第1章【ルカ~ミヘン街道】
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いつでも明るくて、豪快で、温かくて、太陽のようだと感じていた。
こんな父親が欲しいと、自分の父親が彼ならよかったと、いつも思っていた。
無骨で不器用で無遠慮でぶっきら棒で。
でも彼なりの方法で接してくれる優しさは、何物にも変え難い大切な記憶としてずっとその姿を留めたまま。
何を恨めばいいのか、何を憎めばいいのか、何に責を擦り付ければいいのか?
今のこの世の根本から全てを変えなくては、結局何も変わらないのだと言うことを身をもって教えてくれた、大きな背中。
悔しくて仕方がない。
その背中を思い出すたびに、自分自身の力の無さに、思考の幼さに、歯痒くて情けなくなる。
もう助からないと、元には戻れないと分かっているのに、助けたいと願ってしまう。
再びあの大きな背中に飛びつきたいと、いつまでも子供のように甘えてしまう。
=2=
何かが破裂するような大きな音で目が覚める。
それはいくつもいくつも木霊するように上空で白い雲を形成し続けている。
窓の外からは大会開催の合図であろう空砲と、たくさんの人々のざわめきが聞こえてきていた。
思いの他寝過ごしてしまっていたことに自嘲しながら、いつもの黒いジャケットを羽織った。
この10年、ずっと伸ばしたままにしてきた髪を後ろで1つに纏め、己の武器である2本の小太刀を後ろ腰に装着し終えると、それを察知したかのようにタイミングよく主が部屋のドアをノックしてきた。
「朝食をどうぞ。間もなく選手達が港に到着するそうですよ」
食堂の椅子に腰掛けると、すっかり手馴れた様子で給仕の係が熱いコーヒーを煎れてくれる。
映し出されたスフィアの映像を見ながら、欠伸を一つ。
私の姿を見つけた他の宿泊客たちが、わざわざ私の横にきてエボン式の挨拶をしていく。
同じ様に挨拶を返すことをしない私は、片手を挙げてただ、「おはよう」と返した。
昨夜、結局ここの主の言いなりになって10年前の旅のことを宿泊客に話して聞かせたことで、『伝説のガード』様は一躍知れ渡ってしまったようだ。
話と言っても、かつての大召喚士の活躍を掻い摘んで話しているだけなのだが、スピラに住む人間にとっては別世界の出来事のように聞こえるのだろう。
スフィア映像をボンヤリしながら眺めていると、見覚えのある姿が現われた。
全員、目に鮮やかな黄色のユニフォームに身を包み、特徴的なトサカ頭のキャプテンが率いる万年初戦敗退チーム『ビサイド・オーラカ』だ。
アナウンスが大変失礼なことを言っているようだが、言われて当然だし本当のことなので別に何も言い返せない。
というか、ハッキリ物を言うこの解説者に親近感すら湧いたほどだ。
そこに混じった、見覚えの無い1人の青年。
アルベド族を思わせる美しい金髪の活発そうな若者だ。
「(…誰だろ?新しい選手…?)」
その後ろに続くように、見慣れた人物達が現れた。
背の高いロンゾ族と美しい黒いドレスに身を包んだ女性に守られるように姿を現したのは、まだ幼さの残る少女。
かつて自分がガードを勤めた召喚士の愛娘、ユウナだ。
おもわずクスリと笑みが零れた。
ニコニコとまではいかないが、暗い顔をしているわけではないのを見て少々安堵した。
ふいに異界の匂いが鼻を突いた。
「………」
スフィアの映像から目を離すことなく、僅かに辺りに警戒の気を張る。
「隣、いいか?」
掛けられた声にハッとする。
自分の隣にやってきた人物が腰を落ち着けるのを待ってから、ゆっくりとそちらを振り返った。
見慣れた、紅。
「同じものを」
「はい、かしこまりました」
店員に声を掛けてから、目を合わせる。…目には、顔の下まで続くでかいキズ。
「…久しぶりだな、ラフテル」
「………」
掛けられた声に何も返せない。
いや、その時の私には、きっと声は届いていなかっただろう。
どう言ったらいいのか、とりあえず驚いていた。
異界の匂いがする。
…異界…!?
