第2章【ジョゼ~グアドサラム】
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たまには一緒に
=14=
「ラフテル、ちょっと付き合え」
宿の廊下を進んでいるときに声を掛けられた。
ユウナが祈り子と対面を終え、寺院に次々と運び込まれてくる負傷者の手当てが一段落し、少し休もうと思ったところだった。
そのまま踵を返し、声を掛けてきた人物が立つ位置まで足を戻す。
宿のエントランスの付近では、旅人への必要物品の販売もしているようで、アイテムやら武器防具も取り扱っている。
私に声を掛けたアーロンは、私が側まで辿り着くのを待つこともせずに、店でなにやら物色しているようだった。
アーロンが手にしたのは、ここらでは余り見かけない地酒。
すぐ側まで辿り着いた私に掲げて見せて、ニヤリと口角を持ち上げた。
「10年ぶりなんだ、相手をしろ」
「男共と呑めばいいじゃないか」
「キマリ以外はもう寝た」
「…キマリは?」
「見回りに行くと言って出て行った」
「…そう」
私はまだ一緒に飲むことを承諾したわけではないのに、こいつはもうすっかりその気になっているらしい。
「どこで呑むんだ? …ここ、公司じゃなくて寺院だから大っぴらには飲めないぞ」
「外で飲めばいい」
「…寒いんじゃないか?」
「すぐに温めてやる」
「………」
やっぱり、一緒に飲むの、やめようかと本気で考えた。
まだ寺院に残っていたルールーに、先に休んでもらうように伝えてから、宿の裏手にある大きな岩陰に向かう。
確か、10年前もここで飲んだ覚えが…
アーロンもそのことをしっかりと覚えていたようだ。
岩棚に腰を下ろした赤い背中が見え、私は気配も隠すことなく足を進めた。
「ユウナはもう休んだか?」
「ううん、まだルールーと一緒に頑張ってる。あと少しで目処がつきそうだって言ってたから、そろそろ切り上げる頃じゃないか?」
「そうか」
「…心配?」
笑いを含ませた声で尋ねてみる。
「そうだな。心配ではないといえば嘘になる。今はあの娘のガードという身分だからな」
アーロンの隣に腰を下ろすと同時に、小さなグラスを手渡される。
それを受け取って、アーロンが注いでくれる白濁酒をじっと見つめた。
10年前、こんなのあったっけ?
そんな私の心の声を聞き取ったのか、今度は自分に注げとばかりにグラスを突き出して来ながら言葉を紡ぐ。
「ブラスカがシンを倒した後に生まれた酒だそうだ。ブラスカの純真無垢な心を表しているとか」
「…ぶっ!」
真顔でそんなことを言うもんだから、呆れるよりも笑いが飛び出した。
「あははは、…じゃ、純真無垢なブラスカに」
「ブラスカに…」
カチンと小気味良い小さな音を立てて触れ合ったグラスを、2人は同時に傾けた。
「じゃあ、あんたはずっとティーダと一緒だったわけだ」
「まぁ、そうだな」
「10年も一緒に住んでたら情が湧いて仕方が無いんじゃないか?」
「別に一緒に住んでいたわけではないが、手に負えんクソガキでしかなかったから、余計だな」
「泣き虫、だし?」
「まったくだ」
この10年、アーロンはどこで何をしていたのか全て聞いた。
だが、そうなるまでの経緯は未だに聞いていない、聞けない。…聞くのが、怖い。
ジェクトの言ってたザナルカンドは本当にあった。
そこでアーロンはティーダと10年という歳月を過ごしてきたのだから間違いない。
ただ、それはどこにあってどうやって行ったのかということは、アーロンは口にはしなかった。
私も聞かなかった。聞くのを忘れた振りを貫き通してやろうと思った。
「お前は何をしていたんだ?」
「…旅」
「旅? また、旅をしていたのか?」
「スピラのあちこちを旅して回って、その度にブラスカの活躍を多いに語ってた」
「…なぜ、そんなことを…?」
「…権利だと、思ったから」
「権「ハックシュ!!」…」
アーロンが聞き返す言葉を遮るように思わず出た大きなくしゃみに、アーロンは顔を顰めた。
「…ゴメン」
何も言わずに、アーロンは私が座っている場所の真後ろに移動すると、後ろから包み込むように私の背中に抱きついた。
いや、これは抱え込んだ、というのが正しいと思う。
アーロンが買い込んだ地酒はすでに3本が空になり、4本目も残り僅かとなっている。
いつの間にそんなに飲んだんだろう?
