第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
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限られた時間
=24=
行き場のなくなった手を戻して、目を閉じる。
そう遠くない昔を思い出すように。
ビサイドに行って、そこでしばらく過ごしたって言ったけど、本当はキマリから話を聞いた後すぐ、ビサイドを発った。
その足でグアドサラムへ向かった。今考えるとなんでそんなことをしたのか、何を考えていたのかバカらしいけど。
異界へ、行こうと思ってた。
行けばブラスカに、あんたに会えると勘違いしてたんだろう。
でも会ったら会ったで、さらに絶望を味わうことになるんだろうな、なんてことも漠然と考えてた、んだと思う。
ほら、異界って、死んだ人に会える所だからさ。
いざ異界の入口まで来て、そこで足は止まってしまった。
自分の心の中の葛藤が、どうしても異界へ私を進ませようとしなかった。
会いたい。 会いたくない……
結局私は異界へは入らなかった。
私はそこで、ある人物と出会った。
その人も、とても悩んで苦しんでいた。身内のことで…
世間からの冷たい扱いに耐え切れなくなって、愛するものを追いやってしまったこと、全てを理解してやれなかったこと、きちんと愛を与えてやれなかったこと、守ってやることが出来なかったこと、私はその人とたくさんたくさん話をした。
『今からでも、遅くはないよ』
私はその人に言った。その人はこう返した。
『もう、遅すぎる…』
その言葉は酷い後悔を孕んだものだった。
その人は、願い、望んでいた。“生きる”ってことを。
そして知りたい、理解したいと言っていた。
私は、その人の力になりたいと願った。
もう私の大切な人の“物語”は終わってしまったから、でも、大切なその人の魂を感じていたいと望んだ。
私たちは2人で、小さな旅に出た。
ナギ節を迎えたスピラは平和で、魔物もそれほど多くはなかったし、私と同行したその人は権力を持った人だったから、それほど苦もなく目的地に到着できた。
本当ならもう2度と、来ることはないと思っていた場所に、会いたくないと思っていた人物に会うために。
彼女は、私のことを覚えてなどいなかった。
そんな程度の存在でしかなかったんだと、悔しかったけどそれも受け入れた。
生きながらにして魂だけを入れ物に封じ込める技、それが使える人物が、そこにいた。
「!!! …まさか、ユウナレスカ、か…!?」
かなりの衝撃を受けたのか、アーロンの厳しい視線を生み出す目が見開かれた。
私は小さく頷き、そして話を続ける。
取り出した魂は、半分だけ。
入れ物は私の体。
私が生き続ける限り、その人の魂は失われない。
その人が生き続ける限り、私の体は壊れない。
その人にはヒトの感情が宿り、私にはその人の能力が宿った。
私たちはグアドサラムに戻り、そして別れた。
その人は、ジスカル老師。
私が、ベベルでまだ幼い頃からよく面倒を見てくれた優しいお方。
他の老師は皆嫌いだったけど、この人だけは別だった。全てを知っていて、全てを受け止めてくれた人。
数年後、老師は息子を手元に戻したという話を聞いた。
私はすぐにジスカルに会いに行った。
ジスカルは、病で伏せていた。初めて出会ったその息子は、禍々しいオーラに包まれていた。
私はジスカルに会うことも出来ないまま、恐ろしい闇を抱えた息子、シーモアから逃げるので精一杯だった。
やがてジスカルは命を落とし、私にはこの能力だけが残った。
私が生きている限り、ジスカルの魂は消えないはずだった。それを打ち消したのが、彼の闇の召喚獣。
あの呪いで、私の中の半分だけの魂は消されてしまった。
「…異界でジスカルが出てきたのは……」
「うん、たぶん、いやきっと、私のせい…」
私は、グアド族と同じ様に、異界の匂いを感じ取ることができる。
もともとのグアド族じゃないから、強い匂いには当てられてしまい、平静を保つことが出来なくなる。
「…アーロンも、もう……」
「……あぁ、死人だ。 …いつから気付いてた?」
「ルカで、再会した時から。アーロンもさ、異界の匂い、するから…」
「…そうか」
「ジスカルと魂を共有させたから、ジスカルが亡くなった今、私の魂も消えようとしてる。…私には、もう、時間がない」
アーロンが、私の肩を引き寄せて、自分の胸に押し付ける。
死人だって分かっているのに、どうしてこう温もりに安心するかな?…どうして嫌いな異界の匂いなのに、心地いいんだろう?
