【VS版】プロローグ
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垂柳事務次官と相談してから、3週間後。選考を重ね、ようやく次のパイロットが2人選ばれた。
2人共、世界有数の士官学校を卒業し、その後も多くの功績を出している、エリートだった。
……けど、このパイロットも失敗。事務次官を初めとする幹部や、研究員達も、「これはもう、完全に無理なのでは」と、諦めの空気が濃くなっていた。
――ただ1人、穿月教授だけは、冷静だった。
その実験から数日後。俺は穿月教授と、カイザーが万が一暴走した時のための、精密な打ち合わせをしていた。
穿月教授は「どうせ動かないし、大まかでいいんだけどねぇ」と言ってはいたけど、だから逆ですって教授……。
計画がある程度まとまり、小休憩に入ったところで、俺は前から感じていた疑問を、聞いてみることにした。
「あの……穿月教授。候補者について、ですが……」
「何かしら? ……まさか、実験は数秒で止めろと?」
「いえ、そうじゃなく……。
……これまでの実験、『強靭な精神力と肉体』を兼ね揃えた兵士で、何人も試しても、駄目だったでしょう。
という事は、また何か、別の要素が必要なのでは……?」
教授のサングラスの、失明した側のレンズが、キラリと輝いた。
「……貴方もそう思っていたのね。……実は私は、コクピットに乗った時、もう『答え』を得ていたの」
教授の表情は、これまで以上に確信に満ちていた。
――曰く、パイロットになれるのは、『カイザーと同種の炎を持つ人間』か、『その炎をも、鎮められる人間』だけ、だそうだ。
「あとは、『反則技』で考えたら、エルプスユンデかしら。
アレに耐えられるように、予め調整した人間を造り出せば簡単……というより、それが一番手っ取り早いわね。
まぁ、私の専門はロボット工学だから、興味は無いけど。第一、法律違反だし」
「……エルプスユンデ、ですか……。今も、どこかで生み出されてるんでしょうか……」
「それは、そうでしょうよ。人類史の復興が始まって、かれこれ300年……。
治安はともかく、科学技術の方は、人類史が崩壊する前の水準に達している分野は、既にある。
当時の技術には及ぶかはともかく、エルプスユンデを生み出せる最低限の技術は、もう確立されているもの」
「そう、ですね……」
そうゆう噂はあちこちであった。れっきとした「証拠」は無いが、あり得ない話でもない分、噂は広まっていた。
……でも、もし今後、候補者が現れなかったとしても……。
そんな手段を、認める訳には……。
そう考えてると、
「ま、そんな『反則技』を使わせないためにも、1日でも早く、パイロットを見つけることが、大事なのよ」
……正直言うと俺はこれまで、教授にいい印象は、あまり持ってなかった。
カイザーやブリューナクへの『覚悟』の重さは分かるが、実験に挑むパイロットや、研究員の人達に、ドライな態度を取る事が、度々あったからだ。
……けど、本当に冷酷で、手段を一切選ばない人だったら、自ら被検体になろうとせず、真っ先にエルプスユンデの製造に走っていただろう。
……クレイジーではあるけど、悪い人では無いんだろうな……。
***
研究所を出た後、俺も何か、打開策が無いか考えてみた。
……だけど、研究者でもないのに、エモーションセンサーの負担を下げる、有効な手段が見つけ出せる訳無い。
なら、俺が過去に知り合った傭兵や、武術家の中から、見込みのありそうなパイロットを、探すしか無い、が……。
あんな激痛を引き起こす炎と、同じ性質の人間なんて、本当にいるのか……!?
……と、そこで、足が止まった。……もしかして、あいつなら……!
