第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
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雷轟の平原
=25=
グアドサラムを覆う森の終盤に近付くと、そこからもう遠くに音が響いてくる。
森を抜けると、景色は突然一変する。
一瞬、目もくらむような眩しい光に辺りが包まれ、耳を劈くような悲鳴が響く。
一拍遅れて空気を割る雷鳴が轟く。
ここは通称『雷平原』。
通称で呼ばれることのほうが多いため、正式な名称なんて忘れてしまった。
ここは旅人にとって最も危険な道の一つ。
決して止むことない雷が絶えず落ちてくる。
これはどんな原理で何故こんな気象なのかなんて、分からない。
分かる必要もない。
スピラは、変わることを拒んでいる世界なのだ。
分かった所で、それから何をどうすべきかなんて、きっと誰も考えない。
これから何年たっても、きっと変わらずここにある。
ここを通り抜けるためには、あちこちに建てられた避雷塔を目指し、そこから付かず離れずで雷を避けながら進まなくてならない。
過去に、命を掛けてこの避雷塔を建造してくれた人物の偉業の成果で、今は命を落とす危険性がほとんどなくなっている。
本来ならば名誉を与えられてもおかしくはない人物なのだが、失われた過去の技術で作られた機械の避雷塔を建造したのがアルベド人であるということだけで、称えられることもなく、ただその名だけが今に伝えられているのだ。
この機械のお陰で召喚士も旅を続けることが出来るようになったというのに、皮肉なものだ。
眩しい稲光が辺りを昼間のように明るく照らす度に、大気を震わす雷鳴が轟く度に、リュックは悲鳴を上げる。
頭を抱えるように耳を塞ぎ、その場に蹲ってしまう。
人は誰にでも苦手なものはある。
かく言う私も乗り物は苦手だ。
つい先日もシパーフの上で恥を晒したばかりだ。
だから、この雷に怯える少女の気持ちがよく分かる。
本当に雷が嫌いなのだろう、遠くで迸る稲妻にさえ、ビクリと身を震わせている。
それでも、リュックは懸命に前に歩みを進めている。
それに対して、普段なら優しい言葉を掛けたり何かと気を遣ってくれるであろうユウナの様子が少々普通ではない。
時々何かを思いつめた表情をしたり、遠くを呆けたように眺めていたり、戦闘にも集中できていない。
今もそうだ。
何気ない振りをして、後列で補助に回るユウナの側へ近付く。
突然魔物の群れに囲まれ、仲間たちはルールーの魔法を頼りに対峙しているが、ユウナだけはなぜか心ここにあらずといった表情だ。
雷を怖がるあのリュックですら、何とか己を奮い立たせてそこに立っているというのに…
後方に回ってきた魔物の一体が、ユウナ目掛けて雷を落とす。
「!! 『バサンダ!!』」
咄嗟にユウナに魔法をかける。
属性を無効にする魔法はぎりぎりで間に合ったようで、魔物の放った雷を吸収するように空中に消えていった。
そこでユウナはやっと気が付いたように顔を上げる。
「…ユウナ!?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「こっちこそ悪い。…でも、今は戦闘に集中してくれ!」
「はい!」
杖を握り直し、ユウナは前方を見据えた。
とりあえずは大丈夫、だろうか。
魔物の気配がなくなり、避雷塔の下に移動して傷の治療をしたり体力の回復を図った。
ユウナの様子はいつもと変わらない。
それでもやはり、完全に誤魔化すことが出来ていない。
感情が丸わかりだ。
特にユウナの場合は嘘を付くことがヘタなのだ。
私だけじゃない、ルールーもワッカも、リュックにもそれは分かっていた。
それでも、誰も何も言わない。
「じゃ、出発します!」
雷平原は広大だ。避雷塔がある場所は限られているので必然的に人間が歩くルートは決められてくる。
1日を通して止むことのない雷を生み出す、黒くて厚い雷雲は時間の概念を狂わせ、体力を消耗させる。
出来るだけ早く通り抜けるべき場所なのだ。
