第2章【ジョゼ~グアドサラム】
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無知と無知識と純粋と
=16=
森の奥のほうが明るくなっているのが見えてきた。
同時に、異界の匂いが一層強くなる。
同じ匂いを発する服に包まれていると言うのに、それでも不快さを感じる程ってことは、幻光河が近いのだろう。
このスピラに溢れるスフィアの原料となる特殊な水が、この先のマカラーニャの森から流れており、この幻光河に注ぎ込む。
川の中に咲き乱れる幻光花は、このスフィアの水が無ければ咲くことは無い。
マカラーニャが近い証拠だ。
丁度、この幻光河を渡る施設が設えられているこの場所が、流れ出た特殊な水が淀む唯一で最後の場所なのだ。
水の流れが淀む原因、それはきっと、川の上からでも確認できることだろう。
あれ以降、戦闘に参加することも出来ずに(この格好ではとても無理…)、ガードとしては立場がない。
結局アーロンの服を借りたままだ。
幻光河の南岸には、いつでも多くの商人が軒を連ねている。
多くの旅人にとっては必要な物品だったり、土産物だったり、交通の要所と言うだけでなく、観光としても賑わっているところだ。
とりあえず、そこに着くまでの我慢だ。
そこらの店で、適当な服を見繕ってくればいい。そう考えた。
森を抜け、一際明るい川岸に出た。
魔物を倒した直後のような、淡い光を放つ幻光虫が辺り一面に漂っている。
「うわぁ…!」
少年の感嘆の声が聞こえた。
初めてこの景色を目にした者にとっては、目を奪われる幻想的な光景に映るかもしれない。
…確かに、美しいとは思う。
ゆったりと流れる幻光河に咲き乱れる幻光花と、その上にフワリと浮かぶ淡い光。
その光を反射してキラキラと小さな光の粒を撒き散らしている水面の揺らめき。
見ているだけならば、目だけではなく心までも奪われて吸い込まれてしまいそうだ。
だが、私が感じることが出来る異界の匂いは、そんな幻想的な景色をも現実其のものを映し出す。
これは、命を落として異界にも行けずに彷徨っている死者の思念。
現世を生者を恨み、羨み、そして間もなく魔物と化してしまう、哀れな存在。
ユウナとルールーが、ゆっくりと水縁に近付いていく。ユウナはそこで花を覗き込むように屈んだ。
私はできるだけ川に近付かないように、みんなから少し距離を置く。
ユウナたちと同じ様に水辺に行かず、途中で足を止めた私を不審に思ったのか、アーロンは一度踏み出した足をこちらに戻した。
「どうした?」
「…ここは、嫌いだ」
アーロンは何故私がそんなことを言い出したのか、不思議に思っているだろう。
10年前に共にここを訪れたときは、今のユウナのように水辺に腰掛けて幻想的な景色を楽しんでいたのだから。
「…ジェクトの、ことか?」
確かにここは思い出深い場所でもある。ここで起こしたジェクトの散々な大事件は、忘れたくても決して忘れることなど出来ない。
その時の様子を思い出したのもあるが、アーロンが私の考えていたこととはまるで違うことを言い出したことに、可笑しくなったのだ。
「そんなこともあったね~」
わざとらしく昔を懐かしむ言葉で、その場の雰囲気を転換させようとしてみる。
「あ!そうだ!」
少年が上げた声にアーロンは素早く否定の言葉を掛ける。
そう言い出すであろう事が分かっていたかのように。
「…待ってあげればいいのに」
少年が少々不憫に思えてしまい、肩を持ってみた。
「ダメだ」
キッパリと言い捨てられてしまい、私と少年は気まずさに振り上げた手を下ろすこともできずにいた。
「じゃ、『シン』を倒したら、ゆっくり見に来よう!」
「「「!!」」」
いい思いつき!とでも言って欲しそうに、少年は1つ両手を打ち鳴らして声を張り上げた。
…しかし、その言葉には、誰も、何も言えなかった。
「?」
自分の意見に何の返答も無いことを不審に思った少年は、みんなの顔色を伺おうとする。
誰も、ティーダのほうを振り向けなかった。言葉を返せなかった。
少年は、未だに知らないのだ。
シンを倒すということが、どんな結果に繋がるのかと言うことを…
不思議だと感じた。
同時に、なぜなんだという疑問も湧く。
彼は、ジェクトの息子だ。…ということは、この少年もまたジェクトと同じ様にザナルカンドから来た人間、てことになるんだろうか。
だが、今や立派な召喚士のガードとしての役目を務めている。
ガードであるならば、本来知っていて当然のことを、彼は知らないのか。
誰も、彼に真実を、旅の結末を教えないのか?
