第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
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真実は嘘に勝る
=28=
一つの目的を成し遂げる為に命を投げ出さなければならないと知ってて
命を失う旅を続ける者の命を命を懸けて守り
多くの人々の命を救う為にその脅威を打ち滅ぼし
守った平和の時間は短く
そして次の命が再び差し出される
命を失うことが最初から分かっているから権利を持つなんて、空しいだけだ。
私にとって、今回のユウナの結婚を権利だとは思えない。
それどころか、ユウナは全て自分だけを犠牲にしているように感じる。
10年前、初めて会った頃からユウナは我慢強くて人に頼ることをしない。
そして何時でも他人私情主義でもある。
「…話してくれるだけでもいいのに」
少年の言葉は、何も真実を知らない者の純粋で辛辣な言葉。
「いつかガードの出番が来る」
アーロンの言葉は真実を包み隠そうとする偽善と漸進の言葉。
私たちはガードだ。
ガードとして、まだ年若い者達を導いて行かねばならない。
だがあくまでもガードでしかない。
この修行の旅をしなければならないのは召喚士であり、その人の言葉は絶対なのだ。
ユウナが決めたことならば私たちにはそれを覆すことなど無意味だ。
「…いつか、ティーダが必要な時が来るよ」
「どういう意味っスか?」
「君にしかできないことがあるってこと」
「?」
いつまでも続くかと思われていた広い平原も漸く終わりを迎え、辺りは不気味なほどに静まりかえった荘厳な森が現れる。
このスピラに溢れる全ての生命に恵みをもたらすマカラーニャの森だ。
手付かずの大自然が、何百年に渡り生み出した豊かな水と、人の想いを留めて形を成す不思議なスフィア。
そのどちらも等しく平等に存在するからこそ、多くの生命に満ち溢れている。
私にとってはただ悲しい記憶しか無い森。
異界の匂いが強くなってくる。
そうだ、想いとは死者の魂。
水辺に集まる魂は人の想いを繋ぎ合わせて魔物となる。
少年は未だ真実を知らない。
旅の終わりに待つ絶望を。
ジェクトはここで全てを知った。
ブラスカの旅の終着点を。
そして覚悟を決めたのだ。
ブラスカは最後まで何も言わないつもりだったのかも知れない。
勿論アーロンも。
当時の私はまだ若くて、何も知らないで言いたいことを無遠慮にずけずけと口にするジェクトに苛ついていた。
ずっと休み無しの強行軍にレベルの高い魔物との連戦。
そして何より旅の目的地が近付いてきたという焦りが私の中で抑えきれなくなってしまったのだ。
つまらないことでジェクトと言い争い、止せばいいのに余計な一言を漏らしたことで、ジェクトも気付いてしまった。
私たちが何かを隠しているってことに。
「何を考えている」
アーロンに掛けられた声に私の中の思い出は消えていく。
「…あ、うん。未だにティーダは何も知らないけど、ジェクトはここで…」
「あぁ、そうだったな。 ……そうか、確かこの辺りだ」
マカラーニャのスフィアの成分を多分に吸った森の木々は、いつしか硬質な樹皮に包まれる。
この10年間で倒木によって塞がれてしまった道を斬り開くかのように、アーロンは朧気に記憶に残る小道を作り出した。
ユウナも少年も、アーロンの行動についていけずに呆けてしまっていた。
振り返ることもせず、アーロンは自分が斬り倒して生み出した、人1人通れる隙間をどんどん進んでいく。
「行くぞ」
少年の背を軽く叩いて促すと、少年はユウナを伴いアーロンについていった。
あの時、10年前、ここで…
気まずい空気の中、私はジェクトに会わせる顔もなく、そこに残されたスフィアの中身なんて知らなかった。
映し出された懐かしい映像に胸が締め付けられる。
あぁ、そうだ、こんな時もあったんだなんて感慨深げに目を細める。
