第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
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思い出話1
=23=
「私は、逃げたんだ。…今も逃げ続けている、卑怯者なだけだ…」
異界送りをされないままのブラスカを見送った後、悲しみにくれる私にあんたは言った。
「ベベルへ帰れ」
アーロンに何をするつもりなのかを聞くと、もう一度確かめる、そう言って私の前から姿を消した。
言われたとおりにベベルに帰り、その待遇の違いに愕然とした。
あんなにバカにしていたブラスカを、寺院の皆は賞賛し称えた。
私はマイカ総老師含め4老師の前で、全てを語った。
なぜ召喚士は究極召喚を求めるのか、究極召喚とはどんなものか、どうやって手に入れるのか、究極召喚を得る為に、何を犠牲にしなければならないのか…。
ブラスカとジェクトが最後にどうなったのかも、全て話した。
「その時、あいつら、私に何て言ったと思う?」
「?」
「『なんじゃ、あの堅物は選ばれんかったのか』…って」
「!!」
それだけで、理解した。
寺院が考えてたこと、全部、寺院に仕組まれたことだったんだ。
私は寺院から外に出ることを禁じられ、毎日派手な衣装やら装飾やらをじゃらじゃら付けられて、いかにも“お飾り”として民の前に立たされた。
エボンの教えの正しさを説く言葉を、寺院が存在し行っていることの大切さを説明する言葉だけを言いたくも無いのに言わされて。
拝むように私に挨拶する皆の一連の動きに合わせてエボンの挨拶を返して…
嫌だと拒めば魔法をかけられた。
黙って抜け出しては、見つかって酷い仕打ちを受けた。
動けないようにと毒を盛られたこともある。
私はただ、エボンの教えを守った結果として平和を齎した、民の希望の象徴としてのみ存在を許された。
こんな、馬鹿げた寺院の力の誇示をする為に私はベベルに戻ったのではないのに。
毎日酷い吐き気と頭痛に襲われた。
こんなことしてる場合じゃない。早く、ブラスカの娘、ユウナを連れて、あの島に行きたいと思ってた。
旅の途中でブラスカがしきりに素晴らしいと言っていた、あの平和で静かなビサイド島で、穏やかに暮らしたかった。
ブラスカを見下して卑下してきた連中が、急に掌を返したように卑しい笑いを浮かべながらへつらっているのを見たくなかった。
ただただ、気持ち悪かった。毎日酷い嫌悪感に苛まれていた。
…そしていつも、あんたのことを考えた。
ナギ平原で別れてから、一向にベベルには戻ってこない、噂も届かない。
何をしているんだろう、どこにいるんだろう?、いつ、帰ってくるんだろう、と。
私は、逃げた。
宛がわれた部屋に唯一あった黒い服だけを身にまとって、部屋に用意されたたくさんの色とりどりの衣装を魔法で全部燃やした。
駆け込んできた見張りの僧兵を気絶させて、私は夜の闇に紛れてベベルから逃げた。
マカラーニャの森に入ったところで、私は泣いた。幼い子供のように声を上げて。
それまで必死に堪えていた涙が、止まらなくなった。
いっそのこと、命を絶ってブラスカにまた会えればいいとも思った。
1人は、辛く寂しかった。
そこから、私は旅を始めた。
旅という名目で、本当は逃げていただけ。
ブラスカとの旅は初めてだったし慌しい行程だったから、景色に目を向ける余裕なんてなかったけど、その日からの旅はのんびり行くことにした。
ゆっくり、心を静めるために、穏やかな時間を過ごそうと思った。
私は自分を隠し、偽り、たくさんの人に出会い、そして平和な時間を知った。
ブラスカが齎したナギ節が、決して無駄ではないことを確信した。
雷平原を越えて、グアドサラムを通り過ぎ、幻光河でシパーフに乗って、ジョゼ街道を南下し、きのこ岩街道を下って、ミヘン街道をのんびり渡り、ルカでブリッツを見て、頑張って船に乗ってキーリカにも、そして念願のビサイドにも行った。
そこで、初めてユウナを見た。
ブラスカによく似た可愛い少女だった。
ブラスカと、ユウナの母から一つずつ受け継いだであろう、色の違う瞳がキラキラ輝いてて、あぁ、この子はここで幸せに暮らしてるんだなと安心した。
そして、キマリから伝えられた。
ここにユウナと共に来ることになった理由を。
誰の頼みだったのかと言うことも。
漠然と悟った。もう、会えないんだって…。
まだブリッツを始めたばかりのワッカとチャップ、魔法を教えて欲しいと頼んでくるルールーや、ブラスカのことを知りたがる幼いユウナと、私はそこでしばらく一緒に暮らした。
