第1章【ルカ~ミヘン街道】
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薄まる匂い
=10=
この世界にあって脅威となるべく存在、シン。
それは人々の罪が形になったもの。
罪を償えばシンは消える。
…ならば、罪って何?
人間が、人間として生きるためにしなければならないこと、してはいけないこと。
生きる為に、闘う。シンから守るために闘う。
闘うことそのものが罪となるならば、シンが存在する限り罪は重ねられる。
罪がなくならなければ、シンは消えない。
そしてシンは再び人間を襲う。
人間は、どうすればいいのだろうか?
このまま、全ての人間がシンに滅ぼされれば、シンも消えるのだろうか…?
シンに襲われた町や村を見てきた。
殺された人間を見てきた。
シンに立ち向かった人々を見た。
それでも、こんなのは酷すぎる。
同じ人間ですら種族間で争いを続けるような小さな心しか持ち合わせていない人間ごときでは、一時力を合わせたとしてもこの程度だ。
悲しみが大きすぎて、痛い。
涙も言葉も出ない。
作戦が始まる前までの高揚した意気は、一体どこに行ってしまったのだろうか?
『絶望』
そんな言葉が頭を過ぎる。
正に今この場所にはうってつけの言葉だ。
崖の最上部にいた私たちには、直接の被害はない。
シンの衝撃波で少々飛ばされた程度だ。
だが、最前線にいた兵士たちはどうなっただろう?
無事だろうか、なんて希望は夢でしかないのだろうか?
恐らく、もう…
そう、キーリカが襲われたという知らせを聞いたときに浮かんだ気持ちと、一緒なんだ。
これは諦めの境地。
「召喚します!」
ユウナの声にハッとする。
改めて自分の格好に意識を向ける。
地面が近いということは腰を下ろしているってことだ、が、背中が温かい。
それに腹の辺りに重みを感じる。
…あぁ、なんだこの格好…、私は子供じゃないのに。
「…アーロン」
「なんだ」
「…離して」
「なぜだ?」
先程の戦いで負傷した首筋に柔らかい物が触れる。
ビクリと肩を震わせ、ゾクゾクするような感覚から逃れようと身を捩る。
「ユウナが、異界送りするみたいだ」
こんなにユウナの側にいれば、こいつだってきっと…
海岸のほうに降りて行ったワッカ達の姿が目に入った。なんとかアーロンの太い腕をどかし、腰を上げる。
ワッカやルールーを追いかける様に、私もアーロンのほうを振り返りもせずに走った。
海岸に、少年がいた。
まるで波に打ち上げられたように。
少年は目を見開いて、空を見上げていた。
私は何も言わずにそっとその隣に腰を下ろす。
「ラフテルも、アーロンと一緒に旅、してたんだもんな。…知ってて当然だよな…」
「まあね」
「ユウナは?」
「上にいる。異界送りしてる」
「…そっか。 …俺さ、あんま、あの踊り、見たくないんだ」
「うん、私もだ。きっとそれは、ユウナも同じなんだと思う」
小さな返事と共に、少年は身を起こした。
私の後にやってきたアーロンが、少年に声を掛ける。
「帰れなかったな」
少年がアーロンを振り仰いだ。つられて私も顔を上げる。
どこか、ホッとしたように見えたのは私の気のせいだろうか?
「おまえの物語は続くようだ」
もし、この状態で少年が戻ってしまったら…なんて、もしかしたらアーロンは危惧してしまったのかもしれない。
少年に元気を分け与えるような感覚で、軽く背中をポンと叩き、私もアーロンの後を追った。
「帰らなくてよかった、とか思った?」
「…何のことだ」
知らない振りしてるけど、きっと安心したんだと思う。
今のこの現状で笑顔なんて出せないけど、少しだけなら構わないだろうか?
「…ありがと」
「何がだ」
本当にこいつは、会話を一言で終わらせる名人だ。
人との関わりを拒絶するような振る舞いを見せるくせに、密かに誰かと触れ合いたいと願っている、素直じゃない奴。
→第2章
=10=
この世界にあって脅威となるべく存在、シン。
それは人々の罪が形になったもの。
罪を償えばシンは消える。
…ならば、罪って何?