こんな所でもどっこい商売をしている肝っ玉の据わった奴がいる。
アルベド族のリンが経営する旅行公司が、この雷平原の中ほどに建っているのだ。
旅人にとってこれほどありがたいオアシスはない。
今日1日でこの広い平原を越えるのは、少々難しいかもしれない。
ユウナの様子はおかしいし、第一に、この少女。
「うへへへへへ…」
おかしな笑いとも気が振れたとも取れるような声を発し、少年の足にしがみついている。
人間我慢の限界を超えるとこうなるのかと思った。
旅行公司の前まで到着したとき、それまで必死に抑えて堪えてきたものがとうとう溢れてしまったのだろう。リュックが泣きながら訴える。
「休んでいこうよ~~」
そんなリュックを、アーロンは一蹴するように冷たくあしらうが、私も今回はできればアーロンに賛同したい。
だがずっと様子のおかしいユウナのことを考えると、このまま先へ進むのは難しいだろう。
構わず先へ進もうとするアーロンを、何とか引きとめようとリュックは懸命だ。
「…仕方がない」
重い溜息と共に出た言葉に、リュックは一目散に公司の中に駆け込んでいった。
激しい雷は止まることがない。
公司の中には巨大な機械が設置してあった。
アルベド族が用意したもので、特別に寺院の許可がおりた乾燥装置だ。
雨に濡れた服をここで乾かすことが出来る。
私たちは思い思いにそこに集まって腰を落ち着けた。
ずっと口を開かなかったユウナが、公司の従業員に何かを告げ奥の部屋へと続く廊下のほうに1人きりで向かっていった。
「らしくないわね」
ルールーもユウナの態度に不審を覚えたようだ。
「…本当はまだ迷っているんじゃないか?」
私の言葉に、仲間たちは反応するものの、それが完全に否定できないのか誰も反論しない。
「…そ、そんなことないだろ!」
遮ったのは、少年。
ユウナが足を進めた方向を見据えたまま言葉を続ける。
「異界行って、親父さんと話して、決めたからシーモアに返事しにいったんだろ?…いなかったけどさ」
少年の言葉につられるように、私もユウナが消えた先を見つめた。
→
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グアドサラムを覆う森の終盤に近付くと、そこからもう遠くに音が響いてくる。
森を抜けると、景色は突然一変する。
一瞬、目もくらむような眩しい光に辺りが包まれ、耳を劈くような悲鳴が響く。
一拍遅れて空気を割る雷鳴が轟く。
ここは通称『雷平原』。
通称で呼ばれることのほうが多いため、正式な名称なんて忘れてしまった。
ここは旅人にとって最も危険な道の一つ。
決して止むことない雷が絶えず落ちてくる。
これはどんな原理で何故こんな気象なのかなんて、分からない。
分かる必要もない。
スピラは、変わることを拒んでいる世界なのだ。
分かった所で、それから何をどうすべきかなんて、きっと誰も考えない。
これから何年たっても、きっと変わらずここにある。
ここを通り抜けるためには、あちこちに建てられた避雷塔を目指し、そこから付かず離れずで雷を避けながら進まなくてならない。
過去に、命を掛けてこの避雷塔を建造してくれた人物の偉業の成果で、今は命を落とす危険性がほとんどなくなっている。
本来ならば名誉を与えられてもおかしくはない人物なのだが、失われた過去の技術で作られた機械の避雷塔を建造したのがアルベド人であるということだけで、称えられることもなく、ただその名だけが今に伝えられているのだ。
この機械のお陰で召喚士も旅を続けることが出来るようになったというのに、皮肉なものだ。
眩しい稲光が辺りを昼間のように明るく照らす度に、大気を震わす雷鳴が轟く度に、リュックは悲鳴を上げる。
頭を抱えるように耳を塞ぎ、その場に蹲ってしまう。
人は誰にでも苦手なものはある。
かく言う私も乗り物は苦手だ。
つい先日もシパーフの上で恥を晒したばかりだ。
だから、この雷に怯える少女の気持ちがよく分かる。
本当に雷が嫌いなのだろう、遠くで迸る稲妻にさえ、ビクリと身を震わせている。
それでも、リュックは懸命に前に歩みを進めている。