でも、平和は長くは続かなかった。
スピラの災厄が、復活してしまった。
それと同時に、私がビサイドにいるという事もベベルの寺院にばれ、すぐにたくさんの僧兵が私を迎えに来た。
ビサイドの寺院を訪れた巡回僧が報告したらしい。
もうビサイドにはいられなかった。
誰にも何も告げることなく、私は再び逃げた。
島を出ると、急に1人きりという現実が襲ってきて、寂しさに耐えられなかった。
帰る家もなくし、頼れる人もいない。
このままベベルに帰れば、皆が優しく迎えてくれる。食事にありつける。何もしなくても裕福に暮らしていける。
分かっていても、それだけは嫌だった。
復活したシンを見て、その気配でなんとなくこのシンがジェクトなんだと確信してしまった。
何度も海辺に出て、ジェクトに、私はここにいると叫んだ。
ブラスカが選んだのが、どうして私じゃなかったのかと恨んだ。
1つの町や村に長く留まることが出来なくなって、スピラ中のあちこちを転々としていた。
灼熱の砂漠にも行った。キマリの故郷にも行った。寺院の無い小さな村もたくさん見た。
行く先々で魔物を倒してその日暮らし。
いつの間にか、10年が経ってた。
私はエボンの教えを信じることはなくなったけど、寺院で暮らしたことに後悔はしていない。
それに、一時でも平和を齎してくれたブラスかを、スピラ中の人間が称えていた。
私は自分を偽ることを止めた。
たくさんの人に、知って貰いたい。
知りたいと願う人には教えたい。
それは義務ではないけど、権利ではある。
そして、約束でもあるから…
私は私が語れるだけ、たくさんの人に、大切な人の物語を語ってきた。
「…で、今に至る、ってとこかな」
「………」
「…アーロン? 長すぎて寝ちゃったとか?」
「……で?」
「…?」
「肝心な部分が抜けているだろう。俺は全部と言ったはずだが」
「…うーむ、誤魔化されなかったか…」
「当然だ」
「でもその前に、喉渇いた。何か飲み物…」
徐に、腰にぶら下げてる酒徳利を目の前に突き出した。
「あ、いいの!?やった! ……あっ!」
私が受け取ろうと差し出した手をきれいにかわして、アーロンはそれを自分の口に運ぶ。
「さっき、奴の屋敷での言葉の意味を話したら、飲ませてやる」
「………ちっ」
→
=23=
「私は、逃げたんだ。…今も逃げ続けている、卑怯者なだけだ…」
異界送りをされないままのブラスカを見送った後、悲しみにくれる私にあんたは言った。
「ベベルへ帰れ」
アーロンに何をするつもりなのかを聞くと、もう一度確かめる、そう言って私の前から姿を消した。
言われたとおりにベベルに帰り、その待遇の違いに愕然とした。
あんなにバカにしていたブラスカを、寺院の皆は賞賛し称えた。
私はマイカ総老師含め4老師の前で、全てを語った。
なぜ召喚士は究極召喚を求めるのか、究極召喚とはどんなものか、どうやって手に入れるのか、究極召喚を得る為に、何を犠牲にしなければならないのか…。
ブラスカとジェクトが最後にどうなったのかも、全て話した。
「その時、あいつら、私に何て言ったと思う?」
「?」
「『なんじゃ、あの堅物は選ばれんかったのか』…って」
「!!」
それだけで、理解した。
寺院が考えてたこと、全部、寺院に仕組まれたことだったんだ。
私は寺院から外に出ることを禁じられ、毎日派手な衣装やら装飾やらをじゃらじゃら付けられて、いかにも“お飾り”として民の前に立たされた。
エボンの教えの正しさを説く言葉を、寺院が存在し行っていることの大切さを説明する言葉だけを言いたくも無いのに言わされて。
拝むように私に挨拶する皆の一連の動きに合わせてエボンの挨拶を返して…
嫌だと拒めば魔法をかけられた。
黙って抜け出しては、見つかって酷い仕打ちを受けた。
動けないようにと毒を盛られたこともある。
私はただ、エボンの教えを守った結果として平和を齎した、民の希望の象徴としてのみ存在を許された。
こんな、馬鹿げた寺院の力の誇示をする為に私はベベルに戻ったのではないのに。
毎日酷い吐き気と頭痛に襲われた。
こんなことしてる場合じゃない。早く、ブラスカの娘、ユウナを連れて、あの島に行きたいと思ってた。
旅の途中でブラスカがしきりに素晴らしいと言っていた、あの平和で静かなビサイド島で、穏やかに暮らしたかった。
ブラスカを見下して卑下してきた連中が、急に掌を返したように卑しい笑いを浮かべながらへつらっているのを見たくなかった。
