第4章【マカラーニャ~ベベル】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エボンの本質
=35=
足元の激しい揺れに自分の姿勢を保つことさえできなくなる。
薄く張られた足元の水が飛沫を上げて、己の存在を主張している。
独特の匂いを感じて、ふと疑問が浮かぶ。
「(私、今みんながいるこの場所がシンの上だって言ったっけ?)」
激しい揺れは更に勢いを増し、もう立っていることもできなくなる。
仲間達の驚きの嬌声と悲鳴が聞こえる。
すぐに辺りを見渡してみなの姿を確認しようとした。
しかし、突然に足元の地面が大きく歪み、体を放り投げられる感覚に囚われる。
仲間達の姿を確認することは出来なかったが、今はそれどころではない。
これがシンであること、ここがシンの上であるということ、これが自分達にどんな影響を齎すのか予想がつかない。
それにまずは今のこの状況をなんとしなければ!
荒れ狂う大波はシンが海に出たせいだろうか?
怒涛のように襲い来る水と縦横無尽に振り回される自分自身の体に、方向感覚を失う。
どっちが上でどっちが下か分からなくなる。
乗り物に極端に弱い私は、これだけ振り回されてもう意識を保っていられなかった。
…あぁ、また引き摺られるのか…
目が覚めた。
途端に流れ込んでくる懐かしい空気の匂い。
そして感じる圧迫感。
部屋の中を見渡して確認するまでもない。
もう二度と足を踏み入れることなどないと思っていた、そう望んでいた場所。
柔らかく温かい、見るからに高級だと分かる寝具と夜具に身を包まれている。
物音一つしない静かな部屋は広く、造りからして高官専用のものだと分かる。
置かれた家具や調度品も傷の一つでもつけたらとんでもないことになりそうな値段を連想させる。
誰もいない広い静かな部屋ではあるが、外へと通じるであろうドアの外に感じる人の気配。
拘束はされていないがここから出ることは許されないだろう。
部屋の中には暮らしていくには問題ない程度のものが用意されており、とりあえず命の危険はすぐには訪れないであろうと予測する。
シンの背から、たぶんどこかに飛ばされたのだと思う。
その後、気を失っている間にここに運ばれた、と思う。
…私だけ?
他のみんなはどうしただろう?
ユウナ、無事だろうか? …みんなは? …アーロンは…?
自分の考えを払拭するように軽く頭を振って思考を切り替える。
とりあえず、自分の身をなんとかしよう。
それから、みんなのことを探すことにする。
寝具から身を下ろし、無駄に広い部屋の中を調べて回る。
窓には鍵と鉄格子。
窓から見える景色は、かつて毎日見下ろしていた大きな町並み。
やはりここは、ベベルだ。
それにしても、今の自分の姿をなんとかしたかった。
真っ白な長いローブのような夜具に身を包み、長い髪はほどかれて背中に流れている。
目に見えるところに、当然だが自分の武器はない。
適当な服に着替えようと、クローゼットの扉を開くが、ヒラヒラとした色とりどりの、かつて自分が着飾られていたときの衣装がまんまそこにあった。
私は幻滅し、僧官たちの衣装であるローブや袈裟のほうがまだマシだと感じた。
レバーを捻れば出てくる水も、ボタンを押せば温まる料理も、この世界では禁じられた機械の一つだ。
そんな機械を禁じているくせに、こうして当然のように使っている。
自分本位のベベルの本質。それが嫌で堪らなかった。
部屋の鍵を開ける音と、扉をゆっくりと開く音が聞こえ、1人の僧官が入ってきた。
「目が覚めましたか、ラフテル様。ご気分は如何ですかな?」
作ったような薄ら笑いを浮かべた僧官の顔は、見覚えがあった。
私が何も言わずにいると、それを気にも留めずに更に言葉を重ねる。
「いや、ご無事で何よりでした。…それにしても、本当にアルベド族には手を焼きます。召喚士を誘拐するなど、何を考えているのやら」
「アルベド…?」
「ええ、あなた方を発見したのは、ビーカネル砂漠です。アルベド族の本拠地がある砂漠の島ですよ。…覚えていらっしゃらないので?」
「…ちょっと、混乱してて」
何も知らない振りをして、なんとか情報を掴めれば上出来、か。
「無理もありません。ユウナ様を見つけることが出来たのは本当に偶然でして、これもエボンの賜物ですな」
「…私の他に、誰かいなかった?」
「ええ、誰もいらっしゃいませんでしたよ。召喚士ユウナ様のガードになられたというお話はここベベルにも伝わっておりましたが、いや誠にご立派です、ラフテル様。流石伝説のガードですな。ユウナ様をアルベドからお守りして下さったことは、寺院の皆が称えております」
「ユウナも、ここに?」
「はい、別室でご準備の真っ最中です」
…よかった、ユウナも無事なんだ。
僧官の言葉に安堵するも、別の言葉に引っ掛かりを覚える。
「…準備? 何、の…?」
嫌な予感て、どうしてこう当たるんだろうか?
