第3章【グアドサラム~マカラーニャ】
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死者なのか思い出なのか
=21=
最初にいた場所に戻っておけばよかった。
肩をつかまれたときに瞬間的に思った。
スフィアの映像を見せられたときに、眩暈を起こしてアーロンに腕を支えられ、映像が終わったとたんにユウナの言葉を聞き。
タイミングをすっかり失って、私はずっとアーロンのすぐ横に呆けたまま立ち尽くしていた。
皆が屋敷を出ようと足を進めたのを見て、私も後に続こうとしたその瞬間、グアド特有の長い指を持った手に止められてしまった。
「!」
「ラフテル様」
先程ユウナに掛けたのと同じ甘い声で、私の名を呼ぶ。
黒い靄のようなものが私の体を包み込むような感覚に囚われる。
甘い香りがフワリと自分を包み込むのが分かった。
アーロンに触れられたときとは明らかに違う悪寒が背中から脳天にまで走っていく。
「…離して」
私の声で、アーロンの足が止まる。
「今度こそ、共に来ていただけますね。…既にあなたは我々の同士。もう逃れることなどできないのですから」
「誰がっ!」
「おい」
こちらを振り返り、怒気を孕んだ声で睨みつける。
そのアーロンの態度に、シーモアは怯みもしない。
優雅な態度でアーロンに視線を向けると、ねめつけるような目で眺めてから言葉を発する。
「なんのために、留まっているのです?」
「………」
シーモアの問い掛けに、アーロンは何も答えない。答えられない。
僅かに顔色が変わる。
無表情を装ってはいるが、その内に秘められた怒りの炎が匂いを強くさせる。
あくまでも穏やかな紳士を気取っているのか、シーモアは優雅に頭を垂れ、謝罪の言葉を口にする。
そんな気など全く無いくせに。
態度が一々癇に障る。
「このラフテル様を含め、我々グアドは異界の匂いに敏感なもので」
「……!?」
シーモアの言葉が理解できなかったのか、アーロンがやや俯いたままじろりと視線だけを私に向けてきた。
近くにいた少年が、その言葉を真に受けたのか、犬のようにアーロンの匂いを嗅ごうとしている。
その少年を押しのけて、アーロンは私の腕を掴むと自分のほうに力任せに引き寄せた。
目だけで心の弱いものならば射殺されてしまいそうなほどの視線でシーモアを一瞥すると、振り返ることもなく屋敷を後にした。
私の腕を握る力の強さを知れば、今こいつがどれだけ頭にきているか理解できてしまう。
ここで苦言を呈しても、その言葉で余計に逆上してしまいそうな心情が分かり、私は敢えて何も言わず、ただ身を任せた。
「わたし、異界に行ってくる。異界で父さんに会って、考える」
屋敷の外に出たところで、仲間たちは議論を交わす。勿論、ユウナの結婚について。
ここが、グアドサラムであるということが、ユウナの発言に繋がったのだろう。
やっと解放された腕をさすりながら、静かに皆の意見を聞いていた。
ユウナは、答えを求める為に異界に入る。
本当なら、ユウナの行くところには私たちガードも共に行かなければならない。
でも…
行きたくない、な…
ユウナが行けば、当然ブラスカに会えるだろう。
ジェクトは、きっと来ない。
私が行ったら、誰が来てくれるだろう?キーリカのあの一家?
10年前の私だったらきっと行ってただろうが、今の私は、絶対に無理。
そんなことを考えているうちに、ユウナたち一行は早くも異界への入り口に差し掛かっていた。
長い渡り廊下の先に、これまた長い長い階段。
異界の匂いの気持ち悪さに、私の足はそこでとうとう動かなくなってしまった。
階段の下の踊り場の縁に腰を下ろし、異界について説明を聞いている少年の背を見つめていた。
何もこの世界のことを知らない少年にとっては、このスピラにある全てのものが新鮮で珍しく写るのだろう。
その純粋さに、目を細めた。
「ラフテルさん?」
座り込んだ私に、ユウナが声を掛ける。
「ごめんユウナ、私は、遠慮させてもらう。…異界、苦手なんだ」
少々抑揚の無い声でそう答えると、少しの沈黙の後、ユウナは了承してくれた。
フト気が付くと、私の隣に同じ様に腰掛けたアーロンがいた。
「行かないのか?」
歩み始めたユウナたちの最後部にいた少年が問いかける。
「異界は気に食わん。未来の道を決めるために、過去の力を借りる…。異界とはそんな場所だ」
「そういうこと。だから、行ってきなよ、ティーダ」
「…あ、うん」
「ホントはさ、死人じゃなくて、思い出に会いに行く場所なんだよ。」
リュックが声を掛けてきた。…先に行ってたんじゃなかったんだ。
「会いたいって思う気持ちに、幻光虫が反応するの。思い出って優しいじゃん、甘えたくなる。だから、アタシも行かない」
アルベドらしい考えだと思った。
今まで、アルベドの人間が異界に入ったなんてほとんど聞いたことがなかったから。
でも、異界の仕組みは知ってるってことは、かつては誰かが体験したのだろう。
私たち3人だけを残して、ユウナたちは異界への結界を越えて姿が見えなくなった。
いつの間に持ち出したのか、リュックは手にシーモアの屋敷で出された果物を持っている。
こちらに背を向けて座っていたリュックが、突然何かを思いついたように私の目の前にやってきた。
「あのさ、ラフテルとおっちゃんて、10年前にも旅、してるんだよね」
