第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
異界も苦手
=22=
こんな体でも、人間と呼んでくれるなら、私は死者をも愛そう…
異界から戻ってきたユウナたちの姿を目にした突端、激しい胸の痛みに襲われる。
「……っっ ……ぐっ!!」
何とか誤魔化そうとしたが、それは明らかに無理だ。もう、立っていることもできず、その場に蹲る。
激しい痛みは心臓をわしづかみにされたように鼓動の収縮を邪魔し、息ができなくなる。
「!?」
「ラフテル!?」
駆け寄った2人の姿はユウナたちにも見えたのだろう。すぐに側まで階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
痛みは激しさを増すばかりで、自分の胸の辺りの服を己の拳で握り締める。
嫌な汗が浮かび、声を出すどころか目を開けることさえ叶わない。
急にそこにいたグアド族の者が悲痛な声を上げる。
「ジスカル様!?」
その声にユウナが素早く反応する。
ユウナとガード達が見たものは、異界の結界から今にも飛び出ようとしているジスカルの、残留思念。
それはヒトの姿をかろうじて保ってはいるが、生きているとはとても呼べない、ぼやけた曖昧な空気の塊のようなもの。
この異界のシステムが、人の記憶に反応してその姿を作り出すのだとしたら、このジスカルは誰の記憶から生まれたのだろうか?
…そんなことは、分かりきっている。
「迷って、いるようだな…」
呟いたアーロンの言葉がとても遠くに聞こえる。
「…ジ、…ジス、カ……」
「ユウナ、送ってやれ」
アーロンの声を最後に、私の意識は途切れた。
額に載せられた冷たい感触で意識を取り戻した。
静かに目を明けると、暗い天井がそこにあった。
「気が付いたわね。気分はどう?」
やっと最近になって口調を崩してくれたルールーが覗き込んだ。
「ラフテル、急にどうしたの? ユウナも心配してたよ~」
「…ルールー、リュック。 …ここ、どこ?」
「宿の一室よ。異界の入口から、アーロンさんが運んでくれたの」
「…そう。…ユウナは?」
「別の部屋にいるわ」
「…決めた、の?」
何を、とは、口にはしたくない。
ルールーは静かに一つ頷いた。
「シーモア老師に返事をしに行ったんだけど、老師はすでにマカラーニャ寺院へ出立したそうなの。今日のところはもう遅いから、明日、私たちも出発することにしたわ」
「ユウナのことも心配だけどさ、イキナリあんな苦しんでるラフテルも、心配なんだよね」
「…うん、ごめん。もう大丈夫だから、2人も休んで」
「何か、食べる?」
「あぁ、いいよルールー。自分で勝手に何かするから。…ありがとう、2人とも」
2人が寝台に入っていくのを確認してから、私はゆっくりと身を起こした。
先程の激痛は嘘のように治まって、鼓動も正常通りに動いている。
何かに反応したような…。
それは何か、なんて、もうとっくに答えは出ている。
寝台から降りて部屋を静かに抜け出す。
辺りは真っ暗でしんと静まり返っていた。いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。既に真夜中だ。
昼間、幻光河でユウナの魔法によって睡眠は取ったし、今も起きたばかりで全く眠気は無い。
空腹かと言えばそうでもなく、ただ異様に喉の渇きを覚えた。
廊下からロビーへ繋がるドアを開けたところの壁に、アーロンが凭れかかっていた。
ドアを開けて身をくぐした瞬間に声を掛けられる。
「もう平気なのか」
「…!! ちょっとびっくりした。いると思わなかった…。うん、ありがと」
焦った。ここは異界の匂いが強いから、アーロンの匂いに気付かなかった。
パタンとドアを閉めて、誰もいない静かなロビーの空気を感じながら、ゆっくりと顔を上げる。
赤い服がすぐ近くに見えたと思った瞬間、体全体を包み込まれる。
「わっ…」
一瞬、何が起こったのか理解できず、両手が空中を彷徨った。
抱き締められる、なんて何年ぶりだろう?
