第1章【ルカ~ミヘン街道】
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思い出すのはいつも、こちらを振り返りながら名を呼んで手を差し伸べるその姿。
何度もそれをされた訳ではない筈なのに、なぜかその姿だけが一番に思い出される。
記憶の中に強烈に植えつけられた、忘れたくても忘れないその場面。
初めてそれをされたのはいつのことだっただろうか?
場所はどこだっただろうか?
何をしてそうされることになったのだろうか?
…思い出すことができるのは、自分自身が置かれた状況ではなくて、いつも、アンタのその姿。
=1=
毎年ルカで開かれるブリッツの大会を観戦するのは、自分の楽しみの一つ。
表立って大きな声では言えないし、自分自身がプレイする訳でもなく、ただ年に一度のこの世界の娯楽に自分も乗っているだけ。
特に贔屓にしているチームなんてない筈だが、万年初戦敗退する最弱チームが今年はどうなるだろう?
今年こそ1回戦くらいは突破して見せてくれるだろうか?
なんてついつい自分善がりの期待を膨らませてしまう。
大会の開催日が近付くに連れて、このスピラ全土でどこか浮き足立っているような、幼い子供が胸に抱く高揚感に似た空気が蔓延していくのを実感する。
その空気に当てられるのか、自分の気分も思わず高揚していくことに自嘲しながら、私もルカに向かう船に揺られている。
実は船は少々苦手だ。
ルカの港が近付くにつれ、街の中から興奮を抑えきれないとばかりにブリッツの宣伝をする声が拡声器を通して耳に届いた。
そしてそれと同時に入った臨時報道に耳を疑う。
高揚していた胸の高鳴りは別の意味で酷く激しく動悸を繰り返した。
『キーリカが“シン”の襲撃を受けた―――…』
すぐに、あの家族の顔が浮かぶ。
旅を続ける自分に、訪れる度に優しくもてなしてくれたあの一家の顔を。
大丈夫だろうか…?などという不安を感じる間すらなかった。
彼らの家は、海にせり出すように建っていた。
海からシンの襲撃を受けたのであれば、間違いなく助からなかっただろう。
奥歯をギシリと音を立てて噛み締め、そして船尾から祈りを捧げた。
エボンの教えに則った形式的なものなどではなく、胸に片手を当て、頭を垂れた。
異界送りをしてくれる召喚士が近いうちに現われることを付け加えながら…
ルカの街は人で溢れかえっていた。
まぁ、毎年この時期はこんなものだ。
これも楽しみの一つではある。
人込みは苦手なくせに、たくさんの人で賑わっているところを見ると楽しい気分になってくる。
普段はあまり見かけない露店や物売りが道端に並ぶし、何よりも活気が違う。
この雰囲気も、ブリッツの大会があると言うことだけのものよりも人々の気持ちを盛り上げている一環なのだろう。
この時期、街に溢れるのはヒトのみにあらず、それはスピラ中のあらゆる人種が集まり、そこは坩堝と化す。
稀に、生者に混じって異界の匂いを放つ者までが紛れ込んでいる時がある。
余程この世界に未練があったのか、想いを留まらせるような何かがあるのかは分からないが、それでも生者に混じって何食わぬ顔をして共にブリッツに興じる姿は、見ていて滑稽だ。
隣にいる生者はその存在に気づいているのか、いないのか…?