「…(おっちゃん!?)うん、まぁね」
アーロンは眉間に皴を寄せたまま何も言わない。
「ユウナのお父さんのこと、知ってる、んだよね?」
「私たちがガードした召喚士だからね。 …ブラスカが、どうかした?」
「…うん、ユウナの、お母さん、ね。 アタシのおばさんってことになるんだけど、え~っと、ユウナのお父さんはベベルの人で、だから…」
「大丈夫だよ、リュック。
確かに、アルベド族の女性と結婚したブラスカは、ベベルを始めスピラのあちこちの寺院から非難の目で見られてた。でもね…」
リュックの言いたかったこと、聞きたかったことがなんとなく理解できた。
リュックは真剣な眼差しで渦巻き模様の瞳を私に向けて話を聞いている。
「ブラスカは本当にユウナのお母さんとユウナを愛していた。アルベドだから、なんて関係ない。
愛した人がたまたまアルベド族だった。それだけ。」
「…うん」
「ブラスカも、とても悩んでいた。寺院の中で高い能力を持っていたにもかかわらず、つまはじきにされて居場所がドンドンなくなって…、でも、心から信頼できる部下がいたお陰で、ブラスカはそんな寺院の僧達を、老師達を見返してやろうって気になれた」
隣から何かを誤魔化すようなわざとらしい咳払いが聞こえるが、無視してやる。
「…部下?」
純粋に誰のことか分からない、と首を傾げるリュックが可愛いと思ってしまう。
リュックから目を離すことなく、自分の隣で視線を彷徨わせている男を指差してやる。
「………え、ええええええっ!!?」
「喧しい!」
「え、おっちゃん、寺院の僧兵だったの!? なんか昔っからエボンの教えなんて信じませ~ん、みたいな顔してるクセに」
「……プッ! フフ、確かに!」
思わず、噴出してしまった。
「…でもよかった~。親父、ユウナのお母さんが結婚するって決まったら、いきなり縁切るなんて言ったらしくて、アタシ、ユウナのお父さんとお母さんのこと、ほとんど何も知らないんだ。だから、ほんの少しでも、話が聞けて嬉しいな~」
「うん、私が話せることだったら、いつでも話すよ。 …できれば、ユウナも一緒に、ね」
「うん!」
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最初にいた場所に戻っておけばよかった。
肩をつかまれたときに瞬間的に思った。
スフィアの映像を見せられたときに、眩暈を起こしてアーロンに腕を支えられ、映像が終わったとたんにユウナの言葉を聞き。
タイミングをすっかり失って、私はずっとアーロンのすぐ横に呆けたまま立ち尽くしていた。
皆が屋敷を出ようと足を進めたのを見て、私も後に続こうとしたその瞬間、グアド特有の長い指を持った手に止められてしまった。
「!」
「ラフテル様」
先程ユウナに掛けたのと同じ甘い声で、私の名を呼ぶ。
黒い靄のようなものが私の体を包み込むような感覚に囚われる。
甘い香りがフワリと自分を包み込むのが分かった。
アーロンに触れられたときとは明らかに違う悪寒が背中から脳天にまで走っていく。
「…離して」
私の声で、アーロンの足が止まる。
「今度こそ、共に来ていただけますね。…既にあなたは我々の同士。もう逃れることなどできないのですから」
「誰がっ!」
「おい」
こちらを振り返り、怒気を孕んだ声で睨みつける。
そのアーロンの態度に、シーモアは怯みもしない。
優雅な態度でアーロンに視線を向けると、ねめつけるような目で眺めてから言葉を発する。
「なんのために、留まっているのです?」
「………」
シーモアの問い掛けに、アーロンは何も答えない。答えられない。
僅かに顔色が変わる。
無表情を装ってはいるが、その内に秘められた怒りの炎が匂いを強くさせる。
あくまでも穏やかな紳士を気取っているのか、シーモアは優雅に頭を垂れ、謝罪の言葉を口にする。
そんな気など全く無いくせに。
態度が一々癇に障る。
「このラフテル様を含め、我々グアドは異界の匂いに敏感なもので」
「……!?」
シーモアの言葉が理解できなかったのか、アーロンがやや俯いたままじろりと視線だけを私に向けてきた。
近くにいた少年が、その言葉を真に受けたのか、犬のようにアーロンの匂いを嗅ごうとしている。
その少年を押しのけて、アーロンは私の腕を掴むと自分のほうに力任せに引き寄せた。
目だけで心の弱いものならば射殺されてしまいそうなほどの視線でシーモアを一瞥すると、振り返ることもなく屋敷を後にした。
私の腕を握る力の強さを知れば、今こいつがどれだけ頭にきているか理解できてしまう。
ここで苦言を呈しても、その言葉で余計に逆上してしまいそうな心情が分かり、私は敢えて何も言わず、ただ身を任せた。
「わたし、異界に行ってくる。異界で父さんに会って、考える」
屋敷の外に出たところで、仲間たちは議論を交わす。勿論、ユウナの結婚について。
ここが、グアドサラムであるということが、ユウナの発言に繋がったのだろう。
やっと解放された腕をさすりながら、静かに皆の意見を聞いていた。
ユウナは、答えを求める為に異界に入る。
本当なら、ユウナの行くところには私たちガードも共に行かなければならない。
でも…
行きたくない、な…
ユウナが行けば、当然ブラスカに会えるだろう。
ジェクトは、きっと来ない。
私が行ったら、誰が来てくれるだろう?キーリカのあの一家?
