第1章【ルカ~ミヘン街道】
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人は何かをなそうと決意を固めた瞬間を、覚悟と呼ぶ。
その為に何かを犠牲にすることが分かっていても、やらなければならないことが責務となって圧し掛かる。
決意を持って何かの覚悟を決めた人間の表情は、重い。
その心中も計り知れない混沌とした思惑に乗っ取られた思考も、重い。
成し遂げようとする責と果たそうとする使命は、さらに重い。
それでも、笑顔を絶やさぬ人だった。
心から楽しさに溢れるなんてことは無くても、どんなときでも笑顔だった。
その笑顔に救われるときもあった。
その笑顔が怖いときもあった。
その笑顔に悲しみを含ませるときもあった…。
スピラに住む全ての人間にこの笑顔が伝染すればよかったのに。
=3=
ユウナが笑ってる。
その顔を見て、ブラスカの笑顔を思い出さずにはいられない。
あの後、店を出たアーロンとしばらく街の中をブラブラと歩きながら色々話をした。
自分が過ごした10年間と、アーロンが過ごした10年間。
曖昧にしか話せなかったが、スピラの色々な町を訪れたとだけ話してやった。
不思議と、アーロンが行っていたザナルカンドとジェクトのいたザナルカンドは同じだって感じた。
どうやってそこに行ったのか、なんて、聞かなくてもなんとなく理解してしまった。
異界の匂いがするから…
たぶん、アーロンも気付いてる。
私がすでに彼が生者ではないってことをわかってるんだと、気付いてる。
でも、だから、あえてお互いに何も言わない、聞かない。
店の主から貰った2枚のチケットで、一緒にブリッツを観戦しようと誘ってみた。
アーロンはこういうものに興味が無いのかと思っていたが、向こうのザナルカンドでしっかりティーダの成長を見守ると同時に楽しみ方も覚えてきたらしい。
競技開始時刻は、2人で街を歩き回っているうちにとうに過ぎていた。
何試合か見過ごした。
本日最後の試合、決勝戦には当然のようにこの街のチーム。
そして相手は信じられないことにあのオーラカだ!
万年初戦敗退だったチームがどうした!?
大興奮の試合の結果は、翌日の報道で大々的に報じられることになるだろう。
その試合が終結した直後のことだった。
突然スタジアムに響き渡る悲鳴と嬌声。
試合で興奮した観客の引き起こしたハプニングにしては異様な物々しさが漂う。
「魔物だ!!」
大勢の客がパニックを引き起こして我先にスタジアムを逃げ出そうと出入り口に殺到し始めた。
逃げ惑う観客の波を後ろに流し、私たちはゆっくりと通路に降り立った。
その向こうから異界の匂いをプンプン漂わせたでかい魔物がのっそりと姿を現す。
いつの間にか、スタジアム内は溢れんばかりの魔物が出没している。
素早い脚力で客席を跳ね回るもの、我が物顔でスタジアム内を飛び回る怪鳥、その異様な光景にわが目を疑うばかりだ。
「腕は鈍っていないだろうな?」
ひとをバカにしたように背中越しに顔を半分だけコチラに向けて、紅い背中が問いかける。
背中合わせにした相手を振り返ることなく、腰に装着した2本の小太刀で、眼前の魔物を切り裂きながら答える。
「こっちのセリフだ」
その後合流したオーラカのキャプテン、いや“元”キャプテンのワッカと、先程大活躍を見せた新人選手君。
ジェクトの息子、ティーダ。綺麗な金髪は本当に太陽みたいだ。
だがその反面、きれいな顔立ちをしているせいもあってか、どうも私には青年というよりは少年の部類に入ってしまう。
ワッカとは面識があった為、軽く片手を挙げて挨拶をして少し待っててもらうよう頼み、私はアーロンと少年と共に港の裏の人気のない場所まで移動した。
「全部あんたのせいだっ!!」
今にも泣きそうな顔でアーロンに掴みかかる少年。
そうだよな、突然見知らぬ場所に連れてこられ、訳も変わらぬまま命の危機を体験したのだろう。
ようやく出会えた見知った人物に冷たく突き放されれば、こんな少年でなくても不安で居たたまれなくなる。
その不満を思い切り感情のままにぶつける事でしか、彼は正気を保っていられなかったんだろう。
…寂しい思いを、してきてたんだろうか?
