第4章【マカラーニャ~ベベル】
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仄暗い湖の底で
=34=
遠くで誰かが歌っている。
これは、祈りの歌。
幼い頃からいつも耳に入ってきていた誰もが知る荘厳な歌。
女性特有の高い音程で、静かに、気高く歌っている。
肌に触れる冷たい水の感触と、特殊な異界の匂い。…これは、シンの匂い。
ゆっくりと目を開ける。
相変わらず白く見えるのは、白い霧に包まれた場所だったからなのか。
不思議な硬質の獣の皮膚のような地面の上には冷たい水が張られ、建物の残骸のような酷く破損した建造物らしきものが所々に配置されている。
ゆっくりと体を起こし、その場に座り込む。
体のあちこちがギシギシと軋むように痛い。
あの真っ白な空間は、夢だったのだろうか?
ひどい不快感は未だに私を包み、頭が正常に思考を始めることが中々出来ないでいた。
水を掻き分けるような音が近付いてくる。
自分が倒れていたところは僅かに小高くなっていて、運良くそこに頭があったために溺れずに済んだようだ。
「気が付いたか」
ずっと探していたのだろうか、妙に安堵したような声色をしたアーロンがすぐ近くに跪いた。
そういえば、他のみんながいない。みんなバラバラになってしまったのか。
「…アーロン、ここは? …私、どうし……っっ!!!」
突然凄い力で方向を変えられ、唇を噛み千切られるのではないかと思えるほどの熱が与えられる。
背中と後頭部に回された腕に力が込められ、身動きすら出来ない。
突然のことで何が起きたのか理解できないまま、口の中に入り込む生暖かい柔らかな物体に眩暈を覚える。
それは私の口の中を蹂躙し、息苦しさに大きく開けた口を更に覆いつくしながら、私の舌を絡め取る。
寒いと思っていた感覚はどんどん熱を増し、体の奥底から沸き上がる得体の知れない感覚が全身を埋め尽くしていく。
私は今、何をしているんだ、何をされているんだ…
「…頼む、まだ、行かないでくれ」
やっと唇を解放されたものの、今度は体を拘束する力が更に強められ、私の首の傷の上に奴の無精髭がちくちくと軽い痛みを与える。
そこでやっと、私を抱き締めている男の体に腕を回した。
あの真っ白な空間で、たった一人きりで、思い出したくもない記憶の数々を見せられ、そして望んでしまったこいつの温もり。
それが今、ここにこうして実感できる。
私はまだ、生きている。
「何を、された」
「…別に、何も…」
何のことを言っているのか、瞬時に理解できてしまう。だが本当に、特別何かをされたかと問われればそう答えるしかない。
この濃密な空気をぶち壊してしまうのは本当に勿体無いと思ってしまうが、それでも今の状況を把握したい。
「アーロン、どう、なったんだ…?」
すこし腕の力を緩めたアーロンが私を促して立ち上がらせる。
歩き出そうと1歩進めた足は、自分が思ったように動いてくれなかった。
私の腕を掴み上げ、気遣う言葉をくれる。
「歩けないほど腰がくだけ……「違う!」…フッ」
支えられながらなんとか自分の足で歩き出し、皆が集まっているところへ向かった。
シーモアが闇の召喚獣を呼び出したところで、私は悲鳴を上げて倒れたらしい。
私の体のことを知っているアーロンは何も言わずに運んでくれたそうだ。
あの後、シーモアを倒した仲間たちはユウナを含め反逆者となり、グアドの追っ手から逃げ、巨大な魔物と戦闘となったのだが、その魔物が繰り出した攻撃で湖の底へと突き落とされてしまった、ということらしい。
…シーモアを、手にかけてしまったのか…
ここは、マカラーニャの湖の底ってことか。なるほど、先程から聞こえる歌声はマカラーニャの祈り子のものだったのか。
「大丈夫?」
ルールーが優しく声を掛ける。
「大丈夫だ。心配掛けてすまない。…それよりも、ユウナは…?」
遺跡の瓦礫の上に寝かされたユウナは意識を失ってはいるが大きな怪我をした様子もない。私は素直に安堵した。
目を覚ましたユウナに私はすかさず謝罪を入れる。
笑って私の身を案じてくれるユウナの優しさに、私はどうしてもブラスカを思い出さずにはいられない。
ここでユウナが初めて皆に自分の考えていたことを告白してくれた。
シーモアに全ての事実を話させ、そして寺院で裁きを受けてもらう、ユウナはそう望んで、結婚を承諾したのだと言う。
「ユウナ、ユウナの純粋な心を裏切って悪いけど、……甘いよ」
「!」
「おい、ラフテル!」
「相手はこのスピラを束ねるエボンの老師。どれだけ権力を持っているか、どれだけ力を持っているのか、少し考えれば分かりきったこと。