この世界のことを何も知らない少年に、教師のようになんでも説明してくれるルールーでさえ、本当のことは言っていないというのか。
ユウナは、私に言った。
『私のガードとして私を守ってくれる人のことを知りたい』と。
今ここで、少年に私の口から結末を伝えてやりたかった。
シンを倒す、なんて目的がなかったら、きっとみんな、少年の意見に賛成してくれただろう。
だがそれは、叶わぬ願い。望むことは赦されない旅の途中なのだ。
幻光河の水面を優しい風が流れ、漂っていた幻光虫を一気に舞い上げた。
宙を見つめながら、ユウナが立ち上がり、上へと立ち上る幻光虫を目で追いかけるように顔を上に上げる。
もしかしたら、泣いていたのかもしれない。
こぼれそうになった涙を、無理に引き戻したのかもしれないと、思った。
「…ティーダ、あのさ」
「ラフテル!」
少年に声を掛けた途端、アーロンの低い声が諌めるように名を呼ぶ。
「なんスか?」
「……服、買いたいから、先に行くね」
私の口からは、言えない。でもいつかは誰かが伝えねばならないこと。
私はその誰かに、なれない。
…これも逃げてるってことだろうか。
「あぁ、了解ッス!」
笑みを浮かべることも出来ずに、静かに視線を落として店が並ぶ路地に向かって足を進めた。
何も言わないまま、アーロンも共に来てくれた。
後ろで、ワッカが明るく別の話題を提供している声が聞こえる。
シパーフのことでも話しているんだろう。
ユウナ、少年を責めないでやって。
赦してやってくれ、な。
→
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森の奥のほうが明るくなっているのが見えてきた。
同時に、異界の匂いが一層強くなる。
同じ匂いを発する服に包まれていると言うのに、それでも不快さを感じる程ってことは、幻光河が近いのだろう。
このスピラに溢れるスフィアの原料となる特殊な水が、この先のマカラーニャの森から流れており、この幻光河に注ぎ込む。
川の中に咲き乱れる幻光花は、このスフィアの水が無ければ咲くことは無い。
マカラーニャが近い証拠だ。
丁度、この幻光河を渡る施設が設えられているこの場所が、流れ出た特殊な水が淀む唯一で最後の場所なのだ。
水の流れが淀む原因、それはきっと、川の上からでも確認できることだろう。
あれ以降、戦闘に参加することも出来ずに(この格好ではとても無理…)、ガードとしては立場がない。
結局アーロンの服を借りたままだ。
幻光河の南岸には、いつでも多くの商人が軒を連ねている。
多くの旅人にとっては必要な物品だったり、土産物だったり、交通の要所と言うだけでなく、観光としても賑わっているところだ。
とりあえず、そこに着くまでの我慢だ。
そこらの店で、適当な服を見繕ってくればいい。そう考えた。
森を抜け、一際明るい川岸に出た。
魔物を倒した直後のような、淡い光を放つ幻光虫が辺り一面に漂っている。
「うわぁ…!」
少年の感嘆の声が聞こえた。
初めてこの景色を目にした者にとっては、目を奪われる幻想的な光景に映るかもしれない。
…確かに、美しいとは思う。
ゆったりと流れる幻光河に咲き乱れる幻光花と、その上にフワリと浮かぶ淡い光。
その光を反射してキラキラと小さな光の粒を撒き散らしている水面の揺らめき。
見ているだけならば、目だけではなく心までも奪われて吸い込まれてしまいそうだ。
だが、私が感じることが出来る異界の匂いは、そんな幻想的な景色をも現実其のものを映し出す。
これは、命を落として異界にも行けずに彷徨っている死者の思念。
現世を生者を恨み、羨み、そして間もなく魔物と化してしまう、哀れな存在。
ユウナとルールーが、ゆっくりと水縁に近付いていく。ユウナはそこで花を覗き込むように屈んだ。
私はできるだけ川に近付かないように、みんなから少し距離を置く。
