【VS版】プロローグ
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「霜月中尉。先に言っておくけど、この実験は、『必ず1分は継続する』と決めているわ。……萩本中尉にも、リスクは説明して、契約書で了承している。
だから、何があっても、止めない事。いいわね?」
と、教授は俺に、ハンドモバイル経由で、契約書を送ってきた。
内容は今、教授が言ってたのと同じで、萩本中尉の署名と、拇印が押してあった。
「……分かりました」
あまりに不穏な内容に、俺は一気に、腹の底が重くなった。
実験開始、と、スピーカーから、助手の声が響いた。
正面から向かい合う形だったから、萩本中尉の様子は、確認できた。
いきなり変化があった。たった数秒で、萩本中尉の引き締まった強面が、みるみるうちに恐怖に染まり、自分を守るように、頭を両腕で覆った。そして――
「……ッ!?」
額から顎まで、思いっきり引っ掻き、血が噴き出た。
あれじゃ失明する!! もし手当てがギリギリ間に合っても、今後一生、視界は朧気にしか見えなくなる……!!
その間も、萩本中尉は叫び続けていた。音声は聞き取れなかったけど、「助けて!!」と叫んでいることが、口の動きで分かった。
それから、必死に操縦席のボタンを叩き始め、ドアが開かないと分かると、半狂乱で、髑髏のパイルダーの目の部分にあたる、窓ガラスを叩き始めた。
……けど当然、銃弾にも耐える強化ガラスを、人間の手で割れる訳が無く、とうとう手の皮膚が裂け、ガラスに血飛沫が付着し、ガラスが滴った。
……まるで、俺に助けを求めているようだった。
……もう、これ以上は……! 教授に連絡しようとした所で、
「実験終了! 直ちに救護班を!!」
1分経ったらしい。教授の助手の声が、スピーカーから格納庫全体に響いた。
萩本中尉の傷だらけの顔がガラスにぶつかり、そのままズルズルと、下に落ちていった。
その後、3人の救護隊員が、スカルパイルダーに駆け付け、3人で彼を降ろした。
そして、クレーンで下に降り、担架に乗せたけど、彼はずっと「出してくれ!!」と、狂ったように叫び、暴れ続けていた。
無理矢理ベルトで拘束して、ようやく運べる程だった。
……あまりに長い1分だった。
……たったの1分で、こんな惨状に……俺は慄然とするしか無かった。
***
ブリューナクから降り、所長室に戻ると、教授もそこにいた。
「……教授も、『アレ』を直に体験したんですか……」
「ええ。……あの時は、助手たちが慌てて強制停止したから、発狂する寸前で、戻ってこれたけど」
教授は無表情で、淡々と言った。……でも、想像を絶する苦痛だっただろう。
……今回の実験、人によっては教授を、「何故すぐ止めなかったんだ」と糾弾するかもしれない。
……けど、教授が実験で負った傷や、萩本中尉も完全に納得していた事を踏まえると、俺は責める気には、全くなれなかった。
ただ……あの様子だと、萩本中尉は、今後は退役どころか、日常生活をマトモに送れるかどうかも怪しい。
……そう思うと、やるせなくなった。
***
その後も、俺はカイザーの起動実験に立ち合い続けた。
……だけど全員が、萩本中尉と同じパターンになってしまい、成功する兵士は1人も現れなかった。