父であり族長でもあった偉大な人物をその手に掛け、そしてその座を奪う狡猾さ。人懐こい笑顔を見せるのは腹の中の闇を隠す為の仮面。
そんな人物相手に、それほど力も相手を謀ることすらできない1人の召喚士、しかも世間を知らぬ女の子が最初から敵うわけがないことくらい分かりきっている」
「ちょ、ラフテル!!」
「………」
「あんな奴の口車に乗せられて、自分に課せられた使命すらも忘れて、何が旅を続けたい、だ。反逆者なんて汚名を着せられて、寺院への立入を禁止されて祈り子と対面できなくなったら、何の為の旅なんだ」
できるだけ静かに、私の言いたいことがユウナだけじゃなく、他のみんなにも理解できるように、諭すように言葉を繋ぐ。
ユウナは何も言えずに俯いてしまった。
「…ごめんなさい。 …結局、わたしのやったことってなんだったんだろう。もし最初からみんなに相談していれば…」
「もういい! しなかったことの話など時間の無駄だ」
切り捨てるアーロンの言葉に、リュックが噛み付く。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん!おっちゃんも、ラフテルも!!」
だが、冷静に考えれば、正論だ。誰も反論するものはいない。
後悔や愚痴を聞いている暇はないのだ。
ユウナが改めて旅を続けることを宣言する。
ガードたちはそれを受け、思い思いに今後のことを決め、決意する。
だが、実際ユウナはもう反逆者として追われる身となってしまった。
「俺は寺院に敵対しても構わん」
「私はとっくにエボンを見捨ててる」
「「「!!!」」」
「なっ!!」
「おわっ!」
私とアーロンの言葉は、仲間たちの度肝を抜くような爆弾発言。
伝説のガードと呼ばれる2人の人物は、エボンに与する存在のはずと思われている。
とっくの昔に、エボンなんて信じることをやめてしまった私には、今更驚かれるほうが意外だ。
「ベベルへ行こう!マイカ総老師に会って、事情を説明しよう」
ユウナの提案に、自分たちの罪を償おうと考えていた者たちは即賛成する。
もし反対だと言っても、ユウナが行くというのならば行かねばならない。
…私は、できればベベルへは戻りたくない…
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遠くで誰かが歌っている。
これは、祈りの歌。
幼い頃からいつも耳に入ってきていた誰もが知る荘厳な歌。
女性特有の高い音程で、静かに、気高く歌っている。
肌に触れる冷たい水の感触と、特殊な異界の匂い。…これは、シンの匂い。
ゆっくりと目を開ける。
相変わらず白く見えるのは、白い霧に包まれた場所だったからなのか。
不思議な硬質の獣の皮膚のような地面の上には冷たい水が張られ、建物の残骸のような酷く破損した建造物らしきものが所々に配置されている。
ゆっくりと体を起こし、その場に座り込む。
体のあちこちがギシギシと軋むように痛い。
あの真っ白な空間は、夢だったのだろうか?
ひどい不快感は未だに私を包み、頭が正常に思考を始めることが中々出来ないでいた。
水を掻き分けるような音が近付いてくる。
自分が倒れていたところは僅かに小高くなっていて、運良くそこに頭があったために溺れずに済んだようだ。
「気が付いたか」
ずっと探していたのだろうか、妙に安堵したような声色をしたアーロンがすぐ近くに跪いた。
そういえば、他のみんながいない。みんなバラバラになってしまったのか。
「…アーロン、ここは? …私、どうし……っっ!!!」
突然凄い力で方向を変えられ、唇を噛み千切られるのではないかと思えるほどの熱が与えられる。
背中と後頭部に回された腕に力が込められ、身動きすら出来ない。
突然のことで何が起きたのか理解できないまま、口の中に入り込む生暖かい柔らかな物体に眩暈を覚える。
それは私の口の中を蹂躙し、息苦しさに大きく開けた口を更に覆いつくしながら、私の舌を絡め取る。
寒いと思っていた感覚はどんどん熱を増し、体の奥底から沸き上がる得体の知れない感覚が全身を埋め尽くしていく。
私は今、何をしているんだ、何をされているんだ…
「…頼む、まだ、行かないでくれ」
やっと唇を解放されたものの、今度は体を拘束する力が更に強められ、私の首の傷の上に奴の無精髭がちくちくと軽い痛みを与える。
そこでやっと、私を抱き締めている男の体に腕を回した。
あの真っ白な空間で、たった一人きりで、思い出したくもない記憶の数々を見せられ、そして望んでしまったこいつの温もり。