このキズ…
10年前の姿からは、過ぎ去った月日が10年だけだっただろうか?と錯覚を起こさせるほどに歳を重ねたように見える顔。
「…ラフテル?」
顔を覗きこまれ、肩に手を当てられて気を取り戻す。
「…あ、えーと、久しぶり、だなアーロン?」
「なんだその曖昧な返答は…」
口角を僅かに持ち上げ、クスリと苦笑して見せたこの男は、タイミングよく目の前に置かれたコーヒーに口をつけた。
「(生きてたのか、なんて言えない…。だって、もうこいつは…)」
スフィアの映像から一際大きな歓声が流れる。
この街をホームとするチームが登場したのだ。
続いて、そのチームに喧嘩を売るように宣戦布告する怖いもの知らずなバカ1名…。
先程見たオーラカの新人選手のようだが、それを見たアーロンがクツクツと含み笑いをしているのに気が付いた。
「知ってるのか?」
「…フッ、お前もよく聞かされてた筈だが?」
「…?(聞かされ…)…あ、もしかして…」
「あぁ、ジェクトの息子だ」
再びスフィアの映像に目を向けたが、すでに画面は切り替わっていて別のチームの紹介をしているところだった。
「すぐに会わせてやる」
「…そうか。同じ船でユウナも来てるよ」
「…そうか」
話したいこと聞きたいことは山ほどある。
10年前、私と別れてから何があったのか、とか、この10年間何をしていたのか、とか、その顔のキズと、多分そのせいで異界の匂いを漂わせているであろうその理由と…
私が聞けないでいると、私の心中を察したかのようにこちらに質問をぶつけてきた。
「何をしていたんだ?この10年」
「ん~、旅、かな」
「おおっ!!もしかして、あなたは!!」
突然、私たち2人に向けて店の主が声を張り上げた。
私が彼に『伝説のガード』だってことがすでにバレていることを考えれば、今自分の隣にいる人物に目が行くのは当然のことだろうと推測される。
私は再び疲れたように溜息を零すと、アーロンは察してくれたのかすぐにテーブルの上に代金だけを置いて立ち上がった。
「行くぞ」
振り返ることもせず、店を出るアーロンに続き、私は店主の言葉を遮って謝礼だけを述べ、紅い背中を追いかけた。
→
こんな父親が欲しいと、自分の父親が彼ならよかったと、いつも思っていた。
無骨で不器用で無遠慮でぶっきら棒で。
でも彼なりの方法で接してくれる優しさは、何物にも変え難い大切な記憶としてずっとその姿を留めたまま。
何を恨めばいいのか、何を憎めばいいのか、何に責を擦り付ければいいのか?
今のこの世の根本から全てを変えなくては、結局何も変わらないのだと言うことを身をもって教えてくれた、大きな背中。
悔しくて仕方がない。
その背中を思い出すたびに、自分自身の力の無さに、思考の幼さに、歯痒くて情けなくなる。
もう助からないと、元には戻れないと分かっているのに、助けたいと願ってしまう。
再びあの大きな背中に飛びつきたいと、いつまでも子供のように甘えてしまう。
=2=
何かが破裂するような大きな音で目が覚める。
それはいくつもいくつも木霊するように上空で白い雲を形成し続けている。
窓の外からは大会開催の合図であろう空砲と、たくさんの人々のざわめきが聞こえてきていた。
思いの他寝過ごしてしまっていたことに自嘲しながら、いつもの黒いジャケットを羽織った。
この10年、ずっと伸ばしたままにしてきた髪を後ろで1つに纏め、己の武器である2本の小太刀を後ろ腰に装着し終えると、それを察知したかのようにタイミングよく主が部屋のドアをノックしてきた。
「朝食をどうぞ。間もなく選手達が港に到着するそうですよ」
食堂の椅子に腰掛けると、すっかり手馴れた様子で給仕の係が熱いコーヒーを煎れてくれる。
映し出されたスフィアの映像を見ながら、欠伸を一つ。
私の姿を見つけた他の宿泊客たちが、わざわざ私の横にきてエボン式の挨拶をしていく。
同じ様に挨拶を返すことをしない私は、片手を挙げてただ、「おはよう」と返した。
昨夜、結局ここの主の言いなりになって10年前の旅のことを宿泊客に話して聞かせたことで、『伝説のガード』様は一躍知れ渡ってしまったようだ。