「勿論、シーモア老師との御成婚です」
…死んだ、のではなかったのか。
マカラーニャの寺院で、確かに仲間達はシーモアを倒したと、故に反逆者となったとそう言っていた。
だが2人の結婚は予定通りに執り行われるという。
…どういうことだ?
仮に本当にシーモアを倒して、シーモアが死者として現われても不思議ではない。が、反逆者の罪を着せられたユウナと結婚なんて、エボンの老師にあるまじき行為。
いや、ユウナが反逆者であるというのは、まだ世間に広まっていないのでは…?
当然、シーモアが命を落としたという事実もすでに隠蔽されていたとしたら?
マカラーニャまでの旅の途中、確かに人々はユウナとシーモアとの結婚の噂を口にしていた。
スピラの人間までも偽り、操って世間に偽りの婚儀を見せるのか。
…どこまでエボンは人々を裏切れば気が済むのだろうか。
私とユウナはビーカネル島の砂漠で見つかったという話だった。
では、仲間達もそこに一緒に飛ばされたのだろうか?
なぜ、一緒にいない?
そんなのは簡単だ。ベベルに連れてこられたのは私とユウナだけ。
仲間達はそこに見捨てられたのだろう。
もう、私は10年前の私ではない。
もう、ベベルの、エボンの言いなりにはならない。
お飾りだけの存在なんて、絶対になってやるものか!
→
=35=
足元の激しい揺れに自分の姿勢を保つことさえできなくなる。
薄く張られた足元の水が飛沫を上げて、己の存在を主張している。
独特の匂いを感じて、ふと疑問が浮かぶ。
「(私、今みんながいるこの場所がシンの上だって言ったっけ?)」
激しい揺れは更に勢いを増し、もう立っていることもできなくなる。
仲間達の驚きの嬌声と悲鳴が聞こえる。
すぐに辺りを見渡してみなの姿を確認しようとした。
しかし、突然に足元の地面が大きく歪み、体を放り投げられる感覚に囚われる。
仲間達の姿を確認することは出来なかったが、今はそれどころではない。
これがシンであること、ここがシンの上であるということ、これが自分達にどんな影響を齎すのか予想がつかない。
それにまずは今のこの状況をなんとしなければ!
荒れ狂う大波はシンが海に出たせいだろうか?
怒涛のように襲い来る水と縦横無尽に振り回される自分自身の体に、方向感覚を失う。
どっちが上でどっちが下か分からなくなる。
乗り物に極端に弱い私は、これだけ振り回されてもう意識を保っていられなかった。
…あぁ、また引き摺られるのか…
目が覚めた。
途端に流れ込んでくる懐かしい空気の匂い。
そして感じる圧迫感。
部屋の中を見渡して確認するまでもない。
もう二度と足を踏み入れることなどないと思っていた、そう望んでいた場所。
柔らかく温かい、見るからに高級だと分かる寝具と夜具に身を包まれている。
物音一つしない静かな部屋は広く、造りからして高官専用のものだと分かる。
置かれた家具や調度品も傷の一つでもつけたらとんでもないことになりそうな値段を連想させる。
誰もいない広い静かな部屋ではあるが、外へと通じるであろうドアの外に感じる人の気配。
拘束はされていないがここから出ることは許されないだろう。
部屋の中には暮らしていくには問題ない程度のものが用意されており、とりあえず命の危険はすぐには訪れないであろうと予測する。
シンの背から、たぶんどこかに飛ばされたのだと思う。
その後、気を失っている間にここに運ばれた、と思う。
…私だけ?
