第2章【ジョゼ~グアドサラム】
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粗暴と優しさ
=11=
海岸から街道へ戻る道の途中の岩陰で、手頃な大きさの岩の一つに腰を下ろす。
すぐ隣にやつもやってきて、怪我人の様子を見るルールーや祈りを捧げるワッカを見つめていた。
ユウナはまだ戻らない。
少年も心ここにあらずといった表情で落ち着き無く歩き回っている。
何をしたらいいのか分からないのだろう。
「ティーダ、ジェクトを感じたんだろうか?」
小さく呟いた言葉は独り言のつもりだった。
「だから、追いかけるような真似をしたんだろう」
返事が返ってくるとは思わなかった。
つい、視線を巡らせて見上げてしまった。
こちらを振り向きそうになったところで、慌てて視線を落とす。
行き場の無い手が腰に差した2本の小太刀を引き抜き、2本を纏めて利き手に持ち替えた。
ズボンのポーチから薄汚れた布を取り出して、先程の戦闘で付いた粘液質な液体を拭った。
私の肌を焼いた魔物の体液にも全く影響を受けていないかのように、2本の小太刀は曇天の灰色の空を映した。
「奴は、待っている」
声を発するアーロンを、小太刀の刃にチラリと映し見て、視線を落とす。
「ティーダ、を? それとも、ユウナ?」
「…両方、だろうな」
癖なのか、何かを考えるように片手を顎に当てながら僅かに肩を揺する。
「今でも時々考えるよ。あの時、ブラスカが選んだのがジェクトじゃなくて、私だったら…と」
「…そんなことにはならんさ」
しばらくの沈黙の後、少々声を高めて言った。
「いや、させない」
「……なぜ」
「もし、今回の旅でまた誰かを祈り子にする、なんてことをユウナが決めたとしても…」
アーロンが、私の正面に回る。
片手を私を肩に乗せ、あの視線を向ける。
捕らえられたくないと思っていても、一度合わせてしまった視線はなかなか外せない。
「俺はお前を殺してでも祈り子になどさせん」
肩に乗せられた手に力が込められる。
ドキリと高鳴った心臓は、肩の痛みで私の意識を平静に戻してくれた。
「…いっ!!」
思わず顰めた顔に、アーロンは肩に乗せた手で私の薄い服を乱暴に開く。
ビリッと小さく破けた音がして、首筋から肩まで顕にさせられた。
「ちょっ!!」
慌ててその部分を匿うように隠そうとする手を押さえつけられる。
「大人しくしろ」
魔物に向けるような脅しの声に、口を噤んで力を抜いた。
自分で見ていないその部分はどうなっているのか、分からない。
少し皮が引っ張られるような感覚は残っているが、痛みはほとんどない。
頭を傾け、首から肩口までを全部曝け出している姿は、さながら吸血鬼に身を捧げる処女のようだ。
急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「…あ、あの、アーロン…」
「…ひどいな」
小さく呟いて、肩先からゆっくりと顎まで指を這わせた。
「…っっ!!」
必死に息を飲み込み、洩れそうになる声を抑えた。
背中どころか、体中に鳥肌が立つ。
離れたところから、ユウナの声が聞こえた。
戻ってきたようだ。
押さえつけられていた肩と腕を拘束していたやつの力が抜けた瞬間に、座っていた岩から逃げるように距離を取って背後の大岩に隠れた。
「素早い退散だな」
背後からアーロンが誰かと話している声が聞こえる。
大きく開かれた、いやあのバカに破られた襟元をなんとか押さえつける。
先程のアーロンの言葉が頭の中で反芻していた。
……私は、祈り子にならないのではなく、なれないのだ…
そのことを話せる日は、来るだろうか?
