第2章【ジョゼ~グアドサラム】
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紅色の布は異界の匂い
=15=
「召喚士様の寝癖が取れたら出発だ」
こいつがこんな冗談を口にするとは以外だった。
みんなが笑う中、なんとなく笑うタイミングを逃してしまったようで、ただみんなを見つめていた。
気付いてしまったんだ。みんなのその笑いが上辺だけの物だってことに。
少年だけは、本当に楽しそうに、本物の笑顔を見せていた。
その笑顔が、太陽のような笑顔が、憮然とした表情のユウナを次第に笑顔に戻してくれた。
それだけで、救われたような気分になる。
ジョゼの寺院を後にし、街道を北上する。
ごつごつとした岩だらけの景色は一変し、植物の生い茂る自然豊かな田舎の小道といったところだ。
あの作戦から一晩がたち、戦士たちも落ち着きを取り戻したようだ。
街道のこちら側にも兵士は溢れているが、己の過ちを悔い、これからの身の振り方を冷静に考えられるようになっていた。
街道を進んでいく先に、2人のロンゾ族が立ち塞がっているのが遠目にも見えた。
キマリの獣特有のグルグルとした唸り声を微かに聞いた。
しかし、歩みをとめるわけにも行かず、ユウナたちはキマリの顔を伺いつつ先へと進んでいく。
「あ、あいつら…!」
そこに立つ2人のロンゾ族の男の顔が次第にハッキリしてきた頃、少年が叫んだ。
「知ってるの?」
意外そうにユウナが少年に問いかける。
ルカで、ティーダはキマリと共にこの2人に会っているのだが、それは私も知らなかったことだった。
私達からしてみれば、キマリはロンゾ族ということもあって、大きな体をしているというイメージがあるが、こうして他のロンゾ族の者たちと比べると、キマリは小さい部類に入るのだということを実感した。
キマリよりも体の大きなこのロンゾの男たちは、一頻りキマリをからかった後、気になる言葉を口にした。
『召喚士が消える』
キマリたちはまだ互いに喧嘩腰になりながら、そしてなぜか少年まで参加しつつ話しているようだったが、既にその声は聞こえない。
不安そうに俯くユウナの側まで移動し、そっと肩を抱き寄せた。
「気になるわね」
ルールーの言葉に同意する。
10年前から、私が1人で旅をしていた頃にも、そんな話は聞いたことが無かった。
召喚士が消える。
一番の原因として考えられるのは魔物に襲われたことで命を落とすという可能性。
しかし、召喚士が1人きりで旅に出ることなど有り得ないし、第一魔物に襲われたのなら何かしらの痕跡が残るはず。
あるいは、ガードと共に旅をやめてしまい、どこかへ逃げ隠れたか。
それは、召喚士として覚悟を決めた人間には絶対といっていいほど考えられないことだ。
旅をやめたのなら、戻らないということは無いはずだし…
何かの事故にでも巻き込まれたのか、それとも、“真相”を知ったのか…
「ガードがしっかりしてれば、だいじょうぶ!!」
自信たっぷりに言い切る少年に、ユウナの顔がパアっと音でも聞こえるかのように明るくなった。
いつしか道は深い森の中へと続いていった。
開けたところと違い、魔物の襲撃に気付き難い。
アーロンと並ぶようにパーティの後方を進んでいたが、できるだけ先頭を進むようにする。
私なら、異界の匂いに気付くことが出来るから。
アーロンと一緒にいると、彼自身の匂いで魔物に気付くのがどうしても遅くなってしまうのだ。
そうこうしているうちに、匂いが強まった。
「気をつけろ!」
私は後方に声を掛ける。
すぐに気配を感じたのか、キマリが彼の獲物である長い槍を構えた。
それを見て、仲間達もユウナの元に駆け寄る。
どこから飛んできたのか、突然目の前にでかい魔物が降って来る。
長い触手を何本も揺らし、でかい口からは毒を含んだ息が色つきで立ち上っているのが見える。
森の植物が魔物と化したオチューだ。
魔物が落ちてきた位置が悪かった。
ユウナが最前列にいる。
すぐにアーロンとルールーがカバーに入るが、長い触手は人間1人の大きさなど物ともしない。
後列に下がったユウナ目掛けて、鞭のように撓った触手が振り下ろされる。
私のすぐ近くにいたキマリが、低く屈みこんだ。
と同時に、掛け声と共に常人では考えられない跳躍力を見せる。
構えた槍を長く伸びた触手目掛けて突き刺した。
私も同時にユウナの体に覆いかぶさるように走りこむ。
すぐ背後まで迫っていた触手の衝撃を受ける覚悟を決め、咄嗟にユウナに覆いかぶさって地に押し付けた。
目を閉じた瞬間、すぐ後ろで何かを切り裂く耳障りな音とボタリと地に落ちた何かの音を聞く。
すぐに後ろを振り返ってそれを確認すると、キマリによって切り落とされた触手がまだうぞうぞと蠢いていた。
ホッと安堵の溜息を零し、ユウナの無事を確認する。
「ユウナ、大丈夫?」
「はい!」
良かった…!本当に。あとはアーロンたちに任せることにして、私はユウナに手を貸して立ち上がらせる。
「ラフテル!!」
急に呼ばれた声に振り返ろうとした。
僅かに体をひねったその瞬間、背中に強い衝撃を受けた。
「っっ!!」
突然のことに声を上げることも出来ない。一瞬何が起きたのか理解できなかった。
背中に受けた衝撃のせいで息をすることも出来ず、そのまま地面に倒れた。
魔物の断末魔の叫び声が耳に届き、魔物の攻撃を受けたことを理解した。
「…かっ! …っっ!」
息が、できない…!