――数ヶ月前に、俺の命を救ってくれた、真上遼の顔が浮かんだ。
教授が示した条件の、両方に当てはまるような気がした。
――とはいえ、真上は命の恩人だ。廃人にさせるような真似は、絶対に出来なかった。
100%成功する、という保証が無ければ薦められないけど、エモーションセンサーにそんな「お試し」は、一切通用しない。
……俺はそれから数日、真剣に考えた。相当悩んだけど、依頼する事にした。
……もちろん断られる可能性も大だし、そうなっても、俺は真上を一切責めない。
俺はハンドモバイルを操作し、垂柳事務次官への通話画面を出した。
【side 真上】
俺は『仕事』を終え、一時的なアジトとして使っていた、スラム街にある小屋に入った。
情報特務二課のウィルヘルム・オーディンからの依頼を受け初め、数年になるが、最近の仕事は大して歯応えが無く、退屈していた。
今回の仕事も、「元々は他の潰し屋数人に依頼したが、失敗した」らしく、期待していたのだが、思っていたより速く片付いた。
仕事の完了を報告するため、俺は小型端末を手に取り、ウィルヘルムへ連絡した。
「了解した。報酬は、2週間後に振り込んでおく。
……ところでだ。お前に『特殊な仕事』を頼みたいんだが、構わんか?」
「特殊? 内容によるな。今日のような仕事なら、断る。もう少し、歯ごたえのある仕事を持ち込んでほしい物だがな」
「……いや、他の潰し屋には困難なミッションだから、お前に頼んだんだが……。
まぁ、とにかくだ。その仕事の、内容自体はシンプルだ。
……お前の耳にも既に入っているかもしれんが、『カイザー』というロボットに乗ってほしい」
カイザーの噂は聞いていた。思わぬ収穫に、俺はすぐに了承した。
それからは日程を調整し、穿月研究所の住所が送られてきた。
俺はバーチャルモニターを操作しながら、逃走経路の確認と、研究員の来歴を調べ始めた。
「……この穿月教授とやらが、お前にパイロット候補の捜索を、依頼したのか?」
「いや、違う。……言ってなかったな。今回お前を推薦したのは、霜月中尉だ」
――手が止まった。
……霜月誠。あの中東での共闘からも、あいつの戦いは見続けてきた。
「穿月教授は、見込みのありそうな奴が現れて、とても喜んでいたぞ。
……まぁ、霜月中尉は『真上が嫌がってたら、無理して頼まなくてもいい』とは言ってたがな……」
「……霜月は、その穿月研究所に、よく来ているのか?」
「ああ、カイザーが暴走した時の、抑止力にな。起動実験の時は、いつも側で控えている」
そうなると、俺が実験に参加する時も、霜月はいる、という事か……。
……あれから3ヶ月か。これ程早く、再会する事になるとはな……。
霜月は俺よりは弱いが、WSOの槍兵の中では、上から数えた方が速い。そこらの雑魚よりは、よっぽどマシだ。
――カイザーの搭乗に成功すれば、霜月と、ブリューナクでも白兵戦でも、戦えるかもしれない。
……ああ、こんなに楽しめそうな任務は久々だ。
俺は宇月研究所の調査をしながらも、胸の高鳴りを、珍しく感じていた。
2人共、世界有数の士官学校を卒業し、その後も多くの功績を出している、エリートだった。
……けど、このパイロットも失敗。事務次官を初めとする幹部や、研究員達も、「これはもう、完全に無理なのでは」と、諦めの空気が濃くなっていた。
――ただ1人、穿月教授だけは、冷静だった。
その実験から数日後。俺は穿月教授と、カイザーが万が一暴走した時のための、精密な打ち合わせをしていた。
穿月教授は「どうせ動かないし、大まかでいいんだけどねぇ」と言ってはいたけど、だから逆ですって教授……。
計画がある程度まとまり、小休憩に入ったところで、俺は前から感じていた疑問を、聞いてみることにした。
「あの……穿月教授。候補者について、ですが……」
「何かしら? ……まさか、実験は数秒で止めろと?」
「いえ、そうじゃなく……。
……これまでの実験、『強靭な精神力と肉体』を兼ね揃えた兵士で、何人も試しても、駄目だったでしょう。
という事は、また何か、別の要素が必要なのでは……?」
教授のサングラスの、失明した側のレンズが、キラリと輝いた。
「……貴方もそう思っていたのね。……実は私は、コクピットに乗った時、もう『答え』を得ていたの」
教授の表情は、これまで以上に確信に満ちていた。
――曰く、パイロットになれるのは、『カイザーと同種の炎を持つ人間』か、『その炎をも、鎮められる人間』だけ、だそうだ。
「あとは、『反則技』で考えたら、エルプスユンデかしら。
アレに耐えられるように、予め調整した人間を造り出せば簡単……というより、それが一番手っ取り早いわね。
まぁ、私の専門はロボット工学だから、興味は無いけど。第一、法律違反だし」
「……エルプスユンデ、ですか……。今も、どこかで生み出されてるんでしょうか……」
「それは、そうでしょうよ。人類史の復興が始まって、かれこれ300年……。
治安はともかく、科学技術の方は、人類史が崩壊する前の水準に達している分野は、既にある。
当時の技術には及ぶかはともかく、エルプスユンデを生み出せる最低限の技術は、もう確立されているもの」
「そう、ですね……」
そうゆう噂はあちこちであった。れっきとした「証拠」は無いが、あり得ない話でもない分、噂は広まっていた。
……でも、もし今後、候補者が現れなかったとしても……。
そんな手段を、認める訳には……。
そう考えてると、
「ま、そんな『反則技』を使わせないためにも、1日でも早く、パイロットを見つけることが、大事なのよ」
……正直言うと俺はこれまで、教授にいい印象は、あまり持ってなかった。
カイザーやブリューナクへの『覚悟』の重さは分かるが、実験に挑むパイロットや、研究員の人達に、ドライな態度を取る事が、度々あったからだ。
……けど、本当に冷酷で、手段を一切選ばない人だったら、自ら被検体になろうとせず、真っ先にエルプスユンデの製造に走っていただろう。
……クレイジーではあるけど、悪い人では無いんだろうな……。
***
研究所を出た後、俺も何か、打開策が無いか考えてみた。
……だけど、研究者でもないのに、エモーションセンサーの負担を下げる、有効な手段が見つけ出せる訳無い。
なら、俺が過去に知り合った傭兵や、武術家の中から、見込みのありそうなパイロットを、探すしか無い、が……。
あんな激痛を引き起こす炎と、同じ性質の人間なんて、本当にいるのか……!?
