第2章【ジョゼ~グアドサラム】
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船、嫌い。動物、嫌い
=18=
ユウナは、以前にもシパーフに乗ったことがあると言っていた。
10年前、ブラスカが齎したナギ節の後で。
10年前、私もシパーフに初めて乗った。ブラスカとの旅の途中で。
それから私は旅を続け、シパーフにも何度か乗ったことがある。
でもやっぱりダメだ。何度乗っても慣れるものではない。
チョコボもそうだが、私は動物の背に乗るのが余り得意ではないらしい。
特にこの幻光河は、異界の匂いが強いからそれに当てられるってのもその理由なのかもしれない。
少年はシパーフに乗るのも見るのも初めてだったようで、終始興奮気味だ。
中々立派な搭乗ルームが設けられており、向かい合って座れる長椅子には10人程度は乗れるだろうか。
私達の他にも乗客はいたようだったが、召喚士という肩書きを持つユウナに、人々は遠慮してしまったのか私たちの貸切だ。
最後尾座席にはユウナ。両隣を守るようにキマリとルールー。斜め向かいにはワッカとアーロンが向き合って座る。
ユウナの向かいの最前席に少年が腰を落ち着け、私は最後にそこに乗り込んだ。
船は、苦手だ。
足元がゆらゆらとして覚束ない、不安定な場所にいるってことが落ち着かない。
普通の船とは違い、これはシパーフの背だと分かっているのに、動物に乗ること自体が苦手な私はどうしても不安を隠せない。
さらにこのきつい異界の匂いで、実は先程から頭がくらくらしている。
乗り口の小さな簡易扉に捕まったまま、何度も瞬きを繰り返した。
「座ったらどうだ」
私が立つ乗り口に一番近いところに座ったアーロンが声を掛ける。
「…あ、あぁ」
扉の縁を握り締めた私の手には力が込められ、なぜか自分の意思ではそこから手を離せない。
シパーフに乗るときは、いつもそうだ。
…初めて乗った10年前もこんなだっただろうか、全く覚えていない。
自分の中から記憶を抹消させてしまっているらしい。
突然、手首を掴まれ、強い力で座席の上に引かれた。
反射的に反対側の手に更に力を込める。
手を引いたのはアーロンだ。
座ることを拒むかのように、扉から手を離さない私を不審に思ったのだろう。
立ち上がって、今だ握り締めたままの私の手に大きな掌を乗せた。
私の様子がおかしい事に、当然ながら皆も気付く。
「ラフテル、どうしたッスか?」
「おい、大丈夫か?」
「ラフテルさん、顔、真っ青ですよ!」
遂には、嫌な脂汗みたいなものまで浮かんできた。
私は何とか誤魔化そうとユウナを振り返って見た、が、それが逆効果だったらしい。
力ずくで扉から私の手を振り解いたアーロンが、皆を振り返って言う。
「こいつは乗り物に弱い」
突然頼るものを失った私は少々パニックに陥り、必死に掴むものを探して腕を彷徨わせた。
何でもいいから掴める物を!!
思わず手に触れた手近にあったソレを、力いっぱいに握り締めた。
「「!!」」
「おおっ!」
「シパーフ、しゅっぱ~つしても、だいじょ~ぶか~な~?」
のんびりとした声が少年の後ろから聞こえる。
「すまない、出してくれ」
アーロンの声で、シパーフは静かに水中に身を沈めていく。
ぎゅっと閉じていた瞼を恐る恐る開くと、目の前には赤い布。
かなり見覚えのあるそれを、私は力を込めて握り締めていたらしい。
なぜだろうか?
嫌いな異界の匂いを纏っているはずなのに、ずっとこの服を着ていたせいで、この匂いに慣れてしまったのだろうか?
この温かさに、どこか安心してしまう。
これは、アーロン、だから…?