10年経って、1人で旅をしていた頃の寂しさなんて無くなってしまったけど、あの時にこうして誰かに支えられて貰ってたら、今の私はここにこうして存在していられただろうか?
アーロンの胸に抱かれて、幸福だと感じられていただろうか?
ずっと、寂しかった、辛かった記憶が急にあの時の感情をそのまま引き出して、涙が浮かぶ。
ベベルから逃げてマカラーニャの森で1人きりで泣いた、あの夜の感情を…
私が涙を流していることに気が付いたのか、いつも懐から覗かせている素手が私の頬に触れる。
涙を拭うように目尻をなぞり、顔を上向かせるように誘う。
涙でぼやけたまま、あの優しい視線を感じて、私はまた目が離せなくなる。
10年前の旅の途中では決して見ることのなかった熱い視線は、当時の私が気付いていなかっただけなんだろうか?
あの頃はブラスカを守るのに必死で、誰かを愛するとか守って欲しいとか、そんな気持ちは微塵もなかった。
「…そんなにブラスカの魂を感じたかったのは、ブラスカのことを……」
どうなんだろう?
私は、ブラスカを大切だと思っていたし、死なせたくなかった。
それは私だけではなくこのアーロンもジェクトも同じ気持ちだったはずだ。
寂しくて堪らなかったのは確かだ。
ジェクトはシンとなってこの世界に存在している。
アーロンは生きているのかどうかも。分からない。
ただブラスカだけは、無駄な犠牲となって命を落とした。
グアドの能力があればその魂を感じられる。ジェクトのことも…。
行方が判らないのならば、探せばいいのに、私はそれをしなかった。
なぜか、確信があったから……。
ずっと見続ける、あの夢のせい、だろうか?
本当は、私はあの時からずっと、この人の側にいたいと願ってたんじゃないだろうか?
熱い優しい視線がゆっくりと近付いてくる。
「…フッ、そんな顔を見たのは、初めてだな」
「…なっ!!……っ!!」
生きている私より、もう命のないこいつのほうが体温が高いなんて、ズルイ…
→
=24=
行き場のなくなった手を戻して、目を閉じる。
そう遠くない昔を思い出すように。
ビサイドに行って、そこでしばらく過ごしたって言ったけど、本当はキマリから話を聞いた後すぐ、ビサイドを発った。
その足でグアドサラムへ向かった。今考えるとなんでそんなことをしたのか、何を考えていたのかバカらしいけど。
異界へ、行こうと思ってた。
行けばブラスカに、あんたに会えると勘違いしてたんだろう。
でも会ったら会ったで、さらに絶望を味わうことになるんだろうな、なんてことも漠然と考えてた、んだと思う。
ほら、異界って、死んだ人に会える所だからさ。
いざ異界の入口まで来て、そこで足は止まってしまった。
自分の心の中の葛藤が、どうしても異界へ私を進ませようとしなかった。
会いたい。 会いたくない……
結局私は異界へは入らなかった。
私はそこで、ある人物と出会った。
その人も、とても悩んで苦しんでいた。身内のことで…
世間からの冷たい扱いに耐え切れなくなって、愛するものを追いやってしまったこと、全てを理解してやれなかったこと、きちんと愛を与えてやれなかったこと、守ってやることが出来なかったこと、私はその人とたくさんたくさん話をした。
『今からでも、遅くはないよ』
私はその人に言った。その人はこう返した。
『もう、遅すぎる…』
その言葉は酷い後悔を孕んだものだった。
その人は、願い、望んでいた。“生きる”ってことを。
そして知りたい、理解したいと言っていた。
私は、その人の力になりたいと願った。
もう私の大切な人の“物語”は終わってしまったから、でも、大切なその人の魂を感じていたいと望んだ。
私たちは2人で、小さな旅に出た。
ナギ節を迎えたスピラは平和で、魔物もそれほど多くはなかったし、私と同行したその人は権力を持った人だったから、それほど苦もなく目的地に到着できた。
本当ならもう2度と、来ることはないと思っていた場所に、会いたくないと思っていた人物に会うために。
彼女は、私のことを覚えてなどいなかった。
そんな程度の存在でしかなかったんだと、悔しかったけどそれも受け入れた。
生きながらにして魂だけを入れ物に封じ込める技、それが使える人物が、そこにいた。
