機械特有の重い足音やそれらを運ぶ為のものだろうか、何かの移動用機械の車輪の音。
結婚式が始まるのだろうとも思ったが、それにしては随分と物々しい準備の音が聞こえてくる。
やがてそれも収まり、厳かな鐘の音が聞こえた。
とうとう結婚式が始まったようだ。
ユウナがもし正気のままだったとしたら、何を考えてる?
奴は死人だ。
・・・・・異界送りか!
ダメだ!
無駄だ!
そんなことをマイカが好きにさせる筈がない。
…マイカ自身も、死人なのだから。
マイカやシーモアだけではない。
エボンの高官の何人かは、実はもう命を持たぬ死人なのだ。
マイカが総老師の座についてから50年。
エボンが変わることを拒んできた奴は、自らも、そして僧として実力のある者たちをこの地位に縛り付けておく為に、この世に残った。
もしそこでユウナが異界送りをすれば、エボンは大きく傾いてしまう。
それは私たちにとっては最も都合の良いことで、最大のチャンスでもある。
だが、できるはずがない。
まだまだ甘い彼女には、無理だ。
奴の甘い香りを嗅いで、言いなりになるユウナが目に浮かぶ。
「…くっ!!」
悔しさと歯痒さに奥歯をギリっと噛み締める。
突然大きな機械の音と何かの破壊音、と同時に大きく揺れた地面。
この場合は天井ということになるのだろうが、そのせいで吊り下げられているだけのこの檻が大きく振り子のようにぶらぶらと前後左右に揺れる。
「!!!!」
その衝撃は1度だけに留まらず、立て続けに何度も何度も与えられ、天井から細かな石の欠片が檻に当たって硬質な音を立てている。
いつだったか、恐怖で手近にあったものを力一杯に握り締めたこともあったが、今もまた、頼れる何かを探すように手を伸ばす。
檻の鋼鉄の格子に必死に捕まってこの気持ちの悪い感覚から逃れようと必死になった。
頭上から響いてくる音は鳴り止むどころか激しさを増していき、揺れもどんどん大きくなり、この檻のすぐ側にある通路の端に何度も何度もぶつかっては跳ね返る。
その音と衝撃は私の平常心をも打ち砕いていく。
檻が通路にぶつかる音が、それまでのものと明らかに違う音がした。
何とか自分を奮い立たせ、ぶつかった衝撃で壊れたらしい歪んだ扉の鍵の辺りを確認する。
中から力任せに蹴りつけると、それは思ったよりもあっさりと開いてしまい、私はタイミングを見計らって通路に飛び移った。
まだ頭上の音や衝撃は止むことなく続いているようだが、吊り下げられた不安定な場所にいるよりは遥かにマシだ。
安堵の溜息を1つついて、やっと自由になった自分の体に嬉しささえ覚えながら地下からの出口へ向かった。
結婚式の真っ最中だというのに、何だこの激しい攻撃!?
戦闘でもしているのか?
そこまで考えてはっとする。
「(あいつらだっ!!)」
そうだ、仲間達がユウナを助けに来たんだ。
確信があったわけじゃない。
だが間違いない、と私の中の何かが告げている。
あいつらがあのまま大人しくユウナを渡す筈はない。
思わず浮かぶ自嘲の笑みを浮かべたまま、私は通路を駆けた。
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