他のみんなはどうしただろう?
ユウナ、無事だろうか? …みんなは? …アーロンは…?
自分の考えを払拭するように軽く頭を振って思考を切り替える。
とりあえず、自分の身をなんとかしよう。
それから、みんなのことを探すことにする。
寝具から身を下ろし、無駄に広い部屋の中を調べて回る。
窓には鍵と鉄格子。
窓から見える景色は、かつて毎日見下ろしていた大きな町並み。
やはりここは、ベベルだ。
それにしても、今の自分の姿をなんとかしたかった。
真っ白な長いローブのような夜具に身を包み、長い髪はほどかれて背中に流れている。
目に見えるところに、当然だが自分の武器はない。
適当な服に着替えようと、クローゼットの扉を開くが、ヒラヒラとした色とりどりの、かつて自分が着飾られていたときの衣装がまんまそこにあった。
私は幻滅し、僧官たちの衣装であるローブや袈裟のほうがまだマシだと感じた。
レバーを捻れば出てくる水も、ボタンを押せば温まる料理も、この世界では禁じられた機械の一つだ。
そんな機械を禁じているくせに、こうして当然のように使っている。
自分本位のベベルの本質。それが嫌で堪らなかった。
部屋の鍵を開ける音と、扉をゆっくりと開く音が聞こえ、1人の僧官が入ってきた。
「目が覚めましたか、ラフテル様。ご気分は如何ですかな?」
作ったような薄ら笑いを浮かべた僧官の顔は、見覚えがあった。
私が何も言わずにいると、それを気にも留めずに更に言葉を重ねる。
「いや、ご無事で何よりでした。…それにしても、本当にアルベド族には手を焼きます。召喚士を誘拐するなど、何を考えているのやら」
「アルベド…?」
「ええ、あなた方を発見したのは、ビーカネル砂漠です。アルベド族の本拠地がある砂漠の島ですよ。…覚えていらっしゃらないので?」
「…ちょっと、混乱してて」
何も知らない振りをして、なんとか情報を掴めれば上出来、か。
「無理もありません。ユウナ様を見つけることが出来たのは本当に偶然でして、これもエボンの賜物ですな」
「…私の他に、誰かいなかった?」
「ええ、誰もいらっしゃいませんでしたよ。召喚士ユウナ様のガードになられたというお話はここベベルにも伝わっておりましたが、いや誠にご立派です、ラフテル様。流石伝説のガードですな。ユウナ様をアルベドからお守りして下さったことは、寺院の皆が称えております」
「ユウナも、ここに?」
「はい、別室でご準備の真っ最中です」
…よかった、ユウナも無事なんだ。
僧官の言葉に安堵するも、別の言葉に引っ掛かりを覚える。
「…準備? 何、の…?」
嫌な予感て、どうしてこう当たるんだろうか?
「勿論、シーモア老師との御成婚です」
…死んだ、のではなかったのか。
マカラーニャの寺院で、確かに仲間達はシーモアを倒したと、故に反逆者となったとそう言っていた。
だが2人の結婚は予定通りに執り行われるという。
…どういうことだ?
仮に本当にシーモアを倒して、シーモアが死者として現われても不思議ではない。が、反逆者の罪を着せられたユウナと結婚なんて、エボンの老師にあるまじき行為。
いや、ユウナが反逆者であるというのは、まだ世間に広まっていないのでは…?
当然、シーモアが命を落としたという事実もすでに隠蔽されていたとしたら?
マカラーニャまでの旅の途中、確かに人々はユウナとシーモアとの結婚の噂を口にしていた。
スピラの人間までも偽り、操って世間に偽りの婚儀を見せるのか。
…どこまでエボンは人々を裏切れば気が済むのだろうか。
私とユウナはビーカネル島の砂漠で見つかったという話だった。
では、仲間達もそこに一緒に飛ばされたのだろうか?
なぜ、一緒にいない?
そんなのは簡単だ。ベベルに連れてこられたのは私とユウナだけ。
仲間達はそこに見捨てられたのだろう。
もう、私は10年前の私ではない。
もう、ベベルの、エボンの言いなりにはならない。
お飾りだけの存在なんて、絶対になってやるものか!
→