……と、そこで、足が止まった。……もしかして、あいつなら……!
――数ヶ月前に、俺の命を救ってくれた、真上遼の顔が浮かんだ。
教授が示した条件の、両方に当てはまるような気がした。
――とはいえ、真上は命の恩人だ。廃人にさせるような真似は、絶対に出来なかった。
100%成功する、という保証が無ければ薦められないけど、エモーションセンサーにそんな「お試し」は、一切通用しない。
……俺はそれから数日、真剣に考えた。相当悩んだけど、依頼する事にした。
……もちろん断られる可能性も大だし、そうなっても、俺は真上を一切責めない。
俺はハンドモバイルを操作し、垂柳事務次官への通話画面を出した。
【side 真上】
俺は『仕事』を終え、一時的なアジトとして使っていた、スラム街にある小屋に入った。
情報特務二課のウィルヘルム・オーディンからの依頼を受け初め、数年になるが、最近の仕事は大して歯応えが無く、退屈していた。
今回の仕事も、「元々は他の潰し屋数人に依頼したが、失敗した」らしく、期待していたのだが、思っていたより速く片付いた。
仕事の完了を報告するため、俺は小型端末を手に取り、ウィルヘルムへ連絡した。
「了解した。報酬は、2週間後に振り込んでおく。
……ところでだ。お前に『特殊な仕事』を頼みたいんだが、構わんか?」
「特殊? 内容によるな。今日のような仕事なら、断る。もう少し、歯ごたえのある仕事を持ち込んでほしい物だがな」
「……いや、他の潰し屋には困難なミッションだから、お前に頼んだんだが……。
まぁ、とにかくだ。その仕事の、内容自体はシンプルだ。
……お前の耳にも既に入っているかもしれんが、『カイザー』というロボットに乗ってほしい」
カイザーの噂は聞いていた。思わぬ収穫に、俺はすぐに了承した。
それからは日程を調整し、穿月研究所の住所が送られてきた。
俺はバーチャルモニターを操作しながら、逃走経路の確認と、研究員の来歴を調べ始めた。
「……この穿月教授とやらが、お前にパイロット候補の捜索を、依頼したのか?」
「いや、違う。……言ってなかったな。今回お前を推薦したのは、霜月中尉だ」
――手が止まった。
……霜月誠。あの中東での共闘からも、あいつの戦いは見続けてきた。
「穿月教授は、見込みのありそうな奴が現れて、とても喜んでいたぞ。
……まぁ、霜月中尉は『真上が嫌がってたら、無理して頼まなくてもいい』とは言ってたがな……」
「……霜月は、その穿月研究所に、よく来ているのか?」
「ああ、カイザーが暴走した時の、抑止力にな。起動実験の時は、いつも側で控えている」
そうなると、俺が実験に参加する時も、霜月はいる、という事か……。
……あれから3ヶ月か。これ程早く、再会する事になるとはな……。
霜月は俺よりは弱いが、WSOの槍兵の中では、上から数えた方が速い。そこらの雑魚よりは、よっぽどマシだ。
――カイザーの搭乗に成功すれば、霜月と、ブリューナクでも白兵戦でも、戦えるかもしれない。
……ああ、こんなに楽しめそうな任務は久々だ。
俺は宇月研究所の調査をしながらも、胸の高鳴りを、珍しく感じていた。