白雪姫への反乱
ある日、白雪姫は一人で留守番をしていました。
すると、外からノックの音が聞こえてきます。
こんな所に誰かしら、
と不思議に思った姫が扉を開けると、
そこには、林檎が沢山入ったバスケットを持ったお婆さんが立っていました。
「こんな所へ何のご用かしら?」
「おや、可愛らしいお嬢ちゃんだこと。
すまないけど、水を一杯くれないかや?
孫にパイを作るために、林檎を沢山採って来たんだけど、採りすぎたのか、重くて疲れてしまってねぇ。」
しわがれた声でお婆さんが言うので、姫は急いでキッチンに行き、お婆さんにお水を渡しました。
お婆さんはそれを一気に飲み干します。
「プハァ。生き返ったようじゃ。ありがとうね、お嬢ちゃん。」
「いえ、たいしたことはしていませんわ。」
姫はそう言いながら、微笑みます。
しかし、お腹が空いているのでしょうか、姫の視線はバスケットの林檎に注がれていたのです。
お婆さんはそれに気付くと、優しい声で言いました。
「それじゃあ、お礼に、お婆さんの特製アップルパイを作ってあげようかね。」
そう言って、お婆さんも微笑みました。
お婆さんはキッチンを借りて、アップルパイを作ります。完成すると、白雪姫が紅茶を煎れました。
姫がパイを一口食べると、それは素敵で不思議な味がするのでした。
「なんて美味しいアップルパイなの!
でも、不思議よ?
どこかで食べたことがあるみたいな味…。
そうだわ、まるでお母様が作ってくれたパイみたいなんだわ!」
白雪姫は驚きますが、お婆さんは当たり前のように言いました。
「当然じゃよ。お婆さんも若い頃はお母さんだったんじゃ。
お母さんの作ったパイの味は、食べてくれる人への愛が溢れているんじゃよ。」
そう言われて、姫は城の事を思いました。
王様も女王様も、姫の事を考えてくれているのはわかっているのです。
「あぁ…、城はどうなっているのかしら。」
「……?
おや、よく見ると、行方不明のお姫様じゃないかい。
こんな所で一体どうしたんだい?」
お婆さんに聞かれた姫は、事情を話したのです。
城の事、結婚の事、家出の事を。
白雪姫が話し終えると、
お婆さんは心配そうに言いました。
「おやおや、大変だよ。
今のお城は大混乱。
なにせ、王様が病にかかってしまったからねぇ。」
病気の事を知らなかった姫は、とても驚いてしまいました。
「大変!お父様が!」
今すぐにでも会いに行きたい姫なのですが、
自分から家を出ているのに、何もせずにノコノコと帰るのは、気が引けます。
姫が迷っていると、お婆さんが言いました。
「簡単なことさ。父親に、『自分は元気だ』って、手紙を書けばいいのさ。
帰りたくないなら、その理由もちゃんと書いて、父親を一安心させてやりな。」
姫はそれを聞いて、早速手紙を書くことにしました。
手紙を書き終わると、姫はお婆さんに手紙を渡しました。
「絶対にこいつは王様に届けますよ。
安心しなさい。」
お婆さんはそう言って笑います。
日が暮れそうになる前にお婆さんが帰ろうとすると、姫は言いました。
「またここに来て下さいませんか?
私にも、パイの作り方を教えてくださいな。」
それを聞いたお婆さんは姫に、
「じゃあ、今度来る時は、ピーチパイを作ってあげようねぇ。」
と言って、帰って行ったのでした。
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