「教えに反した兵士たちは死に、従順な僧兵だけが残った」
…やっぱり。
最初からあいつらの狙いはこれだったんだ。
自分の浮かべた予想が当たっていたことに満足なんて出来なかった。
喜べるはずも無い。
到底勝つことなんて、最初から無理だった。
無理だと分かっていて、兵士たちを焚きつけて一掃するのが寺院の狙いだったのだ。
…だから寺院なんて、エボンの教えなんて信じられない。
岩陰から再びアーロンの元に戻ったとき、目の前をシーモアが横切っていった。
その横顔には、なぜか笑みが浮かんでいた。
それを追いかけるように、少年がこちらに駆け寄ってくる。
「シンはジェクトだ」
アーロンの言葉に、少年は目を見開く。
私は、私の父親を知らないけど、もし私の父親がシンだ、なんて言われたら、やっぱり信じることなんて出来ないだろう。
ジェクトは待っている。
少年を、自分を殺してくれる、解放してくれる存在を。
私はジェクトを知っている。
ジェクトの息子であるこの少年、ティーダのことも知っている。
2人は親子なんだと、傍から見ていてよくわかる。
そんな2人が、今は悲しい運命に縛られている。
助けたい。助かって欲しい。
また、あの時のように豪快に笑って欲しい。
太陽のような2人がいれば、どんなに明るく楽しいことだろうか。
…でもそれは、敵わない望み。
祈り子となってしまった者は、元には戻れない。
ジェクトを早く解放して欲しいという思いと、殺させたくないという思いと、矛盾した感情に自分の気持ちが付いてこない。
海岸から街道に戻る坂道の途中、負傷したたくさんの兵士たちが横たわっていた。
恋人だったのだろうか、亡骸に縋って泣きじゃくる若い女性の僧。
思わず、足を止めてしまった。
思考を戻そうと、頭を振りながら足を踏み出す。
頭を必要以上に振りすぎたせいだろうか、なんでもない地面につま先を引っ掛けてしまう。
バランスを崩した瞬間、小さな声が洩れたのを、すぐ前を歩く赤い背中が気付いた。
足を止め、ゆっくりと振り返る。
「ラフテル、大丈夫か?」
片手を差し伸べるようにこちらに向けてくる。
「(…あ)」
この場面…
浮かんでくる思い出の一場面。よく夢で見る状況。
なぜ…?
ここで…?
どこまでが夢でどこまでが現実なのか曖昧な雰囲気の中で感じるデジャヴ。
一度視線を落とし、深呼吸して冷静さを取り戻す。
「(…あれは記憶。これは今)」
そうだ、記憶の中の、夢の中の赤い背中は10年前の姿。
尻尾のように揺れる長い髪の毛に見惚れて躓いたなんて、絶対に言うもんか。
→
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海岸から街道へ戻る道の途中の岩陰で、手頃な大きさの岩の一つに腰を下ろす。
すぐ隣にやつもやってきて、怪我人の様子を見るルールーや祈りを捧げるワッカを見つめていた。
ユウナはまだ戻らない。
少年も心ここにあらずといった表情で落ち着き無く歩き回っている。
何をしたらいいのか分からないのだろう。
「ティーダ、ジェクトを感じたんだろうか?」
小さく呟いた言葉は独り言のつもりだった。
「だから、追いかけるような真似をしたんだろう」
返事が返ってくるとは思わなかった。
つい、視線を巡らせて見上げてしまった。
こちらを振り向きそうになったところで、慌てて視線を落とす。
行き場の無い手が腰に差した2本の小太刀を引き抜き、2本を纏めて利き手に持ち替えた。
ズボンのポーチから薄汚れた布を取り出して、先程の戦闘で付いた粘液質な液体を拭った。
私の肌を焼いた魔物の体液にも全く影響を受けていないかのように、2本の小太刀は曇天の灰色の空を映した。
「奴は、待っている」
声を発するアーロンを、小太刀の刃にチラリと映し見て、視線を落とす。
「ティーダ、を? それとも、ユウナ?」
「…両方、だろうな」
癖なのか、何かを考えるように片手を顎に当てながら僅かに肩を揺する。
「今でも時々考えるよ。あの時、ブラスカが選んだのがジェクトじゃなくて、私だったら…と」
「…そんなことにはならんさ」
しばらくの沈黙の後、少々声を高めて言った。
「いや、させない」
「……なぜ」
「もし、今回の旅でまた誰かを祈り子にする、なんてことをユウナが決めたとしても…」
アーロンが、私の正面に回る。
片手を私を肩に乗せ、あの視線を向ける。
捕らえられたくないと思っていても、一度合わせてしまった視線はなかなか外せない。