ユウナたちと同じ様に水辺に行かず、途中で足を止めた私を不審に思ったのか、アーロンは一度踏み出した足をこちらに戻した。
「どうした?」
「…ここは、嫌いだ」
アーロンは何故私がそんなことを言い出したのか、不思議に思っているだろう。
10年前に共にここを訪れたときは、今のユウナのように水辺に腰掛けて幻想的な景色を楽しんでいたのだから。
「…ジェクトの、ことか?」
確かにここは思い出深い場所でもある。ここで起こしたジェクトの散々な大事件は、忘れたくても決して忘れることなど出来ない。
その時の様子を思い出したのもあるが、アーロンが私の考えていたこととはまるで違うことを言い出したことに、可笑しくなったのだ。
「そんなこともあったね~」
わざとらしく昔を懐かしむ言葉で、その場の雰囲気を転換させようとしてみる。
「あ!そうだ!」
少年が上げた声にアーロンは素早く否定の言葉を掛ける。
そう言い出すであろう事が分かっていたかのように。
「…待ってあげればいいのに」
少年が少々不憫に思えてしまい、肩を持ってみた。
「ダメだ」
キッパリと言い捨てられてしまい、私と少年は気まずさに振り上げた手を下ろすこともできずにいた。
「じゃ、『シン』を倒したら、ゆっくり見に来よう!」
「「「!!」」」
いい思いつき!とでも言って欲しそうに、少年は1つ両手を打ち鳴らして声を張り上げた。
…しかし、その言葉には、誰も、何も言えなかった。
「?」
自分の意見に何の返答も無いことを不審に思った少年は、みんなの顔色を伺おうとする。
誰も、ティーダのほうを振り向けなかった。言葉を返せなかった。
少年は、未だに知らないのだ。
シンを倒すということが、どんな結果に繋がるのかと言うことを…
不思議だと感じた。
同時に、なぜなんだという疑問も湧く。
彼は、ジェクトの息子だ。…ということは、この少年もまたジェクトと同じ様にザナルカンドから来た人間、てことになるんだろうか。
だが、今や立派な召喚士のガードとしての役目を務めている。
ガードであるならば、本来知っていて当然のことを、彼は知らないのか。
誰も、彼に真実を、旅の結末を教えないのか?
この世界のことを何も知らない少年に、教師のようになんでも説明してくれるルールーでさえ、本当のことは言っていないというのか。
ユウナは、私に言った。
『私のガードとして私を守ってくれる人のことを知りたい』と。
今ここで、少年に私の口から結末を伝えてやりたかった。
シンを倒す、なんて目的がなかったら、きっとみんな、少年の意見に賛成してくれただろう。
だがそれは、叶わぬ願い。望むことは赦されない旅の途中なのだ。
幻光河の水面を優しい風が流れ、漂っていた幻光虫を一気に舞い上げた。
宙を見つめながら、ユウナが立ち上がり、上へと立ち上る幻光虫を目で追いかけるように顔を上に上げる。
もしかしたら、泣いていたのかもしれない。
こぼれそうになった涙を、無理に引き戻したのかもしれないと、思った。
「…ティーダ、あのさ」
「ラフテル!」
少年に声を掛けた途端、アーロンの低い声が諌めるように名を呼ぶ。
「なんスか?」
「……服、買いたいから、先に行くね」
私の口からは、言えない。でもいつかは誰かが伝えねばならないこと。
私はその誰かに、なれない。
…これも逃げてるってことだろうか。
「あぁ、了解ッス!」
笑みを浮かべることも出来ずに、静かに視線を落として店が並ぶ路地に向かって足を進めた。
何も言わないまま、アーロンも共に来てくれた。
後ろで、ワッカが明るく別の話題を提供している声が聞こえる。
シパーフのことでも話しているんだろう。
ユウナ、少年を責めないでやって。
赦してやってくれ、な。
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