第4章【マカラーニャ~ベベル】
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表の偽りと裏の真実
=36=
もう名前も思い出せないその僧官は、何が嬉しいのか始終にこにこと笑顔を向けてくる。
だがそれが貼り付けられた偽者の笑顔の仮面だともう分かりきっていた。
私は、10年前までそうしていたようにできるだけ口数を減らし、言うことを聞く振りをして少しでも情報を得ようとしていた。
予想したとおり、ユウナの結婚式には私も参列させられるらしい。
あの時の態度を見れば、ユウナはこの結婚を承諾したとはとても思えない。
そして思い当たる。
シーモアの体から発せられるあの甘い香り。
あれを嗅いだ瞬間、私も奴の虜になってしまったように体が動かなくなった。
もしかしたら、ユウナはまたあれを嗅がされたのかもしれない。
僧官が何か合図を出すと、それを待っていたかのようにゾロゾロと下働きの者たちが手に手に衣装やら道具を持って部屋に入ってきた。
嫌でも昔を思い出す。
あの頃は毎日のことで、もうこちらの言葉など全く異にも介せずただ私は人形のように着飾られ、与えられた言葉のみを発していた。
そんなものはもう二度とゴメンだ。
最後に入ってきた、若い男の衣装に目をつける。
男が扉を潜ると同時に扉は閉じられ、外から鍵を掛ける音が聞こえた。
大人しく椅子に座っている振りをして、様子を伺う。
幸いというか、愚かというか、ここに集まった者たちは私が考えていることを読む力がないのだろうか?
最初に現われたこの間抜けな僧官も、何の警戒もないまま私を哀れな被害者の一人とでも思っているのだろうか?
武器さえ取り上げておけば安全だとでも思っているのだろうか?
私は深呼吸をして、大きく息を吸い込んだ。
「みんな、ごめんな」
にこりと笑顔で言った。私の言葉に皆はきょとんとして呆けてしまっている。
『スリプル!!』
放った魔法は広い部屋一杯に広がり、そこにいた数人の者たちをたちまち眠らせてしまう。
バタバタとその場に倒れこむ人間の間をすり抜けるようにして、最後に入ってきた若い男を受け止めた。
「…悪いけど、借りるよ」
男の衣装を剥ぎ取り、急いで身に纏う。
ここまではなんとかなった。
武器もない状態で、どこまで、何ができるだろうか?
ドアは外から鍵がかけられている。
この使用人たちの仕事が終わったら開けられることになっているのだろう。
それまで待つか?いや、できるだけ時間をかけたくない。
内側からドアをノックしてみる。
案の定、外には見張りがいて鍵を開けてくれることになりそうだ。
「なんだ、もう終わったのか?随分早いな」
気の抜けた声が聞こえる。ろくに確かめもせずに鍵を開けているこの見張りの兵士の愚かさに呆れる。
鍵さえ開けばコチラのもの。
勢いよく扉を開いて、そこに驚いて立つ兵士の鳩尾に拳を埋め込む。
そいつが倒れる前に腰から使い慣れた懐かしい細身の剣を引き抜いて構えた。
その昔、ここの訓練施設で訓練生たちが使うものだった。
当然、見張りの兵士は1人だけではない。
この部屋は高官のものであるという証拠を示すように、部屋の外には数多くの兵士が武器を構えてこちらに向かってきた。
…やはり、ただの被害者として私をここに置いた訳ではなかったな。
最初から警備は万全というわけだ。
だが私にとってここの兵士など雑魚同然だ。
訓練を受けたとはいえ、シンと闘った経験のある人間に敵うわけがない。
もう、こっそりと身を潜めて、なんて行動することはできない。
だがこれだけの騒ぎになってしまえば、その騒動に紛れることが出来る。
そう思って油断した私がバカだった…。
突然襲い掛かった強大な魔力は、私を包み込んで激しい苦痛を齎した。
「うああぁあぁあぁっっ…」
全身に走る痛みとどこかが焦げたような燻る匂い。
動くことが出来なくなって、私はその場に崩れ落ちた。
「…まったく、困ったお人ですね」
側に近付いてきた足音に混じって香る、あの甘い香り。
…シーモア…!!