10年前の姿に今の仲間達から掛かるからかいの言葉も耳に入らない。
今は亡き笑顔のブラスカ、相変わらず堅物のアーロン、そして太陽のような明るいジェクトとその横で今では考えられないほど破顔している10年前の自分。
スフィアから零れる映像は一部だけだが、そこから湧き出る記憶は泉の如く、私の頭の中を駆け巡った。
あの時の言葉、行動、匂いや音までもが鮮明に蘇る。
今更遅いと思っても、後になってから必ず浮かぶのが後悔というもの。
今この場所で、その姿を目にして、私はやっぱり後悔してしまっている。
何故あの時、あんな事を口走ってしまったんだろう。どうして上手く誤魔化すことが出来なかったんだろう。
どうしてあんなつまらない喧嘩をしてしまったんだろう……。
「よう、おめえがこれを見てるってことは…」
普段のものとは明らかに違う低いトーンで話すジェクトが写っていた。
私も初めて見る、私が知らなかったジェクトのメッセージ。
ザナルカンドにいる妻と息子に見せるんだと、いつも口癖のように言いながら映像をスフィアに残し続けたジェクトのこのメッセージは、言わずもがな、少年に向けられた、最後の親としての言葉。
「…それからよ、一つ頼まれてくれや。もしあの子にあったらよ、『ありがとう』ってな。 ま、元気で暮らせや。……そんだけだ」
「…“あの子”…?」
その場に立ち尽くした少年に、アーロンが声を掛ける。
「ジェクトは、お前を愛していた」
恥ずかしさを誤魔化すように少年が否定して見せるが、アーロンはどこか満足げだった。
旅路に戻る道すがら、アーロンは私にも声を掛けた。
「…お前のせいではない。いずれ嫌でも知る筈だった」
あの時、ここで何があったのかを全て知っているアーロンは、慰めようとしたのだろうか。
いつもならここでふざけて誤魔化すのだが、どうしてか、素直に頷いてしまった。
10年越しの私への言葉に、胸が一杯になってしまった。
→
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一つの目的を成し遂げる為に命を投げ出さなければならないと知ってて
命を失う旅を続ける者の命を命を懸けて守り
多くの人々の命を救う為にその脅威を打ち滅ぼし
守った平和の時間は短く
そして次の命が再び差し出される
命を失うことが最初から分かっているから権利を持つなんて、空しいだけだ。
私にとって、今回のユウナの結婚を権利だとは思えない。
それどころか、ユウナは全て自分だけを犠牲にしているように感じる。
10年前、初めて会った頃からユウナは我慢強くて人に頼ることをしない。
そして何時でも他人私情主義でもある。
「…話してくれるだけでもいいのに」
少年の言葉は、何も真実を知らない者の純粋で辛辣な言葉。
「いつかガードの出番が来る」
アーロンの言葉は真実を包み隠そうとする偽善と漸進の言葉。
私たちはガードだ。
ガードとして、まだ年若い者達を導いて行かねばならない。
だがあくまでもガードでしかない。
この修行の旅をしなければならないのは召喚士であり、その人の言葉は絶対なのだ。
ユウナが決めたことならば私たちにはそれを覆すことなど無意味だ。
「…いつか、ティーダが必要な時が来るよ」
「どういう意味っスか?」
「君にしかできないことがあるってこと」
「?」
いつまでも続くかと思われていた広い平原も漸く終わりを迎え、辺りは不気味なほどに静まりかえった荘厳な森が現れる。
このスピラに溢れる全ての生命に恵みをもたらすマカラーニャの森だ。
手付かずの大自然が、何百年に渡り生み出した豊かな水と、人の想いを留めて形を成す不思議なスフィア。
そのどちらも等しく平等に存在するからこそ、多くの生命に満ち溢れている。
私にとってはただ悲しい記憶しか無い森。
異界の匂いが強くなってくる。
そうだ、想いとは死者の魂。