酒が入ったせいもあり、今日の戦闘や、この目で見た信じがたい現状に精神が疲れていたせいもあるだろう。
後ろから抱え込まれたやつの胸や腕の温かさに、安心感さえ抱いている自分がいる。
普段はジャケットを着ているのでそれほど寒いとは感じないが、そのジャケットも先の戦闘で使い物にならなくなり、今は薄手のシャツ1枚だけ。しかもこのバカに襟元を破かれたままなのだ。
先程の会話の続きは、もう打ち止めとなってしまったようだ。
私の腹に両腕を回し、肩と首筋に乗せられたこいつの頭がくすぐったくて、どこか心地よい。
相変わらず背中を何かが走り抜けるような感覚に囚われたままだが、それも気持ちいい、なんて思ったのはきっと、酔ったせい。
「これはもう、消えんか…?」
首筋に微かに唇を当てながら、残った火傷のような傷跡をなぞる。
先程、宿に取った部屋の鏡で確認したその跡は、首から肩に掛けて肌の色をすっかり変えてしまっていた。
「この歳になってから、嫁の貰い手の相手を心配するわけでもないし、別に、構わない。名誉の負傷ってヤツ?」
誤魔化すような苦い笑いを含ませ、自嘲する。
「ないのなら、俺が貰おう」
そう言って、ギリギリ服で隠れる辺りの肌に吸い付く。
ピリッとした痛みに片目を怯ませ、微かな声を漏らしてしまった。
「…なにするんだ」
「喧しい口だ…」
腹に乗せられた腕が片方、私の顎に添えられ、アーロンの方を向かされる。
そのまま、このバカは私の口を噛み付くように貪り尽くした。
→
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「ラフテル、ちょっと付き合え」
宿の廊下を進んでいるときに声を掛けられた。
ユウナが祈り子と対面を終え、寺院に次々と運び込まれてくる負傷者の手当てが一段落し、少し休もうと思ったところだった。
そのまま踵を返し、声を掛けてきた人物が立つ位置まで足を戻す。
宿のエントランスの付近では、旅人への必要物品の販売もしているようで、アイテムやら武器防具も取り扱っている。
私に声を掛けたアーロンは、私が側まで辿り着くのを待つこともせずに、店でなにやら物色しているようだった。
アーロンが手にしたのは、ここらでは余り見かけない地酒。
すぐ側まで辿り着いた私に掲げて見せて、ニヤリと口角を持ち上げた。
「10年ぶりなんだ、相手をしろ」
「男共と呑めばいいじゃないか」
「キマリ以外はもう寝た」
「…キマリは?」
「見回りに行くと言って出て行った」
「…そう」
私はまだ一緒に飲むことを承諾したわけではないのに、こいつはもうすっかりその気になっているらしい。
「どこで呑むんだ? …ここ、公司じゃなくて寺院だから大っぴらには飲めないぞ」
「外で飲めばいい」
「…寒いんじゃないか?」
「すぐに温めてやる」
「………」
やっぱり、一緒に飲むの、やめようかと本気で考えた。
まだ寺院に残っていたルールーに、先に休んでもらうように伝えてから、宿の裏手にある大きな岩陰に向かう。
確か、10年前もここで飲んだ覚えが…
アーロンもそのことをしっかりと覚えていたようだ。
岩棚に腰を下ろした赤い背中が見え、私は気配も隠すことなく足を進めた。
「ユウナはもう休んだか?」
「ううん、まだルールーと一緒に頑張ってる。あと少しで目処がつきそうだって言ってたから、そろそろ切り上げる頃じゃないか?」
「そうか」
「…心配?」
笑いを含ませた声で尋ねてみる。
「そうだな。心配ではないといえば嘘になる。今はあの娘のガードという身分だからな」
アーロンの隣に腰を下ろすと同時に、小さなグラスを手渡される。
それを受け取って、アーロンが注いでくれる白濁酒をじっと見つめた。
10年前、こんなのあったっけ?