ただただ、気持ち悪かった。毎日酷い嫌悪感に苛まれていた。
…そしていつも、あんたのことを考えた。
ナギ平原で別れてから、一向にベベルには戻ってこない、噂も届かない。
何をしているんだろう、どこにいるんだろう?、いつ、帰ってくるんだろう、と。
私は、逃げた。
宛がわれた部屋に唯一あった黒い服だけを身にまとって、部屋に用意されたたくさんの色とりどりの衣装を魔法で全部燃やした。
駆け込んできた見張りの僧兵を気絶させて、私は夜の闇に紛れてベベルから逃げた。
マカラーニャの森に入ったところで、私は泣いた。幼い子供のように声を上げて。
それまで必死に堪えていた涙が、止まらなくなった。
いっそのこと、命を絶ってブラスカにまた会えればいいとも思った。
1人は、辛く寂しかった。
そこから、私は旅を始めた。
旅という名目で、本当は逃げていただけ。
ブラスカとの旅は初めてだったし慌しい行程だったから、景色に目を向ける余裕なんてなかったけど、その日からの旅はのんびり行くことにした。
ゆっくり、心を静めるために、穏やかな時間を過ごそうと思った。
私は自分を隠し、偽り、たくさんの人に出会い、そして平和な時間を知った。
ブラスカが齎したナギ節が、決して無駄ではないことを確信した。
雷平原を越えて、グアドサラムを通り過ぎ、幻光河でシパーフに乗って、ジョゼ街道を南下し、きのこ岩街道を下って、ミヘン街道をのんびり渡り、ルカでブリッツを見て、頑張って船に乗ってキーリカにも、そして念願のビサイドにも行った。
そこで、初めてユウナを見た。
ブラスカによく似た可愛い少女だった。
ブラスカと、ユウナの母から一つずつ受け継いだであろう、色の違う瞳がキラキラ輝いてて、あぁ、この子はここで幸せに暮らしてるんだなと安心した。
そして、キマリから伝えられた。
ここにユウナと共に来ることになった理由を。
誰の頼みだったのかと言うことも。
漠然と悟った。もう、会えないんだって…。
まだブリッツを始めたばかりのワッカとチャップ、魔法を教えて欲しいと頼んでくるルールーや、ブラスカのことを知りたがる幼いユウナと、私はそこでしばらく一緒に暮らした。
でも、平和は長くは続かなかった。
スピラの災厄が、復活してしまった。
それと同時に、私がビサイドにいるという事もベベルの寺院にばれ、すぐにたくさんの僧兵が私を迎えに来た。
ビサイドの寺院を訪れた巡回僧が報告したらしい。
もうビサイドにはいられなかった。
誰にも何も告げることなく、私は再び逃げた。
島を出ると、急に1人きりという現実が襲ってきて、寂しさに耐えられなかった。
帰る家もなくし、頼れる人もいない。
このままベベルに帰れば、皆が優しく迎えてくれる。食事にありつける。何もしなくても裕福に暮らしていける。
分かっていても、それだけは嫌だった。
復活したシンを見て、その気配でなんとなくこのシンがジェクトなんだと確信してしまった。
何度も海辺に出て、ジェクトに、私はここにいると叫んだ。
ブラスカが選んだのが、どうして私じゃなかったのかと恨んだ。
1つの町や村に長く留まることが出来なくなって、スピラ中のあちこちを転々としていた。
灼熱の砂漠にも行った。キマリの故郷にも行った。寺院の無い小さな村もたくさん見た。
行く先々で魔物を倒してその日暮らし。
いつの間にか、10年が経ってた。
私はエボンの教えを信じることはなくなったけど、寺院で暮らしたことに後悔はしていない。
それに、一時でも平和を齎してくれたブラスかを、スピラ中の人間が称えていた。
私は自分を偽ることを止めた。
たくさんの人に、知って貰いたい。
知りたいと願う人には教えたい。
それは義務ではないけど、権利ではある。
そして、約束でもあるから…
私は私が語れるだけ、たくさんの人に、大切な人の物語を語ってきた。
「…で、今に至る、ってとこかな」
「………」
「…アーロン? 長すぎて寝ちゃったとか?」
「……で?」
「…?」
「肝心な部分が抜けているだろう。俺は全部と言ったはずだが」
「…うーむ、誤魔化されなかったか…」
「当然だ」
「でもその前に、喉渇いた。何か飲み物…」
徐に、腰にぶら下げてる酒徳利を目の前に突き出した。
「あ、いいの!?やった! ……あっ!」
私が受け取ろうと差し出した手をきれいにかわして、アーロンはそれを自分の口に運ぶ。
「さっき、奴の屋敷での言葉の意味を話したら、飲ませてやる」
「………ちっ」
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