生きて、いたのか…
…いや、違う。この甘い香りで誤魔化してはいるが、こいつからは異界の匂いがする。…死人か。
体中の痛みは薄れないのに、意識ははっきりとしている。
言葉を発することは出来ない。
体中の痺れは口の中にまで広がっているようで、口すらも動かすことが出来ないのだ。
ただ目だけは、かろうじて物を見ることが出来る。
シーモアを、睨みつけた、つもりだった。
「みなさん、お騒がせしまして大変申し訳ありません。ユウナ殿のガードを名乗るこの不貞の輩は、すぐに拘留しますのでご安心を」
「!?」
この騒ぎに集まった多くの兵たちや他の僧達に向かって、シーモアは老師としての責を果たすかのように振る舞い、優雅に頭を垂れた。
「連れて行け」
「はっ」
私は2人の兵によって抱え上げられ、地下へと運ばれた。
私もよく知るここは、罪人を拘留しておく為の通称“揺り篭”
ジェクトのように魔力を持たない者が入れられる格子付きの小さな箱ではなく、まさに鳥を飼う為の籠のような形をした檻。
この檻には特殊な仕掛けが施してあり、中でいくら魔法を使ってもそれは決して檻の外には洩れず、魔法を放った本人に跳ね返ってくるというシロモノ。
檻の隙間から腕を伸ばし、その先で魔法を唱えても、この檻自体に磁場空間が施されていて、結局自分自身に跳ね返ってくる。
そんな檻の仕組みなんてよく分かっていた。
それでも抗わずにはいられない。
そこにしばらく体を横たえたまま、体の痺れが治まるのを待っていると、足音が近付いた。
数人の兵士を伴ったシーモアだ。
私の機嫌は一気に下がっていく。
「本当にあなたという人は無茶をする」
「………」
私はまだ痺れが残る口で何も言葉を発することもないまま、じっとシーモアを睨みつけた。
「あのまま、あの部屋にいて下さればこんな窮屈なところにいることもなかったでしょうに」
「…ユ、ユウナ、は…」
思ったよりも言葉が出てきたことに安堵する。これならば間もなく普通に声を出すことが出来るまでに回復するだろう。
「ユウナ殿が気になりますか? フッ」
小莫迦にしたように口元を僅かに上げて黒い笑みを浮かべる。
「安心して下さい。私が心から欲しているのは、あなただけですよ。ユウナ殿は、私が目指す夢の為の石段の一つに過ぎないのです」
「?」
どういう意味だ?
ユウナは何かに利用されるというのだろうか?
その為だけにユウナに近付き、結婚するというのか。
「残念ですよ。本当ならあなたにも私の花嫁の姿を間近で見て貰いたかったのですが、ここから出すことが出来なくなりました。
…後ほど、お迎えに参ります。ラフテル様…」
→
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もう名前も思い出せないその僧官は、何が嬉しいのか始終にこにこと笑顔を向けてくる。
だがそれが貼り付けられた偽者の笑顔の仮面だともう分かりきっていた。
私は、10年前までそうしていたようにできるだけ口数を減らし、言うことを聞く振りをして少しでも情報を得ようとしていた。
予想したとおり、ユウナの結婚式には私も参列させられるらしい。
あの時の態度を見れば、ユウナはこの結婚を承諾したとはとても思えない。
そして思い当たる。
シーモアの体から発せられるあの甘い香り。
あれを嗅いだ瞬間、私も奴の虜になってしまったように体が動かなくなった。
もしかしたら、ユウナはまたあれを嗅がされたのかもしれない。
僧官が何か合図を出すと、それを待っていたかのようにゾロゾロと下働きの者たちが手に手に衣装やら道具を持って部屋に入ってきた。
嫌でも昔を思い出す。
あの頃は毎日のことで、もうこちらの言葉など全く異にも介せずただ私は人形のように着飾られ、与えられた言葉のみを発していた。
そんなものはもう二度とゴメンだ。
最後に入ってきた、若い男の衣装に目をつける。
男が扉を潜ると同時に扉は閉じられ、外から鍵を掛ける音が聞こえた。
大人しく椅子に座っている振りをして、様子を伺う。
幸いというか、愚かというか、ここに集まった者たちは私が考えていることを読む力がないのだろうか?
最初に現われたこの間抜けな僧官も、何の警戒もないまま私を哀れな被害者の一人とでも思っているのだろうか?
武器さえ取り上げておけば安全だとでも思っているのだろうか?
私は深呼吸をして、大きく息を吸い込んだ。
「みんな、ごめんな」
にこりと笑顔で言った。私の言葉に皆はきょとんとして呆けてしまっている。
『スリプル!!』
放った魔法は広い部屋一杯に広がり、そこにいた数人の者たちをたちまち眠らせてしまう。
バタバタとその場に倒れこむ人間の間をすり抜けるようにして、最後に入ってきた若い男を受け止めた。
「…悪いけど、借りるよ」
男の衣装を剥ぎ取り、急いで身に纏う。
ここまではなんとかなった。
武器もない状態で、どこまで、何ができるだろうか?