「アーロン、頼みがある」
「なんだ?」
「…気絶させてくれ」
「断る」
「…なんでだよ」
「荷物が増える」
「………」
クスクスと仲間達の笑い声が耳に届いた。
悔しさを覚えても、今の私にはどうすることもできない。
「…ユウナ、頼むよ、スリプルかけて」
「え、でも…」
「このままじゃ、…吐く」
「!!」
一瞬アーロンがビクリと震えたのが分かった。
急に体を強張らせたりして、戸惑っているようだ。
そして溜息と共に、ユウナに合図を送ったようだ。
「…ごめんなさい、ラフテルさん」
「いや、こっちこそ、迷惑かけて、ごめん…」
「対岸に着いたら起こしてやる。…吐かれるよりはマシだ」
「優しき眠りを…『スリプル』」
そして私は眠りに落ちたようだ。
アーロンの声に意識を取り戻すと、すでにみんなシパーフから降りてしまっていて、なぜか私はアーロンの膝の上で目を覚ました。
「…なんでこの体勢…?」
「フッ、わざわざここまで運んでやったんだ。感謝して欲しいものだな」
私の頭を乗せていないほうの足を立てた膝の上で、ニヤリと笑みを零した。
私は身を起こして、辺りの様子を伺う。
「ユウナは?」
「向こうでファンに囲まれている」
アーロンが顎で指し示した方向に目を向けると、大勢の人だかりが見える。きっとあの中心にユウナはいるのだろう。
「大丈夫?」
「まぁ、さっきの件もあるし、奴等が気を張ってるからな」
「…さっきの件…? 何かあったの?」
私が眠りに落ちている間のことを、アーロンは静かに話した。
河に沈んだ都市の事、機械戦争とシンの因果、そして、アルベド族にユウナが狙われたこと…
「ユウナが…!?」
「問題ない。今は無事だ」
心臓がドキリと高鳴り、ぎゅっと縮み上がるような錯覚に囚われる。
「…それよりも、お前のほうこそ大丈夫なのか?」
労うような言葉がこいつから出てくるなんて、少々以外だ。
また、この眼でじっと見つめてくる。
何も言えずにいると更に言葉を重ねてくる。
「俺には何も言えんのか?」
それはこっちのセリフだ!と言ってやりたい衝動を必死に抑える。
そして、自分の中で結論を出す。そろそろハッキリさせといたほうがいいだろうか、と。
「…次、グアドサラムだよな、丁度いい。そこで話す。…だから、あんたも話してくれ」
「!! …そうか、そうだな…」
→
=18=
ユウナは、以前にもシパーフに乗ったことがあると言っていた。
10年前、ブラスカが齎したナギ節の後で。
10年前、私もシパーフに初めて乗った。ブラスカとの旅の途中で。
それから私は旅を続け、シパーフにも何度か乗ったことがある。
でもやっぱりダメだ。何度乗っても慣れるものではない。
チョコボもそうだが、私は動物の背に乗るのが余り得意ではないらしい。
特にこの幻光河は、異界の匂いが強いからそれに当てられるってのもその理由なのかもしれない。
少年はシパーフに乗るのも見るのも初めてだったようで、終始興奮気味だ。
中々立派な搭乗ルームが設けられており、向かい合って座れる長椅子には10人程度は乗れるだろうか。
私達の他にも乗客はいたようだったが、召喚士という肩書きを持つユウナに、人々は遠慮してしまったのか私たちの貸切だ。
最後尾座席にはユウナ。両隣を守るようにキマリとルールー。斜め向かいにはワッカとアーロンが向き合って座る。
ユウナの向かいの最前席に少年が腰を落ち着け、私は最後にそこに乗り込んだ。
船は、苦手だ。
足元がゆらゆらとして覚束ない、不安定な場所にいるってことが落ち着かない。
普通の船とは違い、これはシパーフの背だと分かっているのに、動物に乗ること自体が苦手な私はどうしても不安を隠せない。
さらにこのきつい異界の匂いで、実は先程から頭がくらくらしている。
乗り口の小さな簡易扉に捕まったまま、何度も瞬きを繰り返した。
「座ったらどうだ」
私が立つ乗り口に一番近いところに座ったアーロンが声を掛ける。
「…あ、あぁ」
扉の縁を握り締めた私の手には力が込められ、なぜか自分の意思ではそこから手を離せない。
シパーフに乗るときは、いつもそうだ。
…初めて乗った10年前もこんなだっただろうか、全く覚えていない。
自分の中から記憶を抹消させてしまっているらしい。
突然、手首を掴まれ、強い力で座席の上に引かれた。
反射的に反対側の手に更に力を込める。
手を引いたのはアーロンだ。
座ることを拒むかのように、扉から手を離さない私を不審に思ったのだろう。
立ち上がって、今だ握り締めたままの私の手に大きな掌を乗せた。
私の様子がおかしい事に、当然ながら皆も気付く。
「ラフテル、どうしたッスか?」
「おい、大丈夫か?」
「ラフテルさん、顔、真っ青ですよ!」
遂には、嫌な脂汗みたいなものまで浮かんできた。
私は何とか誤魔化そうとユウナを振り返って見た、が、それが逆効果だったらしい。
力ずくで扉から私の手を振り解いたアーロンが、皆を振り返って言う。
「こいつは乗り物に弱い」
突然頼るものを失った私は少々パニックに陥り、必死に掴むものを探して腕を彷徨わせた。
何でもいいから掴める物を!!