どこか憮然としてしまった様子の少年に、私は声を掛けることも出来ないまま、アーロンがユウナにガードに就く事を望み、その流れで私まで共に、ということになってしまった。
私は別に再びガードになんて、なりたくはなかったんだがな…
また、あんな辛い想いを強いられる旅をするなんて、実は真平御免だった。
私の意志とは無関係に、私の立場がそれを許さないことは十分理解しているし、何よりもあのブラスカの娘だ。
あの時、ブラスカに依頼された“約束”が、私の頭の中から離れない。
それはきっとアーロンも同じなんだろう。
だからこそ、今、ここにこの少年、ティーダが存在しているのだ。
2人の若者が、高台の上から大声で笑いあっている。
突然のことに少々驚き戸惑ったが、笑っていられるという現実を垣間見て、少し安堵したかのように気が緩んだことは確かだった。
「改めて、よろしく!」
「あ、よ、ヨロシクッス」
ぎこちなく差し出された片手をしっかり握ってやれば、少年は僅かに頬を赤らめて視線を逸らした。
アーロンと、今後の進路の予定を話していたルールーが声を掛けてきた。
「まさかラフテル様までガードになって下さるとは思ってもいませんでした」
「ホントだぜ。伝説のガードが2人もついてくれるなんて、すげーよな~!」
ワッカも話に参加してきて、続けてユウナもそれに加わった。
「でも、どうして承諾してくれたんですか?ビサイドでは断られたのに…」
「?」
疑問詞を浮かべるアーロンを尻目に、少し声のトーンを落としてユウナに聞いてみた。
「ユウナ、キーリカに行った?」
「はい、寺院で祈りを捧げてきました」
「そこで、異界送り、してくれた?」
「……あ、はい。…え、それって…」
「…ありがと」
笑顔を浮かべたつもりだった。
たった今、少年と共に笑顔の練習をしたばかりのユウナの顔からは、寂しさが滲み出ていた。
これ以上の話は、せっかくの笑顔の気分を壊しかねない。そう判断した私はこれでお終いとばかりに無理に笑顔を浮かべて視線を逸らした。
ユウナの前から逃げるようにアーロンの側まで移動して、もう一度ユウナを振り返った。
「ほら、出発しよう!笑顔で旅、するんだろ?」
「…ハイ!」
→
その為に何かを犠牲にすることが分かっていても、やらなければならないことが責務となって圧し掛かる。
決意を持って何かの覚悟を決めた人間の表情は、重い。
その心中も計り知れない混沌とした思惑に乗っ取られた思考も、重い。
成し遂げようとする責と果たそうとする使命は、さらに重い。
それでも、笑顔を絶やさぬ人だった。
心から楽しさに溢れるなんてことは無くても、どんなときでも笑顔だった。
その笑顔に救われるときもあった。
その笑顔が怖いときもあった。
その笑顔に悲しみを含ませるときもあった…。
スピラに住む全ての人間にこの笑顔が伝染すればよかったのに。
=3=
ユウナが笑ってる。
その顔を見て、ブラスカの笑顔を思い出さずにはいられない。
あの後、店を出たアーロンとしばらく街の中をブラブラと歩きながら色々話をした。
自分が過ごした10年間と、アーロンが過ごした10年間。
曖昧にしか話せなかったが、スピラの色々な町を訪れたとだけ話してやった。
不思議と、アーロンが行っていたザナルカンドとジェクトのいたザナルカンドは同じだって感じた。
どうやってそこに行ったのか、なんて、聞かなくてもなんとなく理解してしまった。
異界の匂いがするから…
たぶん、アーロンも気付いてる。
私がすでに彼が生者ではないってことをわかってるんだと、気付いてる。
でも、だから、あえてお互いに何も言わない、聞かない。
店の主から貰った2枚のチケットで、一緒にブリッツを観戦しようと誘ってみた。
アーロンはこういうものに興味が無いのかと思っていたが、向こうのザナルカンドでしっかりティーダの成長を見守ると同時に楽しみ方も覚えてきたらしい。
競技開始時刻は、2人で街を歩き回っているうちにとうに過ぎていた。
何試合か見過ごした。
本日最後の試合、決勝戦には当然のようにこの街のチーム。
そして相手は信じられないことにあのオーラカだ!
万年初戦敗退だったチームがどうした!?