「俺はお前を殺してでも祈り子になどさせん」
肩に乗せられた手に力が込められる。
ドキリと高鳴った心臓は、肩の痛みで私の意識を平静に戻してくれた。
「…いっ!!」
思わず顰めた顔に、アーロンは肩に乗せた手で私の薄い服を乱暴に開く。
ビリッと小さく破けた音がして、首筋から肩まで顕にさせられた。
「ちょっ!!」
慌ててその部分を匿うように隠そうとする手を押さえつけられる。
「大人しくしろ」
魔物に向けるような脅しの声に、口を噤んで力を抜いた。
自分で見ていないその部分はどうなっているのか、分からない。
少し皮が引っ張られるような感覚は残っているが、痛みはほとんどない。
頭を傾け、首から肩口までを全部曝け出している姿は、さながら吸血鬼に身を捧げる処女のようだ。
急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「…あ、あの、アーロン…」
「…ひどいな」
小さく呟いて、肩先からゆっくりと顎まで指を這わせた。
「…っっ!!」
必死に息を飲み込み、洩れそうになる声を抑えた。
背中どころか、体中に鳥肌が立つ。
離れたところから、ユウナの声が聞こえた。
戻ってきたようだ。
押さえつけられていた肩と腕を拘束していたやつの力が抜けた瞬間に、座っていた岩から逃げるように距離を取って背後の大岩に隠れた。
「素早い退散だな」
背後からアーロンが誰かと話している声が聞こえる。
大きく開かれた、いやあのバカに破られた襟元をなんとか押さえつける。
先程のアーロンの言葉が頭の中で反芻していた。
……私は、祈り子にならないのではなく、なれないのだ…
そのことを話せる日は、来るだろうか?
「教えに反した兵士たちは死に、従順な僧兵だけが残った」
…やっぱり。
最初からあいつらの狙いはこれだったんだ。
自分の浮かべた予想が当たっていたことに満足なんて出来なかった。
喜べるはずも無い。
到底勝つことなんて、最初から無理だった。
無理だと分かっていて、兵士たちを焚きつけて一掃するのが寺院の狙いだったのだ。
…だから寺院なんて、エボンの教えなんて信じられない。
岩陰から再びアーロンの元に戻ったとき、目の前をシーモアが横切っていった。
その横顔には、なぜか笑みが浮かんでいた。
それを追いかけるように、少年がこちらに駆け寄ってくる。
「シンはジェクトだ」
アーロンの言葉に、少年は目を見開く。
私は、私の父親を知らないけど、もし私の父親がシンだ、なんて言われたら、やっぱり信じることなんて出来ないだろう。
ジェクトは待っている。
少年を、自分を殺してくれる、解放してくれる存在を。
私はジェクトを知っている。
ジェクトの息子であるこの少年、ティーダのことも知っている。
2人は親子なんだと、傍から見ていてよくわかる。
そんな2人が、今は悲しい運命に縛られている。
助けたい。助かって欲しい。
また、あの時のように豪快に笑って欲しい。
太陽のような2人がいれば、どんなに明るく楽しいことだろうか。
…でもそれは、敵わない望み。
祈り子となってしまった者は、元には戻れない。
ジェクトを早く解放して欲しいという思いと、殺させたくないという思いと、矛盾した感情に自分の気持ちが付いてこない。
海岸から街道に戻る坂道の途中、負傷したたくさんの兵士たちが横たわっていた。
恋人だったのだろうか、亡骸に縋って泣きじゃくる若い女性の僧。
思わず、足を止めてしまった。
思考を戻そうと、頭を振りながら足を踏み出す。
頭を必要以上に振りすぎたせいだろうか、なんでもない地面につま先を引っ掛けてしまう。
バランスを崩した瞬間、小さな声が洩れたのを、すぐ前を歩く赤い背中が気付いた。
足を止め、ゆっくりと振り返る。
「ラフテル、大丈夫か?」
片手を差し伸べるようにこちらに向けてくる。
「(…あ)」
この場面…
浮かんでくる思い出の一場面。よく夢で見る状況。
なぜ…?
ここで…?
どこまでが夢でどこまでが現実なのか曖昧な雰囲気の中で感じるデジャヴ。
一度視線を落とし、深呼吸して冷静さを取り戻す。
「(…あれは記憶。これは今)」
そうだ、記憶の中の、夢の中の赤い背中は10年前の姿。
尻尾のように揺れる長い髪の毛に見惚れて躓いたなんて、絶対に言うもんか。
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