話と言っても、かつての大召喚士の活躍を掻い摘んで話しているだけなのだが、スピラに住む人間にとっては別世界の出来事のように聞こえるのだろう。
スフィア映像をボンヤリしながら眺めていると、見覚えのある姿が現われた。
全員、目に鮮やかな黄色のユニフォームに身を包み、特徴的なトサカ頭のキャプテンが率いる万年初戦敗退チーム『ビサイド・オーラカ』だ。
アナウンスが大変失礼なことを言っているようだが、言われて当然だし本当のことなので別に何も言い返せない。
というか、ハッキリ物を言うこの解説者に親近感すら湧いたほどだ。
そこに混じった、見覚えの無い1人の青年。
アルベド族を思わせる美しい金髪の活発そうな若者だ。
「(…誰だろ?新しい選手…?)」
その後ろに続くように、見慣れた人物達が現れた。
背の高いロンゾ族と美しい黒いドレスに身を包んだ女性に守られるように姿を現したのは、まだ幼さの残る少女。
かつて自分がガードを勤めた召喚士の愛娘、ユウナだ。
おもわずクスリと笑みが零れた。
ニコニコとまではいかないが、暗い顔をしているわけではないのを見て少々安堵した。
ふいに異界の匂いが鼻を突いた。
「………」
スフィアの映像から目を離すことなく、僅かに辺りに警戒の気を張る。
「隣、いいか?」
掛けられた声にハッとする。
自分の隣にやってきた人物が腰を落ち着けるのを待ってから、ゆっくりとそちらを振り返った。
見慣れた、紅。
「同じものを」
「はい、かしこまりました」
店員に声を掛けてから、目を合わせる。…目には、顔の下まで続くでかいキズ。
「…久しぶりだな、ラフテル」
「………」
掛けられた声に何も返せない。
いや、その時の私には、きっと声は届いていなかっただろう。
どう言ったらいいのか、とりあえず驚いていた。
異界の匂いがする。
…異界…!?
このキズ…
10年前の姿からは、過ぎ去った月日が10年だけだっただろうか?と錯覚を起こさせるほどに歳を重ねたように見える顔。
「…ラフテル?」
顔を覗きこまれ、肩に手を当てられて気を取り戻す。
「…あ、えーと、久しぶり、だなアーロン?」
「なんだその曖昧な返答は…」
口角を僅かに持ち上げ、クスリと苦笑して見せたこの男は、タイミングよく目の前に置かれたコーヒーに口をつけた。
「(生きてたのか、なんて言えない…。だって、もうこいつは…)」
スフィアの映像から一際大きな歓声が流れる。
この街をホームとするチームが登場したのだ。
続いて、そのチームに喧嘩を売るように宣戦布告する怖いもの知らずなバカ1名…。
先程見たオーラカの新人選手のようだが、それを見たアーロンがクツクツと含み笑いをしているのに気が付いた。
「知ってるのか?」
「…フッ、お前もよく聞かされてた筈だが?」
「…?(聞かされ…)…あ、もしかして…」
「あぁ、ジェクトの息子だ」
再びスフィアの映像に目を向けたが、すでに画面は切り替わっていて別のチームの紹介をしているところだった。
「すぐに会わせてやる」
「…そうか。同じ船でユウナも来てるよ」
「…そうか」
話したいこと聞きたいことは山ほどある。
10年前、私と別れてから何があったのか、とか、この10年間何をしていたのか、とか、その顔のキズと、多分そのせいで異界の匂いを漂わせているであろうその理由と…
私が聞けないでいると、私の心中を察したかのようにこちらに質問をぶつけてきた。
「何をしていたんだ?この10年」
「ん~、旅、かな」
「おおっ!!もしかして、あなたは!!」
突然、私たち2人に向けて店の主が声を張り上げた。
私が彼に『伝説のガード』だってことがすでにバレていることを考えれば、今自分の隣にいる人物に目が行くのは当然のことだろうと推測される。
私は再び疲れたように溜息を零すと、アーロンは察してくれたのかすぐにテーブルの上に代金だけを置いて立ち上がった。
「行くぞ」
振り返ることもせず、店を出るアーロンに続き、私は店主の言葉を遮って謝礼だけを述べ、紅い背中を追いかけた。
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