1分以上、耐えられた兵士も、何人かいた。……それでも最終的には、精神が崩壊して、精神病院送りになってしまった。
……今のところ、軽傷で実験を終えられた兵士すら、1人もいない。
俺も、戦場で味方の死を何度も目撃してはいる。
……けどやっぱり、同僚がもがき苦しみ、廃人になっていく姿は、苦痛だった。
……任務である以上、そんな甘い事は、言ってられないが。
俺は最初、カイザーの話を聞いた時、とても喜んだ。
紛争の鎮圧が更にスムーズになるのは当然だし、過密なスケジュールに、疲労が溜まってきていた。
週5勤務では様々な仕事に対応できなくなり、週6勤務が増えていった。
……しまいには、突発的な事件が重なり、1か月休みが無いこともあった。
3週間働いて、ようやく「やっと明日休みだ!!」と救われていた所で、
「××国での戦いで、国連軍が半壊したから、至急来てほしい」
……という連絡が、退勤1時間前に来た時の、俺の気持ちを考えてほしい。
……それは「溺れている時、やっと水面から顔を出して一呼吸した所で、突然足を引っ張られて、水の中に沈まされた」……ような、深い絶望感だった。
そして「ふざッけんなボケェェェエエ!!」と絶叫し、俺が率いるブルーイーグル隊の部下達に、こう宣言した。
「野郎共!! 市民の平和な休息を壊した畜生共を、一匹たりとも逃がすなッ!!」
……今考えたら、かなりおかしくなってた。
……煮えたぎる怒りが一周まわった結果、俺の顔は、満面の笑みになっていたからだ。
部下達はいつも通り、「オォーッ!!」と咆哮を上げてたけど、顔が少しぎこちなかった。
……全員引いてたよなアレ……。
「畜生共」はすぐに全滅させたが、場所が日本からとても遠く、数が多い上に、白兵戦もあったから、丸1日休みが潰れてしまった。
……その結果、丸一ヶ月の勤務が確定。……さすがにこの時は、色々呪った……。
まぁ、この時はさすがに、一ヶ月勤務が終わった後、5日休みになったけどな……。
というより、ウイングルがやっと起動して、その分余裕が出来たからだ。
スカーレット大尉も「お前はこの5日間、稽古は軽くで済ませな。体力の回復に、専念するんだよ」と念を押していた。
だから、休みはもっと欲しいから、カイザーは絶対に起動してほしい。
けど……。多くの同僚を犠牲にしてまで、求める事じゃない。
廃人になってしまった兵士達の、有効な治療法は、まだ確立されていない。
……だったらまだ、俺が出動したほうがマシだ。
……命には、替えが効かないのだから。
だから、何があっても、止めない事。いいわね?」
と、教授は俺に、ハンドモバイル経由で、契約書を送ってきた。
内容は今、教授が言ってたのと同じで、萩本中尉の署名と、拇印が押してあった。
「……分かりました」
あまりに不穏な内容に、俺は一気に、腹の底が重くなった。
実験開始、と、スピーカーから、助手の声が響いた。
正面から向かい合う形だったから、萩本中尉の様子は、確認できた。
いきなり変化があった。たった数秒で、萩本中尉の引き締まった強面が、みるみるうちに恐怖に染まり、自分を守るように、頭を両腕で覆った。そして――
「……ッ!?」
額から顎まで、思いっきり引っ掻き、血が噴き出た。
あれじゃ失明する!! もし手当てがギリギリ間に合っても、今後一生、視界は朧気にしか見えなくなる……!!