体中が背中からとてつもなく重いものに圧し掛かられているような感覚がする。
ぼやけてしまった視界の隅に、淡く漂う幻光虫を見て、魔物は倒したことがわかったが、ユウナの無事は確認できない。
すぐにそれも安堵に変わった。耳元で必死に私の名を呼び続ける声は、ユウナのものだ。
「…ユ、ユウ、ナ…無事…?」
うんうんと頷いているのが微かに見えた。
ユウナが背中に回復魔法をかけてくれたのだろう。
すぐに痛みは引き、呼吸も元通りできるようになった。
しかし、いきなり背中に受けた強い衝撃は、体のキズを治しても奥底のほうでギスギスと重い痛みを残した。
「…ラフテルさん、大丈夫?」
「な、なんとかね」
「あ、まだ動いちゃダメ。まだ毒が残ってるから」
多少の毒には免疫がある、はず。伊達に10年前からガードはしていない。
体を起こそうとした時、頭上からフワリと赤い布が私を覆い隠した。
「??」
「…着ていろ」
体を起こしてその場に座り込んだ私の姿を見て、咄嗟にユウナとルールーが私に抱きついた。
「ちょっと、向こう向いてなさい!!」
ルールーの凄い剣幕に、男たちはそれぞれ背中を向けた。
2人が離れた瞬間、私は自分の体を見直して驚愕することになる。
先程受けた攻撃で、1枚きりだった薄いシャツは見事に破かれ、あのバカに破かれた襟元も手伝って、起き上がった瞬間にハラリと落ちた。
私の上に覆われた赤いものがアーロンの着ていたあの緋色の服だったことを、後ろを向いた背中で理解した。
恥ずかしいというよりも、異界の匂いの染み付いた服が私に掛けられていることに、呆気に取られてしまった。
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「召喚士様の寝癖が取れたら出発だ」
こいつがこんな冗談を口にするとは以外だった。
みんなが笑う中、なんとなく笑うタイミングを逃してしまったようで、ただみんなを見つめていた。
気付いてしまったんだ。みんなのその笑いが上辺だけの物だってことに。
少年だけは、本当に楽しそうに、本物の笑顔を見せていた。
その笑顔が、太陽のような笑顔が、憮然とした表情のユウナを次第に笑顔に戻してくれた。
それだけで、救われたような気分になる。
ジョゼの寺院を後にし、街道を北上する。
ごつごつとした岩だらけの景色は一変し、植物の生い茂る自然豊かな田舎の小道といったところだ。
あの作戦から一晩がたち、戦士たちも落ち着きを取り戻したようだ。
街道のこちら側にも兵士は溢れているが、己の過ちを悔い、これからの身の振り方を冷静に考えられるようになっていた。
街道を進んでいく先に、2人のロンゾ族が立ち塞がっているのが遠目にも見えた。
キマリの獣特有のグルグルとした唸り声を微かに聞いた。
しかし、歩みをとめるわけにも行かず、ユウナたちはキマリの顔を伺いつつ先へと進んでいく。
「あ、あいつら…!」
そこに立つ2人のロンゾ族の男の顔が次第にハッキリしてきた頃、少年が叫んだ。
「知ってるの?」
意外そうにユウナが少年に問いかける。
ルカで、ティーダはキマリと共にこの2人に会っているのだが、それは私も知らなかったことだった。
私達からしてみれば、キマリはロンゾ族ということもあって、大きな体をしているというイメージがあるが、こうして他のロンゾ族の者たちと比べると、キマリは小さい部類に入るのだということを実感した。
キマリよりも体の大きなこのロンゾの男たちは、一頻りキマリをからかった後、気になる言葉を口にした。
『召喚士が消える』
キマリたちはまだ互いに喧嘩腰になりながら、そしてなぜか少年まで参加しつつ話しているようだったが、既にその声は聞こえない。
不安そうに俯くユウナの側まで移動し、そっと肩を抱き寄せた。
「気になるわね」
ルールーの言葉に同意する。
10年前から、私が1人で旅をしていた頃にも、そんな話は聞いたことが無かった。
召喚士が消える。
一番の原因として考えられるのは魔物に襲われたことで命を落とすという可能性。
しかし、召喚士が1人きりで旅に出ることなど有り得ないし、第一魔物に襲われたのなら何かしらの痕跡が残るはず。
あるいは、ガードと共に旅をやめてしまい、どこかへ逃げ隠れたか。
それは、召喚士として覚悟を決めた人間には絶対といっていいほど考えられないことだ。
旅をやめたのなら、戻らないということは無いはずだし…