それに対して、普段なら優しい言葉を掛けたり何かと気を遣ってくれるであろうユウナの様子が少々普通ではない。
時々何かを思いつめた表情をしたり、遠くを呆けたように眺めていたり、戦闘にも集中できていない。
今もそうだ。
何気ない振りをして、後列で補助に回るユウナの側へ近付く。
突然魔物の群れに囲まれ、仲間たちはルールーの魔法を頼りに対峙しているが、ユウナだけはなぜか心ここにあらずといった表情だ。
雷を怖がるあのリュックですら、何とか己を奮い立たせてそこに立っているというのに…
後方に回ってきた魔物の一体が、ユウナ目掛けて雷を落とす。
「!! 『バサンダ!!』」
咄嗟にユウナに魔法をかける。
属性を無効にする魔法はぎりぎりで間に合ったようで、魔物の放った雷を吸収するように空中に消えていった。
そこでユウナはやっと気が付いたように顔を上げる。
「…ユウナ!?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「こっちこそ悪い。…でも、今は戦闘に集中してくれ!」
「はい!」
杖を握り直し、ユウナは前方を見据えた。
とりあえずは大丈夫、だろうか。
魔物の気配がなくなり、避雷塔の下に移動して傷の治療をしたり体力の回復を図った。
ユウナの様子はいつもと変わらない。
それでもやはり、完全に誤魔化すことが出来ていない。
感情が丸わかりだ。
特にユウナの場合は嘘を付くことがヘタなのだ。
私だけじゃない、ルールーもワッカも、リュックにもそれは分かっていた。
それでも、誰も何も言わない。
「じゃ、出発します!」
雷平原は広大だ。避雷塔がある場所は限られているので必然的に人間が歩くルートは決められてくる。
1日を通して止むことのない雷を生み出す、黒くて厚い雷雲は時間の概念を狂わせ、体力を消耗させる。
出来るだけ早く通り抜けるべき場所なのだ。
こんな所でもどっこい商売をしている肝っ玉の据わった奴がいる。
アルベド族のリンが経営する旅行公司が、この雷平原の中ほどに建っているのだ。
旅人にとってこれほどありがたいオアシスはない。
今日1日でこの広い平原を越えるのは、少々難しいかもしれない。
ユウナの様子はおかしいし、第一に、この少女。
「うへへへへへ…」
おかしな笑いとも気が振れたとも取れるような声を発し、少年の足にしがみついている。
人間我慢の限界を超えるとこうなるのかと思った。
旅行公司の前まで到着したとき、それまで必死に抑えて堪えてきたものがとうとう溢れてしまったのだろう。リュックが泣きながら訴える。
「休んでいこうよ~~」
そんなリュックを、アーロンは一蹴するように冷たくあしらうが、私も今回はできればアーロンに賛同したい。
だがずっと様子のおかしいユウナのことを考えると、このまま先へ進むのは難しいだろう。
構わず先へ進もうとするアーロンを、何とか引きとめようとリュックは懸命だ。
「…仕方がない」
重い溜息と共に出た言葉に、リュックは一目散に公司の中に駆け込んでいった。
激しい雷は止まることがない。
公司の中には巨大な機械が設置してあった。
アルベド族が用意したもので、特別に寺院の許可がおりた乾燥装置だ。
雨に濡れた服をここで乾かすことが出来る。
私たちは思い思いにそこに集まって腰を落ち着けた。
ずっと口を開かなかったユウナが、公司の従業員に何かを告げ奥の部屋へと続く廊下のほうに1人きりで向かっていった。
「らしくないわね」
ルールーもユウナの態度に不審を覚えたようだ。
「…本当はまだ迷っているんじゃないか?」
私の言葉に、仲間たちは反応するものの、それが完全に否定できないのか誰も反論しない。
「…そ、そんなことないだろ!」
遮ったのは、少年。
ユウナが足を進めた方向を見据えたまま言葉を続ける。
「異界行って、親父さんと話して、決めたからシーモアに返事しにいったんだろ?…いなかったけどさ」
少年の言葉につられるように、私もユウナが消えた先を見つめた。
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