その間も、萩本中尉は叫び続けていた。音声は聞き取れなかったけど、「助けて!!」と叫んでいることが、口の動きで分かった。
それから、必死に操縦席のボタンを叩き始め、ドアが開かないと分かると、半狂乱で、髑髏のパイルダーの目の部分にあたる、窓ガラスを叩き始めた。
……けど当然、銃弾にも耐える強化ガラスを、人間の手で割れる訳が無く、とうとう手の皮膚が裂け、ガラスに血飛沫が付着し、ガラスが滴った。
……まるで、俺に助けを求めているようだった。
……もう、これ以上は……! 教授に連絡しようとした所で、
「実験終了! 直ちに救護班を!!」
1分経ったらしい。教授の助手の声が、スピーカーから格納庫全体に響いた。
萩本中尉の傷だらけの顔がガラスにぶつかり、そのままズルズルと、下に落ちていった。
その後、3人の救護隊員が、スカルパイルダーに駆け付け、3人で彼を降ろした。
そして、クレーンで下に降り、担架に乗せたけど、彼はずっと「出してくれ!!」と、狂ったように叫び、暴れ続けていた。
無理矢理ベルトで拘束して、ようやく運べる程だった。
……あまりに長い1分だった。
……たったの1分で、こんな惨状に……俺は慄然とするしか無かった。
***
ブリューナクから降り、所長室に戻ると、教授もそこにいた。
「……教授も、『アレ』を直に体験したんですか……」
「ええ。……あの時は、助手たちが慌てて強制停止したから、発狂する寸前で、戻ってこれたけど」
教授は無表情で、淡々と言った。……でも、想像を絶する苦痛だっただろう。
……今回の実験、人によっては教授を、「何故すぐ止めなかったんだ」と糾弾するかもしれない。
……けど、教授が実験で負った傷や、萩本中尉も完全に納得していた事を踏まえると、俺は責める気には、全くなれなかった。
ただ……あの様子だと、萩本中尉は、今後は退役どころか、日常生活をマトモに送れるかどうかも怪しい。
……そう思うと、やるせなくなった。
***
その後も、俺はカイザーの起動実験に立ち合い続けた。
……だけど全員が、萩本中尉と同じパターンになってしまい、成功する兵士は1人も現れなかった。
1分以上、耐えられた兵士も、何人かいた。……それでも最終的には、精神が崩壊して、精神病院送りになってしまった。
……今のところ、軽傷で実験を終えられた兵士すら、1人もいない。
俺も、戦場で味方の死を何度も目撃してはいる。
……けどやっぱり、同僚がもがき苦しみ、廃人になっていく姿は、苦痛だった。
……任務である以上、そんな甘い事は、言ってられないが。
俺は最初、カイザーの話を聞いた時、とても喜んだ。
紛争の鎮圧が更にスムーズになるのは当然だし、過密なスケジュールに、疲労が溜まってきていた。
週5勤務では様々な仕事に対応できなくなり、週6勤務が増えていった。
……しまいには、突発的な事件が重なり、1か月休みが無いこともあった。
3週間働いて、ようやく「やっと明日休みだ!!」と救われていた所で、
「××国での戦いで、国連軍が半壊したから、至急来てほしい」
……という連絡が、退勤1時間前に来た時の、俺の気持ちを考えてほしい。
……それは「溺れている時、やっと水面から顔を出して一呼吸した所で、突然足を引っ張られて、水の中に沈まされた」……ような、深い絶望感だった。
そして「ふざッけんなボケェェェエエ!!」と絶叫し、俺が率いるブルーイーグル隊の部下達に、こう宣言した。
「野郎共!! 市民の平和な休息を壊した畜生共を、一匹たりとも逃がすなッ!!」
……今考えたら、かなりおかしくなってた。
……煮えたぎる怒りが一周まわった結果、俺の顔は、満面の笑みになっていたからだ。
部下達はいつも通り、「オォーッ!!」と咆哮を上げてたけど、顔が少しぎこちなかった。
……全員引いてたよなアレ……。
「畜生共」はすぐに全滅させたが、場所が日本からとても遠く、数が多い上に、白兵戦もあったから、丸1日休みが潰れてしまった。
……その結果、丸一ヶ月の勤務が確定。……さすがにこの時は、色々呪った……。
まぁ、この時はさすがに、一ヶ月勤務が終わった後、5日休みになったけどな……。
というより、ウイングルがやっと起動して、その分余裕が出来たからだ。
スカーレット大尉も「お前はこの5日間、稽古は軽くで済ませな。体力の回復に、専念するんだよ」と念を押していた。
だから、休みはもっと欲しいから、カイザーは絶対に起動してほしい。
けど……。多くの同僚を犠牲にしてまで、求める事じゃない。
廃人になってしまった兵士達の、有効な治療法は、まだ確立されていない。
……だったらまだ、俺が出動したほうがマシだ。
……命には、替えが効かないのだから。