10年前の私だったらきっと行ってただろうが、今の私は、絶対に無理。
そんなことを考えているうちに、ユウナたち一行は早くも異界への入り口に差し掛かっていた。
長い渡り廊下の先に、これまた長い長い階段。
異界の匂いの気持ち悪さに、私の足はそこでとうとう動かなくなってしまった。
階段の下の踊り場の縁に腰を下ろし、異界について説明を聞いている少年の背を見つめていた。
何もこの世界のことを知らない少年にとっては、このスピラにある全てのものが新鮮で珍しく写るのだろう。
その純粋さに、目を細めた。
「ラフテルさん?」
座り込んだ私に、ユウナが声を掛ける。
「ごめんユウナ、私は、遠慮させてもらう。…異界、苦手なんだ」
少々抑揚の無い声でそう答えると、少しの沈黙の後、ユウナは了承してくれた。
フト気が付くと、私の隣に同じ様に腰掛けたアーロンがいた。
「行かないのか?」
歩み始めたユウナたちの最後部にいた少年が問いかける。
「異界は気に食わん。未来の道を決めるために、過去の力を借りる…。異界とはそんな場所だ」
「そういうこと。だから、行ってきなよ、ティーダ」
「…あ、うん」
「ホントはさ、死人じゃなくて、思い出に会いに行く場所なんだよ。」
リュックが声を掛けてきた。…先に行ってたんじゃなかったんだ。
「会いたいって思う気持ちに、幻光虫が反応するの。思い出って優しいじゃん、甘えたくなる。だから、アタシも行かない」
アルベドらしい考えだと思った。
今まで、アルベドの人間が異界に入ったなんてほとんど聞いたことがなかったから。
でも、異界の仕組みは知ってるってことは、かつては誰かが体験したのだろう。
私たち3人だけを残して、ユウナたちは異界への結界を越えて姿が見えなくなった。
いつの間に持ち出したのか、リュックは手にシーモアの屋敷で出された果物を持っている。
こちらに背を向けて座っていたリュックが、突然何かを思いついたように私の目の前にやってきた。
「あのさ、ラフテルとおっちゃんて、10年前にも旅、してるんだよね」
「…(おっちゃん!?)うん、まぁね」
アーロンは眉間に皴を寄せたまま何も言わない。
「ユウナのお父さんのこと、知ってる、んだよね?」
「私たちがガードした召喚士だからね。 …ブラスカが、どうかした?」
「…うん、ユウナの、お母さん、ね。 アタシのおばさんってことになるんだけど、え~っと、ユウナのお父さんはベベルの人で、だから…」
「大丈夫だよ、リュック。
確かに、アルベド族の女性と結婚したブラスカは、ベベルを始めスピラのあちこちの寺院から非難の目で見られてた。でもね…」
リュックの言いたかったこと、聞きたかったことがなんとなく理解できた。
リュックは真剣な眼差しで渦巻き模様の瞳を私に向けて話を聞いている。
「ブラスカは本当にユウナのお母さんとユウナを愛していた。アルベドだから、なんて関係ない。
愛した人がたまたまアルベド族だった。それだけ。」
「…うん」
「ブラスカも、とても悩んでいた。寺院の中で高い能力を持っていたにもかかわらず、つまはじきにされて居場所がドンドンなくなって…、でも、心から信頼できる部下がいたお陰で、ブラスカはそんな寺院の僧達を、老師達を見返してやろうって気になれた」
隣から何かを誤魔化すようなわざとらしい咳払いが聞こえるが、無視してやる。
「…部下?」
純粋に誰のことか分からない、と首を傾げるリュックが可愛いと思ってしまう。
リュックから目を離すことなく、自分の隣で視線を彷徨わせている男を指差してやる。
「………え、ええええええっ!!?」
「喧しい!」
「え、おっちゃん、寺院の僧兵だったの!? なんか昔っからエボンの教えなんて信じませ~ん、みたいな顔してるクセに」
「……プッ! フフ、確かに!」
思わず、噴出してしまった。
「…でもよかった~。親父、ユウナのお母さんが結婚するって決まったら、いきなり縁切るなんて言ったらしくて、アタシ、ユウナのお父さんとお母さんのこと、ほとんど何も知らないんだ。だから、ほんの少しでも、話が聞けて嬉しいな~」
「うん、私が話せることだったら、いつでも話すよ。 …できれば、ユウナも一緒に、ね」
「うん!」
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