人間が、人間として生きるためにしなければならないこと、してはいけないこと。
生きる為に、闘う。シンから守るために闘う。
闘うことそのものが罪となるならば、シンが存在する限り罪は重ねられる。
罪がなくならなければ、シンは消えない。
そしてシンは再び人間を襲う。
人間は、どうすればいいのだろうか?
このまま、全ての人間がシンに滅ぼされれば、シンも消えるのだろうか…?
シンに襲われた町や村を見てきた。
殺された人間を見てきた。
シンに立ち向かった人々を見た。
それでも、こんなのは酷すぎる。
同じ人間ですら種族間で争いを続けるような小さな心しか持ち合わせていない人間ごときでは、一時力を合わせたとしてもこの程度だ。
悲しみが大きすぎて、痛い。
涙も言葉も出ない。
作戦が始まる前までの高揚した意気は、一体どこに行ってしまったのだろうか?
『絶望』
そんな言葉が頭を過ぎる。
正に今この場所にはうってつけの言葉だ。
崖の最上部にいた私たちには、直接の被害はない。
シンの衝撃波で少々飛ばされた程度だ。
だが、最前線にいた兵士たちはどうなっただろう?
無事だろうか、なんて希望は夢でしかないのだろうか?
恐らく、もう…
そう、キーリカが襲われたという知らせを聞いたときに浮かんだ気持ちと、一緒なんだ。
これは諦めの境地。
「召喚します!」
ユウナの声にハッとする。
改めて自分の格好に意識を向ける。
地面が近いということは腰を下ろしているってことだ、が、背中が温かい。
それに腹の辺りに重みを感じる。
…あぁ、なんだこの格好…、私は子供じゃないのに。
「…アーロン」
「なんだ」
「…離して」
「なぜだ?」
先程の戦いで負傷した首筋に柔らかい物が触れる。
ビクリと肩を震わせ、ゾクゾクするような感覚から逃れようと身を捩る。
「ユウナが、異界送りするみたいだ」
こんなにユウナの側にいれば、こいつだってきっと…
海岸のほうに降りて行ったワッカ達の姿が目に入った。なんとかアーロンの太い腕をどかし、腰を上げる。
ワッカやルールーを追いかける様に、私もアーロンのほうを振り返りもせずに走った。
海岸に、少年がいた。
まるで波に打ち上げられたように。
少年は目を見開いて、空を見上げていた。
私は何も言わずにそっとその隣に腰を下ろす。
「ラフテルも、アーロンと一緒に旅、してたんだもんな。…知ってて当然だよな…」
「まあね」
「ユウナは?」
「上にいる。異界送りしてる」
「…そっか。 …俺さ、あんま、あの踊り、見たくないんだ」
「うん、私もだ。きっとそれは、ユウナも同じなんだと思う」
小さな返事と共に、少年は身を起こした。
私の後にやってきたアーロンが、少年に声を掛ける。
「帰れなかったな」
少年がアーロンを振り仰いだ。つられて私も顔を上げる。
どこか、ホッとしたように見えたのは私の気のせいだろうか?
「おまえの物語は続くようだ」
もし、この状態で少年が戻ってしまったら…なんて、もしかしたらアーロンは危惧してしまったのかもしれない。
少年に元気を分け与えるような感覚で、軽く背中をポンと叩き、私もアーロンの後を追った。
「帰らなくてよかった、とか思った?」
「…何のことだ」
知らない振りしてるけど、きっと安心したんだと思う。
今のこの現状で笑顔なんて出せないけど、少しだけなら構わないだろうか?
「…ありがと」
「何がだ」
本当にこいつは、会話を一言で終わらせる名人だ。
人との関わりを拒絶するような振る舞いを見せるくせに、密かに誰かと触れ合いたいと願っている、素直じゃない奴。
→第2章