水辺に集まる魂は人の想いを繋ぎ合わせて魔物となる。
少年は未だ真実を知らない。
旅の終わりに待つ絶望を。
ジェクトはここで全てを知った。
ブラスカの旅の終着点を。
そして覚悟を決めたのだ。
ブラスカは最後まで何も言わないつもりだったのかも知れない。
勿論アーロンも。
当時の私はまだ若くて、何も知らないで言いたいことを無遠慮にずけずけと口にするジェクトに苛ついていた。
ずっと休み無しの強行軍にレベルの高い魔物との連戦。
そして何より旅の目的地が近付いてきたという焦りが私の中で抑えきれなくなってしまったのだ。
つまらないことでジェクトと言い争い、止せばいいのに余計な一言を漏らしたことで、ジェクトも気付いてしまった。
私たちが何かを隠しているってことに。
「何を考えている」
アーロンに掛けられた声に私の中の思い出は消えていく。
「…あ、うん。未だにティーダは何も知らないけど、ジェクトはここで…」
「あぁ、そうだったな。 ……そうか、確かこの辺りだ」
マカラーニャのスフィアの成分を多分に吸った森の木々は、いつしか硬質な樹皮に包まれる。
この10年間で倒木によって塞がれてしまった道を斬り開くかのように、アーロンは朧気に記憶に残る小道を作り出した。
ユウナも少年も、アーロンの行動についていけずに呆けてしまっていた。
振り返ることもせず、アーロンは自分が斬り倒して生み出した、人1人通れる隙間をどんどん進んでいく。
「行くぞ」
少年の背を軽く叩いて促すと、少年はユウナを伴いアーロンについていった。
あの時、10年前、ここで…
気まずい空気の中、私はジェクトに会わせる顔もなく、そこに残されたスフィアの中身なんて知らなかった。
映し出された懐かしい映像に胸が締め付けられる。
あぁ、そうだ、こんな時もあったんだなんて感慨深げに目を細める。
10年前の姿に今の仲間達から掛かるからかいの言葉も耳に入らない。
今は亡き笑顔のブラスカ、相変わらず堅物のアーロン、そして太陽のような明るいジェクトとその横で今では考えられないほど破顔している10年前の自分。
スフィアから零れる映像は一部だけだが、そこから湧き出る記憶は泉の如く、私の頭の中を駆け巡った。
あの時の言葉、行動、匂いや音までもが鮮明に蘇る。
今更遅いと思っても、後になってから必ず浮かぶのが後悔というもの。
今この場所で、その姿を目にして、私はやっぱり後悔してしまっている。
何故あの時、あんな事を口走ってしまったんだろう。どうして上手く誤魔化すことが出来なかったんだろう。
どうしてあんなつまらない喧嘩をしてしまったんだろう……。
「よう、おめえがこれを見てるってことは…」
普段のものとは明らかに違う低いトーンで話すジェクトが写っていた。
私も初めて見る、私が知らなかったジェクトのメッセージ。
ザナルカンドにいる妻と息子に見せるんだと、いつも口癖のように言いながら映像をスフィアに残し続けたジェクトのこのメッセージは、言わずもがな、少年に向けられた、最後の親としての言葉。
「…それからよ、一つ頼まれてくれや。もしあの子にあったらよ、『ありがとう』ってな。 ま、元気で暮らせや。……そんだけだ」
「…“あの子”…?」
その場に立ち尽くした少年に、アーロンが声を掛ける。
「ジェクトは、お前を愛していた」
恥ずかしさを誤魔化すように少年が否定して見せるが、アーロンはどこか満足げだった。
旅路に戻る道すがら、アーロンは私にも声を掛けた。
「…お前のせいではない。いずれ嫌でも知る筈だった」
あの時、ここで何があったのかを全て知っているアーロンは、慰めようとしたのだろうか。
いつもならここでふざけて誤魔化すのだが、どうしてか、素直に頷いてしまった。
10年越しの私への言葉に、胸が一杯になってしまった。
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