ドアは外から鍵がかけられている。
この使用人たちの仕事が終わったら開けられることになっているのだろう。
それまで待つか?いや、できるだけ時間をかけたくない。
内側からドアをノックしてみる。
案の定、外には見張りがいて鍵を開けてくれることになりそうだ。
「なんだ、もう終わったのか?随分早いな」
気の抜けた声が聞こえる。ろくに確かめもせずに鍵を開けているこの見張りの兵士の愚かさに呆れる。
鍵さえ開けばコチラのもの。
勢いよく扉を開いて、そこに驚いて立つ兵士の鳩尾に拳を埋め込む。
そいつが倒れる前に腰から使い慣れた懐かしい細身の剣を引き抜いて構えた。
その昔、ここの訓練施設で訓練生たちが使うものだった。
当然、見張りの兵士は1人だけではない。
この部屋は高官のものであるという証拠を示すように、部屋の外には数多くの兵士が武器を構えてこちらに向かってきた。
…やはり、ただの被害者として私をここに置いた訳ではなかったな。
最初から警備は万全というわけだ。
だが私にとってここの兵士など雑魚同然だ。
訓練を受けたとはいえ、シンと闘った経験のある人間に敵うわけがない。
もう、こっそりと身を潜めて、なんて行動することはできない。
だがこれだけの騒ぎになってしまえば、その騒動に紛れることが出来る。
そう思って油断した私がバカだった…。
突然襲い掛かった強大な魔力は、私を包み込んで激しい苦痛を齎した。
「うああぁあぁあぁっっ…」
全身に走る痛みとどこかが焦げたような燻る匂い。
動くことが出来なくなって、私はその場に崩れ落ちた。
「…まったく、困ったお人ですね」
側に近付いてきた足音に混じって香る、あの甘い香り。
…シーモア…!!
生きて、いたのか…
…いや、違う。この甘い香りで誤魔化してはいるが、こいつからは異界の匂いがする。…死人か。
体中の痛みは薄れないのに、意識ははっきりとしている。
言葉を発することは出来ない。
体中の痺れは口の中にまで広がっているようで、口すらも動かすことが出来ないのだ。
ただ目だけは、かろうじて物を見ることが出来る。
シーモアを、睨みつけた、つもりだった。
「みなさん、お騒がせしまして大変申し訳ありません。ユウナ殿のガードを名乗るこの不貞の輩は、すぐに拘留しますのでご安心を」
「!?」
この騒ぎに集まった多くの兵たちや他の僧達に向かって、シーモアは老師としての責を果たすかのように振る舞い、優雅に頭を垂れた。
「連れて行け」
「はっ」
私は2人の兵によって抱え上げられ、地下へと運ばれた。
私もよく知るここは、罪人を拘留しておく為の通称“揺り篭”
ジェクトのように魔力を持たない者が入れられる格子付きの小さな箱ではなく、まさに鳥を飼う為の籠のような形をした檻。
この檻には特殊な仕掛けが施してあり、中でいくら魔法を使ってもそれは決して檻の外には洩れず、魔法を放った本人に跳ね返ってくるというシロモノ。
檻の隙間から腕を伸ばし、その先で魔法を唱えても、この檻自体に磁場空間が施されていて、結局自分自身に跳ね返ってくる。
そんな檻の仕組みなんてよく分かっていた。
それでも抗わずにはいられない。
そこにしばらく体を横たえたまま、体の痺れが治まるのを待っていると、足音が近付いた。
数人の兵士を伴ったシーモアだ。
私の機嫌は一気に下がっていく。
「本当にあなたという人は無茶をする」
「………」
私はまだ痺れが残る口で何も言葉を発することもないまま、じっとシーモアを睨みつけた。
「あのまま、あの部屋にいて下さればこんな窮屈なところにいることもなかったでしょうに」
「…ユ、ユウナ、は…」
思ったよりも言葉が出てきたことに安堵する。これならば間もなく普通に声を出すことが出来るまでに回復するだろう。
「ユウナ殿が気になりますか? フッ」
小莫迦にしたように口元を僅かに上げて黒い笑みを浮かべる。
「安心して下さい。私が心から欲しているのは、あなただけですよ。ユウナ殿は、私が目指す夢の為の石段の一つに過ぎないのです」
「?」
どういう意味だ?
ユウナは何かに利用されるというのだろうか?
その為だけにユウナに近付き、結婚するというのか。
「残念ですよ。本当ならあなたにも私の花嫁の姿を間近で見て貰いたかったのですが、ここから出すことが出来なくなりました。
…後ほど、お迎えに参ります。ラフテル様…」
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