そんな私の心の声を聞き取ったのか、今度は自分に注げとばかりにグラスを突き出して来ながら言葉を紡ぐ。
「ブラスカがシンを倒した後に生まれた酒だそうだ。ブラスカの純真無垢な心を表しているとか」
「…ぶっ!」
真顔でそんなことを言うもんだから、呆れるよりも笑いが飛び出した。
「あははは、…じゃ、純真無垢なブラスカに」
「ブラスカに…」
カチンと小気味良い小さな音を立てて触れ合ったグラスを、2人は同時に傾けた。
「じゃあ、あんたはずっとティーダと一緒だったわけだ」
「まぁ、そうだな」
「10年も一緒に住んでたら情が湧いて仕方が無いんじゃないか?」
「別に一緒に住んでいたわけではないが、手に負えんクソガキでしかなかったから、余計だな」
「泣き虫、だし?」
「まったくだ」
この10年、アーロンはどこで何をしていたのか全て聞いた。
だが、そうなるまでの経緯は未だに聞いていない、聞けない。…聞くのが、怖い。
ジェクトの言ってたザナルカンドは本当にあった。
そこでアーロンはティーダと10年という歳月を過ごしてきたのだから間違いない。
ただ、それはどこにあってどうやって行ったのかということは、アーロンは口にはしなかった。
私も聞かなかった。聞くのを忘れた振りを貫き通してやろうと思った。
「お前は何をしていたんだ?」
「…旅」
「旅? また、旅をしていたのか?」
「スピラのあちこちを旅して回って、その度にブラスカの活躍を多いに語ってた」
「…なぜ、そんなことを…?」
「…権利だと、思ったから」
「権「ハックシュ!!」…」
アーロンが聞き返す言葉を遮るように思わず出た大きなくしゃみに、アーロンは顔を顰めた。
「…ゴメン」
何も言わずに、アーロンは私が座っている場所の真後ろに移動すると、後ろから包み込むように私の背中に抱きついた。
いや、これは抱え込んだ、というのが正しいと思う。
アーロンが買い込んだ地酒はすでに3本が空になり、4本目も残り僅かとなっている。
いつの間にそんなに飲んだんだろう?
酒が入ったせいもあり、今日の戦闘や、この目で見た信じがたい現状に精神が疲れていたせいもあるだろう。
後ろから抱え込まれたやつの胸や腕の温かさに、安心感さえ抱いている自分がいる。
普段はジャケットを着ているのでそれほど寒いとは感じないが、そのジャケットも先の戦闘で使い物にならなくなり、今は薄手のシャツ1枚だけ。しかもこのバカに襟元を破かれたままなのだ。
先程の会話の続きは、もう打ち止めとなってしまったようだ。
私の腹に両腕を回し、肩と首筋に乗せられたこいつの頭がくすぐったくて、どこか心地よい。
相変わらず背中を何かが走り抜けるような感覚に囚われたままだが、それも気持ちいい、なんて思ったのはきっと、酔ったせい。
「これはもう、消えんか…?」
首筋に微かに唇を当てながら、残った火傷のような傷跡をなぞる。
先程、宿に取った部屋の鏡で確認したその跡は、首から肩に掛けて肌の色をすっかり変えてしまっていた。
「この歳になってから、嫁の貰い手の相手を心配するわけでもないし、別に、構わない。名誉の負傷ってヤツ?」
誤魔化すような苦い笑いを含ませ、自嘲する。
「ないのなら、俺が貰おう」
そう言って、ギリギリ服で隠れる辺りの肌に吸い付く。
ピリッとした痛みに片目を怯ませ、微かな声を漏らしてしまった。
「…なにするんだ」
「喧しい口だ…」
腹に乗せられた腕が片方、私の顎に添えられ、アーロンの方を向かされる。
そのまま、このバカは私の口を噛み付くように貪り尽くした。
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