｢なっ、キサマは……！｣
｢女一人相手に、こんな大人数かよ。ったく……だらしねーな。｣
｢“跳ね馬”ディーノ⁉｣
(……“跳ね馬”？)


そこにいたのは、綺麗な金髪の青年。ちょっとダサめのジャンパーを羽織っていて、いかにもラフな格好だ。年齢はパッと見て20代くらい。20代に見えても、まだまだ幼さの残る顔はどうも可愛らしい。“跳ね馬”ディーノ。イタリア最大マフィア･ボンゴレファミリーの同盟ファミリーであるキャバッローネファミリーの10代目ボスである。他にもボンゴレの同盟と言えば、独立暗殺部隊ヴァリアーやシモンファミリーなどがあげられるが。最も、ヴァリアーに至ってはボンゴレと同じくくりである。


『な、んで……。』
｢騒ぎがでかかったからな。行動範囲が広かったから大変だったぜ。｣
｢ロマーリオ…余計なこと言うなよ。｣


ロマーリオ、と呼ばれた男はディーノが10代目ボスになる前からキャバッローネに所属している年輩の方だ。ディーノの父親が9代目を務めているときからのボス補佐として常にボスと行動している。見た目は30代から40代くらい。鼻の下に生えている濃い髭と眼鏡が特徴的な面倒見のいい人。意識が薄い中でも、それだけは分かった。


｢さあて、ボスは誰だ？コイツをどうしようとしてた。｣
｢ラニュラミーファミリーのボスはオレ……キラッイレだ。最初の質問には答えてやったが、ソイツをどうしようがオレらの勝手だろう。｣
『キラッイレ……っ⁉ ラニュラミーファミリーって言ったら超有名な指名手配されている強盗ファミリーじゃないか！』


ラニュラミーファミリーというのは数年くらい前は名も知られていなかった少数ファミリーだった。しかし、何かしら事件を起こしては世間を騒がせていたのだ。それがきっかけで凶悪犯人たちは牢獄から脱走する事件が相次ぎ、ラニュラミーファミリーは勢力を上げて行った。そして凶悪犯揃いの名高いファミリーとなり、今ではイタリアの警察も手を焼いている強盗ファミリーになっている。しかも、強盗するだけでは飽き足らず……。強盗している店内に人がいる場合は全員血の海にして帰ってくるという殺人犯でもある。そのために指名手配をされており、現在ラニュラミーファミリーの数人は地下の牢獄にて死刑をくらっている人たちも数人いるという。


｢お前だって似たようなモンだろ、“緋色の騎士（スカーレットナイト）”。お前は……ある事件を起こしてる。｣
『た、確かにそうだがお前らのように酷くはない！』


ディーノを押し返して負けじと抗議する。そう……彼女、坎河原美波も過去にある歴史に残る事件を残しているのだ。“大量惨殺失踪事件”……。吉岡開発所、という人体実験を主とする開発所で起きた事件である。吉岡開発所では生まれたばかりの子供を親から引き離し、勝手に育てて言語が話せるようになる3歳くらいから実験を始める。麻酔も打たずに暗く光も届くか届かないかの狭間の空間で、ギラギラと銀色の光を放つメスを前にして叫ばない方がおかしい。その件で数人の子供が亡くなったりしている。それに耐えきれなかった彼女は……そのような事件を起こしたのだ。しかし、意識がある中で事件を意図的に起こしたわけではない。正直言えば……彼女にその時の記憶はない。全くと言っていいほどないのだ。


｢酷くはないだと？ 記憶が飛んでいる奴が何を言う。まあ……その時にその事件を起こしてくれたお陰でオレらも命乞いしたようなもんだ。｣
『命乞い……⁉』


殴りかかろうとするが、左の脇腹に深い傷を負っているために体が思うように動かない。それをすかさず傍にいたディーノが支える。そして美波を力強く抱き寄せた。


｢コイツがどんなことやってようと別に構わねえよ。オレらのシマでやってなければな。だが……今のお前らは許さねえよ。｣


スッと鞭を構えるディーノ。それに加わって美波も短剣を構えた。


｢お前は下がって……｣
『これは私の問題だ。ケリをつけなきゃダメなんだ。』


ディーノは、彼女の眼を見てハッと気づいた。


(コイツ……本気だ。落とし前はつけさせろって事か……)