「ラフテル様!」
人込みを避けるように町外れまでやってきたところで、突然声を掛けられた。
目を向ければ、初老の男が手を振りながら前方から小走りに近付いてくる。
思わず軽く落胆の溜息を零しながらも、片手を上げて挨拶を返した。
「お久しぶりです、ラフテル様!そろそろお越しになる頃だと思っていましたよ。本日も私共の宿にいらして頂けますか?」
ニコニコと人懐こい笑顔で言い寄ってくるこの男は、ルカで私が定宿にしている店の主だ。
キーリカの時と同じ様に、旅の途中で立ち寄るといつもここに宿を取るためすっかり覚えられてしまっている。
私としてはどこでも構わないのだが、この男が余りにしつこく言い寄ってくるのと、私を『伝説のガード』として店の宣伝に利用しているのを承知で格安料金にしてもらっている。
まぁ、お互い様と言うわけだ。
これで一応今晩の宿は決まった。
なるべく早いうちにブリッツの観戦チケットを購入しておきたいところだ。
自分が今いる町外れの高台は、ミヘン街道の入口の近くだ。
ここからはルカの街が一望できる。
今頃準備に大忙しであろうスタジアムや、次々に船が入港してきている港が一望できる。
ふいに、異界の匂いを強く感じた。
「…魔物、か…?」
ここはそれほど多くは無いとは言っても、通行人は大勢いる。ミヘン街道からルカに入ってくる者たちがいるからだ。
ここで魔物が出れば、ヘタをすれば怪我人を出すだけでなくルカへの規制に繋がりかねない。
すぐに辺りを見回して警戒する。
だが、魔物の姿はなかった。
もしや、生者に混じってまた命を持たざる輩でも入り込んだのだろうか?
人目につかない柱の陰に回り、しばらく道行く人々を観察して見たが、どうやら今回は稀有に終わったようだ。
太陽が傾き始め、徐々に気温が下がってきたところで、例の宿に戻り休むことにした。
店に入ったところで、また主に声を掛けられる。
溜息を零しつつ、また“あの話”をしてくれ、などと言われたら即効で無視してやろうと決め込んだ。
「ラフテル様、チケットはもう入手されましたか?」
予想していた話と違うことで若干の意外性を感じたところで、そう言えばブリッツの観戦チケットを購入することをすっかり失念してしまっていたことに気付いた。
「もしよろしければコチラをお使い下さい」
そう言って、主は2枚のチケットを手渡してきた。
「…あ、いや、しかし…」
「いいんですよ!なにせ今年はマイカ総老師在位50周年記念の大会。私共の店でも特別にいい席のチケットを販売しているんです」
「そうなのか…。じゃあ、せっかくだ、貰おうかな。…いくら?」
「いえいえ!お代は結構です!」
「いや、そういう訳には…」
主はニコニコと笑顔を崩すことなく、黒い気配すら漂わせながら顔を近づけてくる。
「また、あのお話をお客様にお聞かせ頂ければ、それで結構です」
「…っ!!」
・・・・・ハメられた…。
→
何度もそれをされた訳ではない筈なのに、なぜかその姿だけが一番に思い出される。
記憶の中に強烈に植えつけられた、忘れたくても忘れないその場面。
初めてそれをされたのはいつのことだっただろうか?
場所はどこだっただろうか?
何をしてそうされることになったのだろうか?
…思い出すことができるのは、自分自身が置かれた状況ではなくて、いつも、アンタのその姿。
=1=
毎年ルカで開かれるブリッツの大会を観戦するのは、自分の楽しみの一つ。
表立って大きな声では言えないし、自分自身がプレイする訳でもなく、ただ年に一度のこの世界の娯楽に自分も乗っているだけ。
特に贔屓にしているチームなんてない筈だが、万年初戦敗退する最弱チームが今年はどうなるだろう?
今年こそ1回戦くらいは突破して見せてくれるだろうか?
なんてついつい自分善がりの期待を膨らませてしまう。
大会の開催日が近付くに連れて、このスピラ全土でどこか浮き足立っているような、幼い子供が胸に抱く高揚感に似た空気が蔓延していくのを実感する。
その空気に当てられるのか、自分の気分も思わず高揚していくことに自嘲しながら、私もルカに向かう船に揺られている。
実は船は少々苦手だ。
ルカの港が近付くにつれ、街の中から興奮を抑えきれないとばかりにブリッツの宣伝をする声が拡声器を通して耳に届いた。
そしてそれと同時に入った臨時報道に耳を疑う。
高揚していた胸の高鳴りは別の意味で酷く激しく動悸を繰り返した。
『キーリカが“シン”の襲撃を受けた―――…』
すぐに、あの家族の顔が浮かぶ。
旅を続ける自分に、訪れる度に優しくもてなしてくれたあの一家の顔を。
大丈夫だろうか…?などという不安を感じる間すらなかった。
彼らの家は、海にせり出すように建っていた。
海からシンの襲撃を受けたのであれば、間違いなく助からなかっただろう。
奥歯をギシリと音を立てて噛み締め、そして船尾から祈りを捧げた。
エボンの教えに則った形式的なものなどではなく、胸に片手を当て、頭を垂れた。
異界送りをしてくれる召喚士が近いうちに現われることを付け加えながら…
ルカの街は人で溢れかえっていた。
まぁ、毎年この時期はこんなものだ。
これも楽しみの一つではある。
人込みは苦手なくせに、たくさんの人で賑わっているところを見ると楽しい気分になってくる。
普段はあまり見かけない露店や物売りが道端に並ぶし、何よりも活気が違う。
この雰囲気も、ブリッツの大会があると言うことだけのものよりも人々の気持ちを盛り上げている一環なのだろう。
この時期、街に溢れるのはヒトのみにあらず、それはスピラ中のあらゆる人種が集まり、そこは坩堝と化す。
稀に、生者に混じって異界の匂いを放つ者までが紛れ込んでいる時がある。
余程この世界に未練があったのか、想いを留まらせるような何かがあるのかは分からないが、それでも生者に混じって何食わぬ顔をして共にブリッツに興じる姿は、見ていて滑稽だ。
隣にいる生者はその存在に気づいているのか、いないのか…?