大興奮の試合の結果は、翌日の報道で大々的に報じられることになるだろう。
その試合が終結した直後のことだった。
突然スタジアムに響き渡る悲鳴と嬌声。
試合で興奮した観客の引き起こしたハプニングにしては異様な物々しさが漂う。
「魔物だ!!」
大勢の客がパニックを引き起こして我先にスタジアムを逃げ出そうと出入り口に殺到し始めた。
逃げ惑う観客の波を後ろに流し、私たちはゆっくりと通路に降り立った。
その向こうから異界の匂いをプンプン漂わせたでかい魔物がのっそりと姿を現す。
いつの間にか、スタジアム内は溢れんばかりの魔物が出没している。
素早い脚力で客席を跳ね回るもの、我が物顔でスタジアム内を飛び回る怪鳥、その異様な光景にわが目を疑うばかりだ。
「腕は鈍っていないだろうな?」
ひとをバカにしたように背中越しに顔を半分だけコチラに向けて、紅い背中が問いかける。
背中合わせにした相手を振り返ることなく、腰に装着した2本の小太刀で、眼前の魔物を切り裂きながら答える。
「こっちのセリフだ」
その後合流したオーラカのキャプテン、いや“元”キャプテンのワッカと、先程大活躍を見せた新人選手君。
ジェクトの息子、ティーダ。綺麗な金髪は本当に太陽みたいだ。
だがその反面、きれいな顔立ちをしているせいもあってか、どうも私には青年というよりは少年の部類に入ってしまう。
ワッカとは面識があった為、軽く片手を挙げて挨拶をして少し待っててもらうよう頼み、私はアーロンと少年と共に港の裏の人気のない場所まで移動した。
「全部あんたのせいだっ!!」
今にも泣きそうな顔でアーロンに掴みかかる少年。
そうだよな、突然見知らぬ場所に連れてこられ、訳も変わらぬまま命の危機を体験したのだろう。
ようやく出会えた見知った人物に冷たく突き放されれば、こんな少年でなくても不安で居たたまれなくなる。
その不満を思い切り感情のままにぶつける事でしか、彼は正気を保っていられなかったんだろう。
…寂しい思いを、してきてたんだろうか?
どこか憮然としてしまった様子の少年に、私は声を掛けることも出来ないまま、アーロンがユウナにガードに就く事を望み、その流れで私まで共に、ということになってしまった。
私は別に再びガードになんて、なりたくはなかったんだがな…
また、あんな辛い想いを強いられる旅をするなんて、実は真平御免だった。
私の意志とは無関係に、私の立場がそれを許さないことは十分理解しているし、何よりもあのブラスカの娘だ。
あの時、ブラスカに依頼された“約束”が、私の頭の中から離れない。
それはきっとアーロンも同じなんだろう。
だからこそ、今、ここにこの少年、ティーダが存在しているのだ。
2人の若者が、高台の上から大声で笑いあっている。
突然のことに少々驚き戸惑ったが、笑っていられるという現実を垣間見て、少し安堵したかのように気が緩んだことは確かだった。
「改めて、よろしく!」
「あ、よ、ヨロシクッス」
ぎこちなく差し出された片手をしっかり握ってやれば、少年は僅かに頬を赤らめて視線を逸らした。
アーロンと、今後の進路の予定を話していたルールーが声を掛けてきた。
「まさかラフテル様までガードになって下さるとは思ってもいませんでした」
「ホントだぜ。伝説のガードが2人もついてくれるなんて、すげーよな~!」
ワッカも話に参加してきて、続けてユウナもそれに加わった。
「でも、どうして承諾してくれたんですか?ビサイドでは断られたのに…」
「?」
疑問詞を浮かべるアーロンを尻目に、少し声のトーンを落としてユウナに聞いてみた。
「ユウナ、キーリカに行った?」
「はい、寺院で祈りを捧げてきました」
「そこで、異界送り、してくれた?」
「……あ、はい。…え、それって…」
「…ありがと」
笑顔を浮かべたつもりだった。
たった今、少年と共に笑顔の練習をしたばかりのユウナの顔からは、寂しさが滲み出ていた。
これ以上の話は、せっかくの笑顔の気分を壊しかねない。そう判断した私はこれでお終いとばかりに無理に笑顔を浮かべて視線を逸らした。
ユウナの前から逃げるようにアーロンの側まで移動して、もう一度ユウナを振り返った。
「ほら、出発しよう!笑顔で旅、するんだろ?」
「…ハイ!」
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