それが今、ここにこうして実感できる。
私はまだ、生きている。
「何を、された」
「…別に、何も…」
何のことを言っているのか、瞬時に理解できてしまう。だが本当に、特別何かをされたかと問われればそう答えるしかない。
この濃密な空気をぶち壊してしまうのは本当に勿体無いと思ってしまうが、それでも今の状況を把握したい。
「アーロン、どう、なったんだ…?」
すこし腕の力を緩めたアーロンが私を促して立ち上がらせる。
歩き出そうと1歩進めた足は、自分が思ったように動いてくれなかった。
私の腕を掴み上げ、気遣う言葉をくれる。
「歩けないほど腰がくだけ……「違う!」…フッ」
支えられながらなんとか自分の足で歩き出し、皆が集まっているところへ向かった。
シーモアが闇の召喚獣を呼び出したところで、私は悲鳴を上げて倒れたらしい。
私の体のことを知っているアーロンは何も言わずに運んでくれたそうだ。
あの後、シーモアを倒した仲間たちはユウナを含め反逆者となり、グアドの追っ手から逃げ、巨大な魔物と戦闘となったのだが、その魔物が繰り出した攻撃で湖の底へと突き落とされてしまった、ということらしい。
…シーモアを、手にかけてしまったのか…
ここは、マカラーニャの湖の底ってことか。なるほど、先程から聞こえる歌声はマカラーニャの祈り子のものだったのか。
「大丈夫?」
ルールーが優しく声を掛ける。
「大丈夫だ。心配掛けてすまない。…それよりも、ユウナは…?」
遺跡の瓦礫の上に寝かされたユウナは意識を失ってはいるが大きな怪我をした様子もない。私は素直に安堵した。
目を覚ましたユウナに私はすかさず謝罪を入れる。
笑って私の身を案じてくれるユウナの優しさに、私はどうしてもブラスカを思い出さずにはいられない。
ここでユウナが初めて皆に自分の考えていたことを告白してくれた。
シーモアに全ての事実を話させ、そして寺院で裁きを受けてもらう、ユウナはそう望んで、結婚を承諾したのだと言う。
「ユウナ、ユウナの純粋な心を裏切って悪いけど、……甘いよ」
「!」
「おい、ラフテル!」
「相手はこのスピラを束ねるエボンの老師。どれだけ権力を持っているか、どれだけ力を持っているのか、少し考えれば分かりきったこと。
父であり族長でもあった偉大な人物をその手に掛け、そしてその座を奪う狡猾さ。人懐こい笑顔を見せるのは腹の中の闇を隠す為の仮面。
そんな人物相手に、それほど力も相手を謀ることすらできない1人の召喚士、しかも世間を知らぬ女の子が最初から敵うわけがないことくらい分かりきっている」
「ちょ、ラフテル!!」
「………」
「あんな奴の口車に乗せられて、自分に課せられた使命すらも忘れて、何が旅を続けたい、だ。反逆者なんて汚名を着せられて、寺院への立入を禁止されて祈り子と対面できなくなったら、何の為の旅なんだ」
できるだけ静かに、私の言いたいことがユウナだけじゃなく、他のみんなにも理解できるように、諭すように言葉を繋ぐ。
ユウナは何も言えずに俯いてしまった。
「…ごめんなさい。 …結局、わたしのやったことってなんだったんだろう。もし最初からみんなに相談していれば…」
「もういい! しなかったことの話など時間の無駄だ」
切り捨てるアーロンの言葉に、リュックが噛み付く。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん!おっちゃんも、ラフテルも!!」
だが、冷静に考えれば、正論だ。誰も反論するものはいない。
後悔や愚痴を聞いている暇はないのだ。
ユウナが改めて旅を続けることを宣言する。
ガードたちはそれを受け、思い思いに今後のことを決め、決意する。
だが、実際ユウナはもう反逆者として追われる身となってしまった。
「俺は寺院に敵対しても構わん」
「私はとっくにエボンを見捨ててる」
「「「!!!」」」
「なっ!!」
「おわっ!」
私とアーロンの言葉は、仲間たちの度肝を抜くような爆弾発言。
伝説のガードと呼ばれる2人の人物は、エボンに与する存在のはずと思われている。
とっくの昔に、エボンなんて信じることをやめてしまった私には、今更驚かれるほうが意外だ。
「ベベルへ行こう!マイカ総老師に会って、事情を説明しよう」
ユウナの提案に、自分たちの罪を償おうと考えていた者たちは即賛成する。
もし反対だと言っても、ユウナが行くというのならば行かねばならない。
…私は、できればベベルへは戻りたくない…
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