「ラフテル様!」
人込みを避けるように町外れまでやってきたところで、突然声を掛けられた。
目を向ければ、初老の男が手を振りながら前方から小走りに近付いてくる。
思わず軽く落胆の溜息を零しながらも、片手を上げて挨拶を返した。
「お久しぶりです、ラフテル様!そろそろお越しになる頃だと思っていましたよ。本日も私共の宿にいらして頂けますか?」
ニコニコと人懐こい笑顔で言い寄ってくるこの男は、ルカで私が定宿にしている店の主だ。
キーリカの時と同じ様に、旅の途中で立ち寄るといつもここに宿を取るためすっかり覚えられてしまっている。
私としてはどこでも構わないのだが、この男が余りにしつこく言い寄ってくるのと、私を『伝説のガード』として店の宣伝に利用しているのを承知で格安料金にしてもらっている。
まぁ、お互い様と言うわけだ。
これで一応今晩の宿は決まった。
なるべく早いうちにブリッツの観戦チケットを購入しておきたいところだ。
自分が今いる町外れの高台は、ミヘン街道の入口の近くだ。
ここからはルカの街が一望できる。
今頃準備に大忙しであろうスタジアムや、次々に船が入港してきている港が一望できる。
ふいに、異界の匂いを強く感じた。
「…魔物、か…?」
ここはそれほど多くは無いとは言っても、通行人は大勢いる。ミヘン街道からルカに入ってくる者たちがいるからだ。
ここで魔物が出れば、ヘタをすれば怪我人を出すだけでなくルカへの規制に繋がりかねない。
すぐに辺りを見回して警戒する。
だが、魔物の姿はなかった。
もしや、生者に混じってまた命を持たざる輩でも入り込んだのだろうか?
人目につかない柱の陰に回り、しばらく道行く人々を観察して見たが、どうやら今回は稀有に終わったようだ。
太陽が傾き始め、徐々に気温が下がってきたところで、例の宿に戻り休むことにした。
店に入ったところで、また主に声を掛けられる。
溜息を零しつつ、また“あの話”をしてくれ、などと言われたら即効で無視してやろうと決め込んだ。
「ラフテル様、チケットはもう入手されましたか?」
予想していた話と違うことで若干の意外性を感じたところで、そう言えばブリッツの観戦チケットを購入することをすっかり失念してしまっていたことに気付いた。
「もしよろしければコチラをお使い下さい」
そう言って、主は2枚のチケットを手渡してきた。
「…あ、いや、しかし…」
「いいんですよ!なにせ今年はマイカ総老師在位50周年記念の大会。私共の店でも特別にいい席のチケットを販売しているんです」
「そうなのか…。じゃあ、せっかくだ、貰おうかな。…いくら?」
「いえいえ!お代は結構です!」
「いや、そういう訳には…」
主はニコニコと笑顔を崩すことなく、黒い気配すら漂わせながら顔を近づけてくる。
「また、あのお話をお客様にお聞かせ頂ければ、それで結構です」
「…っ!!」
・・・・・ハメられた…。
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