思わず手に触れた手近にあったソレを、力いっぱいに握り締めた。
「「!!」」
「おおっ!」
「シパーフ、しゅっぱ~つしても、だいじょ~ぶか~な~?」
のんびりとした声が少年の後ろから聞こえる。
「すまない、出してくれ」
アーロンの声で、シパーフは静かに水中に身を沈めていく。
ぎゅっと閉じていた瞼を恐る恐る開くと、目の前には赤い布。
かなり見覚えのあるそれを、私は力を込めて握り締めていたらしい。
なぜだろうか?
嫌いな異界の匂いを纏っているはずなのに、ずっとこの服を着ていたせいで、この匂いに慣れてしまったのだろうか?
この温かさに、どこか安心してしまう。
これは、アーロン、だから…?
「アーロン、頼みがある」
「なんだ?」
「…気絶させてくれ」
「断る」
「…なんでだよ」
「荷物が増える」
「………」
クスクスと仲間達の笑い声が耳に届いた。
悔しさを覚えても、今の私にはどうすることもできない。
「…ユウナ、頼むよ、スリプルかけて」
「え、でも…」
「このままじゃ、…吐く」
「!!」
一瞬アーロンがビクリと震えたのが分かった。
急に体を強張らせたりして、戸惑っているようだ。
そして溜息と共に、ユウナに合図を送ったようだ。
「…ごめんなさい、ラフテルさん」
「いや、こっちこそ、迷惑かけて、ごめん…」
「対岸に着いたら起こしてやる。…吐かれるよりはマシだ」
「優しき眠りを…『スリプル』」
そして私は眠りに落ちたようだ。
アーロンの声に意識を取り戻すと、すでにみんなシパーフから降りてしまっていて、なぜか私はアーロンの膝の上で目を覚ました。
「…なんでこの体勢…?」
「フッ、わざわざここまで運んでやったんだ。感謝して欲しいものだな」
私の頭を乗せていないほうの足を立てた膝の上で、ニヤリと笑みを零した。
私は身を起こして、辺りの様子を伺う。
「ユウナは?」
「向こうでファンに囲まれている」
アーロンが顎で指し示した方向に目を向けると、大勢の人だかりが見える。きっとあの中心にユウナはいるのだろう。
「大丈夫?」
「まぁ、さっきの件もあるし、奴等が気を張ってるからな」
「…さっきの件…? 何かあったの?」
私が眠りに落ちている間のことを、アーロンは静かに話した。
河に沈んだ都市の事、機械戦争とシンの因果、そして、アルベド族にユウナが狙われたこと…
「ユウナが…!?」
「問題ない。今は無事だ」
心臓がドキリと高鳴り、ぎゅっと縮み上がるような錯覚に囚われる。
「…それよりも、お前のほうこそ大丈夫なのか?」
労うような言葉がこいつから出てくるなんて、少々以外だ。
また、この眼でじっと見つめてくる。
何も言えずにいると更に言葉を重ねてくる。
「俺には何も言えんのか?」
それはこっちのセリフだ!と言ってやりたい衝動を必死に抑える。
そして、自分の中で結論を出す。そろそろハッキリさせといたほうがいいだろうか、と。
「…次、グアドサラムだよな、丁度いい。そこで話す。…だから、あんたも話してくれ」
「!! …そうか、そうだな…」
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