赤い服に顔を押し付けられて、声が出せない。
自分の腕を折り曲げて、反射的に押しのけようとその部分を押し返してみる。
その距離は開くどころか、更に力込めて背中から後頭部と腰に回された腕に力が入る。
心臓が、また早衝を打ち始め、顔が熱くなってくる。
そのままの沈黙が重くて気まずい。
「……あ、…あの…」
「話して、くれるんだろ」
「…手、離してくれれば…」
「離したら、また拳が飛んできそうだからな」
「あ、いや、流石にこの体勢で話すのはちょっと…」
そこで漸く私は解放され、ほっと安堵の息を漏らす。
アーロンは片手を顎に添えたまま、ニヤリと口角を上げて見せた。
ロビーの片隅にある小さなソファーに腰を下ろした。
目の前には椅子も、他に座るスペースも十分にあるというのに、どうしてこいつは隣に座るかな…
「さて、何から聞きたい?」
「全部だ」
…即答ですか、そうですか。
じゃあ、10年前のあの日から…
→
=22=
こんな体でも、人間と呼んでくれるなら、私は死者をも愛そう…
異界から戻ってきたユウナたちの姿を目にした突端、激しい胸の痛みに襲われる。
「……っっ ……ぐっ!!」
何とか誤魔化そうとしたが、それは明らかに無理だ。もう、立っていることもできず、その場に蹲る。
激しい痛みは心臓をわしづかみにされたように鼓動の収縮を邪魔し、息ができなくなる。
「!?」
「ラフテル!?」
駆け寄った2人の姿はユウナたちにも見えたのだろう。すぐに側まで階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
痛みは激しさを増すばかりで、自分の胸の辺りの服を己の拳で握り締める。
嫌な汗が浮かび、声を出すどころか目を開けることさえ叶わない。
急にそこにいたグアド族の者が悲痛な声を上げる。
「ジスカル様!?」
その声にユウナが素早く反応する。
ユウナとガード達が見たものは、異界の結界から今にも飛び出ようとしているジスカルの、残留思念。
それはヒトの姿をかろうじて保ってはいるが、生きているとはとても呼べない、ぼやけた曖昧な空気の塊のようなもの。
この異界のシステムが、人の記憶に反応してその姿を作り出すのだとしたら、このジスカルは誰の記憶から生まれたのだろうか?
…そんなことは、分かりきっている。
「迷って、いるようだな…」
呟いたアーロンの言葉がとても遠くに聞こえる。
「…ジ、…ジス、カ……」
「ユウナ、送ってやれ」
アーロンの声を最後に、私の意識は途切れた。
額に載せられた冷たい感触で意識を取り戻した。
静かに目を明けると、暗い天井がそこにあった。
「気が付いたわね。気分はどう?」
やっと最近になって口調を崩してくれたルールーが覗き込んだ。
「ラフテル、急にどうしたの? ユウナも心配してたよ~」
「…ルールー、リュック。 …ここ、どこ?」
「宿の一室よ。異界の入口から、アーロンさんが運んでくれたの」
「…そう。…ユウナは?」
「別の部屋にいるわ」
「…決めた、の?」
何を、とは、口にはしたくない。
ルールーは静かに一つ頷いた。
「シーモア老師に返事をしに行ったんだけど、老師はすでにマカラーニャ寺院へ出立したそうなの。今日のところはもう遅いから、明日、私たちも出発することにしたわ」
「ユウナのことも心配だけどさ、イキナリあんな苦しんでるラフテルも、心配なんだよね」
「…うん、ごめん。もう大丈夫だから、2人も休んで」
「何か、食べる?」
「あぁ、いいよルールー。自分で勝手に何かするから。…ありがとう、2人とも」
2人が寝台に入っていくのを確認してから、私はゆっくりと身を起こした。
先程の激痛は嘘のように治まって、鼓動も正常通りに動いている。
何かに反応したような…。
それは何か、なんて、もうとっくに答えは出ている。
寝台から降りて部屋を静かに抜け出す。
辺りは真っ暗でしんと静まり返っていた。いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。既に真夜中だ。
昼間、幻光河でユウナの魔法によって睡眠は取ったし、今も起きたばかりで全く眠気は無い。
空腹かと言えばそうでもなく、ただ異様に喉の渇きを覚えた。
廊下からロビーへ繋がるドアを開けたところの壁に、アーロンが凭れかかっていた。
ドアを開けて身をくぐした瞬間に声を掛けられる。
「もう平気なのか」
「…!! ちょっとびっくりした。いると思わなかった…。うん、ありがと」
焦った。ここは異界の匂いが強いから、アーロンの匂いに気付かなかった。
パタンとドアを閉めて、誰もいない静かなロビーの空気を感じながら、ゆっくりと顔を上げる。
赤い服がすぐ近くに見えたと思った瞬間、体全体を包み込まれる。
「わっ…」
一瞬、何が起こったのか理解できず、両手が空中を彷徨った。
抱き締められる、なんて何年ぶりだろう?
赤い服に顔を押し付けられて、声が出せない。
自分の腕を折り曲げて、反射的に押しのけようとその部分を押し返してみる。
その距離は開くどころか、更に力込めて背中から後頭部と腰に回された腕に力が入る。
心臓が、また早衝を打ち始め、顔が熱くなってくる。
そのままの沈黙が重くて気まずい。
「……あ、…あの…」
「話して、くれるんだろ」
「…手、離してくれれば…」
「離したら、また拳が飛んできそうだからな」
「あ、いや、流石にこの体勢で話すのはちょっと…」
そこで漸く私は解放され、ほっと安堵の息を漏らす。
アーロンは片手を顎に添えたまま、ニヤリと口角を上げて見せた。
ロビーの片隅にある小さなソファーに腰を下ろした。
目の前には椅子も、他に座るスペースも十分にあるというのに、どうしてこいつは隣に座るかな…
「さて、何から聞きたい?」
「全部だ」
…即答ですか、そうですか。
じゃあ、10年前のあの日から…
→