「!!! …まさか、ユウナレスカ、か…!?」
かなりの衝撃を受けたのか、アーロンの厳しい視線を生み出す目が見開かれた。
私は小さく頷き、そして話を続ける。
取り出した魂は、半分だけ。
入れ物は私の体。
私が生き続ける限り、その人の魂は失われない。
その人が生き続ける限り、私の体は壊れない。
その人にはヒトの感情が宿り、私にはその人の能力が宿った。
私たちはグアドサラムに戻り、そして別れた。
その人は、ジスカル老師。
私が、ベベルでまだ幼い頃からよく面倒を見てくれた優しいお方。
他の老師は皆嫌いだったけど、この人だけは別だった。全てを知っていて、全てを受け止めてくれた人。
数年後、老師は息子を手元に戻したという話を聞いた。
私はすぐにジスカルに会いに行った。
ジスカルは、病で伏せていた。初めて出会ったその息子は、禍々しいオーラに包まれていた。
私はジスカルに会うことも出来ないまま、恐ろしい闇を抱えた息子、シーモアから逃げるので精一杯だった。
やがてジスカルは命を落とし、私にはこの能力だけが残った。
私が生きている限り、ジスカルの魂は消えないはずだった。それを打ち消したのが、彼の闇の召喚獣。
あの呪いで、私の中の半分だけの魂は消されてしまった。
「…異界でジスカルが出てきたのは……」
「うん、たぶん、いやきっと、私のせい…」
私は、グアド族と同じ様に、異界の匂いを感じ取ることができる。
もともとのグアド族じゃないから、強い匂いには当てられてしまい、平静を保つことが出来なくなる。
「…アーロンも、もう……」
「……あぁ、死人だ。 …いつから気付いてた?」
「ルカで、再会した時から。アーロンもさ、異界の匂い、するから…」
「…そうか」
「ジスカルと魂を共有させたから、ジスカルが亡くなった今、私の魂も消えようとしてる。…私には、もう、時間がない」
アーロンが、私の肩を引き寄せて、自分の胸に押し付ける。
死人だって分かっているのに、どうしてこう温もりに安心するかな?…どうして嫌いな異界の匂いなのに、心地いいんだろう?
10年経って、1人で旅をしていた頃の寂しさなんて無くなってしまったけど、あの時にこうして誰かに支えられて貰ってたら、今の私はここにこうして存在していられただろうか?
アーロンの胸に抱かれて、幸福だと感じられていただろうか?
ずっと、寂しかった、辛かった記憶が急にあの時の感情をそのまま引き出して、涙が浮かぶ。
ベベルから逃げてマカラーニャの森で1人きりで泣いた、あの夜の感情を…
私が涙を流していることに気が付いたのか、いつも懐から覗かせている素手が私の頬に触れる。
涙を拭うように目尻をなぞり、顔を上向かせるように誘う。
涙でぼやけたまま、あの優しい視線を感じて、私はまた目が離せなくなる。
10年前の旅の途中では決して見ることのなかった熱い視線は、当時の私が気付いていなかっただけなんだろうか?
あの頃はブラスカを守るのに必死で、誰かを愛するとか守って欲しいとか、そんな気持ちは微塵もなかった。
「…そんなにブラスカの魂を感じたかったのは、ブラスカのことを……」
どうなんだろう?
私は、ブラスカを大切だと思っていたし、死なせたくなかった。
それは私だけではなくこのアーロンもジェクトも同じ気持ちだったはずだ。
寂しくて堪らなかったのは確かだ。
ジェクトはシンとなってこの世界に存在している。
アーロンは生きているのかどうかも。分からない。
ただブラスカだけは、無駄な犠牲となって命を落とした。
グアドの能力があればその魂を感じられる。ジェクトのことも…。
行方が判らないのならば、探せばいいのに、私はそれをしなかった。
なぜか、確信があったから……。
ずっと見続ける、あの夢のせい、だろうか?
本当は、私はあの時からずっと、この人の側にいたいと願ってたんじゃないだろうか?
熱い優しい視線がゆっくりと近付いてくる。
「…フッ、そんな顔を見たのは、初めてだな」
「…なっ!!……っ!!」
生きている私より、もう命のないこいつのほうが体温が高いなんて、ズルイ…
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