何かの事故にでも巻き込まれたのか、それとも、“真相”を知ったのか…
「ガードがしっかりしてれば、だいじょうぶ!!」
自信たっぷりに言い切る少年に、ユウナの顔がパアっと音でも聞こえるかのように明るくなった。
いつしか道は深い森の中へと続いていった。
開けたところと違い、魔物の襲撃に気付き難い。
アーロンと並ぶようにパーティの後方を進んでいたが、できるだけ先頭を進むようにする。
私なら、異界の匂いに気付くことが出来るから。
アーロンと一緒にいると、彼自身の匂いで魔物に気付くのがどうしても遅くなってしまうのだ。
そうこうしているうちに、匂いが強まった。
「気をつけろ!」
私は後方に声を掛ける。
すぐに気配を感じたのか、キマリが彼の獲物である長い槍を構えた。
それを見て、仲間達もユウナの元に駆け寄る。
どこから飛んできたのか、突然目の前にでかい魔物が降って来る。
長い触手を何本も揺らし、でかい口からは毒を含んだ息が色つきで立ち上っているのが見える。
森の植物が魔物と化したオチューだ。
魔物が落ちてきた位置が悪かった。
ユウナが最前列にいる。
すぐにアーロンとルールーがカバーに入るが、長い触手は人間1人の大きさなど物ともしない。
後列に下がったユウナ目掛けて、鞭のように撓った触手が振り下ろされる。
私のすぐ近くにいたキマリが、低く屈みこんだ。
と同時に、掛け声と共に常人では考えられない跳躍力を見せる。
構えた槍を長く伸びた触手目掛けて突き刺した。
私も同時にユウナの体に覆いかぶさるように走りこむ。
すぐ背後まで迫っていた触手の衝撃を受ける覚悟を決め、咄嗟にユウナに覆いかぶさって地に押し付けた。
目を閉じた瞬間、すぐ後ろで何かを切り裂く耳障りな音とボタリと地に落ちた何かの音を聞く。
すぐに後ろを振り返ってそれを確認すると、キマリによって切り落とされた触手がまだうぞうぞと蠢いていた。
ホッと安堵の溜息を零し、ユウナの無事を確認する。
「ユウナ、大丈夫?」
「はい!」
良かった…!本当に。あとはアーロンたちに任せることにして、私はユウナに手を貸して立ち上がらせる。
「ラフテル!!」
急に呼ばれた声に振り返ろうとした。
僅かに体をひねったその瞬間、背中に強い衝撃を受けた。
「っっ!!」
突然のことに声を上げることも出来ない。一瞬何が起きたのか理解できなかった。
背中に受けた衝撃のせいで息をすることも出来ず、そのまま地面に倒れた。
魔物の断末魔の叫び声が耳に届き、魔物の攻撃を受けたことを理解した。
「…かっ! …っっ!」
息が、できない…!
体中が背中からとてつもなく重いものに圧し掛かられているような感覚がする。
ぼやけてしまった視界の隅に、淡く漂う幻光虫を見て、魔物は倒したことがわかったが、ユウナの無事は確認できない。
すぐにそれも安堵に変わった。耳元で必死に私の名を呼び続ける声は、ユウナのものだ。
「…ユ、ユウ、ナ…無事…?」
うんうんと頷いているのが微かに見えた。
ユウナが背中に回復魔法をかけてくれたのだろう。
すぐに痛みは引き、呼吸も元通りできるようになった。
しかし、いきなり背中に受けた強い衝撃は、体のキズを治しても奥底のほうでギスギスと重い痛みを残した。
「…ラフテルさん、大丈夫?」
「な、なんとかね」
「あ、まだ動いちゃダメ。まだ毒が残ってるから」
多少の毒には免疫がある、はず。伊達に10年前からガードはしていない。
体を起こそうとした時、頭上からフワリと赤い布が私を覆い隠した。
「??」
「…着ていろ」
体を起こしてその場に座り込んだ私の姿を見て、咄嗟にユウナとルールーが私に抱きついた。
「ちょっと、向こう向いてなさい!!」
ルールーの凄い剣幕に、男たちはそれぞれ背中を向けた。
2人が離れた瞬間、私は自分の体を見直して驚愕することになる。
先程受けた攻撃で、1枚きりだった薄いシャツは見事に破かれ、あのバカに破かれた襟元も手伝って、起き上がった瞬間にハラリと落ちた。
私の上に覆われた赤いものがアーロンの着ていたあの緋色の服だったことを、後ろを向いた背中で理解した。
恥ずかしいというよりも、異界の匂いの染み付いた服が私に掛けられていることに、呆気に取られてしまった。
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